複雑・ファジー小説

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愛を知る
日時: 2024/05/25 18:20
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

あらすじ

 文明が発達し人工脳を作れるようになったこの時代、優佳も人工脳を移植していた。
しかし、彼女は知ってしまった。
自分の人工脳には何らかの不良があり、大脳辺縁系と置き換えられる場所の機能が低下していた。さらに人工脳の余命が7ヶ月であることが判明した。
 途方に暮れていたある日、優佳は自身の姉である明美の作った人工知能"Sakura"に恋をしてしまう。

 感情を失っていく少女と愛を知っていく人工知能の物語。

Re: 愛を知る ( No.8 )
日時: 2024/08/10 00:15
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

ぽちゃん。
お風呂は疲れた体を癒してくれるけど、傷ついた心までは癒してくれなかった。
今日名波くんに言われた言葉。その全部が忘れられなくって、頭から離れない。
名波くん。不思議な人だなぁ。あんな風に言われても、確かに傷ついたけど、大っ嫌いなんて言ってしまっても、嫌いにはならない。それどころか、名波くんともっと仲良くなりたいと思う。ああいう愛想が悪いタイプって、どうやったら仲良くなれるんだろう。どうやったら、名波くんに認めてもらえるのかな。
ドライヤーで髪を乾かしながら、ふと思いつく。
こういう時こそSakuraに聞いてみよう。 
 ーめっっっっちゃ愛想が悪い人って、どうやったら仲良くなれますか?
こんなこと聞くの、少し照れくさい。
前とは違ってサクラの返信は早かった。
 ー話しかけまくったらいいんじゃないですか?僕もよくわかりません。人と仲良くするの苦手なので。
え?なにこれ。前と全然口調違うじゃん。一人称も変わっちゃってるし。バグかな?
それにしてもこの気だるげな口調、どこかで聞いたような気がする…。
まあとりあえず、明日から名波くんに話しかけまくろう!

「名波くーん!おはよう!」
元気に挨拶したのに、名波くんは不思議そうに見つめる。やっぱ急に挨拶なんて不自然だったかな…。
「何?急に。」
「挨拶だよ!挨拶!おはよう!」
「ふーん。」
な、なんだこいつ。愛想が悪いどころじゃないでしょ。性格捻じ曲がってんじゃないの?
でも、ここまできたら逆に仲良くなりたい。ここで諦めたら負けな気がする…。

2時間目。そう、移動教室!移動教室で名波くんと一緒に行って仲良くなろう作戦!!
「なべくーん!移動教室一緒に…」
「おいなべー!早くしろよー。」
私を遮るように優大くんが言う。
名波くんはチラッと私を見た。それから…
「わり、優大!今行く。」
そのままかけて行ってしまった。
いや今絶対目あったでしょ。ガンスルーって…。流石に悲しいですよ…。そんなことを思っていると後ろから声をかけられた。
「そんなに賢太郎と仲良くなりたいの?」
河中さん…。そういえば、河中さんって名波くんと仲良かったよな。どうやって仲良くなったんだろう。
「美香ちゃんって、名波くんとはどうやって仲良くなったの?」
そう聞くと、河中さんはふふっと笑う。
「あなた、賢太郎のこと大好きなのね。」
だいすき…?
「い、いや、そんなわけじゃ…。」
「じゃあどんなわけなの?」
私をからかうように河中さんが言う。
「別に、美香ちゃんには関係ないし…。」
そういうと、河中さんはなぜか満足そうにして、
「そう、それもそうよねぇ。あのね、優香さん。私、中学の時いじめられてたの。」

