複雑・ファジー小説
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- BaN -A to Z-
- 日時: 2022/01/15 17:42
- 名前: Cude (ID: YGRA.TgA)
「貴方なら必ず来てくれると思っていた」
「そういう事なら、他の手を煩わせる必要なんて」
「いいえ」
永遠なんてものはハナから望んじゃいなかったさ。
ただ普通に生きたかった。
でも、お前の思う「普通」がこの2年間だとしたら、それに気付けなかった俺のせいだ。
だから。
このゲームを俺が終わらせる事が、せめてもの罪滅ぼしってやつじゃないか。
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小説☆カキコ大会2021・冬 金賞受賞しました。ありがとうございます。
この名義でこちらの板に小説を書くのは始めてとなります、Cude(きゅーど)と申します。
大まかなジャンルとしては「能力バトルモノ」となります。
文章は拙く、お見苦しいところも多いと思いますが、是非少しでもお立ち寄り頂けたら幸いです。
【目次】
Prologue1 「事件の手記」 >>1
Prologue2 「Nの投稿」 >>2
Prologue3 「佐藤 悠時の決意」 >>3
Episode1 「天音は天使」 >>6
Episode2 「U and I」 >>9
Episode3 「ドキドキ☆ちづるん」 >>10
Episode4 「完璧な化粧」 >>11
Episode5 「罪な男」 >>13
Episode6 「第二の天使」 >>15
Episode7 「思わぬ来客」 >>16
Episode8 「X-Y-Z」 >>17
Episode9 「凸凹家族」>>18
Episode10 「政府の犬」 >>21
Episode11 「Torturer」 >>25
Episode12 「極秘データ」 >>27
【来てくださったお客様】
■モンブラン博士様
□アリサ様
- Re: BaN -A to Z- ( No.17 )
- 日時: 2021/09/06 11:17
- 名前: Cude (ID: 78sNkMqs)
Episode8
「……そして私が、橘 玲華だ。好きに呼んでくれて構わない」
橘玲華、と名乗った女性は、こちらに軽く一礼をして、その後ティーカップに注がれた紅茶を口に運ぶ。青みがかった髪を束ねた彼女の横顔は思わず息を飲むほど綺麗で、暫くの間目を奪われてしまっていた。「浮気性……」とボソっと呟いた声が聞こえ、はっと我にかえると、隣で頬を膨らませる千鶴さんがいた。プク顔ちづるんも可愛いんだけど、俺、彼女がいる事千鶴さんに言った事あったっけ。もしかして、「私がいるのに……」的なニュアンスなんでしょうか。だとしたら、千鶴さん俺の事落としに来てるじゃん……。やめてくれ、俺は押しに弱いんだ。
俺たち、というか、千鶴さんを追っていた4人は、千鶴さんの事は勿論、同行していた俺の個人情報までいくつか知っていた。流石にNEOまではバレていなかったけど、それもさっき知らぬ間にのぞき見されていたせいで詳細を把握されてしまった。今後、ゲームを攻略する上で、お互いに協力をするのが正当な判断であり、俺と千鶴さんが彼らの事を知らないというのは対等な関係になる事は出来ないとの考えから、今は手始めに彼ら4人の軽い自己紹介を聞いていたところだった。
「何の情報も無いところから、4人はどうやって一緒に行動する事に?」
「俺は、X-Y-Zにばったり出会っちまったところをこいつらに助けられたんだよ」
そう答えたのは、明るい茶髪の少女……、うん、口調が少々荒々しいが、紛れもなく見てくれは小柄で可愛らしい少女、海猫空悟だ。名前といい、鋭い釣り目といい、猫耳フードのパーカーといい、第一印象は完全に猫。
オレンジ色のミニスカートや、ニーソックス、口に咥えているみかん味の飴など、溌剌な元気っ娘の印象を受けるが、恐らく彼女は見かけで判断しない方が良いタイプだろう。これはあくまで俺の勘だが、彼女は、自分自身を「女子」と扱われる事を余り良く思っていない気がする。首からぶら下げてるヘッドフォンのケーブルの先には、スマホが繋がれてはいるが何も流れていない。だったら外せよ!!
