複雑・ファジー小説
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- 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】
- 日時: 2020/07/01 21:12
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、カキコで創作を投稿させてもらっているマルキ・ド・サドです(*^_^*)
さて、この度はどうしても書きたかった新作を投稿しようと思います。
2020年と言えば、ジャンヌ・ダルクの列聖から、ちょうど100年が経った年でもあるのです。
その記念として彼女にまつわるミステリー小説を書きます。
※注意
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るをクリックする事をお勧めします。
物語のあらすじ
・・・・・・1920年5月16日。ジャンヌ・ダルクが教皇ベネディクトゥス15世によりカトリック教会の聖人に列聖される・・・・・・
パリに事務所を構える私立探偵の『エメリーヌ・ド・クレイアンクール』と助手の『アガサ・クリスティー』。
2人は久々の休暇に羽を休めている最中、ある依頼人が訪れ、奇怪な仕事が舞い込む。
それは数世紀前に火刑により処刑されたジャンヌ・ダルクの本当の死の真相を突き止めてほしいと言う内容だった。
予想だにしていなかった依頼に困惑するエメリーヌであったが、依頼人の想いに心を動かされ頼みを承諾する。
数世紀前に埋もれた事件の真相を探るため、アガサと共にフランス西部に位置する湿地帯の孤島『ヴァロワ島』へと向かう。
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.1 )
- 日時: 2020/12/06 18:46
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
年月 1920年5月17日
時刻 午前11時9分月曜日
場所 フランス パリ マンション『ミルドレッサ』
そこはマンションの一室だった。ホテルのスイートルームのように広く、部屋が点在していた。蓄音器が奏でるピアノの演奏、部屋は美しい音色に包まれている。隅には本棚があり、並べられた本はどれも推理やミステリーに関連した物ばかり。薪を燃やす暖炉の上には高そうな肖像画が飾られ、描かれたの貴婦人が微笑む。
その手前には4人分の細長いテーブル。上には新聞、お茶の容器、チェス盤とその駒が置かれていた。椅子には少女が2人、間のテーブルを挟む形で椅子に腰かけている。彼女達は退屈しのぎのチェスの最中でお互いが熱中していた。しかし、片方は優勢でもう片方は劣勢、すぐにでも勝負が着いてしまそうな流れだ。
「・・・・・・」
有利な立場にある少女は、実に冷静な振る舞いで相手の出方を窺っていた。無垢な瞳に後頭部が長く結われたボサボサの白い髪、胸に赤いリボンを締め、シャツの上にセーターを羽織っている。堂々とした精悍な顔を持ち、背が高く脚が長い。品のある格好が凛々しさを引き立てている。
「う〜ん・・・・・・」
それとは裏腹に、不利な状況に立たされた少女は黒の駒を手に取り悩んでいた。緑の瞳に襟首あたりの所で切り揃えた髪、薄紫の長袖シャツに白と黒のミニスカート、私服だった。気弱でおっとりとした顔立ちで背も低く脚も短い。街に出ればどこにでも見かけそうな容姿の子供だ。彼女はこめかみを指で突き、しばらく考えていたが、やがて諦めたように兵士の駒をマスに置く。
「チェックメイト」
背の高い少女が声で駒をマスに置く。どれくらい続いていたのだろうチェスは彼女の勝利で幕を閉ざした。
「これで0勝12敗、やっぱりエメリーヌさんには叶いませんよ」
背の低い少女は最早、悔しさすら感じない表情で、手元にあったマグカップに紅茶を注いだ。エメリーヌと呼ばれた背の高い少女は、真剣な表情を変えず、勝負が着いたチェス盤を指差し
