複雑・ファジー小説
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- セイテンノカゲボウシEX
- 日時: 2019/10/15 17:14
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: cZfgr/oz)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19806
こんにちは。
こちらのスレッドでは、本編から少し離れたストーリーを掲載します。
日常編やほのぼのは勿論、ifストーリーやキャラクターの過去にも触れますので皆様何卒お付き合いをば!
なお、こちらのスレッドも本編と同じく各話ごとリレー形式で進めていきます。メンバーは、本編と同じ3人です。
本編は上のリンクからどうぞ。
***
もくじ
・観光編:>>1-2
- Re: セイテンノカゲボウシEX ( No.7 )
- 日時: 2020/01/06 20:48
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: FCLyGM6a)
———
(ここから唯の新年の挨拶なので読みたくない方は飛ばして頂いて構わないです)
明けましておめでとうございます。マッシュりゅーむです。
本編の『セイテンノカゲボウシ』や、今作をいつも見ていただきありがとうございます。今年もおまさんやマルくんさんと一緒に『セイカゲ』を盛り上げていきたいと思います。
さて、挨拶はここら辺までにして、続きを書いていこうと思います。「こういう挨拶はおまさんみたいに本編でやればいいじゃないか!」と、お思いの方、違うんです。僕は仕方がなくこちらに書いたんです。……皆様も見たことでしょう、あのおまさんの素晴らしい文章。語彙を多彩に使って、すごいなーと半分思いつつ、もう半分は、つ、続きどうしよ(汗)と感じてしまいました。一度よく考えたいので先にこちらを書きたいと思います。
では物語の続きです(長くてすみません)
———
「………う、ここ、は?」
「あ、大丈夫ですか?」
頭を片手で抑え、呻きながら少年はゆっくりと目を開けた。頭痛かな、と思いつつ、反射的に声をかける。
ボー、とした目で、上を見つめ——正確には膝枕をしながら自分の額に触れているヘイズの顔を見つめ——瞬間目を見開き勢いよくガバッ!と起き上がる。
その時私は、あー、これ真上にいるヘイズの頭に頭突きするやつだ、と呑気にヘイズの後ろでスローモーションで映るその光景を傍観していた。
———迂闊にも目の前の幼女が〈カゲノミコ〉ということ事を忘れて。
少年が華麗な頭突きを放つ瞬間、目を見開き驚きをあらわにしながらも冷静に、かつすさまじい反射神経で体を仰け反らせて回避することに成功。そして仰け反らされた反動で頭をすごい勢いで椅子の背もたれを挟んで真後ろ——つまるところ私のお腹に直撃させた。
「おうふゥッ——!!」
全く予想のしていないところからの一撃。一気に肺から息が吐き出され、よたよたと情けなく後ろに後ずさる。そして陳列されているヘイズの座っている後ろの長椅子の背もたれに背中を打ち付けながらもそのまま椅子に座り、横に倒れる。
静寂。
「…う、うわぁ」
「不憫じゃな」
「……あんたが、言う、カハッ!」
腹を抑えながらも恨みのこもった目でヘイズを見、苦しげに息を吐く。心なしか少年も引いている気がする。いや絶対引いてる顔だ、あれ。
「……さて、なんであんなことになっていたかを聞いても良いかの?」
「え、え〜と……」
「おい、さも何もなかったかのように話を続けるなや。その子も引いてるし。……あと、まずは名前を聞こう」
「それもそうじゃな」
私を無視して話し出そうとするヘイズに待ったをかける。そして一応助言をする。こんなわけワカメな状況で急に何か聞かれても彼も何も口を開かないだろう。
人と仲良くするためにはまず自分から信頼を。
「儂は、ヘイズ。そこで一人で腹を抱えて寝ているのはレナという」
「別に好きでこんな体勢とってるわけじゃないよ」
変な紹介の仕方をしたヘイズにツッコミを入れながら少年の言葉を待つ。それに気づいたのか、彼は小さく口を開く。
「ぼ、ぼくは———」
- Re: セイテンノカゲボウシEX ( No.8 )
- 日時: 2020/01/15 19:05
- 名前: おまさ (ID: MlM6Ff9w)
「・・・ま、マッシュ様。いや、その・・・きゅ、急にそんな・・・、べ、別に恥ずかしがってる訳じゃ・・・ぁ・・・褒められて嫌な気持ちにはならない、けど・・・でも、あの・・・その、てっ、照れるっていうか・・・・・・勘違い、しないでよねっ//////」
・・・ふざけてしまい、すいません。ツンデレっぽい台詞が書きたかっただけです。
上の文章を見て「うっわw」とドン引きした方、安心してください。貴方の感性は正常です。
照れ臭くなってる原因だって?気になった君は、上の記事(>>07)ーーーマッシュ様の冒頭挨拶を見てくれよな!!
