複雑・ファジー小説
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- 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】
- 日時: 2020/07/01 21:12
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、カキコで創作を投稿させてもらっているマルキ・ド・サドです(*^_^*)
さて、この度はどうしても書きたかった新作を投稿しようと思います。
2020年と言えば、ジャンヌ・ダルクの列聖から、ちょうど100年が経った年でもあるのです。
その記念として彼女にまつわるミステリー小説を書きます。
※注意
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るをクリックする事をお勧めします。
物語のあらすじ
・・・・・・1920年5月16日。ジャンヌ・ダルクが教皇ベネディクトゥス15世によりカトリック教会の聖人に列聖される・・・・・・
パリに事務所を構える私立探偵の『エメリーヌ・ド・クレイアンクール』と助手の『アガサ・クリスティー』。
2人は久々の休暇に羽を休めている最中、ある依頼人が訪れ、奇怪な仕事が舞い込む。
それは数世紀前に火刑により処刑されたジャンヌ・ダルクの本当の死の真相を突き止めてほしいと言う内容だった。
予想だにしていなかった依頼に困惑するエメリーヌであったが、依頼人の想いに心を動かされ頼みを承諾する。
数世紀前に埋もれた事件の真相を探るため、アガサと共にフランス西部に位置する湿地帯の孤島『ヴァロワ島』へと向かう。
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.9 )
- 日時: 2020/12/26 21:02
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「この島で髪の白い人間はほとんどいませんから。そのせいなのか、この島の人達は変な目で私を見るんです」
「お気になさる必要はないと思いますよ。髪の色で人の存在価値は決まりませんから。偏見など、愚か者がする事です」
エメリーヌは励みなりそうな言葉を送ると、早速、やるべき話題を進める。
「ヴァロワ島を訪れてから個人的に気になっていたのですが、波止場に建てられた少女の像について教えて下さい。この島で崇拝されている神様なんでしょうか・・・・・・?」
「いえ、神様なんかじゃありません」
レイは探偵の予想を呆気なく否定した。陰気に包まれた暗い面持ちを作り、少女の像について語り始める。
「あの少女は"シシス"と言って、この島に伝わる疫病神です。人が立ち入らない森の奥に住み、集落にやって来ては人を攫い、食い殺すのです。ブランシャール家の屋敷がある峠のふもと付近の森に潜むカルト団体のオバディア教の崇拝対象となっています。あなた方が欲しがっている魔除けは、その疫病神に襲われないための聖品です」
「なるほど・・・・・・」
エメリーヌは理解を得て、会話に沈黙の間を開けた。顎に触れていた親指と人差し指を胸元に降ろし
「ブランシャール家の屋敷について、何かご存知ですか?」
二度目の質問にレイはまたもや、爽やかとは言い難い悩ましい表情を繕い
「あの館の事ですか?ブランシャール家の一族は数世紀前にこの島を訪れました。一族の当主がこの島に眠る銀の鉱脈を見つけ、大勢の探鉱者を雇って島を繁栄させたんです。やがて一族は貴族となり、ヴァロワ島の正式な統治者となった。今はシャルトリュー様が現当主を務めておいでですが、早くに家族を亡くしお1人の身なのです。彼女は常に屋敷内に留まっているのか、姿を目にした人は、ほとんどいません。実は私もお顔を拝見した事は・・・・・・」
「そのシャルトリューという人物にお会いする事は可能でしょうか?」
「残念ながら・・・・・・無理に等しい思います。館の立ち入りが許されているのはマリア様を含め、ほんの数人しかおりません。ましてや、この島の住民ではない人間を歓迎したりはしないでしょう」
三度目の期待を裏切る答えにエメリーヌは失望を隠し、落ち着き払う。
「では、最後の質問を。あなたはジャンヌ・ダルクについて何かご存知ですか?」