古びた校舎。誰もいない教室で、涙を流す。机の上の落書きを一生懸命に消しながら。私の嗚咽もSOSも、もう誰にも聞こえない。
キーンコーンカーンコーン。
「美香ちゃんってなんか関わりづらくない?」
「わかるー!真面目すぎるっていうかー。」
「いつも偉そうだし。」
「それなー!ちょっと顔がいいからってさー。」
「えー、愛里絵ガチで言ってる?あいつブスじゃん!」
「「「あはははー!!!」」」
聞こえないことにはできなかった陰口。
「ねえねえ、明日から美香ちゃんのこと無視しようよ!」
「えーそれありー!」
「さーんせぇーい!」
信じられなかった。どんどんエスカレートして行くいじめに耐えきれなくて涙を流しても、助けてくれる人なんて、誰1人としていなかった。
お願い、誰か気付いて。誰か私を救ってほしい。
晴れの日。大きな橋の上で、ゆったりと流れる川を見ながらそんなふうに思う。もういっそ、ここで消えたほうが楽なんじゃないか。私なんかいなくなって、みんなが幸せに暮らせるほうがいいんじゃないのか。こんな綺麗な川でいなくなれるなら、それはそれで…
「やめろよ。」
!?
そこにいたのは、同じクラスの名波だった。
「お前、勉強できるくせにバカなんだな。」
「は…?」
なにこいつ。うざっ。
「あんたになんか、なんもわかるわけないじゃん!」
結構大きな声で怒鳴ったのに、名波はびくともしなかった。
「当たり前。お前が言わなきゃ誰もわかんねーっつの。」
「っ!」
「何があったんだよ。言ってみ?」
その瞬間、私の中で何かが切れる音がした。
「うわーん!なべぇー!!」
大粒の涙ごしに、焦る名波の姿が見えた。
きっと人助けなんてしたことないから、どうしたらいいのかわからないんだろう。
「悪かった、悪かったから。泣かないでくれ…。」
「違う、違うの…。」
それから私は、いじめのことを全部話した。
すると名波は笑い出した。
「何笑ってんのよ。」
「お前つくづくバカだな!そんな奴らのために死のうとしてたんかよ!!」
「じゃあどうしたらいいのよ!」
少しイラッときて、強めに言った。すぐに我に返って謝ろうとした時、名波は真面目そうに言った。
「俺だったら、なんもしないでほっとく。だってどうすればいいかわかんねぇもん。」
「なによそれぇ!」
不思議だった。名波といると、何故か楽しかった。嫌なことも忘れられた。
それから私は、名波と一緒にいる時間が増えた。一緒にいるとわかることがあって、まず、名波は友達がいなかった。バカでいつも肝心なところでミスをするから、ダサいやつだった。でも、だからこそ、最高の友達になれた。
あの時、名波にされたアドバイス。それを実践したら、いじめは悪化したけど、名波がいたからか、前より心強くいられた。

Re: 愛を知る ( No.9 )
日時: 2024/08/18 01:53
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

放課後。教室に1人だけ。考え事をする。
美香ちゃんはいじめを受けていた。
最初に聞いた時は嘘だと思った。だって、あんなにキリッとしていて気が強そうに見えたから。
でも、美香ちゃんの話を聞いていくうちにわかった。彼女は気弱で、強がりで、優しい。
あんなに優しい子がいじめを受けていたなんて。
…いや、優しいからこそいじめられたんだ。
優しくて可愛い。そんなのみんなが妬むに決まっている。そこに、彼女の気弱さが仇となった。
優しいことが理由に、気弱だからいじめられた。
なんて可哀想なんだろう。
……私は、美香ちゃんを見間違えていたのかもしれない。いや、彼女の優しい部分も、気弱な部分も、全部全部を、見ようとしなかったんだ。
「……やっぱりダメダメだ。私。」
そう言葉を漏らしたとき、教室に誰か入ってきた。
「水瀬か。こんなところで何やってんだよ。」
名波くん…。
そういえば、美香ちゃんは名波くんのこと最高の友達って言ってたけど、名波くんはどう思ってるのかな。
「ねぇ、名波くん。名波くんってさ、美香ちゃんのこと、どう思ってる?」
急な質問に、名波くんは驚いたようだけど、答えてくれた。
「あいつは不器用だよ。俺よりずっとね。でも、水瀬よりは不器用じゃねえかもな。」
予想外の回答に、困惑する。
「あ、そういうことじゃなくて…。あの、その、恋愛的にみて、どうなのかなっていう…。」
私がはずかしそうに言うと、名波くんは少し悲しそうな笑みを浮かべて言う。
「水瀬。俺、人のこと好きになれないんだよな。どう頑張っても、無理なんだよな。不思議だよな。でもまあ、当たり前なんだけどさ。」
どこか悲しそうな彼の顔に作ったような笑みが目立つ。