その上、よく見るとニーソックスから【A】の刻印が少し見えていた。「Affluent」は海猫だったのか。はぁ……。こいつ、危機感ってものが無ぇのか……。
「えっくす……わいじー?」
「X-Y-Z。俺たちが勝手にそう呼んでるだけだよ。そのまんま、【X】と【Y】と【Z】のプレイヤーを指してる」
困惑する千鶴さんを見て、少しバカにしたように上神湊が言った。バカにした、と言っても、表情自体は出会った時から一切変わらない。そういや、こいつさっき俺のNEOの事も大した事ないみたいに言ってたな……。肩甲骨くらいまで伸びた髪と、手の平を覆う程の萌え袖、たれ目が相まって全体的に可愛く見えやがるから余計に腹が立つ。服装はシンプルで動きやすそうなパーカーとパンツ、少なくとも海猫よりはこのゲームに対して計画的に臨んでいる様に見える。右手首の腕時計はあくまでファッションの一部だろう。今時時計で時間確認する人間なんていんのかよ。やべぇ、ド偏見出た。
「あの人達は少しタチが悪くてね……」
鶴来昊が苦笑する。彼はかなりの高身長で、恐らく180cmは超えているだろう。髪は綺麗に七三に分けられており、暗い赤色のようなメッシュが入っている。銀色に近いグレーのスーツに身を包み、高級感の漂う黒い革靴、真っ白な手袋を付けたその姿は、一見するとマジシャンのような、あるいはカジノのディーラーの様な印象を受ける。いや、カジノのディーラーはこんなスーツ着ないか……。カジノには行った事が無いから分からん。どちらにせよ、彼曰く元探偵さんらしいので間違いだ。
……そうでもなかった。彼はどこからともなくトランプを取り出し、静かにシャッフルし始める。にしても、この人目を閉じながら良くこんな綺麗にカードを混ぜられるな……。出会った瞬間から今に至るまで、彼は目を閉じている為、一度も瞳を見れていないが、目玉に刻印でも刻まれているのだろうか。
それにしても、紅茶の似合うお嬢さん、猫女、マジシャン、アイドル……。参加者は奇人変人が揃いすぎやしないか。俺と同じでごくごく普通の大学生にしか見えない上神とは仲良くなれそうだ。こいつの人を見下す感じにさえ慣れれば。
ダメだ。そんな事を考えている場合ではない。話はゲームについてであり、タチが悪いという「X-Y-Z」についてだ。
「私達も完全な詳細は掴めていないが、少なくとも奴らは3人共、たった1人で人を殺める事の出来るNEOを持っている」
「その上、彼らのターゲットはNではなく、私たちプレイヤーだ」
「……、やっぱり、そういう奴らがいたんですね。Nの正体を突き詰める前から他者を蹴落とす思考、まーじ分かんねェ」
「それがよォ、そういう訳じゃねェからムカつくんだよ」
「あぁ。彼らの考えは正直理解が出来ないな」
海猫と上神に続いて、鶴来さんが口を開く。
「あの人達、いや、【Y】……、NEO喰いのYoungsterは完全なる愉快犯なんだ」
- Re: BaN -A to Z- ( No.18 )
- 日時: 2021/09/11 14:31
- 名前: Cude (ID: 78sNkMqs)
Episode9
「NEO喰い……?」
「あぁ。ゲームの参加者、すなわちNEOの所有者を手当たり次第に狙うからな。Torturerが彼をそう呼んでいたが、彼女発祥の呼び名では無いらしいから、どこから彼の異名がついたかは私にも分からないよ」
「ちょっと待ってくださいね玲華さん。情報量が多すぎてついてけてないんですが、Torturerって」
「勿論【T】のプレイヤーを指す。彼女は随分と警戒心が強くてね、私達と行動する事を拒んだ」
先ほどまで【I】以外とのコンタクトを取れていなかったどころか、その他の参加者について何一つ知らなかったのに、彼女らと遭遇したおかげで、一日にしてかなり進展している。1ヶ月何もしなかっただけでここまで差が生じるとは正直考えていなかった。