レイは唐突な内容に不意を突かれ、最初の一瞬、"え?"と思わず漏らしてしまう。少しの間、返答に困っていた末、1つの返答が返る。
「ジャンヌ・ダルクの事は・・・・・・確か昔、亡くなった母が寝る前に私と兄に絵本で読み聞かせてくれたのを覚えています。でも、そんなに興味は湧きませんでしたし、エメリーヌさんが質問するまでは、存在をすっかり忘れていました。お力添えになれない事をお許し下さい」
「(動揺や焦り、不審な動きがない。この少女も兄同様、事件とは関係していないという事か・・・・・・)そうですか。質問は以上です。ご協力ありがとうございました」
エメリーヌは密かな観察と聞き込みを終了し、一礼と共に礼儀正しい謝礼を送る。その後ろの影でアガサは軽く歯を噛みしめ、がっかりとした顔を2人から逸らした。
教会の扉が閉ざされ、探偵と助手は収穫が得られないまま、暗雲の怪しい外へ出た。潮を含んだ涼しい風の寒さが望みを失った感情に染みる。
「結局、ここに来ても結果は同じでしたね・・・・・・」
物事が上手く進まない結果にアガサは機嫌を損ね、不愉快な目つきを隣を歩くエメリーヌに向ける。その口調は、やや反抗的で行き場のない怒りをぶつけているようにも窺える。
「そうですね。やはり、この事件は一筋縄ではいかないようです。如何にして、手掛かりを探せばいいか・・・・・・」
エメリーヌは相変わらず、夜の静寂のように凛としている。表情は平然としているが、覗けない心の内では微かに後悔の念が芽生え始めていた。
「やっぱり、今回の件はあまりにも無茶が過ぎます。数世紀前の殺人事件を解決してほしいだなんて、砂漠で砂粒の大きさしかない宝石を探し当てるようなものですよ。本土に帰って、依頼主のクリスティアさんに会って以来の取り消しを申し出た方が・・・・・・」
「・・・・・・」
エメリーヌ沈黙し、向かう先を読めないどこかへと足を歩ませる。
「エメリーヌさん?」
探偵の沈黙にアガサは奇妙な予感を覚えながら、彼女の名前を呼んだ。
「アガサ。事が思うようにいかないのは探偵業の常です。捜査はまだ、序章を迎えたばかり。私が不可能を実感しない限り、諦める気はありません」
エメリーヌは厳しい教えを助手に請い、先行する。
「まだ、調査をしていない重要な場所があります。時間と予算は山ほどある。次の捜索を始めますよ?」
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.10 )
- 日時: 2021/12/01 18:06
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!いつも、カキコの皆様にお世話になっているマルキ・ド・サドです<(_ _)>
この度、ジャンヌ・ダルクを題材としたミステリーノベルである『聖女の呻吟』の連載を再開する事を決定致しました。
体調不良が続いていたため、ページの投稿がままならず、気がつけば1年以上の月日が流れてしまいました。
私の作品にせっかく、時間を割いて下さった読者の皆様に深くお詫びを申し上げます。
あまりにも久しぶりの連載開始のため、あらすじを覚えていないはずでしょうから、これまでのあらすじを具体的にまとめます。
無作法な形になってしまいましたが、これからも、このマルキ・ド・サドをよろしくお願い致します<(_ _)>
(これまでのあらすじ)
1920年のフランス。
パリで事務所を構える私立探偵のエメリーヌとアガサの元に1人の依頼人が訪れる。
依頼人はクリスティアと名乗り、ジャンヌ・ダルクとその影武者"アメリア・クロムウェル"の血筋であるという素性を明かす。
エメリーヌは彼女から、ジャンヌの本当の死の真相を解明してほしいという捜査を依頼され、ジャンヌの指輪を渡される。
依頼を承諾したエメリーヌとアガサは、フランス西部に位置するヴァロワ島へ向かう。
島の酒場で働くジョルジュと出逢い、"聖女の涙"という奇跡の果実の存在を知る。
翌日、エメリーヌ達はジョルジュの妹であるレイの元を訪れ、シシスというヴァロワ島特有の疫病神についての知識を得る。
しかし、事件の手掛かりになりそうな情報は掴めず、次の場所へと調査に出向くのだった・・・・・・
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.11 )
- 日時: 2021/12/08 20:08
