複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

愛を知る
日時: 2024/05/25 18:20
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

あらすじ

 文明が発達し人工脳を作れるようになったこの時代、優佳も人工脳を移植していた。
しかし、彼女は知ってしまった。
自分の人工脳には何らかの不良があり、大脳辺縁系と置き換えられる場所の機能が低下していた。さらに人工脳の余命が7ヶ月であることが判明した。
 途方に暮れていたある日、優佳は自身の姉である明美の作った人工知能"Sakura"に恋をしてしまう。

 感情を失っていく少女と愛を知っていく人工知能の物語。

Re: 愛を知る ( No.3 )
日時: 2024/06/17 00:54
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

「えっと、ここは一つ前の文で、裕太がこう言ってたじゃない?だから、裕太は春香に恋をしていたことに気づいたってわけ。」
 放課後。賑やかなファストフード店だが、人はあまり多くない。どの席も楽しそうな学生ばかりだ。静かな空気が嫌いな明日香との勉強会なら絶好の場所だ。ただ少し、私には向いてない場所かもしれない。
「なるほど…。やっぱ国語は難しいよー。どの文がどう繋がってるとかよくわかんないよ。明日香はすごいや。」
そう言うと彼女は少し嬉しそうにして、
「そ、そうかなぁ〜?ありがとう!でもさ、優佳って前まで国語得意じゃなかったっけ?論文のテストとか100点じゃん。」
そう。本当にそうなの。私前まで国語もできたのに、最近になってできなくなってしまった。小説が苦手とかじゃない。前までは普通に点取れてたのに。
「いやー、論文はできるんだけどねー…。」
「あー。やっぱ2つ、違うよねー。」
「うんうん。」
そう言ってまた2人、手を動かす。
国語は理解しようと思っても、なかなか理解できない。主人公の気持ちとか、わかるわけない。いや、前まではわかっていたんだな。これが。
「うーん?優佳ー!ここの解き方が解説見てもわかんないよー!助けてー!!」
「ああー。この解説分かりずらいよね。えっと、ここはこうなるじゃん?それから___」

 帰り道の電車。私はずっと考えていた。私、なんで国語できなくなっちゃったんだろう。このままじゃ完璧じゃなくなっちゃう。どうしたらいいんだろう。完璧でいたい。じゃないと不安だよ。ああ、そう言えば前もここで不安になって、Sakuraに元気づけられたっけ。
不思議だった。そう思った途端、Sakuraを起動していた。
あれ、この間の返信が来てる。
 ー申し訳ございません。このような事例は過去に無く、回答が少し難しい状態となっております。できる範囲でお答えするので、ご指摘があれば気軽にお願いいたします。
 まず、人工脳の構造についてです。人工脳の構造は明らかにされておらず、それは悪用を防ぐためです。しかし人工脳は通常の人間の脳と同じ位置の場所で同じ働きがされていると考えられています。大脳辺縁系は大脳の奥深くにあるため、その場所になんらかの強い衝撃があり、故障したと考えることができます。そうなると、他の場所にも少しとはいえ衝撃があり、余命が7ヶ月になってしまったのかもしれません。過去に何か頭を傷つけるような行為をしたか振り返ってみてください。
続いて、人工脳の再移植についてです。感情がなくなってしまうのが嫌で、再移植をしたいと思うのも無理はないと思います。しかし、人工脳の再移植は現実的ではありません。あなたはすでに一度、人工脳を移植しており、脳と他の部位の繋がりはすでに器具が取り付けられています。その器具を取り除くとすると、新しい人工脳の移植の費用とは別で、5000万円以上かかると言われております。人工脳の移植は、人工脳の購入費と、手術費合わせて7000万からが相場といわれております。すると、人工脳の再移植には1億2000万円以上かかることが予測できます。また、人工脳の移植には体への負担が大きいです。再移植となると、頭の周りは勿論、手足など全身にも何らかの支障が出る恐れがあります。
最後に、これからどうしていくかについてですが、これについては過去に同じような事例がないためお答えすることができません。私から言えることは、自分がどうしたいのかをしっかりと考え、周りや自分を大切にして欲しいと言うことです。