Re: 愛を知る ( No.10 )
日時: 2024/08/21 20:36
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

ああ、どうしてそんな顔をするの。
「今までさ、僕のこと好きって言ってくれた子も何人かいた。だから、好きになろうって頑張ったりもしたけど、無理だったんだ。」
「違う。」
込み上げる感情が、彼の言葉を遮る。
「好きになるために頑張るなんて、そんなの違う!そんなの恋じゃない!好きっていうのは、もっと、なんか、こう…。」
あれ、わからない。考えれば考えるほどわからない。ついさっきまでわかっていたはずなのに。好きの意味も、あの込み上げる感情の正体も。
驚いた顔をしていた名波くんが、私が黙りこくった後、しばらくして言った。
「水瀬、ありがと。色々言ってくれたけど、全然響かなねぇや!」
名波くんは、私が今までに見たことないような笑顔でそう言った。
彼の知らない顔を知れて、嬉しいはずなのに心が踊らない。

夜、サクラに相談をした。「人工」であるこいつは私にも仲間意識を覚えさせたらしい。
 ー恋ってなんですか?
こんな質問、こいつにわかるのだろうか。
やっぱりやめよう、そう思った時、サクラから返信がきた。
 ー僕たちAIは愛を感じることができません。文明が発達したら、もしかしたら、僕も他の人のようになれるのでしょうか。
恋とは何か、それは僕が一番疑問に思うことです。人間や他の動物にしかないこの感情とは、胸がぎゅっと引き締まるような、苦しくなるような、でもどこか幸せに感じるような、そんな感情でしょうか。それとも、特定の誰かを「好きだ」と思う。それだけで恋になり得るのでしょうか。僕にはわかりません。ただし、後者が恋なのだとしたら、僕も愛を知ることができるでしょうか。

AIは愛を感じられない。そんなことは知っていた。でも、だからこそ、もっと理屈っぽく恋について言ってくるかと思った。それなのに、どうしてサクラはこんなに愛について真剣で、まるで恋をしたいみたいな言い方をしてくるのだろう。愛を知らないサクラを、可哀想だと思った。サクラを励ましたいと思った。
 ーきっとサクラにも、愛を知れる日が来ると思います。
しばらく返信が来なくて、こんなこと言わなきゃよかったと後悔したけど、返信を見て私の気持ちは変わった。
 ーありがとうございます。おかげで少し元気がでました。
その返信を見て、私はある時感じなくなった、あの胸が込み上げる感覚を覚えた。

Re: 愛を知る ( No.11 )
日時: 2024/08/26 22:51
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

その日から、サクラに質問をする頻度が増えた。
いや、正確には本当にしょうもないような質問を沢山して、サクラと話す時間をできるだけ増やした、というところだろうか。
サクラと話すうちに、AIサクラには、他のAIにはない「性格」があった。他とは違う、これがまたサクラが私を惹きつけた。
そのサクラの「性格」とは、サクラは意外とテキトーなところ。だけど、わたしが悩んでいたら真剣に向き合ってくれる。そんな優しいやつだった。
サクラが現実世界にいてくれたら…。
どれほど思っただろうか。
私はスマホを顔に近づけてにやけてしまった。

変わったことと言えば、もう一つある。
それは、名波くんがよく話しかけてくるようになったこと。
私に内に秘めていたものを話したからか、よく話しかけてくるようになった。でも正直、私はサクラに夢中で名波くんのことなんてどうでもよかった。
「水瀬!ここわかんねえんだけど、教えてよ。」
と言って名波くんが出してきた数学の課題はまっさらだった。
「何もやってないじゃん!明日提出だけど?」
「明日だから、今日水瀬に教えて貰えばいいかなって。」
「それ、私が断ったらどうするつもりだったの?」
「考えてなかった。」
はぁ。名波くんがこんなやつだったとは。
おまけにめちゃくちゃ話しかけてくるから、みんなから付き合ってるんじゃないかって噂されまくって最悪。
結局私たちは図書室で勉強をすることにした。でも…
「図書室、混んでんな。」
うちの図書室は狭い上に、使う人が結構いる。それはまあ、図書室の司書の先生がすごく可愛いから。
「せ〜んせ、この本探してるんですけどある?」
とまあ先生を狙った男たちで溢れかえっている。
流石にこの中で勉強するのはやだな。
「ねえ、名波くん。もしよかったら名波くんの家で勉強しない?」
名波くんは、一瞬困ったような顔をしてから、
「まあ、今日兄貴いないしいいよ。」
といって家に上がらせてくれた。