「アガサ、さっきから観察していて分かったのですが、あなたは何も考えず衝動的に駒を動かしていました。このゲームで最も重要なのは、相手の動きをよく考え、先を読む事です。そうすれば自然に勝算が見えてきますよ」
「私には難しい難題ですね。頭が痛くなりそう・・・・・・」
アガサはアドバイスを聞き流すような言い方でお茶を一口啜った。
「ずっと集中していましたからね。少し頭を休めましょう。私も外の空気が吸いたくなりました」
エメリーヌは席を立ち、仕事用の机の裏まで歩くと、既にカーテンがずらされた窓を開けた。外は新鮮な空気で満ちていた。空は青く澄み渡り、浮かんだ白い雲がどこかへと流れていく。その後を追うように、小さな白い鳥の群れが一斉に飛び立っていった。白く輝く太陽の光が心地いい。
「今日もいい天気ですね。晴れた空はいつも心を癒してくれる。久々に日頃の疲れを癒しに街に出かけませんか?レストランなんかいかがでしょう?」
「え!ホントですか!?」
それを聞き、アガサは子供らしく喜んだ。
「レストランもいいですけど・・・・・・私、見たい映画があるんです!一緒に行きませんか!?」
「映画・・・・・・ですか?まあ、悪くはないですかね」
「やった!じゃあ今日の夜でも見に行きましょうよ!」
すっかり上機嫌になったアガサは実に嬉しそうにテーブルの上を片付ける。
「決まりですね。新聞、こっちに持って来てくれませんか?」
「新聞ですね?喜んで!」
頼んだ物を受け取ったエメリーヌは机の椅子に腰かけ新聞を広げた。そして、最近のニュースが大きく載ったページを読み始める。
「バチカンのサン・ピエトロ大聖堂にて、ローマ教皇ベネディクトゥス15世がジャンヌ・ダルクを列聖。ジャンヌの家族の子孫140人を含む6万人以上が出席・・・・・・」
読み上げた文字の内容に、アガサは興味深く食いつく。
「私も読みましたけど、凄い出来事ですよね。まさか、大昔の人間が数世紀前の時を経て、聖人の位を与えられるなんて・・・・・・フランス中はその話で持ちきりですよ」
「ジャンヌ・ダルク・・・・・・ドンレミの村で生まれた彼女は神のお告げを聞き、百年戦争に参戦。王や貴族、そして兵士や民など大勢の人々を惹きつけ、フランスを勝利へと導いた英雄・・・・・・しかし、彼女はあらぬ濡れ衣を着せられ、火刑という惨い最期を遂げた・・・・・・」
エメリーヌが独り言でジャンヌの生涯について語った・・・・・・次に手元にあった1枚の色のない写真に視線を移す。写真には彼女自身と隣に背の高い青年が映っていた。博覧会の会場を背景に上品な格好、直立不動の姿勢で撮られている。
「"アルノ"・・・・・・あなたはどこに行ってしまったの?まだ、生きているのなら、今頃何をしているの・・・・・・?」
エメリーヌは決して動かない青年を見つめ、悲し気な表情を繕う。
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.2 )
- 日時: 2020/07/19 22:14
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ふいに呼び鈴の音が鳴る。どうやら、誰かがやって来たらしい。2人は緊張感のある面持ちを作り、扉の方へ視線を送った。
『"すみません。エメリーヌさんはいらっしゃいますでしょうか?"』
扉の向こうから中に問いかける女性の高い声が聞こえた。焦りを感じさせない冷静な口調だ。返事がないので、彼女は再び呼び鈴をしつこく鳴らす。
「・・・・・・誰なんでしょう?」
怪訝そうに扉に近づこうとするアガサ。エメリーヌは新聞を置き、席を立つと
「アガサ、私が出ますので、すぐに紅茶を用意して下さい」
「わ、分かりました!」