 もうだめだ。追い討ちをかけられた。私はもうどうしようもないのか。どうしようもない人生。どうしようもない人間。こんな人間、みんな必要としていないのかもしれない。私は今まで、みんなに優しくしてきたけど、意味なんてなかったんだ。ああ、消えてなくなりたい。…周りや自分を大切に、か。私は本当に周りに優しかったっけ。いや、優しくはあったんだな。ただ少し見下してた。自分はどうなんだろ。わかんないや。
あーあ、なんかどうでもよくなってきちゃった。早く帰って、お姉ちゃんのご飯が食べたいな。
嫌な出来事があった割に、足取りは軽かった。変な日だ。

Re: 愛を知る ( No.4 )
日時: 2024/06/28 23:08
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

 「ねぇ優佳?私のプリンないんだけど!!食べた?」
冷蔵庫の中を漁りながら姉が言う。
「知らなーい。」
「さくにぃか…。あいつ、実家帰ってきても何にもしないくせに人のプリンだけは食うのかよ。」
さくにぃ、とは私と姉の明美の兄の咲斗。普段は東京でアパレル会社の経営をしていて最近久々に実家に帰ってきた。と言ってもほとんど家にはいない。アパレル会社の社長ということもあって他よりお洒落さんな兄はどうやら女にモテるらしい。こっちに帰ってきたら一緒に遊ぼーとか、今度の合コン来てよとか誘われて、予定が山積みらしい。
 そんなさくにぃと明美姉さんはとっても仲が悪くて、会う度会う度怒鳴りあっている。勘弁してほしい。小さい頃からずっと喧嘩しててその理由はいつもしょうもない。でも、一度だけ今までと比べ物にならないほどの大喧嘩があった。
 それは、高校生の明美姉さんが家に彼氏を連れてきた時のこと。さくにぃは近くの大学に通っていて、家にいることも多かった。
 その日、私は定期検診があった。もらった資料を机に置いたまま自部屋に行って一休みしていると
「お前ふざけんなよ!!」
さくにぃの怒鳴り声がした。いつもよりもひどく怒り狂っているような声だったから様子をみにリビングへ駆けると怒鳴られていたのはなんと明美姉さんの彼氏だった。
「お前は優佳の痛みも苦しみも何も知らない!そんな分際で全てを知ったみたいに大口を叩きやがって!反吐が出る!」
どうやら机に置いてあった資料をたまたま彼氏が目にして無礼なことを言ったらしい。
「お兄ちゃん、一旦冷静になってよ!そんな言い方しなくたっていいじゃん!」
明美姉さんがいつものように言い返す。
「はあ!?お前ほんと盲目だな!なんでこんな奴の味方なんかするんだよ。まじ意味わかんねえ。馬鹿馬鹿しいわ。」
正直、兄が私のことを庇ってくれたのはすごく嬉しかった。だけど、私はどんなことを言われたのかわからなかったから、泣きそうな明美姉さんの彼氏を見ていると、少し胸が痛くなった。
「本当にすいませんでした。」
震える声でそういう彼をあしらうようにしてさくにぃは、
「すいませんじゃねえよ。早く帰れ。失せろ。」
そう言ってリビングを後にした。
その日の夜、大喧嘩が起こった。
さくにぃが明美姉さんに言った一言がきっかけだった。
「明美、お前あんなやつと別れろ。苦労するぞ。」
それを聞いた姉さんは驚いていて、悲しそうで、怒ったような顔をして言い返した。
「なんでそんなのさくにぃに言われなきゃいけないの!あんた何様なの!?ふざけないでよ、私たちのことに口出ししないで!」
「なんだよあんな人のこと見下したようなやつ。いつかお前も見下されて、舐められて、捨てられる。やめとけ。」
「あんたに瑛太の何がわかんのよ!!」
考える隙も与えない程、早口で激しくて怖い口論。いつもとは何かが違っていた。
「お前妹があんなこと言われたんだぞ!?許せなくねえのかよ!!あんなことさせられといて、悔しくねえのかよ!!お前は盲目すぎる!馬鹿だ馬鹿!!」
「そりゃ優佳だって大事だけど、瑛太も同じくらい大事なの!!」
その言葉に、少しだけ、ほんと少しだけ、胸が痛くなった。
その瞬間、さくにぃは姉さんにお茶をかけた。
「お前ふざけんなよ!!優佳とあんなやつ比べんなよ!ありえねぇ。」
「なんでよ!別に同じくらい大事って言っただけじゃない!何が悪いの!?」
「わるかねえよ!!」
「じゃあなんでお茶かけたのよ!!」
「くだらねえんだよ。馬鹿馬鹿しいんだよ!大事なものってのはそんな簡単に決めていいもんじゃねぇんだよ。頭冷やせ馬鹿野郎!」
それから半年くらい、さくにぃと明美姉さんは口を聞かなかった。仲直りしたのは寒い冬の夜。部活が終わっていつもの時間に帰ってきた姉さんは半泣き状態だった。
「瑛太がぁ、部活の先輩とぉ、浮気してたのぉ〜!!」
そんな…。私はなんて声をかけたらいいか迷っていた時、慰めたのはさくにぃだった。
「悲しいな、辛いよな。おれはあいつ大嫌いだけど、いつか絶対お前を傷つけると思っていたけど、お前はあいつのこと本気で信じてたんだからな。裏切られたら、立ち直れなくなるのも無理はないんだけどな、今日はたくさん泣いて、甘いものでも買ってきてやるから、だから明日からは笑顔で学校行けよ。」
そう言って姉さんを抱きしめてるさくにぃの顔は優しかった。