いや、ゲームが始まってからまだ1ヶ月半程度で、ここまでゲームの情報を掴み、人脈もある程度築いている玲華さん、もとい共に行動する彼らの方が只者じゃないのだろう。仮に俺がゲーム初日から動いていたとしても、ノーヒントの状態からこの短期間でここまでゲームの攻略を進めるのは無理だ。結局千鶴さんにしか出会えていない気がする。
「それにしても、どうやって参加者とコンタクトを」
「私の力ではなく、鶴来によるものだ。彼の観察力と行動力は目を見張るものがある」
「ははは。玲華ちゃんに褒めてもらえるのは素直に嬉しいな。まぁ、仮にも元探偵だったからね」
「でもよォ、探偵だったからって、何の情報も無いのにたった1ヶ月近くでそんなに参加者を見つけられんのかよ?」
たった今、俺が抱いた疑問を、代わりに海猫が投げかける。多分こいつは、X-Y-Zから助けてもらって出会ったって言ってたし、この中では一番最後に仲間になったんだろうな。
玲華さんと鶴来さんが口を開くよりも前に、上神が、お得意の「真顔で人をバカにする」を発動した。
「チビ猫さん、君は本当に何の情報も無かったと思ってるのかい? まぁ、携帯料金も支払ってないスマホじゃ流行を追うのは難しいんだろうけどさ」
「誰がチビだァ!? おめェ、今日という今日は許さねェからな!! 顔面蹴っ飛ばす!」
「まぁまぁ、海猫、落ち着け。上神もそう毎回海猫をおちょくるな」
「……ったく。なんでいっつもお前に止められなきゃいけねぇんだよ」
「別に、俺もおちょくったつもりはないよ」
ふと横を見やると、鶴来さんがにこにこと笑っていた。一連の様子を見て、彼らの普段がなんとなく分かった。上神の無意識に人をバカにするスタンスに対し海猫がキレて、それを玲華さんが鎮める。そしてそれを鶴来さんは半分面白がって見ているのだろう。なんだこいつら、仲良し家族かよ……。一人一人の個性が尖っているので、なんだか合わなそうな4人組だと思っていたが、なんだかんだ収まりが良さそうな奴らだ。
「Unitronという名前に聞き覚えがあるかい?」
「【U】のプレイヤーの異名だろ。それがどうしたんだよ」
「や、やっぱり! 【U】はあの「サイラビ」のUnitronちゃんなんですか!?」
ここまで、目まぐるしく展開する話題におろおろしていたばかりの千鶴さんが大きな声をあげた。玲華さんがそれに頷く。なるほどな。やっぱり【U】がこのゲームの初めの大きなヒントだったという訳だ。俺の読みはバッチリだったって事だな。そう思うと、千鶴さんに会うよりも先にUnitronに会いにいけば良かったのでは? という考えがよぎったが、そんなのは結果論でしかないし、結局玲華さん達と出会った事でゲームについて色々知れている上にあの高橋千鶴にここまで信頼を置かれる状況を作れたという時点でこっちルートが正解だ。流石俺。
「Unitronちゃん、私大ファンなんです」
「そうか、確かに、彼女らの音楽は素晴らしいからな。このゲームの参加者である以上、いずれ必ず出会う時があるだろう。ただ、その時はファンである事は伏せてお互いにゲームの一参加者として関わるべきだと私は思うよ。私情を持ち込みすぎるのはこのゲームの攻略を時として妨げる」
「そうですよね……」
「信じてくれないかもしれないが、実は私も「WHiTe MiLky」のファンだからね」
そう言って、玲華さんはニコっと笑った。
▼
