複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

BaN -A to Z-
日時: 2022/01/15 17:42
名前: Cude (ID: YGRA.TgA)

「貴方なら必ず来てくれると思っていた」

「そういう事なら、他の手を煩わせる必要なんて」

「いいえ」

永遠なんてものはハナから望んじゃいなかったさ。
ただ普通に生きたかった。
でも、お前の思う「普通」がこの2年間だとしたら、それに気付けなかった俺のせいだ。

だから。

このゲームを俺が終わらせる事が、せめてもの罪滅ぼしってやつじゃないか。

------------------

小説☆カキコ大会2021・冬 金賞受賞しました。ありがとうございます。

この名義でこちらの板に小説を書くのは始めてとなります、Cude(きゅーど)と申します。
大まかなジャンルとしては「能力バトルモノ」となります。
文章は拙く、お見苦しいところも多いと思いますが、是非少しでもお立ち寄り頂けたら幸いです。

【目次】

Prologue1 「事件の手記」 >>1
Prologue2 「Nの投稿」 >>2
Prologue3 「佐藤 悠時の決意」 >>3

Episode1 「天音は天使」 >>6
Episode2 「U and I」 >>9
Episode3 「ドキドキ☆ちづるん」 >>10
Episode4 「完璧な化粧」 >>11
Episode5 「罪な男」 >>13
Episode6 「第二の天使」 >>15
Episode7 「思わぬ来客」 >>16
Episode8 「X-Y-Z」 >>17
Episode9 「凸凹家族」>>18
Episode10 「政府の犬」 >>21
Episode11 「Torturer」 >>25
Episode12 「極秘データ」 >>27

【来てくださったお客様】

■モンブラン博士様
□アリサ様

Re: BaN -A to Z- ( No.12 )
日時: 2021/08/11 13:51
名前: モンブラン博士 (ID: pRqGJiiJ)

高橋ちゃんの能力、能力名に相応しく誰にでも変身できるのですね。
これは気づきませんよ。男性かと思ったらいきなり高橋ちゃんになったとは、誰だって仰天してしまうと思います。
視点固定だと色々と描写の制限とかあって大変だと思いますが、更新を楽しみにしております!

Re: BaN -A to Z- ( No.13 )
日時: 2021/08/19 14:11
名前: Cude (ID: Sua4a79.)

Episode5

「アイデアル……アイデンティティ」
「えーっと、簡単に言えば変身能力です。私が見た事がある人どんな人にでもなれるっていう」
「何すかそれ……。めちゃくちゃ便利じゃないですか……」
「うーん。正直、普段使う機会なんてあんまりないですよ」
「マジっすか……。俺めっちゃ欲しいですけどね……」
「もしかして、変な事考えてるでしょ」

 そう言って、冗談っぽく口を膨らませる彼女にドキっとしてしまう。やはりこの女は、自分がどうやったら可愛く見せられるかを完璧に心得てるな……。そして、変な事考えてたのは図星。すいません。

「結局喋り方とか雰囲気で変に怪しまれたりとかされちゃいそうですけどね」
「でも、NEOの概念を知らない奴らは見た目と声が本人同然なら流石に信じちゃいません?」
「ゲームにおいてですよぉ。この2年間、参加者の皆さんはかなり疑心暗鬼になると思うんです」
「まぁ確かに。……俺全く気付かなかったけど」
「えへへ。演技力の賜物かなぁ?」
「調子乗らないでくださいよ」

 そう軽口を叩いて気付いたが、さっきの握手の時が何だったんだというくらいに今の俺はキョドっていない。俺が変わったというよりは、彼女の雰囲気が変わった気がする。普段、アイドルとして活動している高橋千鶴は、儚げで可愛らしいのに、隙を感じない完璧な女性というイメージだった。今俺の目の前で喋っている彼女は、見た目こそまさにテレビで見ていた高橋千鶴そのものだが、非常に話しやすく、なんというか、良く喋るクラスメイトの女子みたいな雰囲気を醸し出していた。
 それに、彼女が物凄く天然である事にも気付いてしまった。さっきから独り言を俺に隠れるかのようにぶつぶつ言っているが、全部聞こえている。その上、冷たい飲み物を「ふーふー」と息を吹いて飲んだり、どこか挙動も「おバカさん」らしさが漂っている。こんなに裏と表で人間が変わる事ってあるのだろうか。目の前の彼女が素の高橋千鶴なのだとしたら、「WHiTe MiLkyの高橋千鶴」を人前で演じ続けている彼女はとんでもない才能を持っている。彼女が自分で言った演技力の賜物という言葉は、あながち間違いじゃないのではないか。
 そんな事を考えボーっとしている俺に、彼女は尋ねた。

