複雑・ファジー小説

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流星メタルに精錬フォージ
日時: 2022/06/02 00:06
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

 20XX年、突如飛来した隕石「ブリギット」。都心に直撃したそれの影響によるものか、異能に目覚める者が現れ始める。金属と性質をなぞらえたそれらを、人々は《フォージ》と呼んだ。
 その世界である日、記憶を失った少年は、鉄のフォージを持つ男に出会う。異能、銃弾、金属音の飛び交う世界で、少年は何処へ進むのか。

0.序章
>>1

1.緑玉メタルツリー
>>2-

Re: 流星メタルに精錬フォージ ( No.9 )
日時: 2022/06/10 23:39
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

1-4.流星にメタルツリー③

 男は、誰も救えなかった。
 男のフォージは、《緑玉エメラルド庇護アサイラム》は確かに強かった。
 だが、男が駆け付ける頃には、既に被害は出ていた。フォージを使う犯行は、被害が出るまでも早い。男は何度も、目の前で散り行く命を見た。
 それでも、救えた命があった。
 少女の名前は、ノア。彼女の両親が殺された後、すんでのところで男が駆け付け、犯人を無力化して確保した。
 男は嬉しかった。自分でも、誰かの命を救える、そう思えたのだ。
 だが、それも数日だけの間だった。

 少女は親の後を追って、屋上から身を投げた。

 その日から、男は自分のフォージの名前を変えた。
 この力は、誰も庇護なんか出来はしないのだ。
 この力は、何かを拒絶することしか出来ないのだと。
 そうして、《緑玉エメラルド拒絶エクスクルード》というフォージを持つ、若手の期待株であり、出世も間違いないと言われていた男は、そんなものに価値は無いと吐き捨てて、警察を辞めた。



 大門だいもんすすむの会話を聞いていた哲人てっとは、目の前の乃亜のあを見た。なるほど確かにそれなら合点が行くと、心の中で哲人は納得する。
 彼女のフォージ、《ダイヤモンドダスト》は明らかに異質だ。その能力も勿論そうだが、なによりも違和感だったのは『ダイヤモンド』という、『非金属』しか含まれていない名を冠している事だった。だがそれも、彼女のフォージが人の手によって作られたものならば、説明がつく。
 だが、それが分かったところで、結局何も変わりはしない。いち早く思考を切り替えた哲人の拳が、乃亜の腹部に迫る。乃亜はそれをひらりと躱すと、その隙をついて髪のダイヤモンドの刃で、腹を撫でるように斬りつけた。

「っ!」
「まだ、あそぼ?」

 哲人にとっても、少なくないダメージが入った。流石に不味いと哲人が下がるが、それを乃亜は許さない。ラインを上げた乃亜は、刀の先を哲人に突き出した。
 ここにきて唐突な突き。初見の攻撃に哲人は反応出来ず、肩に刺突が直撃。鉄の体を、ダイヤモンドが穿った。そのまま哲人は突き飛ばされるが、床を手で掴むように指を立てる。鋼鉄の手とメタルツリーの屋上がギャリギャリと摩擦して、哲人はなんとか鉄塔から投げ出されずに済んだ。

「危ない危ない。あと少しで場外行きするところだったねぇ」
「落ちちゃ、だめ。てっとは、わたしが斬るの」

 優勢と見て乃亜は再び跳躍し、哲人の元へと高速で飛び込む。
 哲人がポケットから拳銃を引き抜き、二発三発と銃弾を放つ。乃亜は髪の毛で編み出したダイヤモンドの刃を、盾にするかのようにして防ぎ、そのまま距離を詰めてくる。
 だが哲人も無駄にそんなことをした訳では無い。事実防御に一本を使わせた事で、彼女が攻撃に使えたのは、手に持った刀だけだった。

「えい」

 少女の小さな掛け声とは、かけ離れた力で刀が振られる。あらゆるものを分断するかの如く、研ぎ澄まされた上段切り。ダイヤモンドの刀は煌めきを放ちながら、哲人の顔に迫る。

「それを、待っていたんだ」

 だが、哲人は笑う。そして、その笑みが両断されることは無かった。

「え」

 何故なら、その刀は止められていたのだ。予想外の防ぎ方に、乃亜は思わず硬直する。
 振り下ろされた刀を、両側から手のひらで挟むようにして受け止める技。
 そう、真剣白刃取りだ。哲人は超高速で振り下ろされた乃亜の刀を、その身一つで見切り、取り切ったのだ。
 当然、咄嗟の反射神経だけでは到底できない。乃亜が直線で突っ込んでくる状況を作り、射撃による牽制で攻撃を一本に絞った。そして乃亜は最初の一振は上段切りが多いという、今までの傾向から予測して、哲人は白刃取りなどと言う無謀な行為をやってのけた。

 これは博打だ。用意周到に行われただけの、ギャンブルに過ぎない。これが哲人の戦い方だ。大門にも、乃亜にも、進にだって、こんな事は出来はしない。彼らには、堅実にフォージを使えば、勝機を見い出せるだけの力があるからだ。
 だが、哲人は違う。だからこそだ。最も弱いフォージを持つ哲人だからこそ、通らなければ負けの勝負を仕掛けることが出来る。何故なら、こうでもしなければ、哲人に勝ち目など見えてこないのだから。

「この賭けは、私の勝ちだねぇ!」

 そして、哲人はその惚けた乃亜の顔面に、頭を鋼鉄化させ、力の限りの頭突きを食らわせた。乃亜が怯み、刀に入れた力が弱くなる。そのまま刀を弾き、哲人は渾身の右ストレートを、人形のような華奢な少女の鳩尾に、一欠片の容赦すらもなく叩き込んだ。
 少女の身体が、くの字に曲がって吹き飛ぶ。メタルツリーの壁面に、めり込むようにして突っ込んだ彼女が、そのまま跳ね返って床に倒れ伏す。
 哲人はかなり呼吸を荒らげていた。彼にとっても、とても平常心を保てる博打ではなかったのだから。それでも、なんとかなったと安堵した。
 いや、したかった。と言うべきか。
 哲人の目が、見開かれる。

「はは……すごい、すごいすごいすごい! てっと! あなたはすごい!」

 少女は嬉しそうだ。満面の笑みだ。子供のそれは、尊いもののはずだ。だが少女が笑う度、哲人は絶望をする。

「斬りたい! あなたを斬りたい! だって! わたしは! その為に! 生きてるから!」

 少女は立ち上がって、手を挙げて、嬉しそうな声音で唱える。

「『ダイヤモンドドレス』!」

 少女の身体が、煌めきを放ち始める。彼女の服も、肌も、何もかもが、透明なガラスのように透き通り始める。そして、彼女の髪の毛が荒ぶり、先程のように一本に纏まるのではなく、十数本に別れ、その一つ一つが凶悪な鋭さの剣に変形する。その両手は最早刀は握られておらず、手そのものが鋭利な刃物と化していた。
 光を乱反射する刃物に包まれたドレスは、正しくダイヤモンド級の輝きを放っていた。
 彼女の身体中の刃物が、さざめくように駆動する。その一つ一つが煌めいて、ダイヤモンドの粉塵が見えざる斬撃と化して、哲人に襲い掛かる。
 その異常な数に、哲人は何も出来ない。身体中に傷が付き、ダメージを負う。哲人の立っている足場すらも切り刻まれ、崩れ落ちる前に、哲人はなんとか別の足場へと移る。
 その瞬間、乃亜は既に哲人の前に居た。