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
エメリーヌとアガサは捜査を続行し、島の西側へと足を運んだ。港の集落を過ぎ、しばらくかけて海岸沿いの崖に辿り着くと、1軒の廃墟が2人を出迎える。それは骨組みが剥き出しになった、何とも見るに堪えない教会の姿だ。建物は朽ち果て、内側が覗けるくらい破壊しつくされた酷い有様だった。
かつては重要建造物として、扱われていたのだろう。門や囲いのものらしき痕跡も地面に残っているものの、綺麗に撤去されて影も形もない。代わり鉄棒と鎖の線が円形に1周して繋がっており、教会を包囲していた。
「エメリーヌさん。ここって・・・・・・」
アガサの"まさか"と言わんばかりの問いにエメリーヌは頷かず、肯定した。
「ええ、ヴァロワ教会。ジャンヌ・ダルクの指輪が見つかった場所です。ここに重要な手掛かりがあるかも知れません」
エメリーヌは唯一の手掛かりである指輪を取り出し、教会と重ね合わせる。
「でも、入っていいんですか?ジョルジュさんが証言していた通り、教会は閉鎖されてますけど?」
「まわりを見た限りでは、見張りらしい人の姿はありませんね。忍び込むには、いい機会でしょう」
エメリーヌは捜査を優先して立ち入り禁止を意味する表示など、お構いなしに鎖の内側へと足を踏み込む。アガサも不安だらけで嫌がった顔を浮かべながらも、鎖の真下を潜った。
外側が壊れかけなら、当然、内側も清潔感があるとは、お世辞にも言えない光景だった。聖堂らしき構造は残っているが、長い間、潮風や雨水に晒されたせいか、白い石材が黒ずんで品のない色に染まっていたのだ。床も歩くのに苦労するほど、雑草が好き放題に生え、建物の一部である瓦礫が散らばっている。神への信仰を集める場所らしい神聖な雰囲気が全く漂っていない。
「上下左右・・・・・・どこを見渡しても"酷い"の一言しかありませんね。神聖な教会をここまで荒らすなんて、神様に呪われますよ」
アガサが教会の現状に苦い顔をしながら、腹立たしい愚痴を零す。
「かつては美しく、多くの信者が訪れていた頃の面影はどこにもありませんね。とにかく、手掛かりを探し出しましょう。アガサ、あなたはそちらに怪しい何かがないか、調べて下さい」
「分かりました。はあ、本当にここにいて大丈夫かな?」
2人は手分けして、事件に繋がりそうな"何か"を探す事にした。
アガサが瓦礫を退かして残骸を漁る中、早速、ある物にエメリーヌの探偵の知覚が反応を覚えた。跪いて、床に煤(すす)のような粉末を白い手袋をはめたまま、摘まんで取る。両目の間に寄せ、じっくりと観察した結果
「これは"銀粉"ですね。酸化が進み、完全に錆びている・・・・・・確か、ジョルジュさんはこの教会は大量の銀を素材に建てられたと証言していた。そして、銀は大戦に必要な資金にするために根こそぎ取り除かれたとも・・・・・・」
昨日の証言を思い出し、助手に確認を取る。
「アガサ、何か見つかりましたか?」
「いえ、こっちはまだ何も。見ての通り、もぬけの殻ですからね。あるのは壊れた残骸だけ・・・・・・あ、いえ!待って下さい!何かあります!」
アガサもちょうど、残骸に埋もれている何かを発見する。手作業で石や板の切れ端を退かし、隠れていた物の正体を露にした。砂埃を手で掃った事ではっきりしたのは、数世紀前を思わせる絵柄で描かれた男性の肖像画だ。
「この人は・・・・・・」
その見覚えのある反応はエメリーヌよりアガサの方が早かった。
「アガサ。この絵の人物は・・・・・・」
「ええ、間違いありません。"ルイ・ド・ヴァロワ(ルイ11世)"。ジャンヌ・ダルクの活躍によって、フランス王となった"シャルル7世"のご子息です」
「確か、ルイ11世はジャンヌ・ダルクを心から愛していた人物でしたでしょうか?」
「はい。捕虜となったジャンヌ・ダルクを見捨て、火刑に追いやった父とは裏腹に魔女として一生を終えたジャンヌに対し、感謝の意を捨てなかった唯一の王族とも言われています。事実、ルイは2人の娘にジャンヌと名付けています・・・・・・もしかして、この方がジャンヌ・ダルクを殺害した犯人・・・・・・まさかね・・・・・・」
根拠のない推理にアガサは苦笑し、エメリーヌも表情を合わせて簡単な推測を立てる。
「ルイはジャンヌを純粋に愛していたはず。それに加え、当時のルイはまだ幼子だった。犯行に及んだ可能性は極端に低いと判断できます」
