複雑・ファジー小説
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- 迷い込んだ。異世界へ
- 日時: 2020/08/10 11:05
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
無知な少女の物語。
大切なモノを助ける為。
彼女は自ら迷い込んだ。
ーー否、もしかしたら自分自身の為かもしれない。
第1話 『約束は死』
>>01-04
第2話 『町と幼なじみ』
>>05-10
第3話 『黒く明るい海の街』
>>11-14
第4話 『ボクの宝物』
>>15-19
第5話 『閉められた鳥籠』
>>20-23
- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.12 )
- 日時: 2020/06/09 01:49
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
「おおお!」
ほくほくと湯気が上へ上へと上がっていく。
その度にレイの所まで美味しそうな良い匂いを運ぶ。
少しだけレアなステーキは切り込みを入れるだけで
「じゅうわぁ」と音をたて、肉汁が波のように溢れ出す。
口へ運び、味わうようにゆっくりと噛もうと
したところ2,3回噛んだ所で溶けた。
本当に口に入れ噛んだとは思えない程の
ふんわりとしたなくなり方だった。
その溶けた余韻を噛みしめながら、
幸せな時間を思う存分楽しんだ。
ーが。
酔っぱらったおじさんがドンとぶつかり酒を溢してきた。
べとべとする。気持ち悪い。
僕は一応未成年なのだが。
つい、ため息を大きくついてしまったのだ。
「あ”あ”ぁ?俺の酒を奪っといてクソでかいため息とは
なんだぁ?あ”あぁん?俺の酒を返せよ。」
ああ、こういう人か。
まあ、何処でもこういう人は居るだろう。
仕方がない。
「すみません。私が故意的にやった訳でも
私からアクションを起こした訳でも無いので、
弁償することはしません。
............寧ろ、私の服の弁償してくれませんか?」
「お前、女だろう?男の俺に歯向かうとどうなるか
......分かってないなぁ?」
僕は考えた。
こいつは何をしてくるか。
暴力?性行為?
否、それに発展する前に片付けられるだろう。
こんな鍛えもしない体で、働きもしない愚図の頭で、
どうやって僕に勝てると思ったのだろうか。
女だから。だろう。
あーあ、男に生まれたかったな。
ステーキの代金をドンッと強めに置き、
僕は男に言いはなった。
「分かってないので、少し外に出て
話、しませんか?」
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.13 )
- 日時: 2020/06/10 05:14
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
はああ!ついついやってしまった。
頭に血がのぼって。
ううう、帰りたい。
「で、自分から人影がない暗いとこに来て
一人だけで何をしようってんだ?お嬢さん?」
煽ってきているのだろうけど
自分の反省点や改善点を考えてたら全然腹がたたない。
「話をするって言ったじゃないですか。
要求は何ですか?お金ですか?お酒ですか?」
月明かりだけが頼りの夜。
暗い路地裏。
バレずにこの男を始末するというのも
できるであろうこの状況。
だがそれは、男にとっても同じだ。
「そうだなぁ、金がいいけどなぁ。
嫌なら体でもいいぜ?」
......。
所詮は屑か。
「貴方、家族や仕事はあるの?」
男はぴくっと反応し眉をひそめた。
「家族はねえが関係あんのか?」
ふーん、仕事はきちんとあるんだ。
ないように見えた。
......ただの呑んだくれかと。
男の後ろで黒い影が動いた。
男の仲間か。たまたま通った人間か。
「おめぇ、話なげえよ。無理やりでも
こっちは良いんだって分かってんのか?」
男はレイの手首をグッと引っ張り自分に引き寄せた。
反射的に変な声が出て腕を動かそうとした。
「やぁっ?!」
か弱い乙女のような高い声が出たところで
影が近づいてきた。
見覚えがある。あの男は......。
「何女の子に乱暴してんねん、おっさん。」
昼間の弱そうなあの男。
桔梗色の瞳を持つ女性の尻にしかれていたあの男。
昼間の張り付けたような笑顔ではなく、
ねっとりと耳の奥についてくる声ではなく。
低く静かな......。
長い黒い髪が風でなびく。
「は?お前に関係あんのか?」
「きゃー。こわーい。」
するとその男は缶のような物を取りだし
フシューと音を鳴らしながら煙を男にかけた。
「うおっ!」
驚いたようで目を擦りレイの手首をパッと離した。
その瞬間に黒い髪の男に手首を引っ張られた。
「走れる?!逃げるよ!」
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.14 )
- 日時: 2020/06/12 06:20
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
月明かりが僕達を照らす夜。
満月が僕を監視する。
「ハァッ、ここまで来たらもう追って来ないと思うよ。
それとも、宿までおくろうか?」
息切れした呼吸を肩を上下させてなんとか通常に
戻そうとする男は真剣な眼差しでこちらを見上げた。
男はしゃがんでレイの手をそっと手に持っていた。
「いえ、大丈夫です。お礼をしたいので
お名前、教えて頂けませんか?」
きょとんという顔をして目を丸めた。
そして急に笑ったかと思えば、元の真剣な表情に戻った。
「ん〜、一応あんましお礼したいからって
そーゆーこと言わん方がええと思うよ?