Re: 愛を知る ( No.5 )
日時: 2024/07/31 22:07
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

2人は普段とっても仲が悪いけど、さくにぃは姉のことを誰よりも大切に思う。私はそれが羨ましくて、憎たらしかった。さくにぃが大好きだったから。いつも優しくて、私をみんなの輪の中に入れてくれるさくにぃが大好きだったから。私がさくにぃを一番に思っていたから、さくにぃにも一番に思ってほしかった。小さい頃からの夢だった。さくにぃが、私を一番気にかけてくれる事。...今は別にそんな子供じみたこと思ってないけど。
「たっだいまー!」
噂をすればさくにぃが帰ってきた。両手にたくさんの紙袋を抱えて。
「おいさくとぉー!!わたしのプリン勝手に食べたでしょ!!許さないから!」
姉が激怒する。久しぶりに聞く大声。頭がキーンとする。
「別にお前に許されなくたっていいもんねー。」
べー、と言う顔をしてさくにぃが言い返す。
「はぁ!?なにそれ!早く新しいの買ってきてよ!あれちょっと高いやつだったんだからね!?」
「へいへーい。」
めんどくさそうにさくにぃが言う。その後、くるりと振り返りわたしの方を向いた。
「優佳、おみあげ買ってきたんだー。お洋服!たくさん買ってきたの!」
そう言って大量の紙袋をわたしの前に置く。いつの間にかさくにぃの手持ちの紙袋は一つだけになっていた。
「これ、全部わたしに?」
「そ。優佳似合うだろうなーって思ってさー。買ってきちゃった!」
こんなにたくさん…。しかもどれも可愛い服。
「ありがと!さくにぃ!めっちゃ嬉しい!!」
「えへへー。やっぱ優佳は可愛いなあ〜。嫁にしたいくらいだよー。」
「それは嫌。」
そんなことを言い合っていると姉が寄ってきた。
「優佳ばっかずるいなぁ〜。明美もお洋服ほしいなぁ〜。」
「お前は今度プリン買ってやるから。」
「はぁ!?それさくにぃが勝手に食べたやつでしょ!?私もお洋服欲しいー!」
「わかった、わかったからぁー。今度買ってきてやるから、待っとけ。」
そう言って暴れる姉をなだめるさくにぃ。さくにぃの前では誰でも子供だ。私も姉も、他所の女だって子供になる。
さくにぃにもらったお洋服は、今度友達と遊びに行く時に着よう。真っ黒で大きなリボンのついたヒラヒラのワンピースにしようかな。