前置き長くなりました。お楽しみください。
*****
「ーーートサカ、です」
目を覚ました少年は、たどたどしくも言葉を綴った。
背丈は、目の前のロリと大して変わらないくらい。西洋乞食のようなボロボロなローブのフードが脱げ、ボサボサの黒髪と、少女のような丸くて黒い目が露になる。
その黒い目が段階を経て、疑念→理解→驚愕の順に変化する。
自分がどのような状況なのか、完璧に悟った少年Aーートサカは姿勢を改める。
それを見て、私は思わずげっ、となった。
何故ならーー、
「も、も、も・・・」
「も?」
「申し訳ございませぇぇぇぇん!!」
ーーーー何故なら、少年は土下座ーーースフィンクスかと思うほど流麗な土下座をしていたからである。
その土下座は中々・・・というか生涯見た中でも最高レベルで堂に入っている。世が世なら、暴君に気に入られそう。
「すいません!お手を煩わせまし・・・いぃえぇ!ご迷惑をお掛けしましたっ、ヘイズ様っ!!」
「いいや。儂はただ、おぬしが追いかけられているのが気になっただけじゃ。・・・こちらこそすまんかったの、急に身柄を運んでしまって」
意外にもキャラ濃いな?という私の感慨はともかくとして、ヘイズーーいや、〈カゲノミコ〉はかなりの知名度らしい。
トサカのような、見るからに貧しそうな子供も、やはり国の守護者には見解があるようだ。
(・・・いや、ちょっと待って)
直前の価値観を再び考え直す。勢いで答えを出そうとしていた脳に急制動を掛けた。
今の考えだと、まるでーー、
「ーーートサカが、あたかも本物の乞食のような印象だけど」
「ーーー。どうしたのじゃ、レナ」
「・・・ん、あ、ううん。ヘイズの鉄槌オブ後頭部が痛かったなって」
思索が思わず口をついて出て、ヘイズに怪訝な顔をされた。力ずくでそれを誤魔化すと、ヘイズは不服と呆れが混ざった表情をした。
何にせよ、トサカの素性が知れないのは事実。一応警戒はしておくべきだろう。
そんな思考に沈む私と、ヘイズの前で、トサカは再び膝をついて頭を下げる。
「何というこの身の無礼っ、何というこの身の傲慢っ!どうかお許しください、〈ミコ〉様っ!」
「・・・ん?儂は構わんと、言うた筈じゃが・・・」
「いぃえぇいぃえぇ、誠に身勝手ながら、ぼくの気が済まないのですっ。であれば、何か償いをさせて頂きますゆえ。ーーーーー何でもしますので」
「何故にその台詞を言ってしまったーーー!?」
絶対、「ん?今何でもするって言ったよねぇ?」と丸め込まれる典型例である。謝罪の際は最も気を付けなければならない一言だーーーとは、私の持論だが。迂闊に口にしてはいけない言葉ランキングの第三位くらいに入っていても何ら不思議はない。
故に思わず突っ込んでしまったのだ。
その私の絶叫に取り合わず、ヘイズは「ふむ」と顎に手を当てて考え込む。
五秒くらいだろうか。沈黙したヘイズは口を開いた。
「では、おぬしの言葉に甘えよう。ーーー時に、トサカよ。ひとつ、気になったことがあるのじゃが」
「はい、何なりとお聞き下さいっ!」
膝をついたまま、笑顔で顔を上げるトサカに、ヘイズは告げる。
「ならば、問う。ーーーー何故、長々と能書きを垂れておるか、『鯨飲のトガン』」
ーーー途端、少年が劇的な反応を見せた。
直前の笑顔が驚愕に塗り潰されたと思えば次の瞬間、少年は横に転がりこちらとの距離を取った。
「ーーこれでも喰らって、な!」
立ち上がり際に、少年は〈ギシュ〉を伸ばし、先程まで私が立っていた位置の床を正確に抉った。教会の木製の床が軋み、爆ぜる。飛び散った木片と埃は大した量ではなかったものの、回避した先で私は腕で顔を覆い目を保護。