エメリーヌはもてなしの役目を助手に任せ、自身は来客が待つ玄関の方へ向かう。扉を開け、顔を覗かせると白く長い長髪を生やし、学生のような身なりをした少女が。肌が白く美しい顔立ちだが、その大きな目つきはどこか、ただならぬ怪しい雰囲気を漂わせる。彼女は布で覆われた四角い板状のような"何か"を大事そうに抱えていた。
「どなたでしょうか?」
「あの、あなたが私立探偵のエメリーヌ・ド・クレイアンクールさんですか?」
少女が自信に欠けた口ぶりで問いかけた。
「ええ、私がエメリーヌです。あなたは?」
エメリーヌが肯定の返答を述べ、次に訪問者に聞き返す。
「私は"クリスティア・ベアール"。ここには、とある事件捜査の依頼のためにやって来ました」
「事件捜査?」
「はい、"この国に真実を伝える"ための重要な内容です」
エメリーヌは一瞬、目の前の人間を疑ったが、クリスティアと名乗る少女に偽りの意は感じられない。逆にこれ程、真剣になった子供も珍しいと心の奥底で思った。聞き捨てならない発言にも興味が湧く。
「なるほど、分かりました。どうぞ中にお入り下さい。温かい紅茶を淹れますので」
頼みを承諾したジャンヌは扉の隙間を広げ、依頼人を室内へ招き入れる。部屋の中に戻ると、頼まれたお茶をテーブルへ運ぶアガサの姿があった。
「いらっしゃいませ。こちらにお掛けになって下さい」
アガサも接客に不慣れながら、笑顔で挨拶する。クリスティアは板状の何かを暖炉の前のソファーに置き、その隣に腰を下ろした。そして、体を捻り凝った骨を鳴らすと、天井を見上げ弱く息を吐き出す。
「紅茶をどうぞ。あと、何かご要望がありましたら何でも仰って下さいね」
アガサはテーブルに2人分の紅茶を置き、深くお辞儀する。クリスティアは淹れたばかりの紅茶のカップを取り、早々に一口啜った。エメリーヌもその向かいに座り、依頼人と対面すると
「では、クリスティアさん。捜査依頼の内容をお伺いしたいのですが・・・・・・その前にまず、あなたの事を教えて下さい。言いたくない内容がありましたら、黙秘しても構いませんので」
クリスティアは黙って頷くと、自身の素性について語る。
「私はドンレミで生まれ育ち、今はパリで銀行員として働いています。そして、列聖されたジャンヌ・ダルクの家族の遠い子孫にあたる者です。昨日、サン・ピエトロ大聖堂にも出席しました」
「なるほど、あなたは聖女の血を引く末裔という訳ですね?」
エメリーヌは目を丸くしたが、特に驚くわけでもなく平然と振る舞う。
「はい。ですが、昨日行われたあの列聖には大きな間違いがあるんです。真実は闇に埋もれ、大勢の人間が嘘を信じ込んでいる・・・・・・」
「・・・・・・どういう意味ですか?」
「それをこれから、あなたに解明してほしいんです」
流石のエメリーヌも、クリスティアの謎めく発言の連続には理解に苦しんだ。1つだけはっきりしているのは、目の前の人間が決して自分を侮辱したり、欺こうとしてない事。 しかし、それ以外の事は何も掴めない。
「申し訳ないのですが・・・・・・私には、あなたの仰っている意味がよく分かりません。具体的に何をしてほしいのか、簡単に説明して頂けませんか?」
「これは失礼しました。では、今からある物をお見せします」
クリスティアは軽い謝罪を述べ、所有物である板状の何かを手に取った。覆っていた布を時間を掛けて外し、中身を曝け出す。
それは芸術家が書いたであろう1枚の絵画。黒雲が青空を覆う街の中、悲しむ民衆に囲まれ、1人の女が木の台に乗り柱に縛りつけられている。女は白いロングスカートを身に付け、頭には罪人を示す被り物が。台の底は燃え上がり、足元には白煙が上がっていた。
「この絵をご存知ですか?」
クリスティアの質問にエメリーヌは"ええ"と頷き
「これは確か・・・・・・ヘルマン・スティルケが1843年に描いた『火刑台のジャンヌ・ダルク』ですね。前の助手と一緒にエルミタージュ美術館に寄った際、目にした事があります」
「その通り。そしてこれが、あなたに調べてほしい内容なのです」
「と、仰いますと・・・・・・?」
『"この絵に描かれている女性は・・・・・・ジャンヌ・ダルクではありません"』