玲華さん達の話によれば、ゲーム開始から数日後の「サイバーラビット」のライブに参加者が集まったという。勿論、チケットはその時点でとっくに完売していたから、ライブ中、会場の外や近くで待機していた者に注目したらしい。その中のほとんどが「音漏れ勢」という、チケットを取れなかった為に会場の外で会場内から漏れる音声のみを楽しむといったファンだったらしいのだが、明らかにライブ自体には興味を示していない人が数名おり、その中で玲華さんと鶴来さんは出会い、お互いの為に組む事になった。その後、会場近くにいた上神やTorturerともエンカウント。上神は二人の強い説得の後に彼らと共に行動を決め、Torturerとはお互いのアルファベットを教えあう事と、もしも何かがあった時に連絡、情報交換の出来る上にお互いの個人情報の必要がない捨てアドレスを交換するという取引のみは成立させたとか。他にもまだ、鶴来さんの観察眼的に参加者らしき人物はいたらしいが、結果としてはその日に交流は出来ず、それ以降出会ってはいなかった。
「……私達の出会いはこんなものだ。話を戻そう」
「はい。Youngster……、【Y】について」
「さっきも言ったけれど、あの人は愉快犯なんだ。完全に私達と戦う事を楽しんでいる。非常に危険な人だ」
「それに、【Y】だけならもしかしたら俺一人で勝てなくもないけど、彼に加えて【X】と【Z】がいるからね」
「アイツらを見て思ったけど、【X】と【Z】自体には俺らと敵対しようとする気は無さそうだった。なんか【Y】の命令に従わざるを得ないっつーか」
「で、でも、【X】さんも【Z】さんも物凄く強いんですよね? だったら、二人で【Y】さんを止められるんじゃ?」
「いや、それが出来るんだったらそうしてるんだと思いますよ。二人じゃ止められないくらい【Y】のNEOがとんでもないって事じゃないんですかね」
「あぁ。私達もそう睨んでいる。少なくとも【Z】のNEOはこの目でしっかりと把握したが、あのレベルで止められないと思うと、恐ろしいよ」
「【Z】さんのNEOって……?」
「彼……、いや彼女……のNEO、神の刀剣は、何も無い場所から、刀を具現化出来る。それも本物のな。あんなので攻撃されたら、一発でアウトだろう」
「流石にあれはビビったぜ……、上神のNEOが無かったら俺も死んでたかもな。ムカつくけど、あの時ばっかりは助かった」
「海猫さんのNEOでもなんとかなった気はすると思うけど。まぁ俺のNEOが優秀な事には間違いないな」
【Z】のNEOの脅威は想像以上だった。俺たちゲームの参加者、つまりNEOを持つ者達は、薬の効能で、投与前よりも全体的に身体能力が僅かながらに良くなっている。しかし、あくまで僅かである上、投与前の自身の身体と比べて上昇するだけなので、俺のような運動神経の悪い奴はやっと普通の人と並ぶくらいにしかならないのだ。何が言いたいかというと、俺達は、NEOを持っている事 のみが極めて特殊なのであって、その他の技能は全て普通の人間とそこまで変わりがないと言う事である。だから、刀を持った人間と対峙した場合、まともに戦えばほぼ100%に近い確率でこちらが負ける。というか死ぬ。俺のNEOも上手く使う事が出来ればある程度戦えない事は無いだろうが、今のところ【Z】と遭遇するのはかなり怖い。
「【Z】さん、女の子なんですか……?」
「うーん。お坊ちゃんだとは思うんだが、NEOを発動するとお嬢さんになるんだよ、不思議なNEOだ」
「刀を具現化すると共に女体化って事ですか……。不思議だな」
「恐らくだが、薬の副作用によるものだ。私のこの青っぽい髪色も、時期的にはちょうど3年前くらいからなったものだからずっと何故だろうと疑問に思っていたのだけれど、薬の副作用という事をゲームが始まってから思い出した」
続けて玲華さんが口を開く。
「また、【Z】の彼は特に副作用に対してショックを抱いている様子だった。【Y】にNEOを使うよう促されても随分躊躇しているように見えたし、NEOを発動してからも、女体化した自分の姿に戸惑いを感じていたな。それもあって海猫を逃がす事が出来たと言っても過言じゃない」