「──ッ」

 目を爛々と輝かせた乃亜が、理不尽にすら思えるほどの物量を用いた攻撃を開始する。
 このままだと殺される。そう直感で感じ取った哲人は、防御を捨てて乃亜を突き飛ばした。
 攻撃に集中し過ぎていたのか、それとも十数本の剣を同時に操っていて回避に意識を避けないのか、乃亜は簡単に突き飛ばされた。
 だが、その間に、哲人の身体は傷だらけにされていた。その一つ一つは浅いが、最早普通の人間ならば細切れのサイコロステーキだろう。

「はは。……もう、だめ、かな」

 その圧倒的なフォージを前に、哲人は諦めたように、そう零した。
 死力を尽くした。あらゆるものを使った。武器も、フォージも、卑怯な手段も、知略の限りの策も、大博打すらも切り尽くした。
 哲人はもう、お手上げだと言わんばかりに、笑った。
 そして、小さくため息をついた。

「……ふぅ」

 そして哲人が行ったのは、自暴自棄にも見える行為だった。彼は懐に手を入れ、二つの箱状のものを取り出す。最初は何かの武器かと乃亜は身構えたが、それらは武器と言い難く、とある嗜好品に似ていた。
 哲人は取り出した小さな銀色の箱の蓋を開く。すると小さな火が灯される。ジッポー式のライターだ。そして彼はもう片方の手で、黒い紙箱から取り出した一本の細い棒──煙草に火を付けた。

「てっと、なに、してるの?」
「はは、死ぬ前に、一服しておきたくてね。これくらい、許しておくれよ」

 進の前で、哲人は煙草を吸っていたという記憶はない。事実として、哲人はそこまで煙草を好んではいない。彼のフォージは身体が資本である為、喫煙はしないし酒も適量程度しか嗜まない。それが哲人の主義だった。
 そんな彼が、煙草を咥えて軽く吸う。すぐに口の中に独特の臭いと煙が充満するのを感じて、彼はそれを口から吹き出す。少しでも、タールとニコチンを体内に入れたくなかった。
 彼が煙草に求めているのは、味やストレスの解消などではない。

 ──どうしようもなく、怒りを感じる、この匂いだ。

 灰谷哲人は、怒るという感情が薄い人間だ。
 他人に期待せず、何より信用をしなかった。想定通りに動けば儲けものであると、彼はそのような思考回路の人間だった。だから他人やものに対して、イラつきはするものの、決してそれが怒りまで届くことは無かった。
 だが、この銘柄の煙草の香りだけは別だった。哲人がまだ青かった時代を思い出させる。哲人にとって、忘れたくても忘れられない記憶。
 この甘ったるい癖して、無駄に煙たくてヘビーな味が、哲人の中の怒りを煮え滾らせる。鉄人に内蔵された溶鉱炉に、憤怒の燃料が注ぎ込まれる。
 哲人は手に持つ煙草を、不意に折り曲げた。人の色を取り戻していたはずの手は、彼のフォージによってその煙草と同じ黒に染っていく。鋼鉄よりも、更に純粋で、マットなブラックに。

「これが、本当に最後の最後」

 彼はそのまま、火のついたそれを握り潰した。

「私の、『全身全霊』だ」

 そう呟いて、哲人は唱える。
 進すら初めて聞いた、その文言を。

「『鉄人零号てつじんぜろごう』」

 その言葉が、その場にいた者の耳に入った、次の瞬間。
 乃亜の頭のすぐ側まで、漆黒の手が、伸びていた。

Re: 流星メタルに精錬フォージ ( No.10 )
日時: 2022/06/14 23:13
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

1-5.ブラックデビルにタイムリミット

 男はもう、誰かを救いたいとは思わなかった。
 救いたいのでは無い。そもそもそんな状況にしてはいけない。そのための原因を、予め取り除くべきだ。そう考えた男は、情報を集めた。そのうち、正攻法では限りがあると悟った彼は、ハッカーや情報屋、時には自ら非合法活動を行うようになっていった。裏社会のコネクトは、警察時代に入口を幾つか把握していために、溶け込むまでに時間はかからなかった。
 そのうち彼は素顔を捨て、ペストマスクを付けるようになる。顔などという要らない情報は、足でまといになるだけだと考えたのだ。
 そしてそんなある日だ。彼はある研究所に忍び込み、データを集めようとした。
 だが、そこで行われていたのは、法外な改造手術を施し、人工のフォージを発現させるというものだった。
 男は怒った。フォージなどという悪を、態々生み出そうとする愚かな人間たちが。それは正義感などではない。最早八つ当たりも同然だった。
 その施設を破壊し尽くし、非道な研究を行っていた者達を血祭りに上げた。彼の正義に、慈悲という言葉は既に無くなっていた。
 男がコンピュータから研究データを抜き、その場を後にしようとした時だった。施設の、ひとつのカプセルが開いた。緊急事態の為か、催眠装置の中で保存されていた、とある少女が目を覚ましたのだ。
 その純白の少女の姿に、男はある日、救えたはずだった別の少女の面影を重ねた。
 純白の少女は全てを忘れていて、男を頼るしか無かった。
 その日から、男は父親になった。少女は娘になった。
 お互いが、必要としていた。その為に、自分の姿を偽った。
 そして、それはいつしか、本物になった。



 漆黒の手が、乃亜に迫る。
 その音すら置き去りにしたスピードに、反応できたのは乃亜のあだけだった。回避が間に合わないと判断した彼女は、咄嗟に髪の毛の全ての剣を重ね、拳を防ぐ為の盾を作り出す。
 だが、その哲人てっとの拳はまるで紙を突き破るかのように、易々とその何重にも連なったダイヤモンドを砕く。ガラスが割れるような音を立てて、破片が散らばる。その光景に、思わず目を見開いた乃亜の身体に、受け止められなかった勢いそのまま、鉄拳が打ち込まれた。
 もはや悲鳴などあげる暇すらもなく、少女の身体は紙吹雪のように宙を舞う。
 哲人は更に追い打ちをかける。一瞬にして吹き飛んでいる真っ最中の乃亜との距離を詰めた。余りに人間離れした行為だった。先程までの人間らしい戦い方など一切ない。あるのは、極限まで高められた純粋な力。
 だが乃亜も既に、目の前のそれが、人間だとは思っていない。彼女はすぐさま修復した剣達で、間合いに入った彼に斬撃を飛ばす。
 哲人は身体を切り刻まれようが、その無表情な顔を全く動かさない。いくら身体に傷が入ろうがお構い無しだ。右足を踏み込み、それを軸にして、強烈な力を持った回し蹴りを繰り出す。
 乃亜はダイヤモンドの剣と化した両腕で防御をする。しかしそんな防御など焼け石に水でしかない。当然それは砕け散り、乃亜の身体にトラックに追突されたような、強烈な衝撃が襲い掛かった。少女は強制的に進路を変更され、床に叩き付けられバウンドするように転がる。