そのときにはもう、少年は窓際まで移動していて。
「世話んなったな。あばよ!」
ローブを被り、少年は、暗澹の虚空に消えようと、して、して、して。
「ーーー随分と、安く見られたものじゃな、儂も」
私と少年は、ヘイズをーー否、〈カゲノミコ〉を舐めてかかっていのだと、そう思い知ったのは直後のことだった。
たった今少年の襟を掴んだヘイズは、さっきまで私よりも、少年から遠いところにいた筈だ。それがどうして、距離を一瞬にして詰めることが出来たのか。
「ケッ、〈カゲノミチ〉か」
「罪人を捕縛するためじゃ。卑怯、なんて言葉は門違いじゃぞ」
「ハッ、違えねぇ」
ーーーその答えは、ヘイズと豹変した少年によってもたらされたのだった。
2
「ま、いずれ捕まっと思ってたがね」
と、件の少年は簀巻きになったままぼやく。
事態はあれから少し動き、ヘイズは尋問のために件の少年ーーーヘイズの言葉を借りるならば『鯨飲のトガン』を縄で縛って拘束した。少年はそれでも飄々としていて、別段捕まることを気にしている様子はなかった。
「それで・・・ヘイズ、どゆこと?」
「うむ。『鯨飲のトガン』とは二つ名での。本名はトガン・サルトルカ、最近問題となっておる共和国への酒の密輸問題の・・・まぁ主犯ってとこかの。三ヶ月程前から、指名手配されておった」
「マジですか」
「然りじゃ。共和国は法律的に禁酒しておっての、裏社会ではかなりの値が付くと聞くが」
一昔前(といっても五十年以上前の話だが)のアメリカと同じようなことをしている、というわけだ。
それにしても。
「酒の密輸って言ったって・・・何歳だよ・・・」
「ハッ、露骨にガキ扱いしやがった。俺はこれでも25だ。10歳の時、成長が止まったもんでな」
丸い目を一生懸命に尖らせ、トガンは若干不服そうだ。
見た目は幼く、精神年齢は高い。ーーーーその印象に既視感があり、思わずその正体を探そうと考え込むと、件の人物はすぐ記憶の中から見つかった。とりあえず、その人物に視線を向ける。
「ーーーー。」
「・・・・何じゃ、急に胡乱げに見おって」
「ううん、何でもない」
「納得がいかんのじゃが」
ふざけるのもこれくらいにして。
「ともかく、貴方が指名手配犯なんですね」
「おう。〈ミコ〉様の説明で間違いねぇ。ーーただひとつ解せねぇのは、何でアンタらが俺の正体に気付いたっつー事なんだが」
私はヘイズの方をちらと見た。ヘイズは、まだ先程の雑談を引きずっていたようだったが、すぐに意識を切り替えて〈カゲノミコ〉の顔になる。
「儂がおぬしの正体を看破するにあたって、根拠が二つほどあったんじゃ」
「根拠?」
「うむ」
そう言うとヘイズは、トガンの目の前に歩み寄り、ボロ切れを羽織ったまま縛られているトガンの前でしゃがみこんだ。
「ーーーまず、一つ」
言うと同時に、縄で縛られていない腰の辺りにかかっているローブをめくった。
剣ーーー否、短剣だろう、短い鞘と柄が、右腰に確認できた。
確かに、一見すればただの短剣だ。ーーーその異様な形状を除けば。
柄のサイズ自体は、何ら変わりはない。しかし、その柄の長さと鞘の長さが、明らかに釣り合っていないのだ。ーーーーー鞘が、短すぎる。
ヘイズが説明をする。
「この短剣の刃先は、特殊な金属で出来ておっての。《アダマス》と呼ぶそうじゃが、自身の〈カゲ〉を流し込むことによって発現する、強靭無屈の稀有な金属なんじゃ。『陰月鎌のミコ』の大鎌にも使われとる」