「・・・・・・でしたら、この絵は手掛かりには繋がりませんね」
アガサは少し残念な気持ちで肖像画を壊れかけの椅子に置き、改めて捜索を再開する。
エメリーヌは聖堂の奥へと足を進めて行く。そこは3つの段差が低い階段となっており、その上の中心に聖書台があった。紙が破れ黄ばんだ書物が21章のページを開いたまま、置かれている。
「私はアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。私は渇く者には、生命の水の泉から値なしに飲ませる・・・・・・これはヨハネの黙示録ですね」
エメリーヌはページに記された文章の一部を読み上げ、独り言を呟く。本には対しては興味を持たず、聖書台の棚を確認した。
「ん?」
すると、最下の棚に微妙だが穴が開いており、空洞になっている。何かがあるような、そんな予感がしたエメリーヌは隙間に指をかけ、板をずらす。底を覗くと期待は裏切らず、得体の知れない物体が隠されていた。
「エメリーヌさん。何かありましたか?」
ちょうど、そこへアガサが足を運んでくる。事件に繋がる収穫を得られないせいか、やる気をなくしかけている様子だ。
「聖書台の下に不審な物を見つけました。今から回収してみようと思います」
「不審な物・・・・・・!?どれですか!?」
興味をそそられ、即座に態度を一変させる助手を隣に置き、エメリーヌは発見した物を底から取り出す。
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.12 )
- 日時: 2021/12/20 19:52
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
日の明るさで形がはっきりとしたその正体は小包みくらいの金属製の箱だった。オルゴール箱にも似たその箱は錆びて黒ずんでいるものの、見事な装飾が施され、一種の銀細工とも解釈できる。特に印象を受けたのは、頭上に小さく丸い窪みの存在だ。
「・・・・・・これ、何でしょう?」
明らかに怪しい代物にアガサは真剣な口調で箱を凝視する。
「一見すると、宝箱でしょうか?錆びの色から判断して、恐らくこれは銀でできているみたいです」
好奇心を胸にエメリーヌは早速、中身を確認しようとした。しかし
「おかしいですね。どういうわけか、蓋が開きません・・・・・・」
蓋は頑丈に固定され、どんなに力を入れてもびくともしない。
「鍵がかかっているのでは?」
アガサは施錠されているという考えを主張するが
「その鍵穴はどこにもありませんよ。ですが、仕掛け箱にも見えませんね」
不審物を扱う術を知らず、困惑するエメリーヌ。しかし、箱を眺めているうちに彼女はある事に気がつく。
「さっきから気になっていたのですが、この窪みは何のためのものでしょう?もしや・・・・・・」
探偵の脳裏にある予想が過る。その閃きの意味が分からず、顔を斜めに傾けるアガサに視線を向けずにある物を取り出す。
「エメリーヌさん。それ・・・・・・」
「私もあり得ないとは思いますが、物は試しです」
エメリーヌはジャンヌ・ダルクの指輪を箱の窪みに入れ、はめ込む。すると、リングはちょうどよく収まり、数秒間回転を起こした後、カチッと音が鳴った。2人は互いに顔を見合わせ、次に箱を向き直った。
「エメリーヌさん・・・・・・!」
あっさりと難題が解決した結果にアガサは歓喜と尊敬の意をエメリーヌに示した。
「どうやら、この箱は指輪を鍵として開く仕組みになっていたようですね」
「ジャンヌ・ダルクの指輪で開いたんですよ!?彼女の秘密に結びつく物が入っているに違いありません!早く、中に何があるのか調べてみましょう!」
ついに事件の謎を解く第一歩に迫った確信に心を弾ませ、2人は箱を開ける。蓋が中身を露にした途端、黴臭さと埃が空気中を舞い上がった。入っていた物は、皮紙に包まれた得体の知れない板状の物だけが1つ。
エメリーヌは皮紙を丁寧に省き、徐々に中身の姿を露にしていった。包まれていた物の正体は黒く分厚い1冊の洋書。一見すると古臭く、表紙に刻まれた傷が強い印象を与える。
「変わった書物ですね」
「何が書き記されてあるのでしょう?」
エメリーヌは洋書の表紙を捲ろうとした。
最初のページに書かれた不思議な紋章を視野に入れた瞬間
「ううっ・・・・・・!」