 圧倒的だった。『鉄人零号てつじんぜろごう』を使った哲人はもう止まらない、いや止まれないのだ。まるで動き続けなければ死んでしまうサメのように、彼は只管に乃亜を狙い続ける。倒れ伏す乃亜の頭に、真っ黒の手を鉄槌の如く振り下ろした。
 乃亜が何とかそれを首をひねって避ける。振り下ろされた哲人の手から轟音が鳴り、周囲に蜘蛛の巣状のヒビが入った。
 その手には、混じり気のない殺意が込められていた。今のが直撃していたら、乃亜とはいえスイカ割りのように弾けていただろう。
 そんな哲人に、乃亜は怯える。

「──あはっ」

 訳がなかった。少女は自分を遥かに上回る存在に、歓喜を露わにして目を輝かせる。きっと、これを斬れたら楽しいだろうと。純粋無垢な笑いと共に、少女は全身の刃物を駆動させながら、逃げるどころかむしろ、自ら哲人の方へと飛んだ。
 その笑いに、哲人は何も返さない。鉄で出来た微動だにしない顔のまま、ダイヤモンドの少女を迎え撃つ。



 すすむ大門だいもんの攻防は、先程とは打って変わって、消耗戦とは言い難いほどに苛烈で、一方的なものとなっていた。
 先程から攻撃をしているのは大門の方だけだ。進はそれを防ぎ、回避する事だけが精一杯と言った様子で、とても勝ち目があるようには見えなかった。
 しかし、そんな状況とは裏腹に、切羽詰まった声を上げているのは大門の方だった。

「さっさと諦めろよなぁ!」
「お断りします!」

 一方追い詰められているはずの進には、その顔には余裕すらある。勝っているとは言い難い状況であるにも関わらず。
 大門が焦っている理由。それは乃亜と哲人の戦闘の状況から来るものだった。『鉄人零号』によって哲人が圧倒的な力を手にしたのを見て、大門はすぐにでも進を片付け、乃亜の支援に回る必要があると、感覚的に察知した。だからこそ、先程までのじっくりと追い詰めるようなやり方を止め、短期決戦に持ち込もうと、可能な限りフォージを使用し、進を撃破しようとした。
 そんな進は大門とは対称的に、寧ろ大門を倒すことを諦めた。そして進が取った戦術は、出来る限り倒されないこと。少しでも時間稼ぎをすることだった。

「『緑玉エメラルド咆哮ブラスト』!」

 空気を引き裂くような音を立てながら、斥力の矛が大門の手から放たれる。それは先程までの威力とは比べ物にならない。
 進も負けじと斥力の壁を生み出す。緑玉同士が衝突し、エメラルドグリーンの輝きが弾けた。矛と盾の対決。勝ったのは、大門の生み出した矛だった。
 進の身体を、衝撃の塊が襲う。十分に衝撃が和らいでいる筈だが、内臓を直接揺らす攻撃のダメージは小さいとは言えない。

「ッ!」

 進の喉からカエルの鳴き声ような音が出た。腹の中をぶちまけそうになるが、上がってきた胃液を飲み込んで堪える。嘔吐など、していられる状況では無かった。
 進が最強とすら言えるフォージを持つ大門を相手にして、ここまで耐久が出来る理由は、一重にフォージの性質にあった。
 進と大門のフォージは、乃亜のような攻撃的なフォージではない。その性質は「斥力の壁を生み出す」という、防御の方に寄っている。防御の力を無理矢理攻めに転用している大門と、そのまま防御に回している進。二人の間にある実力差を、このフォージの性質が埋めていた。
 大門は舌打ちをした。このままでは、進に耐えられている間に乃亜が撃破され、人数有利を作られてしまう。あの化け物と化した哲人と、自分の劣化とは言え同じ性質のフォージを持つ進を同時に相手取るのは、幾ら大門とは言え無理難題でしかない。
 だから大門は、保険を掛けるのを辞めた。
 哲人を倒す為に温存しておいた力を、そのまま攻撃に回す。

「褒めてやるよ、後輩。俺に……全力を尽くさせた事をだ」

 大門の周囲に、緑色のオーラのようなものが展開され始める。それは、余りに大き過ぎるフォージのエネルギーが、滲み出ている事を意味していた。

「『緑玉エメラルド咆哮ブラスト』ッ!」

 先程と同じように、斥力を伴う緑玉の矛が放たれた。
 三本同時にだ。

「嘘だぁっ!?」

 進は思わずそう叫んでしまう。一本でさえあれ程の威力の攻撃が、三倍となって押し寄せてくる。その事実に、進は思わず後退りをする。
 でも、と進はその足を奮い立たせる。幾ら大門だろうと、あれぐらいの攻撃をすれば流石にエネルギー切れが近いはずだと。逆に、あれさえ防げば勝機が見えてくるのだと。
 だから、進も力の限りを尽くした。
 もはや喉から何を叫んだのかは分からない。ただイメージした。自分を守る防壁。何重にも積み重なったそれを。
 進が展開したのは、先程の数倍の数の壁。それが『緑玉エメラルド咆哮ブラスト』と衝突する。それらが激突した衝撃波だけで、進は仰け反る。なんとか足に力を入れ、歯を食いしばり、防壁にさらに力を回す。一枚目、二枚目と割砕かれていくそれらに、惜しみなく全てのリソースを注ぎ込む。

「あああああああああああああああああああああ!」

 擦り切れそうな程の叫び。喉も、体も、頭の中も、全てが焼けるほどの熱さと痛みを発する。もう無理だ、限界だと悲鳴を上げる。それでも、進はフォージを止めない。
 全てを投げ打つような、そのあまりにも異常な生き様。

『都合良いでしょう? 記憶もない、宛もない。そんな人間の方が』

 それは、皮肉にも哲人が放った言葉を体現していた。未練も、俗物的な執着もない彼には、自ら止まる理由などない。
 緑色の壁が輝きを強める。まるで進の命を燃料に燃え盛る灯火のように。
 その進の魂がこもった最後の壁は、三つの矛を見事に防ぎ切った。

「やっ……た……」

 進が、膝を付く。立ち上がる力などない。こうしているだけでも、彼はもう限界なのだから。
 そして、彼の頭に労うように、ぽんと手が置かれた。

「正直、防がれるとは思わなかったぜ」

 お前はよくやったよ。
 そう言ったのは、誰でもない大門 青葉あおばだった。

「あ──」

 大門は『緑玉の咆哮』を放った後、自らもその攻撃に隠れるように距離を詰めていたのだ。遠距離攻撃と共に自分も攻め上がる、シンプル故に強力な戦法。進は初見では、このコンボを見破ることは出来なかった。

「『緑玉エメラルド一撃ストライク』」

 頭蓋骨に直接斥力を打ち込まれた進は、そのまま視界が揺さぶられて床に伏した。
 最低限の威力しかないのか、大門にも余裕が無いのかは分からないが、まだ進には意識があった。不明瞭ながらも、彼はほとんど回らない頭で、最後の言葉を紡いだ。