「・・・確かに、ネーミング的には合ってるか」
「そうなのかの?ーーーともかく、さっきも言ったようにこれは稀有な金属で出来ておる。それ故に、短剣のサイズですら非常に高価なんじゃ。ーーーそんな高額なものを、ただの物乞が持っている筈はない」
「ーーー。」
「つまりは、この少年は少なくとも乞食ではない、と考えるのが自然じゃろ?護身用の武器に、金を惜しむわけにもいくまいし」
ヘイズは再び立ち上がって、トガンを見下ろす。その目付きはまるで、おおきな鮫が獲物を見定めるような目のようだった。
「ーーーそして二つ。先程まで、おぬしを追っておった大男の名は、バートン・ヤコブレフ。ーー違うかの」
「っ!?」
驚愕に顔を歪めるトガン。その彼の表情が、ヘイズが事実を語っていることを証明していた。
淡々と、ヘイズは続ける。
「おぬし程ではないが、あの大男もおぬしの業界では有名人じゃ。国を任される儂の耳にも多少なりーーそうじゃな、顔つきくらいは似顔絵として情報が入ってくる」
「・・・まァ、そーだな。確かに奴は大物だ」
「うむ。おぬしの商売敵であるあの男が血眼で探し回っている人物となれば、限られてくる。その上大金を叩いてその短剣を買うくらい敵の多い人物となれば、おぬしの名前が出てくることも容易い」
「ーーー、」
ふと、ヘイズの講釈を聞いていて、思い返したことがあった。
『あ〜、レナ?儂的には困った者は助けたいと思うとる。……まさかと思うが、面倒くさいなどという理由で追わないなどとは言ってはおらんな?ちゃんとした理由があってだな?』
そう、あのとき。ヘイズは面倒臭がる私を強引にも連れていこうとしていたのだ。
顔を覚えている相手であるなら、たとえ街中であったとしても気付かない筈がない。ーーあのときから、ヘイズには何となく分かっていたのではないか。
「・・・いや、どうだろ」
無表情で同じことを、まるで壊れたラジオみたいに繰り返すヘイズを思い出し、結論を出そうとする頭に待ったを掛けた。
先の言葉を訂正しよう。ーーーあのときから、ヘイズには何となく分かっていたのか否かは、解らない。
そうして、私が思考に沈むーーー即ち、油断している時だった。
不意に、教会のおおきな木製の扉が、軋む音を立てながら開け放たれた。
表の大通りからの、僅かな喧騒の気配とともに教会に足を踏み入れたのは一人の人物だ。
その男ーー否、巨漢は筋肉質な体を誇示するかの如く胸の前で腕を組み、教会の入り口に仁王立ちしている。その巨躯、阿修羅か阿吽の如しであった。
「ふむ。神聖な教会に、何やら無粋な横槍が入ったようじゃ」
「すまねェな、ありゃ俺の客だ」
ヘイズとトガンの会話から推測するに、あの巨漢が件の人物ーーバートン・ヤコブレフであるのは間違いないだろう。確かに、先程まで街中で追いかけていた背中だ。
ーーその双眸に宿る鈍い光が、敵意を越えた憎悪、殺意、瞋恚の何れかであることは想像に難くない。
「未登録の〈カゲボウシ〉使いに限り、術の行使は厳禁じゃ。下がっておれ、レナ」
ヘイズが立ち上がり、私と大男の間に割って入る。
守ってくれることに異論はない。むしろ感謝している。ーーーーただそれは此方に、何もできない無力感を強要する現実でもある。
そんな私の葛藤を無視し、歯車は動き出すのだ。
ーーーーー戦闘、開始。
- Re: セイテンノカゲボウシEX ( No.9 )
- 日時: 2020/02/03 22:33
- 名前: マルくん (ID: Qa64t.a8)
一つ言いたい。俺が居ていいのかな!
