複雑・ファジー小説
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- 愛を知る
- 日時: 2024/05/25 18:20
- 名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)
あらすじ
文明が発達し人工脳を作れるようになったこの時代、優佳も人工脳を移植していた。
しかし、彼女は知ってしまった。
自分の人工脳には何らかの不良があり、大脳辺縁系と置き換えられる場所の機能が低下していた。さらに人工脳の余命が7ヶ月であることが判明した。
途方に暮れていたある日、優佳は自身の姉である明美の作った人工知能"Sakura"に恋をしてしまう。
感情を失っていく少女と愛を知っていく人工知能の物語。
- 愛を知る ( No.1 )
- 日時: 2024/08/06 19:45
- 名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)
「ねぇ、今回のテストはどうだったの?優佳。」
テスト返却後、みんなに囲まれるのはいつものことだった。というか、常日頃から私はみんなの人気者だった。
「いつも通りだったかなぁ〜。」
「てことは、また100点!?」
「やっぱ水瀬はすげーな!」
「さっすが完璧ちゃん!!」
これもまた、いつもの流れ。私が100点?当たり前じゃないそんなの。私の脳は完璧なんだから。なんせ"人工"だし。
頭脳明晰、容姿端麗、それでいて謙虚であるのが、みんなから見た私だった。だから私はみんなの人気者でいられた。私もそれでよかった。独りは辛いことを知っていたから。でも、私を知ろうとしてくれる人はいないってことを私は少し辛く感じていた。
「大脳辺縁系の代わりになるこの部分に、異変が生じています。このまま悪化が続けば、優佳さんは怒りや哀しみ、喜びや楽しみなどの感情を感じることができなくなってしまいます。しかし、人工脳の修理法はまだー。」
は?だ、だいのうへんえんけい?なにそれ。感情を感じることができない?そんな漫画みたいな話あるかよ。
「さらに、言いづらいのですか…。優佳さん、その、あなたの人工脳の余命は、7ヶ月です。」
7ヶ月。人工脳に、余命?私の脳は完璧なんじゃないの?何言ってんのか、全くわかんない。私はただ、定期検診に行っただけだったのに。今までなんともなかったのに。どうして。こんなのってあり?
その日の帰りは、涙を必死にこらえた。何も考えたくはなかった。
スマホを開いて、姉の作ったAI、Sakuraを起動する。人間じゃないこいつは、悩みを吐き出すのにちょうどよかった。
ー助けて、話を聞いてほしい
ーはい。私でよければ、いくらでも相談に乗りますよ。どうされたのですか?
堅苦しっ。まあ所詮AIか。…私もこいつとあんまり変わんないけど。
私はSakuraに医者に言われた、覚えている限りのことを吐き出した。感情がなくなること、7ヶ月のことも。AIだし、もしかしたらいいアドバイスもくれるかなぁ。
ちょっと期待したけどSakuraはずっと考え込んだままだった。しばらく待ってみたけど、アプリが落ちてしまった。
ふふ。
「なにこいつ!ぽんこつじゃーん!」
Sakuraのことを少し微笑ましく思ってしまった。
- Re: 愛を知る ( No.2 )
- 日時: 2024/06/03 23:13
- 名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)
「お姉ちゃん、ねえお姉ちゃん!」
薄暗い中、私は走っていた。靴は泥まみれ、息は上がっている。
「お姉ちゃん!待って!お願い!お願い!!」
ずっと前、ずっと遠くに姉の姿が見える。その姿を見るたびに胸が締まる感覚が嫌いだ。
「お願い連れてかないで!置いてかないで!私を一人ぼっちにしないで!」
目が腫れ上がって熱い。声はもう枯れてきている。苦しい。
「もうあんなこと言わないから。だから許して。もうお姉ちゃんのこと見下したりしないから。だから、だから…」
寒い。冷たい。カラスが騒いでいる。
瞬間、妙な感覚がした。ドシャドシャというはずの私の足音が聞こえない。走っている感覚が全くない。気持ちが、とても悪い。
覚めた。空はとても晴れ渡っていて、さっきの景色とはまるで違う。小鳥が鳴いている。私は今まで違う世界にいたのだろうか。さっきのはなんだったの?
「優佳〜、起きて!朝ごはんできたよ〜!」
一階から姉の声がする。その声はいつもの可愛げのある声で、冷たい感じも、怒っている様子もなかった。
「今行く〜!」
七月は朝にも限らず日差しが強かった。
どんより。のっぺりした暗めの校舎を見て吐き気がするのはいつものこと。だけど、病院のこともあって今日は胸が傷んだ。もしも、人工脳のことがみんなにバレたら、バカにされるだろうか。今まで私をたたえてきた分、きっと私はみんなの遊び道具になってしまうのか。そんなことを考えて、また一人辛くなる。
「優佳ちゃん、だよね?あなた、こんなところで何してるの?」
…クラスの学級委員長の河中美香さん。この人はいい人なんだけど、少し当たりが強くてキツい感じがして苦手だ。でも、誰にでも平等にするのが、水瀬優佳。今日も頑張れ。
「美香さん、おはよう!相変わらず今日も暑いよねー。もう、困っちゃう!」
なるべく愛想よく。変なとこがないように。
「…そう。体調には気をつけてね。」
そう言って河中さんは先に行ってしまった。
呆れたような声だったな。何かダメだったかな。まあ私は愛想よく頑張ったし、向こうの問題なのかな。そういう日もあるしね!うんうん!
下駄箱にで靴を履き替え、廊下を歩く。いつも通りの人たちだ。教室の前で一度、深呼吸をする。普段はこんなことしないけど、今日は落ち着きがなかったから。よし。今日も頑張れ!
「おはようございますー!」
「優佳〜!おはよぉー!!」
「優佳ちゃん!今日ちょっと遅くなかった!?そんなことない!?」
「おお〜水瀬おはー!」
よかった。いつも通りだ。
「ねえ優佳ちゃん、今度のテスト範囲のとこなんだけど、数学わかんなすぎて、教えてくれない?」
「全然いいよ!逆に私、国語全然できなくて困ってたんだよー。明日香、教え合いっこしよーよ!」
ただ一つ違うこと。
「いいのー!?ありがと!私国語は結構できるのよねぇ!!」
「羨ましいよほんと。」
それは、今日なぜか河中さんとめちゃくちゃ目合うんだけど…。