クリスティアの告白にエメリーヌの表情が変わる。何をどう言い返せばいいか分からず、ただ口を小さく開いた。探偵と依頼人の話を傍で聞いていたアガサも、怪訝の視線を2人の方へを送った。
「ジャンヌ・ダルクではないと・・・・・・?」
「はい、実際に火刑に処された人間はジャンヌとは別人です」
エメリーヌは混乱に頭を悩ませながら
「では、この絵に描かれている人物は一体誰なのですか?」
「この絵の女性の名前は『アメリア・クロムウェル』・・・・・・ジャンヌ・ダルクの戦友の1人です」
クリスティアは堂々と絵に描かれた女の名を口にする。やはり、嘘や動揺といった兆しは表れない。
「アメリア・クロムウェル・・・・・・知らない人物です。アガサ、あなたはこの国の歴史の多くを学んだはず・・・・・・この人物を知っていますか?」
「いえ、百年戦争の歴史は結構、勉強した方ですけど・・・・・・アメリアという人物は聞いた事がないです」
アガサが返したのは否定の返事だった。
「知らなくて当然でしょう。何故ならこのアメリアと言う女性はジャンヌの影武者。人々に知られず、表では存在していない事になっていたのですから。彼女の存在を唯一、知っている者がいるとすればジャンヌを含む当時の英雄達と私達、ベアール家の人間だけ。何故なら、私の一族はクロムウェル家の子孫でもあるからです」
クリスティアはその説明に間を挟んで、少し冷めてきた紅茶を飲む。エメリーヌも興味という関心に惹かれながら同じく、お茶を啜った。
- Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.3 )
- 日時: 2020/08/09 22:09
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「実に面白い話ですね。聖女の血を引くあなたが言うと、説得力がある。こういった内容の話は嫌いじゃありません。しかし、この絵に描かれている人物がアメリアで間違いないとしたら、本物のジャンヌはどのような最期を迎えたのでしょう?影武者を身代わりに火刑を免れているのですから、本物がどうなったのか非常に気になります」
「ジャンヌ・ダルクは"何者かに殺された"んです」
クリスティアはそう断言した。
「殺された・・・・・・?」
「その真相をあなたに突き止めてほしいんです」
エメリーヌとアガサは一旦、お互いの怪訝な顔と驚いた顔を合わせた。再びクリスティアに視線を送ると、何食わぬ顔をした彼女がこちらを見つめている。無論、淀みのない真剣な目で。
「つまり、数世紀も前にいた人物が、誰に殺害されたか真相を探ってほしい・・・・・・と?」
「はい。今、そのように申し上げたはずです」
前代未聞の依頼にエメリーヌは困惑した。同時に厄介な客人を招いたと言わずと頭を悩ませる。
「クリスティアさん、あなたの話はとても興味深いですし、冷やかしでない事も理解できます。しかし、数世紀前もの殺人事件を調べるなんて不可能です。そもそも、何故あなたはジャンヌ・ダルクは誰かに殺害されたのだと言い切れるのですか?根拠を教えて下さい」
「祖母の悪夢です」
「悪夢・・・・・・?」
急にしゅんと気を落としたクリスティアは足元の床を眺め
「その悪夢は空が曇り、黒い海に浮かぶ寂しげな"孤島"が映るんです。そこから女の人の聲が聞こえてくるんです。"助けて・・・・・・やめて・・・・・・苦しい・・・・・・"と。悪夢は毎晩のように続き、そのせいで祖母は心を病み、病に伏せてしまいました」
「黒い海に浮かぶ孤島・・・・・・確かに不気味ですが、それだけでは確証を持てません。せめて、事件と繋がりがある"手掛かり"はないのですか?」
「手掛かりならあります」
クリスティアはその質問を待っていたように、今度はポケットから小さな宝石箱を取り出す。蓋を開けると、中に細い傷やひびがついた1つの指輪が。金属の種類は恐らく銀。しかし、この時代の技術で作られたとは思えないアンティークらしい奇妙な形を模っている。指輪にはイエスとマリアの名前、そして3つの十字架が刻まれていた。