「私にNEOの事を伝えに来たって事は、協力してくれるって事ですよね?」
「あ、ああ。そういうつもりでした。Nの正体どころか、参加者も分からない状態でどう攻略していけばいいか分からなかったので」
「私もです! でも、私と一緒にいたら危ないかも……」
「まぁ、あれだけ話題になったら俺以外にも千鶴さんを参加者じゃないかと疑っている奴はいそうですね」
「参加者の方が私に接触するのは怖くないですよ? Nに一つでも傷をつけるっていうのがゲームのクリア条件なんだから、まずみんなで協力してNを見つけましょう!」
「みんなその考えなのが一番なんですけどね。ただ、多分ですけど、そんな甘くないんじゃないすかね。結局ゲームに勝てるのは参加者の一人だけですから、金に目が眩んで他の参加者を蹴落とそうと考える奴もいるでしょ。考えたくないですけど、場合とNEOの効果によっちゃ死ぬ奴が出てもおかしくない気がする」
「ええ……。そんなの嫌です……! なんで貴方はそんなに達観していられるんですか?」
「いや、めちゃくちゃビビってますよ。俺だって死ぬ訳にはいかないしね。でも、そういう可能性もあるって考えないと、いざという時に何にも出来ないでしょ」
「かっこいい……」

 彼女は恍惚として俺を見ていた。今俺全くかっこいい事言ったつもりないんだけどな。てか、多分それ心の声だよな。漏れてますよ。嬉しいけどね。
 彼女ははっと我に返り、顔を赤らめる。

「ご、ごめんなさい! そうですよね。日本政府だけじゃなくて参加者にも気を付けないとですね!」
「うん。とりあえず、しばらくは千鶴さんのNEOで別人に変装する生活を送ってもらえればって感じですかね。って言っても既存の人物に変装するのも割とリスク高いか」
「あ、それは大丈夫です。実在しなくても、頭の中でハッキリ理想が思い描ければ変身できるんです」
「そいつはかなりチートですね……。あ、そういえば1ヶ月くらい前から別人みたいになった言われてたのは……」
「はい。NEOで私の思い描く理想のアイドルになっていたつもりでした。ファンの皆さんは余り好んでくれなかったみたいですけど」
「なるほどね……、アイドルってのも大変だな」
「でも私は大好きですよ、このお仕事。ファンの皆さんも、メンバーも、スタッフの皆さんも。勿論アイドルの自分もね」
「そっか。それは良い事を聞いたな。裏でファンの悪口なんて溜まったもんじゃないですからね」

 彼女は根っからのアイドルなんだな、と感じる。それにしても、美少女と話をすると、時間が経つのは早い。既に時計は、握手会再開の時間5分前を指していた。

「あ、いけない! そろそろ時間です」
「本当だ。じゃあ俺も戻らないとだな。てかこの部屋から出て俺逮捕されたりしないですか?」
「休憩中のスタッフさんに変身するので一緒に出ましょう」
「そいつは助かります」



「それじゃあ、今日はありがとうございました。えーっと」
「佐藤です。佐藤悠時。名前聞いてなかったですもんね」
「悠時君。素敵な名前」
「俺も気に入ってます」
「悠時君、これ」

 千鶴さんから小さなメモ書きを受け取る。そこには、電話番号とトークアプリのIDが書かれていた。

「私の電話番号とIDです。家に着くのが0時回ったあたりだと思うから、そのくらいに連絡してほしいな」
「アイドルの連絡先ゲットなんて、このゲームも捨てたもんじゃないですね」
「ゲームの為だからね! もう。まだ悠時君のNEOについても聞いてないし、今後の事、話したい事沢山あるから」
「分かりました。じゃあ今夜連絡します」 
「待ってるね。それじゃ」

 そういって千鶴さんは手を振った。高橋千鶴の連絡先。胸が高鳴る。ダメだぞ悠時。変な事を考えるな。天音という大切な彼女がいながら、大人気アイドルと秘密で連絡を取り合うなんて最低だぞ。これはあくまでもゲームの為だからって千鶴さんも言ってただろ。
 そう自分に言い聞かせ、俺は握手会会場を後にした。そういや、友人どこ行ったんだ。

Re: BaN -A to Z- ( No.14 )
日時: 2021/08/16 18:00
名前: Cude (ID: Sua4a79.)