「あと……は……」

 頼みます。という言葉すら、進の体には言う力がなかった。ただ意識だけがある状態で、進はその場から動く事さえ出来なかった。



 乃亜は言った。進に、私とあなたは似ていると。
 だが、その二人の違いが、戦力差こそ圧倒的であった二対二の勝敗を分けた。
 大門に適わないと悟った進は、時間稼ぎに徹したのだ。弱い進が強い大門を食い止めるだけで、戦力差は縮んでいく。
 一方、乃亜には時間を稼ぐなど頭に無かった。彼女は目の前の標的を、斬れと言われたものを斬るという風に作られている。だから、そんな考えなどできない。
 その結果、この戦いは互角という戦況となった。

 乃亜は認識していないが、彼女の体は既に限界だった。元々の素体が少女なのだ。幾ら改造されているからと言って、本体は哲人のような成人男性に比べれば、か弱いものでしかない。
 それは、自分の体力を考慮する機能が、乃亜に付いていなかったから起こり得た事だった。突っ込んだ乃亜の速度が、急激に落ち込んだ。限界だったのだ。
 その隙を、目の前の鉄人は見逃さない。哲人は乃亜の頭を掴み、乃亜が反応する前に、床に叩き付ける。少女は痙攣するように身体を何度か跳ねさせて、動かなくなった。
 髪の毛や身体の煌めきが、魔法が溶けるように失われていく。乃亜のフォージがティルトしたのは、誰の目から見ても明白だった。

 標的を撃破した事を認識した哲人の黒い眼差しが、そのまま別の方を向く。
 時を同じくして、進を打ち倒した大門の、ペストマスクの奥に覗く、黒の滲んだエメラルドの瞳が、背後を振り向いた。

 そして、二人が相対した。

 もはや言葉などない。そんな余裕も暇もない。死力を尽くした後の二人が、考えることは同じだった。

 ──一撃必殺。

 《緑玉の拒絶《さいきょう》》と《鉄人《さいじゃく》》が取った選択肢は、奇しくも同じ、全身全霊の『拳』だった。

Re: 流星メタルに精錬フォージ ( No.11 )
日時: 2022/06/15 23:42
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

1-5.ブラックデビルにタイムリミット
 親子はその日も、目的のために動いていた。男は自らの正義を全うする為。少女は自分の存在意義を満たす為。
 そんな中、男はフォージの起源であるブリギットの情報に辿り着く。その力が人に取り憑き、暴走をさせエネルギーを使い果たして衰弱死に追いやるという、凶悪なものであることにだ。
 その男はブリギットについての情報を集めたが、あらゆるツテを辿ってもその場所まで辿り着くことは出来なかった。
 警視総監と直接対面しても、やはり口を割ることは無かった。どうしたものかと困り果てた男の前に、その人影は現れた。
 それの素顔は分からなかった。何故なら、顔は銀色のフェイスヘルメットに包まれていたからだ。鼠色のバイザーの奥の、瞳の色さえ分からない。真っ黒なライダースーツには、銀色のラインが入っている。突然現れた謎のライダーは、男にこう言った。

『お前の欲しいものを、くれてやる』

 ただし、と男は続けた。

『お前の目的が達された時、ブリギットはこちらが頂く』

 そんな厄災の元凶くれてやると、男はその話を呑んだ。



 『鉄人零号てつじんぜろごう』は、所謂いわゆる諸刃の剣だった。
 怒りを起点として、身体中のあらゆるものをフォージのエネルギーとし、極限まで《鉄人てつじん》の身体強化を高めるというものだ。
 もちろん燃費も出力も何一つ考慮していない、ただの暴走と紙一重のそれは、長くはたない。そのタイムリミットは、一分だけ。
 哲人てっとという最弱が手に入れた、最強の60秒間。だがこれを使えば身体中のエネルギーを使い果たし、ティルトどころか意識を保つのさえ難しい。だからこそ、哲人は一秒すら無駄にできない。
 もしも大門だいもんがそのリミットを知っていたのなら、彼は出来る限り時間を稼ぎ、力尽きるのを待っていただろう。だが、大門はタイムリミットの事など知らない。最後まで隠し続けた、哲人の作戦勝ちだ。

 ベリリウムと鉄、緑玉と純黒、そして拳と拳が、交錯する。哲人も大門も、お互いのフォージを全力フルスロットルだ。後のことなど頭になく、ただ目の前の敵を、一秒でも速く倒すことしか考えていない。
 その余りの威力に、空間が揺れた。周囲のガラスが衝撃の波に耐え切れずに、連鎖的に破壊されていく。二人の周囲の床がめくれ上がる様にして剥がれ、吹き飛ばされる。
 物理的に誰も近づけないような、渾身の一撃の対決。
 押されているのは、大門だ。
 もう彼には哲人を迎え撃つだけの、十分なエネルギーが残っていなかった。先程、すすむに割いたリソースがあれば、この勝負も分からなかった。
 それでも、大門はフォージを使う事をやめない。例えガス欠だろうと、適わないと分かっていようと、彼は頑なに譲らない。ここで引くことは、彼の正義の敗北だからだ。

 そして、

 哲人の冷たい鉄の正義こぶしが、大門の黒く滲んだ緑玉の正義こぶしを打ち破った。その漆黒の鉄腕は、そのまま大門の鳩尾に差し込まれた。

「────ッ!」

 大門が声にならない悲鳴を上げる。
 そのまま空気を全て吐き出しながら、大門は派手に転がっていき、ロクに受け身も取らず二回三回と床に身体を打ち付けて、あと少しで落下してしまいそうな場所で倒れ伏した。

「うっ……」

 哲人が60秒ぶりに喉から音を発したと思えば、張っていた糸が切れたかのように、その場で膝を付く。そして、呼吸するのがやっとといった様子で、胸を抑えながら周囲を確認する。

「はは、……何とか……なっ……うぅっ」

 哲人が激痛を感じて自分の手のひらを見ると、おぞましい程に赤黒い液に濡れていた。彼が気付かないうちに《鉄人てつじん》のフォージがティルトして、乃亜に散々切り付けられた部分から血液が溢れ出していた。

「哲人さん!」

 そんな哲人に進がフラフラしながらも駆け寄る。少しだけ倒れて休んでいた進は、身体を動かすだけの力が回復していた。当然、フォージはティルトしてしまっているが。

「進くん……済まないね…………いでで……」
「取り敢えず二人は止めましたし、後は警察の到着を」

 待てば良い。そう言おうとした進の言葉が、遮られる。そして、先程までの和らいだ表情を一気に強ばらせ、咄嗟に臨戦態勢に入った。
 進が見た先にあるのは、何とか立ち上がろうとしている大門 青葉あおばの姿だった。口から謎の呻き声のようなものを上げながら、彼は何とか立ち上がろうとしていた。

