複雑・ファジー小説

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迷い込んだ。異世界へ
日時: 2020/08/10 11:05
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

  無知な少女の物語。
 大切なモノを助ける為。
 彼女は自ら迷い込んだ。

ーー否、もしかしたら自分自身の為かもしれない。




第1話 『約束は死』
   >>01-04

第2話 『町と幼なじみ』
   >>05-10

第3話 『黒く明るい海の街』
   >>11-14

第4話 『ボクの宝物』
   >>15-19

第5話 『閉められた鳥籠』
   >>20-23

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.17 )
日時: 2020/06/19 06:07
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

レイの目に入ったのは写真たてだった。

レイの幼い頃の写真。
アヤメと一緒に笑ってる写真。
コーと手合わせをしてる写真。


......全てレイが写っていた。

「............ぁ、は?」

意味がわからない。その時僕は天使なんて見ていない。
彼女に会ったことはない。

......筈なのに。



なぜか涙が溢れてきた。

どの感情からだろうか。

恐怖が一番だと思う。
だけれど、何故か。

どうして、あたたかい感じがするんだ?


上からガタガタと音がした。
流れた涙は手を使えないため拭けるはずもなく。
ただ頬を伝っていった。

上を見上げると、ダクトがあった。
何か生物がいるのだろうか。

ネズミだろう。一般的に考えて。

僕を助けに?なんて一瞬考えたが助けてくれる知人なんて
何処にもいない。

嗚呼、彼女はそれを狙ったのだろうか。

そして僕が諦めてくれるようにと。
自分だけに依存してくれるようにと。

意識を保っていたって彼女を楽しませる玩具にしかならない。
ならば、諦めてしまおうか。

きっと彼女のあのねっとりとした温かい目は
僕のことは殺しはしないだろう。

何をされるかはわからないが。



そして上のダクトがガタッと音を鳴らして
開いた。

「レイ、さんですか?」

あ、また彼に助けてもらってしまった。

そう思った。

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.18 )
日時: 2020/06/23 18:45
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

心配そうな顔をした桔梗色の瞳を持つ
彼女はレイのところへ降りてきて
口の布をとった。

「あぅ......あ、ありがと、ございます......」

彼女はこくんとうなずいた。

すると彼女はレイを持ち上げた。
所謂、お姫様抱っこと呼ばれる形で。

先端に刃物が付いた紐を
ダクトにの奥に投げ、『かつん』と音がした。

すると彼女はくいっと引っ張って
飛ぶようにダクトに入った。
紐を回収し入りくんだ無機質な狭い道を
すいすい進んで行く。

彼女に抱っこされ自動的に見るものが変わっていく。

目を開けておろおろしながら見ていると
急に視界が眩しくなり、思わず目を瞑った。

「わぁ......!」

一面緑色だった。

風が騒がしい。

森が揺れる。

「あの、気持ち悪くなったり、怖くなったら言って下さい。
速度落とすか、止まるかします......ので。」

彼女は少しくせがある髪を揺らしながら
こちらを見ずに静かに告げた。

彼女もダウアと同じく目を見ながら話せない
のかな、今は移動してるからこっちを
見れないのは当たり前だけど。
......そう、なのかな?