「なるほど。【Z】は余りNEOを使いたがっていない、と……。【X】については?」
「彼のNEOはまだ見ていない。だけど、【Y】が、【X】一人で全員殺せるだろうけど、と確かに言及していたのを俺達は聞いてる」
「そんなに強いんですか!? 怖すぎます……」
「詳細は分からないし、ブラフの可能性も無くはないよ。ただ、あのお坊ちゃん達とは今は遭遇しない方が良い」
「俺達が束になってかかったら、アイツらなんか倒せるんじゃねぇのかよ!?」
「いや、恐らく難しい。私と高橋、鶴来のNEOは明らかに戦闘向きではない。上神と佐藤のNEOはあくまで補助をするのがメインだ。そうなると、海猫のNEOを軸に戦わねばならないが、君のNEOは場所や状況に左右される。そんな状況下でX-Y-Zに戦いを挑むのは危険すぎる」
「その為に今は協力してくれそうな参加者を探しているんだろ。もう少し頭を冷やしなよ」
「クソ! うるせェ分かってるよ!!」
海猫が机を叩く。正直、俺も、まだ千鶴さんと自分のNEOしか把握していないのに、この6人で同時にかかれば何とかなるのではないかと考えていた。しかし、玲華さん曰く、ここにいる参加者で明確に戦闘に向いているのは海猫のNEOのみ。しかも、それも環境に大分左右されるらしい。対【Z】に関しては、俺のNEOで刀をふにゃふにゃにしてやろうとも考えたけど、俺のNEOはマイナスには働かず、あくまで対象の道具やNEOの特徴をプラス方向で伸ばす事しか出来ないからこの作戦は無しだ。その上、【X】と【Y】に関してはまだNEOの詳細すら掴めていない。やはり情報不足と慢心は良くないな。玲華さんや上神の様に冷静な判断をしなければならない。ダメだぞ海猫君。まったく。
「ただ、【N】を見つける前に、X-Y-Z、というか【Y】を倒さねばならないのは明確だろう。余りにも彼はゲームを進めるにおいて厄介が過ぎる」
玲華さんが紅茶を飲み干し席を立つ。「次の目的が決まった事だし、今日は解散だ」と静かに、だが強い語気で言い放つと、そのまま、速やかに会計を済ませ、カフェを出ようとする。ちょっと待ってください。まだ今日の内容について全然整理出来てないし、次の目的って何でしょうか。めちゃくちゃ勝手お姉さんじゃん! 上神も海猫も呆然としちゃってるし、鶴来さんまで苦笑しちゃってますよ……。
「佐藤、高橋。今から10日後の5月30日、14時半。SHIBUYA TSUTAYAの中のスタバで待っている。次に私達がコンタクトを取るのは日本政府だ。勿論、強制ではないから、良く考えてから来てくれ」
振り返ってこちらに笑いかける玲華さんの長く綺麗な髪が靡いている。その姿の余りの美しさにしばらく見惚れてしまっていた。が、今お姉さん何て言いました? 次にコンタクトを取るのは、日本政府……? 俺達が今最も遭遇を避けるべきである存在じゃないのか。今すぐにX-Y-Zと対峙してはいけない事は良く理解できたが、何故わざわざ政府に? 大人しく捕まって後は政府に任せよう、と考えてる訳では無い事は理解しているが、それでも彼女の意図が分からなかった。
「それじゃあ、お坊ちゃん方、本日はここらで失礼させていただくよ」
鶴来さんは、こちらに向き、深々と一礼をしてゆっくりと店を出た。随分律儀な人だ。
「俺は面倒臭ェから今回はパス」
「海猫さん、君は連絡が取れないからこっちが面倒だよ。どうせまたあそこのベンチで寝てるだろうけどさ」
「おめェ、本当一々ムカつく野郎だな! 俺は玲華に従ってるつもりは無ェの。ただ都合が良いから利用してるだけだ」
「それは俺達みんながお互いにそうだろ。でも、今は玲華さんといる方が、少なくとも君は美味しい飯が食べられそうだけどな」
「チッ。俺がなんでもかんでも肉で動くと思うなよ。お前らと会ってから本当不自由だよ」
