二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

艦これ! ~黒い雨と夜明け〜
日時: 2016/11/30 19:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の方へ】

とまあ、どうもタクです。今回は、艦これの小説を書くに至りました。
ただ、この小説は他の版で書いているようながっつりとした長編ではなく、作者自身が好きなときに好きなだけ更新できる、をコンセプトにした短編集のようなものにするつもりです。
そして、脳内鎮守府要素が多々あるので、その辺はご了承ください。自分が所持していている艦娘が中心になると思います。
後、作者の元の作品の作風上、コメディ、シリアス、どっちもあるのでお楽しみに。

追記。
イベントの開始に伴い、こちらもイベント路線に変更。

——20XX年、深海より数多の侵略者・深海棲艦が現れた。世界各地の海が蹂躙される中、希望が現れる。それは、かつて大海原を舞台に戦った軍艦の魂を少女という器に宿した、人と似て非なる者、艦娘だった——

Page:1 2 3



E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.7 )
日時: 2017/02/01 23:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——ハッ」

 空を睨んだ龍驤は、鼻で嘲笑う。
 彩雲隊が捉えた光景。
 大量の白い新型機だ。搭載数の多い装甲空母姫であるが、艦載機の旧型化が甚だしかったが為にそこまで脅威に取られてはいなかった。
 しかし——艦載機が新型化している以上、最早その弱点は消えたと言っても良い。性能ではこちらの艦載機と同等以上と見てもいいだろう。

「——上等ッ!! 歴戦の空母・龍驤サマの相手はこれくらいやないと、務まらへんもんなぁ!!」

 飛行甲板となっている巻物を広げ、「勅令」と浮き出た指で甲板をなぞる。
 一方の瑞鳳も、背中の矢筒から弓矢を引き抜き、右手に握った和弓の弦にひっかけ、空に狙いを定めて引き絞った。

「さあ、仕切るで!! 第一次攻撃隊、発進!!」
「やるわよ! 第一次攻撃隊、発艦!!」

 式神は次々に深緑色の海鷲となり、大空へ羽ばたいた。
 同時に、空へ放たれた弓矢も燃え広がったと同時に同様に鋼の翼を持つ海鷲となって羽ばたく。
 空母艦娘は、普段は艦載機を弓矢や式神といったそれぞれの形で格納しており、このように発艦させる際には本来の姿にさせて飛び立たせることが出来るのだ。
 艦上戦闘機・烈風と艦上攻撃機・流星改が大空を舞った。いずれも、かつての大戦では活躍できなかった最新鋭機だ。
 しかし、それでも瑞鳳の表情は浮かないものだった。
 
「私達の搭載量で新型機搭載の装甲空母姫に勝てるのかなあ……!?」
「気持ちで負けたらあかん! それに、うちらブインは航空戦に於いては、他のどの鎮守府にも負けん! 軽空母だって、そうや! 全力尽くしたら、装甲空母にだって負けん!」
「そ、そうだよね……!」
「とはいえ、司令官が回避能力付与効果がある紫電改二やなくて烈風積んでけって意味は分かったかもしれへんな……正直、紫電改二やったら制空ほんまにギリギリやったかもしれん」
「うわあ……」

 彩雲隊が、彼女達の目となっており、航空戦の様子を脳裏に映し出していた。
 そして——航空戦が始まる。
 遥かマラッカ海峡の上空で、遂に白いタコ焼きのような図体に牙を生やした新型戦闘機や、魚雷を搭載した新型艦攻、そして爆弾を積んだ新型艦爆が、瑞鳳と龍驤の航空隊と会敵する。
 すぐさま、艦攻を狙って烈風隊が機銃による攻撃を開始するも、阻むように白い新型艦戦が牙を剥いて迫る。
 がばぁっ、と開いた口から機銃が現れ、烈風に向けて放たれ、相対した1機が撃墜された。
 しかし、それもヘッドオン(真っ向から相対)したもう1機によって撃ち落される。
 すぐさま、敵味方入り乱れた激しいドッグファイトが始まった。
 そんな中、艦戦の攻撃を潜り抜けた流星改が水面に急降下し、魚雷を落とすと——それらが敵艦隊目掛けて何本も飛んだのだった。
 直後、水柱が上がる。
 沈んだのは、護衛についていた駆逐ロ級後期型2隻だった。
 しかし、やはり制空争いが激しかったが為に、まともに敵艦隊へ打撃を与えられたのはこの2発のみである。
 一方、こちらにも烈風隊のヘッドオンを逃れた新型艦攻や新型艦爆が数機、飛んでくる。
 まるで、蠅のようにこちらの周りを飛び回り、爆弾や魚雷を放とうと隙を伺っていた。
 例え1発の爆弾でも、致命傷を負うことがある航空戦に於いて、対空戦闘は重要なのだ。