Re: 愛を知る ( No.6 )
日時: 2024/08/06 14:35
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

ひらりと揺れるワンピース。いつもより高い位置に結んだハーフアップ。胸元の大きなリボン。少しピンクがかったリップ。気合いを入れすぎてしまったかもしれない。でも、きっとみんな可愛いっていってくれるから、それが楽しみだ。
10時24分。集合は11時だったな。少し早めに行ってみんなを待ってよう。
最近の夏はとにかく暑くて、蒸し蒸している。電車の中が天国かのように思えて、もう末期だな。
集合場所の時計台の前に着いた。今日はやけに人が多いんだな。子連れにカップルに学生たち。時々、スーツを着たサラリーマンが忙しく通り過ぎる。
「こんな暑いとこで、1人で待ってんのかよ。」
どきっ。
慌てて振り返るとそこにいたのは同じクラスの名波賢太郎だ。
「ほんと、今日すっごく暑いよねー。名波くんも、結構早く着いたんじゃない?珍しいね。」
「別に。」
そう言ってスマホを手に取った。私と会話する気は無いようだ。
名波くんはすっごく愛想が悪いけど、すっごくかっこいい。白くて艶々の肌に高い鼻、目は切れ長だけど大きくて、まつ毛が長い。黒くて吸い込まれるような目には魅力があって、その目で見つめられたら、誰であっても平然とはしていられない。とにかく、思わず見惚れてしまうような見た目をしている。だから愛想が悪くても、クールでステキ、と言われ女子の注目の的となっている。
「…何?」
突然声をかけられてびっくりした。気付けば名波くんが不快そうな顔をしてこっちを見ていた。私、そんな見てたっけ…。
「いや、ごめん。なんでもない…。」
なんだか胸がドキドキして、うまく話せない。名波くんはやっぱり苦手だ。
そんなことを考えていたら、名波くんがいつのまにかいなくなってしまった。どうしよう。私が不快にさせたせいで、帰っちゃったのかな…。やっぱり見過ぎだったよね。居心地悪かったのかな。また後でちゃんと来てくれるといいんだけど…。
またまた考え込んでいたら急に、頬を冷たい何かが伝わる。
「…お水?」
そこにはお水を持った名波くんがいた。
「名波くん!帰っちゃったと思ったよー。どこ行ってたの?」
「自販機。」
そう言って名波くんは私の隣に座る。
「水瀬、顔真っ赤だったぞ。今日暑いからな。体調管理くらい自分でできるようにしろよ。倒れたらどうすんだよ。」
そう言って持っていたお水を私にくれた。
もしかして、心配してくれてたのかな。だとしたら申し訳ないな。だって私別に暑くて顔赤くしてた訳じゃないもん。
「もしかして、このお水。私に買ってきてくれたの?いくらだった?」
「いーよ。俺が勝手に買っただけだし。」
…ちょっと、申し訳ないな。でも、気使ってくれたのは嬉しい。
「ありがとね!」
満面の笑みでそう言ったのに、名波くんは見ていなかった。
「てか水瀬、メール見た?」
え?メール?見てない。
「その顔じゃ見てねーな。南列車の奴らが遅れるらしい。優大が遅刻。30分くらい遅れるから、カフェで先に待ってて欲しいだとさ。」
嘘でしょ。これから30分以上、名波くんと2人ってこと?無理無理。え、冗談でしょ?流石に。
「おい、水瀬!早く着いてこい。」
「ああ、ごめん…。」