「……本当はちょっと嬉しい癖にさ」
「あァ? 今なんつった?」
「何でもない。じゃあな。高橋さんも、佐藤さんも、また」
上神は、今にも牙を剝きそうな海猫を何事無いように平然とのけ、すたすたと出口まで歩いていく。残された海猫もひとしきりブツブツと文句を吐いた後、こちらを見ないまま、乱暴に手だけ挙げて出て行った。海猫らしいな。まぁ、今日会ったばかりなんだけど。
「それじゃあ、私達も帰りましょうか、ね?」
「そうっすね……、それにしても、疲れたなァ」
長くめまぐるしい1日が、ようやく終わりを迎えようとしていた。実際はカフェで二時間程度の出来事だったという事が信じられねェ。
- Re: BaN -A to Z- ( No.19 )
- 日時: 2021/09/08 18:44
- 名前: モンブラン博士 (ID: UB7mX/Qq)
Zの子って能力を発動すると女の子になるんですね。ということは刀を出現させても非力で重そうにしている可能性もありますね。そう考えるとなんだか可愛く思えてきました。
今のところ最後の文字列であるXYZの3人が強者と判断されていますが、Lについて誰も言及していないのが気になりますね。表立って行動していないのかもしれませんね・・・・・・
薬の効能で身体能力が強化・・・・・・彼はただでさえ武術を30年間学んで修行に励んでいて身体能力は非常に高いのに、ここから更に僅かでも上昇するとなると恐ろしいことになりそうですね!
毎回楽しみにしています!!
- Re: BaN -A to Z- ( No.20 )
- 日時: 2021/09/25 16:01
- 名前: Cude (ID: 78sNkMqs)
更新大変遅れて申し訳ありません。。
ちょこちょこ執筆はしているのですが、ここ2週間ほど私用の関係で長期間PCに触れる時間を余り作れておらず、、、
今日明日も自宅にいないので、10話の更新予定は27日になるかと思われます。
書ける時に書くスタンスなので、小説の更新頻度に差は出ますが、必ず完結までは時間がかかっても執筆する予定ですので、長い目で見ていただければと思います。
- Re: BaN -A to Z- ( No.21 )
- 日時: 2022/06/26 19:37
- 名前: Cude (ID: 7cN5Re8N)
Episode10
玲華さん達と出会い、再び集まる約束をしてからの10日間は思っていたよりもずっと早く過ぎ、気付けばもう家を出なければならない時間となっていた。日本政府と接触する理由についてはまだ検討もつかない。考えてすらいない、という方が正しいだろうか。10日ある内のほとんどを天音と過ごしていた為、ゲームに意識を割けなかったからである。というか、天音ほどの大天使が目の前にいながら、他の事を考える奴がもしもいたとするなら、そいつは超超罰当たり野郎だ。Baddas Boyである前に俺は佐藤悠時という一人間であり、天音の彼氏なのである。だから俺は、ゲーム以外の時間のほとんどを天音に費やすと決めた。
まぁ、日本政府の件については、玲華さんの事だし、何か考えがあるのだろう。って、今日で会うのまだ二回目なんですけどね……。
生憎、今日は雨が降っていた。俺は余程酷い土砂降りでもなければ傘をささない人間だ。なんでかって? 傘を持つのが面倒だからだよ。
濡れた身体のまま電車に飛び乗る。席は……、空いていないか。まぁ、めちゃくちゃ混んでいる訳でも無いし、渋谷までは数駅程度だから、特に苦でも無い。「見て、お母さん! あのお兄ちゃんびしょびしょー」と、若い母親に手を引かれた坊やが俺を指さす。母親の方は子どもを軽く注意した後、少し困った顔でこちらに頭を下げる。全然かまへん。子どもは元気なのが一番。おじさん笑ってくれるだけで嬉しいよ。