「大門、まだやる気なのか……!」
「……いや、無理みたいだねぇ」

 言葉を発する事すら一苦労といった様子で、哲人は続ける。

「さっきので肋骨数本は逝ったはずさ。恐らく、立つのも難しいんじゃないかな」

 その言葉通り、大門は片膝を付いて息をするので精一杯だった。
 だが、そんな彼が不意に、ポケットに手を忍ばせる。

 二人に、嫌な予感が走った。

「進君、あれは」
「爆弾のスイッチだ!」

 大門が取り出したのは、画面のひび割れた液晶端末だった。機能は停止していないのか、電源を入れるとそれにいくつかの赤いボタンのようなものが写し出される。

「これを押せば……終われる。やり直せる、この世はまだ」

 息も絶え絶えということが、喋り方だけで伝わってくるほどに限界の大門。それでも、ペストマスクの奥に覗く瞳のギラつきは何一つ霞んでなど居なかった。

「止めろ! そんなことをしたって、苦しむ人が増えるだけだ!」
「カカ、そうかもな」
「なら、なんで!」

 大門は笑っていた。それは自分への嘲笑の笑みだ。

「いつからか、フォージを消し去るっていう手段が、目的に変わってた。だけど今更なんだよ。もう、戻れないんだよ」
「分かってるのに、何でやめないんだよ! やり直せば良いじゃないか!」

 進の言葉に、大門はため息混じりに返す。

「今更、何のために生きろってんだよ」

 彼の言葉には、隠しきれない疲労が詰まっていた。今現在ではない。彼がずっと積み重ねてきた、後悔や苦悩が、疲れとなって滲み出ていた。

「教えてやるよ後輩。俺はな、人を救いたかったんだよ。でもこの世界は、そんな風に甘くできてない。だからもう、生きる意味なんて無いんだよ」

 そう語る大門は、もう終わりたがっていた。
 だが、進はそんなことをさせられない。

「大門 乃亜のあは」

 自分に似た少女の事を、知っていたから。

「あの子は、どうなるんだよ」

 先程も同じ文面の質問を進は大門にしていた。だから当然、大門だって同じ返答をする。

「俺の事なんかすぐに忘れる」

 だが、進は違うと言葉を返す。言葉は同じでも、聞きたいことは別だった。

「あの子にとって、あなたがどれだけ必要かの話をしてるんだ!」

 その物言いに、人の間に勝手に入ってくるような無遠慮さに、思わず大門も苛立つ。

「あんたに乃亜の何がわかる!」

 声を荒らげる大門。
 一方進は、噛み締めるように、小さく言葉を紡ぎ始めた。

「……分かるんだよ」

 あの日の言葉、乃亜の言葉を思い出す。

『前も後ろも分からなくて、一つのみちしるべだけを見てるの』

 その意味が、やっと進には理解出来た。きっと自分のように、記憶を失って、困っていた所に、現れたのが大門だったのだろう。彼女も自分と同じだったのだと、進は感じ取った。

「あの子と僕は似てるんだ。目の前に現れた道標みちしるべを辿るしかない。だって、それ以外に何も無いから」

 進にとっては、自分のことを言っているだけ。
 だが、大門はまるで乃亜の心境を聞いているように感じた。

「僕には居場所も、帰るべき場所も、家族の記憶だって無い。でもあの子には、あなたがいる」

 羨ましい。進はそう感じた。曲がりなりにも、彼女は自分が持っていないものを沢山もっているのだ。
 だから、彼女から家族という存在を奪おうとした大門が許せなかった。彼女にさえ、それを失って欲しくなかったからだ。

「生きる意味がないなら、あの子の為に生きてくれよ! あの子の事を思うなら、あなたは死んじゃダメなんだ!」

 それは願いだった。自分のような辛い思いは、もう誰にもして欲しく無いと、進の心の底からの、祈りだった。
 ふと、大門が視界を横に向けた。
 夜に透けそうなくらい真っ白な肌、髪、そして瞳の少女が、いつの間にか、そこに佇んでいた。もうフォージは使えないだろうと、進も哲人も、何も手出しはしない。

「乃亜」

 大門が呼び掛ける。

「うん?」

 乃亜が返事をする。

「なぁ、乃亜。俺が居なくなっても、大丈夫だろ?」

 大丈夫。そう返してくれるだけでいい。俺はお前を愛しているけど、お前は俺を愛さなくていい。忘れてくれたら、それでいい。
 大門はそう思っていた。

 しかし、大門の意思に反して、乃亜は何も言わず固まった。まるで、こういった場合になんと発すればいいか、言葉を知らないかのように。

「わからない」

 乃亜が零したのは、肯定でも否定でもなかった。ただ、彼女の語彙の中には、胸の中に詰まる寂寥感を示すものが、何一つなかったから。
 だが、彼女の意思は、その両目から零れた、ダイヤモンドのように輝くしずくを見れば、すぐに分かる事だった。

「わからないけど、ぱぱは、だいすき」

 私には、あなたが必要だ。それを彼女の知っている限りの言葉を尽くした言い換え。そのニュアンスは、確かに大門に伝わった。
 大門は、その手を震わせながら、ゆっくりと、人形のようなか細い少女を、自分の娘を抱き寄せた。

「こんなお父さんを、許してくれ」

 少女は、自分の父親が何を言ってるのか分からなかった。だから、彼のなすがまま、抱擁を受け入れた。
 継ぎ接ぎだらけ、歪み塗れの二人かもしれない。生まれた場所も、育ちも、流れている血だって、何一つ同じところなどないかもしれない。それでも、お互いに必要とし、求め合っている。
 だから、幾らボロボロでも、ちぐはぐでも、その二人は間違いなく、絆で繋がれた親子だった。
 ようやく安寧を手に入れた大門は、愛娘の頭に自分の頭を近付けた。これだけは離さないと、言わんばかりに。

 そして、大門はそのまま動かなくなった。

「……ぱぱ?」

 不自然なくらいに。
 まるで、死んだかのように。
 だらりと、大門の抱擁が解けた。
 乃亜は手に、不自然に湿り気を感じた。
 その手は、血で染っていた。
 そのまま大門は、寄り掛かるようにして乃亜に向かって倒れる。
 彼の背中には、針のように先端が尖った物が、突き刺さっていた。それは、彼の腹部を刺し貫くほど、深くまで入り込んでいた。

「……排除」

 突如として、大門の身体の下から、何かが膨らむように発生する。それは液体のような質感で、ゲーム等で出てくるスライムのようなものだ。大門の背中に刺さっているものも、この正体不明の物体から伸びていた。
 そのスライムが、徐々に輪郭を形成していく。それは次第に人型となり、遂には完全に人間の形を得た。

「使えない奴だ」

 それの素顔は分からなかった。何故なら、頭は銀色のフェイスヘルメットに包まれていたからだ。鼠色のバイザーの奥すら不透明だ。銀色のラインが入った黒いライダースーツに身を包んだそれの手には、大門の血液がべっとりと付着していた。

 その姿に、進は突然、強烈な頭痛に襲われた。

Re: 流星メタルに精錬フォージ ( No.12 )
日時: 2022/06/21 00:33
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