どうもマルくんデス。
内容薄い、短い、語彙力皆無、そんなものしか出せない初心者な自分ですがマッシュりゅーむさん、おまささんのお二人に習い、頑張りたいなと思います。
あと、マッシュりゅーむさんとおまささんに聞きたいんですけど、大量の文をあり得ないスピードで生み出すコツを教えてください。
PS 最近PCの様子がおかしく投稿できないので一度修理に出しますので少々投稿を休止いたします。申し訳ありません。
では、本編をどうぞ。
最初に動いたのは、巨漢のマッスルメン、バートン・ヤコブレフ。
いきなり前傾姿勢になったかと思うと、足の筋肉があり得ないほど隆起したかと思うと、雷鳴かと思うほどの音が響き、目の前で何かが弾ける。
直後、風圧が私の顔をたたきつける。
「ドッハ……!」
突然、顔面をタライで叩きつけられたような痛みに思考が停止する。何が起こったのかわからない。直後、また轟音が響き渡る。
乾いた眼をこじ開けて目視しようとするが、私の前にいた巨漢はいなかった。しかし、また轟音。隣のヘイズが出しているとは思えない。だが、男の姿も見当たらない。
そしてまた硬い物と硬い物がぶつかり、弾ける音がした。それもまた私の目の前で。
「貴様、なぜレナばかり狙う。なぜ私の方に来ない?」
ヘイズは小さいその口を大きく開け、腹の底から声を出し、バートン・ヤコブレフに語り掛ける。
するとどこからともなく野太い特徴的な彼の声が聞こえる。
「あんたに正面切って戦えるわけがねぇだろォ!?だから足手纏いを更に足手纏いにしてやろうと思ってなぁ。あと俺は弱っちいのが嫌いなんだよ!そしてあんたみてぇみたいに弱っちいのを守るのがなぁぁ!!!!!」
すると、教会の壁や天井にベコンベコンとクレーターができ始め、風を切る音が速く、多くなる。
そして更に戦闘は激化して行く…。
- Re: セイテンノカゲボウシEX ( No.10 )
- 日時: 2020/03/01 20:20
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: iPZN8Dy0)
「——なるほどなるほど」
そして戦闘がまた一区切りした時、先程から変わらず私に背を向け守るかのように佇みながらヘイズがまた口を開いた。
「つまり主は——強者と戦い、負けるのが怖いんじゃな?」
「————ッ!!」
驚愕の表情を見せるバートン。そして次の瞬間には——その顔は獰猛な肉食動物のように変貌していた。
「テメェ………言ってくれるじゃぁ、ねぇか……っ!」
ドッ!と、地面を陥没させ、鈍い音が教会に響いた時、彼はもうヘイズの目の前にいた。
はっ、と息をのむ私に対し、ヘイズは不敵に笑うと、ひらりとその拳を躱し——そして私は宙に浮いていた。
「——ほわッッ!!?」
訳が分からないまま、一瞬の浮遊感と一緒に、次の瞬間私は咄嗟に教会の天井に張り巡らされている骨組みの一つに捕まった。
「い、一体何が……」
呆然と呟く私を置いて、戦闘は続いている。
その戦いの壮絶さを見て、なぜ私がこうなったのか分かった。
———ヘイズが戦闘圏内から私を出してくれた?