なんて事を考えたらクスッと笑えてきて、
微笑ましくて。


......こんな状況だということを一瞬忘れてしまっていた。


幸せからの少しの不幸せは絶望と同じように
見えてしまうから、幸せは苦手だというのに。

幸せを感じてしまった。



風がうるさい。

あの女の子が逃げてるよ、
と彼女に知らせる。

森が焦る。

他の人間と一緒にいるよ、
と彼女に伝える。


......あ、コレは監視されている。

逃げられない。

と思ってしまった。
この行動をさえしなければ逃げ切れたかも
しれないというのに。

「あの!降ろしてください!お願いです!
そして僕を置いていって!」

泣いて桔梗色の彼女にすがった。

貴方も危ない!全部壊されちゃう!
と狂気に囚われて。

「......?!」

彼女はやはり急な出来事に驚いていた。
そして暴れるレイを落とさないように
丁寧に扱うために足を止めてしまった。


「あれ?おいかけっこってもう終わり?ざんねーん」

光など最初から存在してませんというような
瞳で凛とレイ達を見おろした。

そして「でもレイちゃん、理解出来たみたいで
ボク、嬉しいよ♪」と言って笑った。

「結構楽しかったしこの状況を作ってくれた
君の名前。覚えててあげよう。教えなさい。」

天使は愉しげに彼女を指差した。

天使は指を決まった動きを3回程繰り返した。

「ほら、言えるでしょ?」

そう言って笑った天使は早くと急かす。
彼女は口をゆっくり動かした。


最初は『あ』の口から
始まるようで、少しずつ開いていく。




ゆっくり。





「あ」


舌足らずなその声が頭の中を整える。





「......なたなんかに教える名前なんてないわ!」

天使は驚いたように目を丸め、
次の瞬間きっと彼女を睨んだ。

「あんた、契りは誰かと交わしたの?
それとも非人間?」

先ほどの高く愉しそうな声ではなく
低く面白くないという雰囲気を醸し出した。

「教える義務もないでしょう?」

「......わかった。教えなくて良い。けど......
ボクのモノを返して、もらえるかなッ!?」

天使は天を蹴って物凄い速さでレイ達に襲いかかってきた。

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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.19 )
日時: 2020/07/05 08:21
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

全てが怖かった。

桔梗色の彼女が傷つき苦しむ姿が。
天使の彼女が笑いながら叫ぶ姿が。

赤が弾けては落ちて集まっていた。
くっついてだんだんとそれが大きくなっていった。

「あ、あぁ......!」

レイの頬は赤く染まり、多くの涙が流れた
跡がついていた。

紫がかくんと膝を折り
静かになった時はもう既に声が枯れていて何も出来なかった。

天使はそれを持ち上げ木の根本にそっと置いた。

先ほどまで彼女と戦っていたとは思えない程
優しく、まさに天使のように。

その天使はレイの方を振り返り苦しそうに口角を上げた。

「ごめんねレイちゃん。迎えに来たよ?」

天使はレイに向かって腕を広げた。

訳がわからなくなったレイは反射的に
自身の右手を彼女の腕へと伸ばし、掴んだ。

天使はニヤリと怪しげにそして嬉しそうに微笑んだ。
レイには幸せそうに見えた。

「帰ろっか......!」

今度はふわりと優しい笑顔だった。




どこか懐かしいこの笑顔は......?

何故か彼女といると優しい気持ちで溢れてきて、
慈しむことを止められない。

彼女の事を考えていて、傷つくことの方が多いけど
それよりもずっと____。



否、

気のせいだ。だって今日初めて会ったのだから。

そして会ったばかりの彼女に体を預けるのもおかしいが
すぅっと安心したように目を閉じた。


「貴方からは離れていかないでね。

............離す気は一切ないけど。」


切ない声色は泣きそうな程震えていた。

レイはそれにつられたのかはわからないが
もう一筋、涙を流して眠った。

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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.20 )
日時: 2020/07/07 18:44
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

目を覚ますと生活感がある部屋のベットで眠っていた。
ぎしっと音を鳴らして起き上がると
左手首に違和感があって振り返った。

先ほどの天使がレイの手首をぎゅっと握っていた。

目を閉じ口を少し開け幸せそうに眠っている様子は
愛らしかった。

何を考えているんだと我ながら思う。

握られている手首をじっと見詰め
(力、強いな………)と思った。

こんなに掴まれている力が強いなら逃げるのは不可能だ。

そもそも外に出ると自然の声が聞こえてくるのは
何故だろう。
あの声が幻聴じゃないならここからバレずに
脱出するのは無理だ。



……どうしようか?


彼女を起こさないと行動できないから
起こしてしまおう。

握られていない右手で彼女を揺さぶる。

「……あの。起きて、くだ……さぃ。」

声がどんどん小さくなっていく。
怖くなってきたのだ。

彼女が起きたらどんな事をされるだろうか。
彼女を起こしたら怒ってしまうだろうか。
彼女は。彼女は?


はっとすると汗でぐっしょりとしていた。
息が荒く体が熱かった。

彼女のことばかり考えている。

本来は自分はこれからどうするべきかを考えるのでは?