>>12 モンブラン博士様

ご名答! 彼女のNEOは変身能力でした。
目の前で変身なんかされたら腰抜かしちゃいそうですね……笑
ありがとうございます、更新速度が遅くて申し訳ありませんが、完結までしっかりと執筆させていただきたいと思っております。

Re: BaN -A to Z- ( No.15 )
日時: 2021/08/20 15:23
名前: Cude (ID: Sua4a79.)

Episode6

 あの後、俺と友人は無事合流をし、そのまま家へと帰る運びとなった。「それで、お前は何やらかしたんだ?」と車内で頻りに聞かれたが、「なんもねぇよ」と濁すなり、寝たふりをするなりしてなんとなく切り抜けた。その上、久々の握手会でテンション上がった友人が「飲みでも行くか?」なんて誘ってきたが、これも「この後天音と会う」と適当なウソをついた。ていうか俺たちまだ未成年だし、お前運転手じゃねぇか……。アイドル様を差し置いて犯罪者の相手なんてしてられねぇよ。
 という訳で時刻は0時を回っていた。連絡先の最近追加した友達には「ちー」という名前が1件。これが高橋千鶴の連絡先だ……。世の男性諸君、いや女性もだな。震えるが良い……。アイコンはファンアート? ってやつなのだろうか、デフォルメされた彼女のイラストとなっている。
 
「よし……」

 俺は緊張で少し震えた手で通話ボタンを押す。暗く静かな部屋にコール音が鳴る。1回。2回。3回。今手が空いてないのだろうか。4回。5回。6回。もしかしてまだ家に帰っていないとか? 7回。8回。9回。そして画面には不在着信の表示がされた。しかし、その直後に彼女からのメッセージが届く。

『ちー:ごめんなさい! 友達登録まだしてなくて、通話出来なかったです~』

 なるほど。まぁ多分家に着いたばかりでバタバタしてたんだろうな。それにしても彼女は文面も可愛いな。『通話できなかったです~』の後ろの絵文字がアイドルすぎる。俺の天音ちゃんは文章自体はそっけないからな~。そこも良いんだけど。
 了解の意の返事を送ると、『今度は大丈夫!』というメッセージの後、向こうから通話がかかってきた。こちらからかける気満々だったので、動揺してワンコールで出てしまう。

「もしもし」
『もしもし、千鶴です。出るの早いねぇ』
「まぁそりゃ今の今までやりとりしてましたし」
『それもそうかぁ。えへへ』

 電話越しに聞こえる声は余りにも甘く、耳どころか脳みそまで蕩けてしまいそうだ。声自体も勿論可愛い事には間違いないのだが、特筆すべきは話し方なのだ。語尾に捨て仮名がついている感じといい、幼子のような笑い方といい、全部が可愛い。握手会の会場で話した時とはまた別人のようだ。恐らくだがこの女.....

「もしかして、お酒でも飲んでます?」
『えぇー、なんでわかるのぉ?』
「そんな胃もたれしそうな話し方されれば誰だって分かりますよ」
『悠時君も一緒に飲もうよぉ〜』
「一応俺まだ19なんで、遠慮しておきます」
『まだ未成年だったのかぁ、可愛い』
「いや何が可愛いか分からないですけどね。てか、ゲームについて話すんじゃなかったんですか。なんで酒なんか飲んでるんすか......」
『あぁ、そうだった!』

 千鶴さんは、ようやく今目的を思い出したようだった。ならなんで俺と電話するって経緯に至ったんだよ。全く、天然なのかシンプルにアホなのか分からん。可愛いからもう何でもいい。

『その話なんだけど、会って話した方が良くないかなぁ』
「いやいやお姉さん……。あなたが電話してねぇって言ったからかけたんですよ」
『だって、男の子のお友達欲しかったし……』
「可愛すぎですか……。ゲームの事話したいってのは口実だったんすね」
『本当にゲームの事も話すつもりでいたもん! でもお酒飲んじゃってるし今日はダメだよ~』
「しゃあないっすね。それじゃ、切りますよ」
『え、切っちゃうの?』