ま、僕だから今回は大丈夫やけどなぁ」
男は口角を上げたま目を伏せた。
僕は単純にその様子を見て綺麗だと、
美しいと感じてしまった。
夜のような暗く青いその瞳と
濁りのない綺麗な漆黒の髪はとてもー。
「うん、また今度会ったらお礼してよ。
今は真夜中だし、今度。ね?」
レイの目はやはり真っ直ぐ見なかったがこちらを向いたのは確かだ。
彼は胸に右手をそっと当て小さく息を吸い込んだ。
「僕の名前はダウア。一応これでも科学者やってます。
よろしくね〜?」
その笑顔は昼間と同じ張り付けた笑い方だ。
線を引かれるのは苦手なのだ。
寂しいから、独りになんて成りたくないから。
「はい。僕はレイです。よろしくお願いします。」
手を差し出す。
線なんて土足で越えてやるために。
ダウアは目を丸くする。
レイの手をじっと見つめる。
ふっと少し笑って自分の胸の手を当てていた
右手で握手をする。
「それじゃ、早く帰るんだよ。」
そう言って彼は
............夜の街に消えてった。
あれだけ優しくても、
助けてくれたとしても、
「やっぱり男の人なんだよなぁ」
ハハッっと苦笑いした後にそそくさと宿に向かった。
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.15 )
- 日時: 2020/06/14 09:00
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
「はあぁ〜ぅ。」
とても眠い。
これからどうしようっていう焦りが出てきた。
そういや、あの男に目の敵にされたら
嫌だなぁ………。
みたいな事を考えていたら
いつの間にか、朝!
まあ!僕、一睡も出来てないわ!
どうしましょう!
おはよう、太陽くん。
あと5年くらい待って。
そしたら起きるからさ〜。
っていうねぇ。
徹夜のせいで脳内パレードを繰り返しています。
とまぁ、気長に素材集め兼戦闘練習をモンスターとやっている。
『プギー!?』
んん。今のモンスターかわい〜ん。
.....うん。僕、脳ミソ溶けてんな。
「今夜はきちんと寝なきゃいけないかも。」
また欠伸をした。目を閉じる。
その瞬間、後ろから声がした。
「昨夜は寝られなかったんですか?」
振り返ると真白き翼を生やし、
若緑の瞳を持つ天使は金色の髪を揺らしながら笑った。
その声は懐かしく感じた。
不快な気持ちになんてならない、耳の中を反響する声。
そして、目を細めたよそ行きの笑顔は
どこか見覚えがあった。
「............は」
頭が痛い。
ナイフが刺さっている。
目眩がする。姿を目に焼き付けないといけないのに。
喉が痛い。声が出ない。
............声が出たとしても話す内容がわからないが。
相手は人間じゃない。
天使と呼ばれる種族にも見えるが
他の種族かもしれない。
僕は学校には行ったものの専門的な知識はない。
そして全ての種族も覚えていない。
「............だ......ぇ......?」
嗚咽しか出ない。
気持ち悪い。こんなの僕じゃない。レイじゃない。
「えー?ボクですか?天使と言う種族の者ですよ。」
面白そうに笑った。
彼女は誰。
そんな事を考えようとしても回らない頭。
苦しい。気持ち悪い。痛い。苦い。嫌だ。
「辛そうですね?寝ちゃいましょっか?」
彼女はそう言うと甘い匂いがレイの体を包み込んだ。
徹夜明けで眠たかったレイは
天使に体を預けて眠ってしまった。
「おやすみなさい。ここではレイちゃんだっけ?
んふ、可愛いねぇ?」
最後に見たのは彼女の
幸せそうに笑った狂気じみた笑顔だった。
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.16 )
- 日時: 2020/06/15 04:32
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
「んむぅ?」
起きると見知らぬ風景が広がっていた。
手は後ろで縛られていて動かす事が出来ない。
指先までテープらしき物でぐるぐる巻きに
なっている感覚だ。
口は布に縛られている上に
テープまで貼ってある。
冷たい床をふくらはぎで感じ、
床よりは温かい壁に背中を預けた。
「んっふぅ?」
全く状況が把握出来ない。
すると何かが擦れる音が近づいてきた。
「おはよー、気分はどお?」
悪いと言いたかったが口を動かせる訳もなく。
音を出さずに何コレという少し怒った
目で睨み付けたものの意味がないようだ。
せめて口は外してというように
顔をゆっくり横に揺らし「んっ」とだけ言って
レイの口を主張した。
「口〜?ん、しゃーないなぁ。
剥がすだけですよ。苦しかったね、ごめんなさい。」
彼女は眉を下げた。
そしてレイの顔の近くに自分の手を持っていき
ゆっくり
優しく
剥がすことなく
勢いよく「ビリッ!」という鈍い
音を出して剥がした。
痛みからレイは涙目になるとふっと笑って
満足したようだった。
次のアクションをとらなければ。
次は手を外してもらう?
そんな事する筈がない。抵抗すると考えるのが普通だ。
ならば。次は。次は。
言ってる事わかるかは正直多分わからない。
けど、こいつの相手をしなくちゃ。
「あ、まぃぇ......おひえ、ぉ」
名前、教えろと言ったつもりだが通じるだろうか。
答えはYESだった。
「んふ、そんなにボクの事知りたいんですか?
嬉しいなぁ?ふふ............」
......でも教えてくれないようだが。
助けて。誰か。
............否、ダメだ。
まだ挫ける時じゃない。
僕のことは僕がやんないと。
あーあ、折角あの街でも知人が出来たというのに。
遊びたかったな。
遊びたかったな?
遊び、たい?
「思い出してくれました?」
ふんわりと笑う金髪の天使。
天使とはこのような鬼畜な者ばかりなのだろうか。
意識を手放してはいけない。
独り言でも良い。
何かを考えて。頑張って。
「ん〜だんまりですか。暇になってきたので、
外の空気吸ってきます。良い子にしててくださいね。
じゃないとどうなるかは............わかってませんね!」
良いですよ?わかんないままで。
と付け加え笑ってこの薄暗く冷たい部屋を出ていった。
目を凝らす。
隅から隅まで見落としがないように
精一杯の情報を受けとるために。
そして見つかったのは____。
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