「んぅ?あ、起きてたぁ......んふふ」

ふにゃりと笑ってレイを抱き締めた。

「う”ぁ」

苦しくなって声がもれた。

すると彼女はパッとレイを離し
今度は腕を広げた。

「え、っと?」
「ん?ああ、おいで?」

おいで、というのは彼女が先ほどまでしていた事を
レイからしろ、ということだろう。

そうレイは解釈し、一応彼女の言う通りにした。

彼女の腕の下に自身の腕を通し、
彼女の背中へ手を回して、
彼女の胸に顔を埋める。

「あは、かわい」

彼女はそう呟きレイの頭を撫でた。

「ねえ、レイちゃん今日の朝、卵が良い?
それともお魚が良い?」
「……た、まご?」

少しだけ離れて卵と答えた。

クスッと優しく笑って彼女は立ち上がった。

かと思えば急にレイの方に振り向き
顔をずいっと近づけた。

レイはびっくりして反射的に目を瞑った。
鼻に柔らかく温かい感触があった。

少し時間が経ってから目を少しずつ目を開けると
ニヤニヤ笑った彼女がレイを眺めていた。

「なぁに?期待、しちゃった?」
「えっ?ちがっ!」

クスクスと笑って彼女はすたすたと寝室を出ていった。

放置するなら僕出ていけるかも。と思った瞬間
『カチャン』という金属音がした。

うん、まぁ、当たり前だよなぁ。
寝室のなか何かないか調べよう。

と思いレイも立ち上がった。
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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.21 )
日時: 2020/07/09 19:42
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

ベットは特に異常無し。

ベットから出て整えてから探索を始める。

ベットの隣の引き出し。
全ての段に鍵がつけられるようだ。
下から開けていく。
簡単そうな雑誌が入った段。読めない文字が書かれた書類が入った段。
刃物が入った段。鉛筆などの文房具が入った段。
鍵がかかっている段。
因みに引き出しの上のライトには埃が被っていた。
………掃除、していないのだろうか?

取り敢えず全ての段を閉め次の場所を調べよう。

次はクローゼット。
栗色の可愛らしいクローゼットを開ける。
当然、服がハンガーに掛けられていた。
右側は仕切りがあって裁縫セット、アイロン等が収納されていた。
……人間っぽい、かもしれない。
服をわざわざ物色するのは気がひけたのでしなかった。

クローゼットを閉めて次の場所を調べよう。

クローゼットの場所から左を向くと引き出しがもうひとつあった。
下から開けていく。
きちっとしたスーツ等が入った段。
ゆったりとしたパーカーやパジャマが入った段。
下着のシャツが入った段。
上下の下着が入った段。
上の2段は恥ずかしくなったので何か分かった瞬間
ぴしゃりと閉めた。

全ての段を閉め次の場所を調べよう。

次は簡易的な鉄を黒く塗装した本棚。
難しそうな本が沢山あった。
じっと見ていると『転生か生き写し』『貴方であり貴方でない者』など
転生や生まれ変わりについての本が多い気がした。
そういうの、好きなのだろうか。
今度おすすめの本とか訊いてみようかな………。

次は。
……………………………。


次は。
………………………………………。


もう、めぼしいのは無いかな。
ぼふんっと音をたてベットにダイブする。

ん、彼女の匂いだ。
慣れないけれど臭くはない。
寧ろ個人的に安心して好きな香りだ。

枕をぎゅっと抱く。

「………名前、どうしても教えてくれないのかな。
なんて呼べば良いかわかんない、しー。んんぅ〜」

顔を枕に埋め肺まで彼女の匂いでいっぱいにする。
すると扉からカチャンと音がした。

目を細めて幸せそうに笑う例の彼女が立っていた。

「……そんな事思っててくれたのかぁ。嬉しいよぉ?
ところで何でそんな可愛い行動してるの?」
「へぇっ!」

天使はレイに覆い被さった。
それと同時にレイの手首をベットに押し付けた。

「ん”ッ!」
「ねえ、レイちゃん。……………って、…………で?」

「ん?」

「お姉ちゃんって呼んでみて?」

はっきりとした声で、余裕のなさそうな声で。
そう言った。求めるように。

言っている事は頭が可笑しいけど。

「えっ、んゃぁ。はなしって!」

目が怖かった。
目の中心の黒い所が大きくて。
ブラックホールみたいで吸い込まれそうだった。

じたばたするも上から体重と重力をかけてくる相手には
抵抗はできてもピクリと動くことすら出来ない。

「言って。お願い、きいて………?」

目に吸い込まれた。目を奪われて与えたいと思った。
母性本能というもの、だろうか?

「お姉、ちゃん………手、いや……だ」


「………あ、ごめん。痛かった?跡は、ついてないね。良かった。」

ほっと胸を撫で下ろす彼女はとっても綺麗だ。

レイは何も言わず天使を包んだ。
どっちが天使か分からないくらいに優しく。

「レ、イちゃんっ!?えっ?ちょ……」

天使、以下お姉ちゃんは顔を真っ赤にして
行き場のない手をあわあわと動かしていた。

少しお姉ちゃんは考えてレイの背中に手を回した。

「お姉ちゃん、もうちょっとこのままが良い。」

震えた声でレイは言った。
お姉ちゃんはその言葉を聴きすっと目を閉じた。

「うん、分かった。」

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