 彼女の声のトーンが1段階落ちたのが電話越しでもハッキリ分かった。畜生、これじゃ切るに切れない。

「……、じゃ、じゃあちょっとだけ電話しましょう」
『やったぁ~、悠時君大好き!』

 突然の愛の告白を食らい、俺は盛大にむせた。高橋千鶴を誰か止めてくれ。俺には天音ちゃんがいるんだ。



 結局、あの後電話は3,4時間ほど続き、外を見ると明るくなっていた。

「流石にそろそろ寝ましょうか」
『そうだね、私も眠くなっちゃったぁ……』
「あ、それで次会う予定、どうしますか」
『次はぁ……、ちょっと先になっちゃうけど、5月20日とか空いてるかな?』
「20日は……、木曜日っすね。大学の講義が昼まであるんで、それ以降なら」
『うん、分かった。それじゃあ、当日、大学が終わったら連絡してね?』
「了解です」
『会う日まで勝手に行動したりしないって約束するんだよ? 他の参加者に接触したりしたらダメだからねぇ』
「分かりましたよ。それじゃ、おやすみなさい」
『うん。おやすみぃ』



 5月20日。大学の授業が終わった俺は、千鶴さんに連絡をした。天音には「友達と遊んでくるから連絡がつきづらいかもしれない」と言っておいたが、めちゃくちゃ心が痛い。仕方ないんだ、許してください……。
 少し経って、千鶴さんから、待ち合わせ場所のカフェの名前と、住所が送られてきたので、そこへ向かう。大学から徒歩で迎える場所にしてくれていた。

 10分もしない内に目的地に到着する。いかにもオシャレなカフェって感じだ。こんな事でも無ければ俺がここでコーヒーを飲むなんて事は一生なかっただろうなぁ。そもそも俺、コーヒー飲めないんだけどさ。

「着きました」
『一番奥の席にいます』

 扉を開け、カフェの奥へと進む。客は男女のカップルが1組いるだけだった。意外と混んでないんだなぁ、こういう所って。
 カフェの突き当り、一番奥の席には、帽子を目深に被り少し俯いている女性がいた。

「千鶴さん」

 千鶴さんは、俺を見るなり顔を真っ赤に火照らせた。

「こ、この間の電話、私悠時君に大好きって言っちゃったり……」
「しましたね」
「うぅっ! ちょっと酔い過ぎてたんです! ごめんなさい!」

 彼女は、電話での自分を思い出して赤面していたようだった。こんなに可愛い女性がこの世に存在していいのだろうか。

Re: BaN -A to Z- ( No.16 )
日時: 2021/08/24 03:57
名前: Cude (ID: 78sNkMqs)

Episode7

「うぅ……、いっそ殺してください……」
「いやいや、言い過ぎですって」
「しかも私ナチュラルにタメ口をきいてましたよね……」
「ナチュラルにタメ口でしたね。まぁでも、千鶴さんの方が年上だし、なんなら握手会会場での別れ際もちょいちょいそうでしたから、気にならなかったですよ」
「男の子との距離感とか分からなくて……」
「ファンの一人だと思って接してみれば良いんじゃないですか」
「ファンの方と二人で電話とか……、カフェなんて行かないし……。今私活動休止中だし……」

 なんだ。いつにも増してしおらしいな……。そんなに電話での自分の態度が恥ずかしかったのか……。

「そんな落ち込まないでくださいよ、それより今日こそゲームについて話さないと」
「そうですよね……」
「てか、目立つから外に出る時は【完璧な化粧】を使って変装してきてくださいって言いませんでしたっけ……」
「うん……でも……」

「折角悠時君に会うんだから、ちょっとでも可愛いと思ってもらいたくて」

 俺は飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。この女、この間から何個爆弾を投下する気なんだ? 酔っていようがいまいが、全然スタンス的には変わってねぇじゃねぇか……。俺のライフはもうゼロよ。

「い、いやまぁ可愛いですけど……。これでバレたらマジ許さないっすよ」
「はい、ごめんなさい……」

 冷静を装い彼女に注意する。ゲームに専念しなければならないと言うのに、彼女はどこかフワフワしている。こっちまで、あれ? ひょっとして今日デートかな? なんて思っちまうだろ。
 しかし、そんな浮かれた事なんか言っていられないのが現状だ。Nの正体どころか千鶴さんを除いた参加者の詳細は、「U」がサイバーラビットのUnitronではないか、という推測のみで、そのほかは全く把握出来ていないままゲームスタートから1ヶ月半以上経過している。2年間という期間は、初めの内こそ長く設けられたと考えていたが、こうも埒が明かない状態が続くと意外とあっという間なんじゃないのか。
 神妙な面持ちになってしまっていた俺を見て、千鶴さんが口を開く。