1-5.ブラックデビルにタイムリミット②
 親子はその日も、目的のために動いていた。男は自らの正義を全うする為。少女は自分の存在意義を満たす為。
 そんな中、男はフォージの起源であるブリギットの情報に辿り着く。その力が人に取り憑き、暴走をさせエネルギーを使い果たして衰弱死に追いやるという、凶悪なものであることにだ。
 その男はブリギットについての情報を集めたが、あらゆるツテを辿ってもその場所まで辿り着くことは出来なかった。
 警視総監と直接対面しても、やはり口を割ることは無かった。どうしたものかと困り果てた男の前に、その人影は現れた。
 それの素顔は分からなかった。何故なら、顔は銀色のフェイスヘルメットに包まれていたからだ。鼠色のバイザーの奥の、瞳の色さえ分からない。真っ黒なライダースーツには、銀色のラインが入っている。突然現れた謎のライダーは、男にこう言った。

『お前の欲しいものを、くれてやる』

 ただし、と男は続けた。

『お前の目的が達された時、ブリギットはこちらが頂く』

 そんな厄災の元凶くれてやると、男はその話を呑んだ。



 『鉄人零号8てつじんぜろごう)』は、所謂いわゆる諸刃の剣だった。
 怒りを起点として、身体中のあらゆるものをフォージのエネルギーとし、極限まで《鉄人てつじん》の身体強化を高めるというものだ。
 もちろん燃費も出力も何一つ考慮していない、ただの暴走と紙一重のそれは、長くはたない。そのタイムリミットは、一分だけ。
 哲人てっとという最弱が手に入れた、最強の60秒間。だがこれを使えば身体中のエネルギーを使い果たし、ティルトどころか意識を保つのさえ難しい。だからこそ、哲人は一秒すら無駄にできない。
 もしも大門《だいもん》がそのリミットを知っていたのなら、彼は出来る限り時間を稼ぎ、力尽きるのを待っていただろう。だが、大門はタイムリミットの事など知らない。最後まで隠し続けた、哲人の作戦勝ちだ。

 ベリリウムと鉄、緑玉と純黒、そして拳と拳が、交錯する。哲人も大門も、お互いのフォージを全力フルスロットルだ。後のことなど頭になく、ただ目の前の敵を、一秒でも速く倒すことしか考えていない。
 その余りの威力に、空間が揺れた。周囲のガラスが衝撃の波に耐え切れずに、連鎖的に破壊されていく。二人の周囲の床がめくれ上がる様にして剥がれ、吹き飛ばされる。
 物理的に誰も近づけないような、渾身の一撃の対決。
 押されているのは、大門だ。
 もう彼には哲人を迎え撃つだけの、十分なエネルギーが残っていなかった。先程、すすむに割いたリソースがあれば、この勝負も分からなかった。
 それでも、大門はフォージを使う事をやめない。例えガス欠だろうと、適わないと分かっていようと、彼は頑なに譲らない。ここで引くことは、彼の正義の敗北だからだ。

 そして、

 哲人の冷たい鉄の正義こぶしが、大門の黒く滲んだ緑玉の正義こぶしを打ち破った。その漆黒の鉄腕は、そのまま大門の鳩尾に差し込まれた。

「────ッ!」

 大門が声にならない悲鳴を上げる。
 そのまま空気を全て吐き出しながら、大門は派手に転がっていき、ロクに受け身も取らず二回三回と床に身体を打ち付けて、あと少しで落下してしまいそうな場所で倒れ伏した。

「うっ……」

 哲人が60秒ぶりに喉から音を発したと思えば、張っていた糸が切れたかのように、その場で膝を付く。そして、呼吸するのがやっとといった様子で、胸を抑えながら周囲を確認する。

「はは、……何とか……なっ……うぅっ」

 哲人が激痛を感じて自分の手のひらを見ると、おぞましい程に赤黒い液に濡れていた。彼が気付かないうちに《鉄人てつじん》のフォージがティルトして、乃亜に散々切り付けられた部分から血液が溢れ出していた。

「哲人さん!」

 そんな哲人に進がフラフラしながらも駆け寄る。少しだけ倒れて休んでいた進は、身体を動かすだけの力が回復していた。当然、フォージはティルトしてしまっているが。

「進くん……済まないね…………いでで……」
「取り敢えず二人は止めましたし、後は警察の到着を」

 待てば良い。そう言おうとした進の言葉が、遮られる。そして、先程までの和らいだ表情を一気に強ばらせ、咄嗟に臨戦態勢に入った。
 進が見た先にあるのは、何とか立ち上がろうとしている大門 青葉あおばの姿だった。口から謎の呻き声のようなものを上げながら、彼は何とか立ち上がろうとしていた。

「大門、まだやる気なのか……!」
「……いや、無理みたいだねぇ」

 言葉を発する事すら一苦労といった様子で、哲人は続ける。

「さっきので肋骨数本は逝ったはずさ。恐らく、立つのも難しいんじゃないかな」

 その言葉通り、大門は片膝を付いて息をするので精一杯だった。
 だが、そんな彼が不意に、ポケットに手を忍ばせる。

 二人に、嫌な予感が走った。

「進君、あれは」
「爆弾のスイッチだ!」

 大門が取り出したのは、画面のひび割れた液晶端末だった。機能は停止していないのか、電源を入れるとそれにいくつかの赤いボタンのようなものが写し出される。

「これを押せば……終われる。やり直せる、この世はまだ」

 息も絶え絶えということが、喋り方だけで伝わってくるほどに限界の大門。それでも、ペストマスクの奥に覗く瞳のギラつきは何一つ霞んでなど居なかった。

「止めろ! そんなことをしたって、苦しむ人が増えるだけだ!」
「カカ、そうかもな」
「なら、なんで!」

 大門は笑っていた。それは自分への嘲笑の笑みだ。

「いつからか、フォージを消し去るっていう手段が、目的に変わってた。だけど今更なんだよ。もう、戻れないんだよ」
「分かってるのに、何でやめないんだよ! やり直せば良いじゃないか!」

 進の言葉に、大門はため息混じりに返す。

「今更、何のために生きろってんだよ」

 彼の言葉には、隠しきれない疲労が詰まっていた。今現在ではない。彼がずっと積み重ねてきた、後悔や苦悩が、疲れとなって滲み出ていた。

「教えてやるよ後輩。俺はな、人を救いたかったんだよ。でもこの世界は、そんな風に甘くできてない。だからもう、生きる意味なんて無いんだよ」

 そう語る大門は、もう終わりたがっていた。
 だが、進はそんなことをさせられない。

「大門 乃亜のあは」

 自分に似た少女の事を、知っていたから。

「あの子は、どうなるんだよ」

 先程も同じ文面の質問を進は大門にしていた。だから当然、大門だって同じ返答をする。

「俺の事なんかすぐに忘れる」

 だが、進は違うと言葉を返す。言葉は同じでも、聞きたいことは別だった。

「あの子にとって、あなたがどれだけ必要かの話をしてるんだ!」

 その物言いに、人の間に勝手に入ってくるような無遠慮さに、思わず大門も苛立つ。

「あんたに乃亜の何がわかる!」

 声を荒らげる大門。
 一方進は、噛み締めるように、小さく言葉を紡ぎ始めた。

「……分かるんだよ」

 あの日の言葉、乃亜の言葉を思い出す。

『前も後ろも分からなくて、一つのみちしるべだけを見てるの』

 その意味が、やっと進には理解出来た。きっと自分のように、記憶を失って、困っていた所に、現れたのが大門だったのだろう。彼女も自分と同じだったのだと、進は感じ取った。