エメリーヌの脳内に電流のような痺れが走った。耐えられない痛みに思わず、書物を落とし、頭を抱えて蹲る。
「エメリーヌさんっ!?どうしたんですか!?」
突然の事態にアガサは顔色を変え、叫んだ。 しかし、その声は彼女の耳には届かなかった。
ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・
砂嵐のような音が脳に刺激を与え、目蓋を開けられない。頭痛で遠のく意識の中、ある映像が映し出された。はっきりとは映ってないが、微かに2人の少女の姿が確認できる。深刻で悩ましい表情を互いに見合わせ、何かを話し合っている場面が薄く見える。
ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・
『"--様が、私にジャンヌを----に連れて来るように申し付けられました。ですが、私はジャンヌの----が起きそうで心配なのです・・・・・・!"』
『"マリア。あなたは何を心配しているの?はっきりとーーーー?何をそんなに怯えているの?"』
『"--様の目に理性なんてなかった・・・・・・ーーーーの誘惑が奥に潜んでいるのが見えました・・・・・・!"』
ザザ・・・・・・ザ・・・・・・
『"ジャンヌは、この事をーーーー?"』
『"いえ、ーーーーにはまだ、何も話していません・・・・・・!ですがっ・・・・・・!"』
ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・ザ・・・・・・
『"つまり、あなたの仕えている--様がーーーー知れないのね?"』
『"--様!私は一体、どうすれば・・・・・・!?"』
『"・・・・・・仕方がないわね。私がーーーーして、あの方にーーーー"』
ザザザ・・・・・・ザザ・・・・・・
『"しかし・・・・・・それでは、あなた様が・・・・・・!"』
ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・
『"あなたのーーーーとも限らない。もしもの事があってジャンヌをーーーー、フランスはーーーー・・・・・・それに彼女をあらゆる悲劇から守るのが、ーーーーである私の役目よ。あの--には私が--。安心して。あなたにも決して、危害を加えさせない"』
『"--様・・・・・・"』
ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.13 )
- 日時: 2021/12/27 20:51
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「うっ・・・・・・うう・・・・・・!」
「エメリーヌさん!」
アガサの声がはっきりと木霊し、エメリーヌは我に返った。重く閉ざしていた目蓋をカッと大きく開き、苦しそうに激しい吐息を繰り返す。数秒後、今いる現実を自覚し、片手で頭を押さえながら自身を呼んだ助手に視線をやった。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・わ、私は・・・・・・?」
「本に触れた途端、エメリーヌさんが急に苦しみだしたから、凄く心配したんですよ!一体、何があったんですか!?」
エメリーヌは脳内に流れた映像の事は口に出さず、目線だけを書物に向け
「ちょっと、目眩がしただけです。気分はもう、悪くありません」
そう何事もなかったように答え、無理に呼吸のリズムを整えると、おそるおそる書物を指先で触れる。頭痛に及ぼす音は聞こえず、謎の現象も起きなかった。エメリーヌは書物を回収し、鞄にしまい込む。
「アガサ、教会を出ましょう。事件の手掛かりに繋がりそうな怪しい物を手に入れた事ですし。集落に戻ったら、ジョルジュさんの酒場に行って再び部屋を借りましょう」
「本当に大丈夫ですか?顔色があまり、よくないですよ?」
「お気遣いは無用です。さあ、帰って英気を養いましょう。今日はもう、酷く疲れました」
奇怪な収穫を得たエメリーヌとアガサはヴァロワ教会から外に出る。どれだけの時間が経とうと、相変わらずこの島は晴れという天候を知らないらしい。太陽の光を遮る灰色の雲が空を埋め尽くし、今にも大雨が降りそうな兆しだ。
集落へ向かおうと、鎖のラインを越えようとした刹那、力強い足が地面を踏みにじり、何者が立ちはだかった。2人は現れた者の威圧に負け 歩みを止める。