あの瞬間、彼女は一瞬で自分よりも重い私を上に投げ、さらにそのままバートンの攻撃を紙一重で躱したのだ。
見えなかった。何という早業。
しかも、現に彼女はバートンのその巨体からは想像もつかないような俊敏な体術を、それ以上の速さで躱している。
しかし———
「うっ……」
切り裂かれる空気に体を揺らされ落ちそうになる。顔面にも来るので顔をしかめていないと目が開けていられない。
・・
それは、あの巨人を中心にして、竜巻が発生しているからだ。決して比喩じゃない。
そしてそれを体の動きだけで出しているバートンの体術も伊達じゃない。
彼はその巨大な腕の筋肉をただ振り回すだけではなく、脚技も混ぜながら巧妙なテクニックでヘイズに迫る。彼が拳を振りぬくと空気が木霊し、彼が脚を蹴り上げると大地が共鳴する。あれは決して素人のできる芸当ではない。———人を殺すために鍛えに鍛えぬいた、狂人の業だ。
「ハハハハハハハハアアァァァ!!!!!」
「………」
ざわつく風の音を切り裂いてバートンの嗤い声が響く。………これがあのアニメでよく戦闘狂キャラが言う、『血がたぎるぜェ…』というものなのだろうか。スゲー。
私がそんな呑気なことを思っているのを知って知らずか、戦闘が続く。と、——
「———」
ヘイズが何か口を開き、バートンに話しかけ始めた。
「?」
彼らから少し遠いところにいて、さらに風切り音でよく聞こえなかったが、その言葉を聞いた後のバートンの、イラつくような表情から、何か怒らせること———挑発をしたのだと辛うじて分かった。
ゴウゴウと、風が一層激しくなる。しかし、ヘイズは微風程度にしか思っていないようで、さらに言葉を連ねる。そしてそのたびに竜巻が荒らしくなっていく。つまり挑発しまくっているのだ。
………何をしたいのかさっぱり分からない。これでは相手の力が増す一方ではないか。
そう、ヘイズが不利になると思っていた時期も、私にはありました。
バートンの敏捷も、一つ一つの攻撃の重みも、そして殺気も増加していく一方で、ヘイズも同じように己を加速させていき、全ての打撃をいなしているのだ。
身長の低い彼女に対して、それだけでもバートンは攻撃を低くすることを強いられるのに、速さも依然としてヘイズの方が上。しかも一向に反撃せず、ひたすら躱し続けられている。
「イラついてるなぁ………」
傍から見てもそのバートンの顔に、挑発され募った怒りと、それでもなお倒しきれない事実に対する焦りが見て取れた。
そして、相手の攻撃にずっと目をやっていたヘイズも、バートンのその表情を一瞥して、
———笑った?