これは余り良くないクセなのだが、電車やエレベーターなどに乗ると、同乗している乗客をつい観察してしまう。疲れ切った顔をしたサラリーマンのおっちゃん、世間話に花を咲かせるおばちゃん達、可愛いJK……をジロジロ見るのはまずいね。捕まっちゃう。後はさっきの親子連れ。窓の外を覗けば、学生カバンを頭の上に翳して走る中学生達。俺は、雨に降られると随分と憂鬱だけど、彼らはめちゃくちゃ楽しそうだ。降る雨の数だけ、みんなそれぞれ人生があるんだなぁ……って、暇だとこんな臭ェ事を考えだしちゃうのも俺の悪いクセの一つ。そうこうしている間に渋谷駅に着いた。
時計を見ると、14時25分。まずいな。俺は猛ダッシュで待ち合わせ場所へ走った。
▼
「遅い。4分と38秒の遅刻だ」
「いや確かに遅刻した僕が悪いですけど……、たかだか5分満たないくらいじゃないですか!」
「その姿勢が気に食わない。遅刻した者が逆ギレするな」
「頑固女……」
「時間を守れない人間に何を言われても、私は構わないさ」
俺は、結果的に少しだけ遅刻をして、そして玲華さんに叱られた。にしても、別に5分程度の遅刻でここまで言わなくても良いじゃんか……。ムキになって反論をしたものの、「時間を守れない人間は最底辺」かのような振る舞いであしらわれてしまう。クソ……、何か言い返してやりたいがこの人の弱点が思いつかない……完璧女すぎる……。
「「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて……」」
声に気付くと、そこには千鶴さんと見知らぬ男性が座っていた。玲華さんは二人の声で我に返ると、こちらに向かい深めに頭を下げた。
「少々取り乱ししてしまったな。言い過ぎたようで悪かった、佐藤」
「まぁ僕が遅刻しなければ良かったという話なので、以後気を付けます。すいません」
そう謝られると、いやいや俺が100悪いですよ! と改めて思わされてしまう。しかし、既に玲華さんは遅刻など気にしていないような顔でこちらを見ていた。切り替えが早すぎる。
「では改めて、佐藤にも紹介しよう。彼が、日本政府の一員であり、このゲームの参加者でもある、圷二郎だ」
「初めまして! 渋谷警察署、及びNEO対策本部NEO取締官の圷と申します、よろしくお願い致します!」
見知らぬ男性……、圷二郎は、すかさず席を立ち、深々とお辞儀をする。日本政府の規模を正直把握はしていないが、恐らく彼は上層部に位置する人間ではないのだろう、かなり若いように見える。渋谷警察署と言っていたし、本来はシンプルに警察官。そしてこのゲームの参加者、つまりNEOを持ってしまったからこそ、日本政府の他のメンバーよりもNEOへの知見があるという事でNEO対策本部のメンバーに選ばれたんだろうな。
……、とすんなり納得してしまったが、日本政府内にもNEOの所有者がいたのかよ……。
「どうした佐藤? 浮かない顔だな」
「いや……、まさか敵対する側にNEO持ちがいると思わなくて。しかも、なんでこんな仲良くなっちゃってるんです? 本来なら、俺らまとめて捕まってアウトでしょ」
すると、圷さんが恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやぁ……。実は僕達、一度X-Y-Zを捕えようとした時に、返り討ちに遭いそうになりまして。そこを玲華さん達には助けていただいたんです。僕個人の考えとしては、恩を仇で返すという訳には行かずに、こうして僕一人の力だけでもお貸し出来たら、と思っているんです」
「参加者だろうが政府だろうが、危険な目に遭っている人間を放っておけないタチでな。ただ、圷がこちらに手を貸してくれるというのは願ってもない幸運だったよ。私達が考えている以上に日本政府は優秀でな。このゲームや私達参加者についての情報をかなり有している」