「お前ら。こんな所で何をしてやがる?ここはなぁ、関係ねえ奴が立ち入っていい場所じゃねえんだよ」
見知らぬ背が高い青年。随分と殺気立った好戦的な口調。 目つきが獣のように鋭く、尖った八重歯を剥き出しにしていた。島の住民らしい汚らしい格好で、ボロボロになった穴だらけのパーカーを着ており、フードで頭上を覆っている。柄を左手に軽く叩きつけ、先端にある斧で威嚇をしているつもりのようだ。
「・・・・・・ひっ!」
凶器の存在に怖気づいたアガサは、そそくさとエメリーヌの後ろに身を潜める。
「あなたは?」
エメリーヌは冷静に青年の素性を聞こうとするが
「質問してる立場は、こっちだ。10秒の猶予をやる。俺がお前らの額を斧で叩き割らずに済む理由を教えろ」
青年は敵意を抱いたまま、鎖を跨いでジリジリと間合いを詰めてくる。
「私達は決して、怪しい者ではありません。お互い暴力沙汰は避けて、冷静に話し合いませんか?」
「何だと?お前ら、この島の人間じゃねえな。よそ者が神聖な場所に無断で侵入している時点で怪しさしかねえじゃねえか!!」
青年は千切れかけていた理性の糸を切らし、怒鳴りつけた。
「どうか、落ち着いて下さい。私達は私立探偵です。ある事件の調査のために、この島へ足を運んで来ました。誓って、この神聖な場所を穢すような真似はしておりません」
「ああ!?事件だと!?何の捜査をしてるんだ!?」
「申し訳ありませんが、お教えする事はできません。仕事上の機密事項ですので」
「答える気はねえって事か・・・・・・だったら!てめえらをこのまま帰すわけにはいかねえな!」
青年は更に殺気を強め、斧を振りかざした。こちらに危害を加えようと、ドカドカと速いテンポでこちらへと突進して来る。迫りくる脅威にエメリーヌは引き下がろうとはせず、接近を許した。
「い、いやっ・・・・・・!」
アガサは恐怖に耐えられなくなり、教会のある方へ走って逃げた。
怒号と共に容赦ない勢いで振り下ろされる斧。鋭く厚い刀身はエメリーヌの額を叩き割ろうとした。彼女は素早く、体の向きを変え、無防備な姿勢をずらす。的を外れた斧が地面を抉る前に柄を押さえつけた。
「なっ・・・・・・!?」
思わぬ反撃に驚愕の声を漏らす青年。エメリーヌは多少は加減し、青年の腹部に蹴りを喰らわした。痛みに怯んだところで、力を失った手から斧を奪う。瞬く間に刀身を柄から外し、解体した凶器を手が届かぬ場所へと投げ捨てた。
「がはっ・・・・・・!はあはあ・・・・・・!」
青年は蹲り、蹴られた腹部を押さえながら、正面を見上げた。そこには、さっきと姿勢が変わらないエメリーヌが立ち尽くしている。
「暴力沙汰は避けたい。そう申したはずです」
「くっ・・・・・・クソがぁ・・・・・・!」
青年は反抗的な態度を見せるが、武器を失い、殺意も喪失した。
「まずはお互いに名乗りましょう。私はエメリーヌ・ド・クレイアンクール。先ほど申し上げた通り、私立探偵です。あなたは?」
「うぐっ・・・・・・!アルノ・・・・・・この島の当主・・・・・・シャリュトリュー様に頼まれて・・・・・・この教会を・・・・・・見張ってんだ・・・・・・」
青年は痛感が堪え、喋りづらさに苦労しながらも、何とか素性を明かした。
「アルノ。それがあなたの名前なのですね?手荒な真似をしてしまった事はお詫びします。しかし、人をよく判断せず、いきなり暴力に持ち込むのは善良な人のする事ではありませんよ?」
「うっ・・・・・・うるせえ・・・・・・!」
「アガサ。もう、危機は去りましたよ?いつまでもそこにいないで、酒場へと向かいましょう」
アガサは慌てた返事をし、エメリーヌの元へ追いつく。アルノは当分、起き上がれそうもなく、鎖の内側で背を丸めていた。
「もう、ここで死ぬのかと思いました。エメリーヌさんの強さは知っていますが、下手をしていたら、間違いなく命を落としていましたよ。何故、あの人が襲い掛かろうとした時、銃で脅さなかったんですか?」
アガサのごもっともな質問にエメリーヌは命拾いした震えもなく、平静さを保ちながら
「彼は斧を使い、こちらを脅迫してきましたが、犯罪者ではなかったようですね。島の当主に雇われ、ヴァロワ教会の守護を任されていた管理者だった。つまり、彼はこの島で真面目に働く正当な住人です。私は悪意のない人間を撃つつもりはありません。銃を抜かないで正解でした」