次の瞬間、
「ちょこまかちょこまかと、ウゼえぇんだよォォオ!!!!!」
痺れを切らしたバートンは、その怒声とともに左から右へ、拳を固めたその右腕を大きく薙ぐ。
彼の渾身の一撃。それは、当たったら骨を砕き、肉が弾け飛び、相手がただの血溜りと化する、彼が人を殺しに殺した経験が詰まった、残虐の一手。
果たしてその攻撃は——しかし当然かのように避けられた。
そして————ヘイズの姿も、同時に消えた。
「「!!?」」
目を見開く私とバートン。そして、その姿を最初に捕らえたのは——この戦いの全貌が見渡せる位置にいる私だった。
「なっっ……」 ・・・
驚く私の目線の先には、腕を振りぬいた格好でいるバートン。その、振りぬいた腕の上。
そこには、小さな幼女の形をした化け物が立っていた。
「……ッ!!?」
バードンも遅れて気付き、思わず固まっている中、その化け物——〈カゲノミコ〉は、その端正な顔に何の色も乗せないまま、口を開く。
「———ふむ。単純な挑発で怒り、動きが単調になったの」
風がなくなり、戦闘音もなくなった教会に、その言葉は恐ろしいほど響いた。
はっ、と我に返り、手持ち無沙汰になっていた左腕を使い反撃をしようとするが———遅い。
「つまらんの」
・・・・・・
その呟きが聞こえるときには、バコッ!、という鈍い音と共にその狂人は顎を蹴り上げられ、大きな音と砂ぼこりを立たせながら倒れた。
- Re: セイテンノカゲボウシEX ( No.11 )
- 日時: 2020/04/05 11:08
- 名前: おまさ (ID: iv9jnC9n)
「おおう、怖ぇえ怖ぇえ」
ヤコブレフが倒れた後、一番最初に口を開いたのは簀巻きになっているトガンだった。ただ、その言葉と裏腹に口調には面白さが滲んでいる。まぁ実際彼にとっては、クラスメートの陰湿なイキリ陽キャがチョーク投擲でぶっ倒されたみたいな感覚でいるのだろう。
「…にしても、あの倒された人の形相、天元突破してたな……..」
他には『ムカ着火インフェルノォォォオオオオオウ』とか『ハイパークリティカルアウトレージャスアンガァー』とかそういう形容詞がつきそうなくらい。
「イヤ、この二つは厨っぽいなぁ…..。もうちょい良いのないかな」
「………….戯言の途中失礼するのじゃが….こやつらは咎人ゆえあまり交流を持たん方が身の為じゃぞ」
「罪人、ねぇ。……ねえヘイズ、とりあえずこのあとどうするの」
ヘイズは暫し考えるような仕草をしてから、疲れたように目頭を揉んだ。そういう成熟した精神の片鱗を見せられるものだから正直、全然ロリっぽくない。
「そうじゃな…バートンとトガンについては、恐らくはジオノール大監獄に収監されるじゃろうな。これほどの大罪人となれば」
「へっ。お褒めに誠に恐縮だよ」
トガンが吐いた妄言ととれるものを、ヘイズは無視した。
「先日の任があったことも顧みれば、儂が護送にあたる可能性は少ないのう。…そも、〈ミコ〉どころか騎士団で手は足りるじゃろうて」
そこまで言いさし、しかしヘイズは申し訳なさそうに私に向き直った。そして、
「……すまんかったの、レナ」
「いやいやいや、何故そうなるの?」
「観光どころか、厄介な事態に巻き込んでしまったからじゃ」
「ああ………」
確かに、観光というかなんというか、それはもう色々と掻き回されたのは確かだ。散歩がてら術者の登録に行こうと街を歩いていたら、指名手配犯達の逃走劇に乱入ーーー考えると、胃が痛くなりそうだ。
でも。
ヘイズは一生懸命、私を異世界に慣れさせようとしてくれていたのだ。結果としてそのプランは失敗してしまったけれど。
ーーーーーだから、少なくとも、そのひたむきさに礼は言っておくべきだろう。
「…ありがと、ヘイズ」
「…何故おぬしが謝っておるのじゃ?非があるのは儂じゃろう」
「いいからいいから」
詳しくものを述べない私に、誤魔化されたヘイズは少し不服げだ。でも、今はそれでいいと思った。
照れ臭い事を言うのは正直、苦手だから。
ーーーこれは、私が件の監獄に収監される切っ掛けとなった事件の、二時間前の出来事だ。
***
さて、これでこの観光編も終わりです。
...ゑ?全然観光してねぇじゃねーか、だって?まぁそこは否定しません。最初は、ほのぼのゆっくり街のなかを見て回る感じにしようかなーみたいに思ってたんですが、蓋を開けたらゴリゴリ長く...。
多分僕のせいなんだけどね!