カフェに着くと、なるべく広い席を確保して、2人向かい合わせで座った。
やばい。名波くんが目の前にいる。なんだか緊張する…。てか、なんか話しかけた方がいいのかな。
ずっと無言が続いてる気がするんだけど…。
「見て見て!あのカップル、めっちゃ美男美女じゃない?チョーお似合いなんだけどー!!」
カップル…。
「え!本当だ!でもなんか雰囲気悪くな〜い?倦怠期かな?別れる寸前だったりして!」
倦怠期…。
「え〜!だとしたらチョーウケるんだけど!ちゃっと見てようよ〜!」
人を見物のように扱って…。全部聞こえてるんですけど。
名波くんはこういうの、なんとも思わないのかな?そういうの嫌がりそうだけど。
「水瀬って、彼氏作ろうとか思わないの?」
急に、名波くんが話しかけてきた。しかもなんで急にこんな話…。
「ど、どうしたの?急に。」
「いや別に。水瀬ってなんか、''みんなの水瀬ちゃん''って感じがするから。」
みんなの水瀬ちゃん?
「なにそれ、名波くんって面白いこと言うね。それを言うなら、名波くんだってみんなの名波くんじゃない?」
冗談まじりで言ってみた。それだけだったのに、
「水瀬みたいな八方美人と一緒にすんな。」
きつい口調で、そんなことを言われたのは初めてだった。こんな風に、人の言葉で傷ついたのは久しぶりだった。

Re: 愛を知る ( No.7 )
日時: 2024/08/06 20:59
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

傷ついているわたしに遠慮せず、名波くんは続ける。
「水瀬、いつも人に合わせてばっかりで、人の気遣ってて。自分のやりたい事とか、考えたことねぇのかよ。あと、いつも人にばっか媚びてるくせに内心人のこと見下してるのが見え見えなんだよ。もっと周りも自分も大切にしろよ。」
なんでそんなこと、こいつに言われなきゃいけないの?どうしてそんな風に言うの?何にも知らないこいつになんでそんな風に言われなきゃいけないの。激しい怒りが込み上げて、涙すら出そうになって、胸がズキズキ痛くて…。
「な、なべ君なんか…名波君なんかだいっきらい!!。」
爆発してしまった。
「なんで名波君にそんなこと言われなきゃいけないの、私のことなんて何にも知らないくせに!何様なの!?」
一度破裂したら、ズラズラと。
「名波くんなんか大っ嫌い!」
そう言って席を立ってしまった。
「どこ行くんだよ。」
「帰るっ!!」
「待て。」
名波くんがそう言って、手首を掴む。
「離してっ!!」
「水瀬が帰ったら、こんなクソみてえな場所に来た意味が無くなる。」
「は?」
そ、その言い方ってまるで、私のことが好きみたいじゃん。
「座ってくれ。お願いだ。」
そんな風に言われたら、帰る気も失せたし。
私は黙って席に戻る。だけど、戻っても全然名波くんは話し出す気配がなかった。
「ねぇ、さっきのってどういう意味?」
恐る恐る聞いてみる。
「さっきのって何?」
ゔ、言わせないでほしい。
「そ、その…私が帰ったら、ここに来た意味がなくなるって…。」
「ああ、聞いていいか?」
名波くんはじっと私の目を見つめる。吸い込まれるように綺麗な瞳で。だから、目をそらしてしまった。
「うん…。」
「だいぶ昔に人工脳って話題になっただろ?」
え?
「俺らが小3くらいの時だな。今じゃもうそんな話聞きやしないけど。」
なんでそんな話してくるの?もしかして、私が人工脳を移植したこと、バレた?
「俺の親戚に発達障害を持った奴がいてな、そいつの親がもう面倒見るのが辛いからって人工脳の移植をするって言い出したんだよ。でも、俺らの周りなんて他にそんな奴いないし、やっぱり不安みたいでさ。」
「どうして私にそんなこと聞くの。」
怖い。バレたくない。これまでの生活が変わってほしくない。完璧だと思われたい。怖い、怖いよ。
「水瀬なら、偏見とか持たないタイプだし、それに、なんかいいアドバイスくれるかもなって思ったんだよ。」
なんだ、そんなことか。じゃあ別に私の人工脳のことがバレたわけじゃないのかな。
「そっか。頼りにしてくれたのは嬉しいけど、私じゃなんの役にも立てそうにないや。ごめんね。」
名波くんが私のことを頼りに…ふふっ。なんだかちょっと嬉しい。
「……だよな。変なこと言ってわり。」
その後は他の友達もみんな来て、一緒に遊んだ。とっても楽しかった。でも、名波くんはなんだか寂しそうに遠くを眺めてた。


Page:1 2 3 4



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。