「これは正真正銘、ジャンヌ・ダルクが身に着けていたとされる指輪です。鑑定の結果、本物であると証明されました」
「ジャンヌ・ダルクの指輪ですって・・・・・・!?」
職業柄、何事にも動じないエメリーヌも予想だにしなかった代物に驚いた様子だ。アガサもうんと顔を寄せ、指輪をじっと拝見する。
「これが手掛かりです。信じて頂けますよね?」
「確かに、この形状や刻印の形からして数世紀前に作られた物でしょう。随分と古い指輪・・・・・・ですが、これをどこで?」
クリスティアは一度、浅い呼吸を行い、より真剣になって
「"ヴァロワ島"、フランス西部に位置する孤島です。そこに閉鎖された廃教会があって、親戚が許可をもらって立ち寄った際に偶然発見したのです」
と答えた。
「そんな名前の孤島、聞いた事がありません。そもそも、フランス付近に島なんてあるんですか?」
「ヴァロワ島・・・・・・」
聞き覚えがあるかのように、エメリーヌは依頼人の台詞を真似る。その口調に違和感を持ったアガサが探偵に問いかけた。
「え?エメリーヌさん、ひょっとしてヴァロワ島をご存じなんですか?」
「ええ、何度か耳にした名前です。私もよく知らないので詳しい事は言えませんが、ヴァロワ島は別名"霧の島"と呼ばれる湿地帯の島。百年戦争時代、当時のフランス王族であるヴァロワ家によって統治されていて、島全体が銀の鉱脈と言えるくらいに銀鉱石が大量に取れたらしい。しかし、数年前の大戦でフランス政府は戦争に必要な資金を得るために、島の銀を根こそぎ回収してしまった・・・・・・」
エメリーヌが曖昧で長い説明を終えると
「"処刑された影武者"、"祖母の悪夢"、"島で発見されたジャンヌ・ダルクの指輪"・・・・・・これは単なる偶然ではない気がするんです」
クリスティアは確信してるように、そう強く訴える。
「つまりあなたは、ヴァロワ島にジャンヌ殺害の真相が隠されてる・・・・・・と?」
「はい、その島に行けば答えに辿り着ける・・・・・・そんな気がしてならないのです」
「なるほど・・・・・・」
エメリーヌはそれだけ言うと、席を立った。仕事用の机に向かい、2段目の引き出しにしまってあった回転式拳銃を取り出すとシリンダーに1発ずつ弾を込める。その他にも捜査に必要なあらゆる道具一式を取り揃え、身に着けていく。最後にスタンドにかけてあった黒いブレザーを羽織り服装を整えると、依頼人と助手のいる所へ戻って来た。
「え?エメリーヌさん・・・・・・?」
アガサは"まさか"と言わんばかりに口を開き、クリスティアは希望を見いだしたように明るい笑みを作った。
「もしかして、依頼を受けて頂けるんですか?」
「面白そうな仕事ですからね。やるだけやってみます。しかし、この依頼は私にとっても前代未聞の内容です。いい結果は期待しないで下さい」
「流石はフランスで名の知れた名探偵ですね。エメリーヌさんに頼んで正解でした。事件を解決した際には高い報酬をお支払いしますので」
クリスティアは嬉しさのあまり、何度も頭を縦に振った。
「どうも、今日は特に仕事はないので、ヴァロワ島には今日中に出発する事にしましょう」
「私も一緒に同行してもよろしいでしょうか?」
その申し出にエメリーヌは静かに頭を横に揺らす。
「協力したいと言う気持ちは嬉しいですが、探偵業は場合によってはかなりの危険を伴う仕事です。依頼人を守る事も探偵の仕事、クリスティアさんは事件が解決するまで、本土で待っていて下さい。それとジャンヌ・ダルクの指輪を少しの間、お預かりしてもよろしいでしょうか?何が手掛かりになるか分かりませんので」
「勿論です。どうぞ」
エメリーヌは指輪が入った宝石箱を受け取り、服の裏のポケットにしまい込む。現在の時刻を確認しながら、アガサにも出発の準備を促した。
「アガサ、数時間後にフランスを出ます。あなたも仕度して下さい。それと船の手配を」
「はっ、はい!直ちに!」