「あの子と僕は似てるんだ。目の前に現れた道標みちしるべを辿るしかない。だって、それ以外に何も無いから」

 進にとっては、自分のことを言っているだけ。
 だが、大門はまるで乃亜の心境を聞いているように感じた。

「僕には居場所も、帰るべき場所も、家族の記憶だって無い。でもあの子には、あなたがいる」

 羨ましい。進はそう感じた。曲がりなりにも、彼女は自分が持っていないものを沢山もっているのだ。
 だから、彼女から家族という存在を奪おうとした大門が許せなかった。彼女にさえ、それを失って欲しくなかったからだ。

「生きる意味がないなら、あの子の為に生きてくれよ! あの子の事を思うなら、あなたは死んじゃダメなんだ!」

 それは願いだった。自分のような辛い思いは、もう誰にもして欲しく無いと、進の心の底からの、祈りだった。
 ふと、大門が視界を横に向けた。
 夜に透けそうなくらい真っ白な肌、髪、そして瞳の少女が、いつの間にか、そこに佇んでいた。もうフォージは使えないだろうと、進も哲人も、何も手出しはしない。

「乃亜」

 大門が呼び掛ける。

「うん?」

 乃亜が返事をする。

「なぁ、乃亜。俺が居なくなっても、大丈夫だろ?」

 大丈夫。そう返してくれるだけでいい。俺はお前を愛しているけど、お前は俺を愛さなくていい。忘れてくれたら、それでいい。
 大門はそう思っていた。

 しかし、大門の意思に反して、乃亜は何も言わず固まった。まるで、こういった場合になんと発すればいいか、言葉を知らないかのように。

「わからない」

 乃亜が零したのは、肯定でも否定でもなかった。ただ、彼女の語彙の中には、胸の中に詰まる寂寥感を示すものが、何一つなかったから。
 だが、彼女の意思は、その両目から零れた、ダイヤモンドのように輝くしずくを見れば、すぐに分かる事だった。

「わからないけど、ぱぱは、だいすき」

 私には、あなたが必要だ。それを彼女の知っている限りの言葉を尽くした言い換え。そのニュアンスは、確かに大門に伝わった。
 大門は、その手を震わせながら、ゆっくりと、人形のようなか細い少女を、自分の娘を抱き寄せた。

「こんなお父さんを、許してくれ」

 少女は、自分の父親が何を言ってるのか分からなかった。だから、彼のなすがまま、抱擁を受け入れた。
 継ぎ接ぎだらけ、歪み塗れの二人かもしれない。生まれた場所も、育ちも、流れている血だって、何一つ同じところなどないかもしれない。それでも、お互いに必要とし、求め合っている。
 だから、幾らボロボロでも、ちぐはぐでも、その二人は間違いなく、絆で繋がれた親子だった。
 ようやく安寧を手に入れた大門は、愛娘の頭に自分の頭を近付けた。これだけは離さないと、言わんばかりに。

 そして、大門はそのまま動かなくなった。

「……ぱぱ?」

 不自然なくらいに。
 まるで、死んだかのように。
 だらりと、大門の抱擁が解けた。
 乃亜は手に、不自然に湿り気を感じた。
 その手は、血で染っていた。
 そのまま大門は、寄り掛かるようにして乃亜に向かって倒れる。
 彼の背中には、針のように先端が尖った物が、突き刺さっていた。それは、彼の腹部を刺し貫くほど、深くまで入り込んでいた。

「……排除」

 突如として、大門の身体の下から、何かが膨らむように発生する。それは液体のような質感で、ゲーム等で出てくるスライムのようなものだ。大門の背中に刺さっているものも、この正体不明の物体から伸びていた。
 そのスライムが、徐々に輪郭を形成していく。それは次第に人型となり、遂には完全に人間の形を得た。

「使えない奴だ」

 それの素顔は分からなかった。何故なら、頭は銀色のフェイスヘルメットに包まれていたからだ。鼠色のバイザーの奥すら不透明だ。銀色のラインが入った黒いライダースーツに身を包んだそれの手には、大門の血液がべっとりと付着していた。

 その姿に、進は突然、強烈な頭痛に襲われた。

Re: 流星メタルに精錬フォージ ( No.13 )
日時: 2022/07/02 22:17
名前: 波坂 ◆nI0A1IA1oU (ID: ZTqYxzs4)

1-5.ブラックデビルにタイムリミット③
 その突如として現れたライダースーツ姿の男に、進は脳内に強烈な頭痛と共に、若干の違和感を覚えた。それが既視感であるということを理解するのには、数秒を要した。

「ぱぱを! 虐めないで!」

 乃亜が初めて怒りのような感情を発露させた。彼女は手にダイヤモンドの刀を生み出し、なんの躊躇もなくそのライダーに向けて、上段から切り下ろす。余りの回復の速さに、哲人と進は驚かされる。二人はまだフォージを使えるほど回復していないのに、少女のフォージは既に安定しているように見えた。

「《ダイヤモンドダスト》!」

 煌めきを伴った刃が、そのフェイスヘルメットに触れた。あらゆるものを分断する、ダイヤモンドの業物。それはまるで薪割りのように、フェイスヘルメットごとライダーの身体を、真っ二つに斬り裂いた。
 なんと呆気ない一撃。真っ二つになって尚立ちっぱなしの身体から、血液が吹き出す。

 はずだった。

「ダメだ!」

 そう言い放ったのは、未だ強烈な頭痛に襲われている進だった。
 彼の言葉を体現するかのように、ライダーは真っ二つになった身体を自分の両腕を使い、そのまま両側から押して、切れ目をそのまま押し合わせた。ライダーの身体には未だ傷跡の縦線が残っているが、少なくともそれはまだ死んではいなかった。

「そのフォージに……物理攻撃は……!」

 接合面が水音を立てて、泡を吹くようにして揺れる。数後には、まるで乃亜の攻撃なんてなかったかのように、完璧に再生をしたライダーの姿があった。
 そのフェイスヘルメットが、目の前の乃亜から別の方を向く。少女では自分を傷付ける事が出来ないと、把握したようだ。
 その鼠色のバイザーが向けられたのは、進の方だ。

「ほう」

 その声音は、男のものだった。ただノイズ混じりのその声は、明らかに肉声ではないと分かる。

「貴様か」

 その男は、まるで進を既知の人間かのように呼びかけた。
 一方で、進もその姿を、フォージを、佇まいを、確かに知っていた。何故かは分からない。ただ記憶の奥底から、この男の情報だけが滲み出てくる。それを知ったエピソードなどは何一つ出てこないと言うのに。
 そうやって男が進に意識を逸らしている最中に、既に乃亜は十二分に力を蓄えていた。そして、それを解放しライダーに迫る。