「ゲ、ゲームについてですよね。今後どうしていくか」
「はい。僕と千鶴さんのNEOだけだと、恐らくNの特定はかなり難しいと思ってます」
「そういえば、悠時君のNEOってどんなのですか? 結局聞いてなかった」
「あぁ。例えば」

 そういえば、まだ彼女には言ってなかったか。彼女には、というよりも、まだ誰にも言っていなかったという方が正しいのだけれど。さっきまでいたカップルの客も帰ったし、店にいる客は俺たちだけだから、ここで実演してしまっても問題ないだろう。オレンジジュースの残りを飲み干し、グラスを指さして続けた。

「ここに、ガラスで出来たグラスがありますよね。それもこれはこの店のやつ」
「うん」
「それを……おらッ」

 グラスに右手を翳し、意識を集中させる。

「このグラス、床に思いっきり叩き付けて見てください」
「え?」
「いいから」
「え……ほんとに投げちゃうよ……?」
「大丈夫です」

 千鶴さんは、目を背けながらも力いっぱいに腕を振り下ろす。彼女の手から離れたグラスが床へと思い切りぶつかり音を立てた。しかし、グラスの破片が飛び散るどころか、むしろ床にすこし傷がついてしまう。

「やべ、床の傷については考えてなかったな……」
「え!? これって……」
「NEOでグラスの硬度を極限まで上げました。いわば一時的にこのグラスはダイヤモンド製になったと思ってもらって大丈夫です」
「凄い……」

「縁のバッド目立バイプレイヤーちたがりって言うんですけどね。自分以外の物の性質を極端にいじれる力だと思ってくれて大丈夫です」

 決まった。我ながらイケすぎている。恐らく今の俺めちゃくちゃドヤ顔だろうな。千鶴さんは興奮気味に拍手をした後、俺に尋ねた。

「例えばどんな事が出来るんですか?」
「えーっと、ハサミで金属が切れるってのは試してみましたね。チョキがグーに勝てる時代が俺の手で切り開けます」
「じゃんけん改革って事だ!」
「あれだけ世界に浸透しているじゃんけんの概念を捻じ曲げちまうなんて、もしかして俺、奇才?」
「奇才です! 天才です!」

 俺に称賛の目を注ぐ千鶴さんに大分乗せられてテンションが上がってしまう。正直、自分自身のNEO自体をそこまで気に入っている訳では無かったが、こうも褒められると悪い気はしない。
 だが、俺の意気揚々たる態度は、背中からかけられた声で、一瞬の内に緊張感へと変わった。


「見事なNEOだった。Bのプレイヤー」
「バフ能力なんて、俺と少し被ってるな。まぁ、俺のNEOにはそう及ばないけど」
「てかよぉお前ェら、いつ誰が見てるかも分からねぇのにそんなにはしゃいじまって、とんだ馬鹿共だな!」
「まぁまぁ。陽気ジョーンティで素敵なお坊ちゃんとお嬢さんじゃないか」

 振り返ると、そこには4人。俺の少し後ろに立っていた。一人一人に異様なオーラがあり、只物ではなさそうに見える。俺がビビってるだけか? ひとまず、彼らの詳細は置いておいて、まず、不可解な点が一つある。この店には間違いなくさっきまで誰もいなかった筈だが、音も立てずに店の中に入る事なんて可能なのか? いや、よく考えてみれば恐らく容易だろうな。さっきの会話から、彼らは確実にゲームの参加者である事が分かるし、とすれば、この中の誰か1人のNEOによって俺らに全く気付かれずに近づく事も難しくない。それでは、何故ここにいるのか。たまたま? いや違うな。多分彼らも高橋千鶴の動向を追っており、この店に辿り着いたと推測できる。何の情報も掴めていなかった俺たちにとって、一度に4人もこちらに赴いてくれる事は、案外ラッキーじゃないか。だとすれば、残る疑問は一つだけ。

「俺らの敵になる予定か、味方になる予定か、どっちです?」

 右端に立っていた綺麗な女性が上品に笑い、答える。

「このゲームに敵を作る理由はないだろう? まぁ、一度みんな座って、ゆっくり紅茶でも飲まないか」

 


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。