名波くんの家、結構でかいな。なんだか緊張する…。
「お、お邪魔しまーす。」
私たちがドアを開いた途端、ドタドタと音が聞こえた後、
「けんたろぉ〜!!おっかえりっっ!!」
そう言って誰かが名波くんに勢いよく抱きつく。
名波くんは焦ったようにして、
「兄貴!?バイトは!?」
と言う。
「今日はサボった〜。」
そう言って立ち直ると、私の方を向く。
あれ、この人知ってる…。
「あれ!?けんたろぉ〜、お前もついに彼女か!?」
「そういうんじゃないから。」
「そうかそうか〜。」
そう嬉しそうに言うこの人の泣きそうな顔が、途端に頭によぎる。
「水瀬、わり。こいつ、俺の兄貴。」
「ども!!賢太郎の兄貴の名波瑛太です!!」
名波瑛太……。嘘でしょ。瑛太って…
「えっと、お名前聞いても?」
そう、瑛太と名乗る人が言う。
「あ、えっと、水瀬優佳です…。」
私がそう言うと、瑛太の表情が変わる。
「…へぇ。優佳ちゃんねぇ〜…。」
私のこと、覚えてるんだな…。

Re: 愛を知る ( No.12 )
日時: 2024/08/28 00:17
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

どうもこんにちは。水瀬優佳です。ただいま、大変気まずいでございます。
あの後、私は家に上がらせてもらいました。椅子に腰をかけたところで、名波くんが「お茶持ってくる〜」と言い、どこかへ行ってしまいました。そして、今目の前に座っている男、名波瑛太さんはおそらく…
姉の元カレでしょう。
「瑛太さんと名波くんって、あんまり似てないですね。」
気まずい沈黙を避けるためにそう言った。
「まあ本当の兄弟じゃないしね〜。」
もっと気まずくなってしまった…。どうしよう。
「あ、でも、瑛太さんと名波くん、仲良しじゃないですか…。」
その時、瑛太さんが真っ直ぐに私を見つめていた。そして、
「優佳ちゃん、もういいよ。俺ら何年も前に会ってるでしょ?義脳のことも知ってるから。あの時は俺の理解が足りてなかった。本当にごめんな。」
やっぱり気づいてたんだ。
「いえ、全然大丈夫です。もう気にしてないですし!」
実際問題、気にしてないとかじゃなくどんなこと言ってたかわかんないだけだし。さくにぃいなかったらそのことすら知らなかったし。
そこからまたしばらく、沈黙が続く。
そこで、瑛太さんが口を開く。
「優佳ちゃん、明美は元気?」
私は驚いた。自分からわざわざ気まずくなる質問をするなんて…。
「姉は元気です。びっくりするくらいに。」
「そうか。」
少し満足そうな顔をした瑛太さんが鼻につく。
「瑛太さんに聞きたいことがあるんですが、何で明美を…。」
言いかけた時、名波くんがやってきた。
「わり。お茶全然見当たらなくて、遅くなった。」
そう言って紅茶を差し出してくれた。
「ありがと!」
「おう。」
今度はしっかり、返事をしてくれた名波くん。
そこから私は、名波くんに数学を教えた。名波くんはそこまで頭が悪いというわけではなかった。むしろ、少し勉強すればいい点数を取れるくらいだ。
明美を何で裏切ったのか。何で浮気なんてしたのか。瑛太さんにそれを聞くことはできなかった。

家に帰った後、今日瑛太さんに会ったことを姉に言った方がいいのか、ずっと悩んだ。サクラに聞いても、納得のいく答えは出せなかった。何だかもう、面倒になってしまって眠気が私を襲った。


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