「そういうのって、漏洩禁止だったりするんじゃないですか……?」
「……バレたらクビですね」
この人バカだなぁ……。優しすぎる事も正義感が強い事もこの短いやりとりでなんとなくは理解できたが、自分の立場を顧みず人に手を貸してしまうのは危険すぎる。
しかし、俺達参加者にとっては、圷さん、つまり日本政府が有している情報を入手できるというのは非常に大きい。
「日本政府にコンタクトを取る、と言ったが、正確には圷と正式に手を組むという訳だ」
「なるほど、理解しました。わざわざ今日俺達まで呼んだ理由ってのは?」
「一つは、政府と接触するという、もしかしたら危険な状況になるかもしれない条件を提示しても君たちが来てくれるかどうかという意志の確認だな」
うーむ、試されていたという訳か。だが、政府が絡もうが絡むまいが、情報を全く有していない状態で千鶴さんと二人で行動するよりは、確実に玲華さん達に着いていった方が良いのだから、俺は間違いなく来ていた訳だが。
玲華さんが「もう一つは」と言い、圷さんの方を見る。すると、圷さんが頷いた。
「僕たち日本政府のこれまでの行動、及び今後の計画を開示します。ここでは誰に聞かれているかも分からないので、場所を移しましょう」
▼
圷さんに言われるがままに席を立ち、店を出る。しばらく歩くと、飲み屋街へと出た。まだ夕方くらいなので人通りは少ない。数多く並ぶ店の中でも、一際目立たない小さな居酒屋の前で、彼は立ち止った。
「ここです。入りましょう」
店の中は小綺麗だったが、やはりそこまで広くはない。その上、時間帯もあってか、客も2,3人程しかいなかった。初老くらいの男性が一人で店を切り盛りしている。流石に白髪が目立つものの、顔立ちが整っており、若々しい。
店主はすぐこちらに気付いたみたいだった。
「……圷か」
「お久しぶりです」
「後ろは連れか?」
「はい。地下を使いたくて」
「余所様に余り知られたくはねぇが、お前もあの事件で何かと忙しそうだしな。たまには誰の目にもつかずに息抜きしたくなるのも仕方が無ェか」
「すいません、ありがとうございます」
「それにしても、今日は珍しい来客が続くな」
店主が最後にボソっと呟いた言葉は、圷さんには聞こえていないみたいだった。
「こっちです」
トイレの目の前だ。なんだ? 俺らは今から便所で作戦会議って事か?
「ここ、ですか……?」
「ここの壁だけ少し色が違うでしょう」
不安そうに尋ねる千鶴さんに圷さんは答え、その壁を2回コンコン、とノックする。その後、真後ろにいた俺達にも聞こえない声量で何かをごにょごにょ呟くと壁が動き出した。
「マジかよ、隠し扉ってやつ?」
「私も驚いた。まさか、現代の渋谷にこんな店があるとは」
開いた先には下りの階段がある。全員が下り終えると、隠し扉は壁として元の場所に収まる。
下り終えると、そこには随分とオシャレなバーが存在していた。見る限り、一人も店員はおらず、全ての業務をAIが行っている。勿論それも充分に凄いが、何よりもまず、カウンターの端で一人で飲んでいる女性が目に入った。あれが店主が言っていた珍しい来客だろうか?
「まさか先客が居たとは」
グラスの中身をグイっと飲み干すと、ぶっきらぼうに女性は答える。
「気にしないで。私もう帰るから」
立ち上がり、こちらと目が合うと、彼女が驚いた顔で言った。
「ねぇ。どうして、あんたがここにいる訳? あんたも結局政府の犬って事かしら」
一体どういう状況かさっぱり分からない。彼女は誰なのだろう。そして、誰に対して喋っているのか……は恐らく圷さんしかいないだろう。なんせ俺達はここに初めて来ている訳なのだから。
しかし、意外な事に。彼女に返事をしたのは玲華さんだった。
「そのまま返そうか。Torturer。何故君が、ここに?」