「『ダイヤモンドドレス!』」

 少女の身体や服が透き通り始める。夜空に溶けそうな髪が、まるでメデューサのように枝分かれし、それら各々がダイヤモンドの剣となった。両手も鋭利な刃物と化した乃亜が、ダンスを踊るようにして、十数個もの斬撃を浴びせかける。
 その斬撃一つ一つが、ライダーの身体を服やヘルメットごと斬り飛ばす。男はミキサーにでも掛けられたように、腕、足、頭、胴と、その一つ一つの部位以上に細切れにされた。

「《アクアレギア》」

 だが、フェイスヘルメットからはそう声が発される。次の瞬間、切断された左手の部分が、唐突に少女目掛けて飛び出した。
 乃亜は咄嗟に、それを左手の刃物で切り伏せた。
 だが、切断した程度ではそれは止まらなかった。真っ二つになったまま、それが乃亜の首元に直撃する。

「ッ!?」
「鬱陶しい」

 手の形だったそれが、銀色に変色したかと思えば液体へと形を変え、乃亜の首にまとわりつく。そして、万力のような力で気道を絞め上げ始めた。

「くるし……っ」

 ライダーの床に落ちた身体たちがお互いに身を寄せ合うようにして混ざり合い、再び人型を形成してまた再生をする。ただ、左手から先は欠けているようだった。
 ライダーはそのまま首元のそれを取り除こうと躍起になっている乃亜に近付き、その鳩尾に膝を撃ち込んだ。
 大して早くもない攻撃。だが防御や回避に回す余裕など、酸欠状態の乃亜には無い。腹部に衝撃を感じた乃亜は、更に力を失い、遂にはフォージがティルトしてしまう。身体中からダイヤモンドの輝きが失われ、ただの少女になった乃亜が崩れ落ちるようにして倒れ、嵌められた首輪に悶える。

「人工風情が」

 そう吐き捨てたライダーが、その靴で乃亜の頭を踏みつける。
 目の前で行われる余りにも一方的な暴力を、進は見ていられなかった。だが、進にはそれを止める力などなかった。理解出来たのだ。今のほぼ力尽きた自分が何をしても、無駄に終わるだけだと。それは隣にいる哲人も同じだ。
 世界は、余りにも無情だった。あの親子は、きっとこうなる運命だったのだと。どの道を選んだとしても、最後には丸く収まりハッピーエンドなんてものは、存在しないとでも言いたげだった。

「ぱ、ぱ…………」

 少女は幼いながらに、察してしまった。きっと、自分はもう死ぬのだろうと。だから、最後は自分を救ってくれた人の事を想おうと、決めていた。

 そして、激しい音がした。

 その音に、その場にいた誰もが頭をそちらへと向けた。プロペラが回転して、空気を切り裂く音。ヘリコプターだ。小さめのそれが突如として、メタルツリーの屋上へと登ってきたのだ。
 今現在、警察は下の階で上へと行く手段に手間取っていた。下の階の階段もエレベーターも爆弾によって破壊されてしまっており、応援に駆け付ける手段が無かったのだ。
 だから、設備の破損や火災などを無視できるヘリコプターという手段は、妥当であるように思える。しかし、問題があった。
 それは、警察がすぐに動かせるような高速ヘリコプターでは、少人数しか上に運べないのだ。操縦士も含め、二人が限界といった所の馬力しかないそれ。一人が行ったところで、強大な能力の前では一切歯が立たないのが目に見えていた。
 だが、この男に限ってはそんな心配など、誰もしなかった。
 その人物が、ヘリコプターから飛び降りるようにして現れる。

「全員『立てや』」

 その男は、水色の警察の制服に身を包んでいた。黒の短髪には、所々に白髪が混じっている。強面の40半ばといったところだが、その顔や姿勢からは若々しいバイタリティさえ感じる。灰色の尖った吊り目は、フェイスヘルメットの男を見据えていた。
 現れた男──警視総監、我堂がどう満之みちゆきは、全員に底冷えするような声音で命令を下した。
 瞬間、乃亜に足を置いていたライダーがふらつき、二三歩移動して、力が抜けたように片膝を付いた。それは明らかに、その男が意図した挙動ではない。

「『ゴーストライダー』か。なんでお前がここにおる」
「我堂……面倒な奴だ」

 『ゴーストライダー』と呼ばれたライダー姿の男は、我堂を見るや否や、バツの悪いとでもいいだけな声を上げた。

「はは、間に合ってよかった」

 笑っていう哲人に、我堂が鋭い睨みを効かせながら返す。

「おい灰谷。お前には山ほど言いたいことがある。死ぬなよ」
「……ええ。それくらいは、受け付けますよ」

 二人がやり取りをしている間にも、ライダーが立ち上がれる気配はなかった。それどころか、進は自分も立ち上がれなくなっていることに気が付く。この場にいる人間で、立っているのは我堂だけだ。

「分が悪い。ここは退く」
「させんぞ。『ここから動け』!」

 瞬間、進は自分の体か硬直するのを感じた。呼吸や瞬きといった無意識で行えるものは出来るものの、その場から動こうとすると体が鉛のように重くなり、進は動けなくなってしまっていた。言葉は喋れるらしく、哲人が進に言う。

「我堂さんのフォージ《無能ワントン司令官オーダー》だねぇ。……彼の言葉には、絶対に誰も従えなくなるのさ」

 ライダーもピタリと動きが止まる。だが、逃げることがその男の狙いではなかった。
 彼は既に目的のものを拾い上げていた。携帯端末状のそれを起動し、彼はなんの躊躇もなく、表示された全てのボタンを押した。

 瞬間、轟音がした。その後に、その場に全員の足元が揺れるような感覚。メタルツリー内の爆弾が起爆し始め、床がその衝撃で揺さぶられているのだ。

「さらばだ」
「おい待たんかい!」

 次の瞬間、ゴーストライダーの足元に機械音がしたと思えば、耳を劈く音と共に、赤色の爆煙が上がった。ゴーストライダーが、その爆風で吹き飛ばされ、そのまま落下していく。

 そして、その場にいた、意識不明の大門と乃亜も、屋上から投げ出され、闇へと消えて行った。

「そんなっ……!」

 進がフォージを使って拾いあげようとしても、既に二人は夜の底へと沈んでいってしまった。進は胸の中に残るやるせなさを、拳に込めて床に打ち付けた。

「クソ、流石に対策はしとったか」

 《無能ワントン司令官オーダー》はあくまで相手の行動に制限をかけるフォージだ。爆風によっての移動など、二次的な要因によって齎される現象までは抑制することが出来ないのだ。

「……私達の負けだねぇ、これは」

 哲人が、爆風によってこちら側へとスライドしてきた携帯端末を拾い上げて、画面を見る。
 そこには、明らかにタイムリミットを示すかのような電子式のタイマーが表示されており、進がそれを見た頃には、既に数字は「5:00」になろうとしていた。
 タイムリミットは、五分だけ。
 それは、フォージを使う全ての者にとってのタイムリミットでもあった。


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