「くそっ、やっぱり抜けてきたか! ほんましつこい蚊トンボやで!」
「うええ、面倒くさいなあ——!」

 言ったのは川内だ。
 やはり、彼女にとっては夜戦で航空戦力の気兼ねをすることなく暴れまわるのが性に合っているのだろう。
 しかし。

「やらせません。私達の空は、取らせません!」

 そう言ったのは、イタリアだ。
 赤と白の甲板から、これまた白い機体に赤いストライプの塗装を施した機体が3機、飛び立つ。

「お願いします……Ro.44、sortita!」

 Ro.44水上戦闘機。
 哨戒機・観測機の排除を目的として作られた、イタリアの水上戦闘機だ。
 イタリアは航空戦艦ではない為、搭載数こそ少ないがこれで空の防衛に寄与することが出来るのである。
 さらに熟練度の高い機体は——軽空母クラスの敵の艦載機量ならば、制圧してしまうことも可能だ。
 ズババ、と白い攻撃機の頭に機銃が撃ち込まれた。
 更に、直掩機の烈風隊も残る爆撃機の排除に掛かる。

「クソッ、本当厄介だな! これ、全部撃ち落とせンのか!?」
「江風、敵機来たっぽい! 2時の方向!」
「うええっ!?」

 見れば、そこには雷跡が迫ってくるのが見える。
 回避を試みるが——次の瞬間、江風の目の前で水柱が上がった。
 川内が、副砲で魚雷を狙って誘爆させたのだ。

「江風! 大丈夫!?」
「は、はいっ! 江風は大丈夫、ですっ川内さん!! ありがとうございました!!」
「爆撃機は撃ち落して! だけど、魚雷なら駆逐の主砲でもギリギリ誘爆できるかもしれないから!」

 そのまま彼女は水面を蹴ると、再び上空に向かって機銃を放つ。
 その姿を見ながら、一人江風は目を輝かせていた。

「す、すげぇ……やっぱ川内さんかっけぇぇぇ……!」
「これでいつも夜戦夜戦ばっか言ってなかったら、かっこいい美人さんなのにねー。勿体ないっぽい」

 ともあれ、航空機を全てし、第一波は終わる。この空域では、もうこちらの烈風隊が飛び回っており、ギリギリ航空優勢だ。
 龍驤や瑞鳳が安堵の息をつく中、イタリアだけは言いしれない違和感を感じていた。
 此処まで来て、五十鈴隊を襲った件の高速の爆撃機が来なかった辺り、あの装甲空母姫たちが放った物ではないということに彼女は勘付いていたのだ。
 ——だとしたら、誰があんなものを放ったのでしょう……。気になります。 
 そう、思っていた矢先だった。
 
「……来るわよ! 砲撃戦、準備して!」

 叫んだ瑞鳳の声で、イタリアは我に返る。
 自らの眼となっているRo.43水偵が、敵艦隊の姿を捉える。
 超長射程のイタリアの主砲が、先制して攻撃を仕掛けた。

「主砲——狙え……今よ、撃て!!」

 声と共に、大口径の徹甲弾が撃ち放たれた。
 そして、装甲空母鬼1隻の飛行甲板を貫く。
 キイイイ、と悲鳴が響いた。一発大破のようだ。
 接近する両艦隊、夕立と江風、そして川内も一斉に主砲で敵艦隊を狙うが——

「ユウバクシテ——シズミナサイ——!!」

 旗艦・装甲空母姫と、随伴のもう1隻の装甲空母鬼による16inch3連装砲が斉射される。
 装甲空母鬼と、上位種の装甲空母姫は、装甲空母を呼称こそされてはいるが(初めて確認された地点が、イギリスの装甲空母・イラストリアスが駐留していた場所・マダガスカル沖の為)、その挙動の実態は魚雷を放つ航空戦艦だ。
 そのため、正規空母並みの搭載量を有していながら——アイオワ級戦艦と同等の口径を持つ主砲を持つ。
 長射程の砲弾が、こちらを捉えた。
 三連装砲が合計2門、6発の徹甲弾がこちらを狙う。
 最初こそ何とか射程範囲を抜けるが——2度目は、間に合わない。

「!!」

 直撃。
 最後尾を航行していた瑞鳳に、砲弾が当たる。
 展開された障壁が破壊され、爆炎で衣服が焼けていく。

「瑞鳳!!」
「瑞鳳さんっ!!」
「——だい、丈夫——!! ま、まだ、やれる——」
「あかんやろ!! もう航空攻撃は出来へんやん!!」

 龍驤の言う通り、弓の弦が切れた上に格納庫に直撃した瑞鳳は、もう空母としては行動できなくなっていた。
 それほどに、大口径主砲の恐ろしさを物語っていた。

「夕立の姉貴!! 川内さん!! 瑞鳳の弔い合戦だ!!」
「っぽい!!」
「よし、瑞鳳の仇、絶対取るよ!!」
「あ、あの、私まだ沈んでな——」
「いや、いちいち突っ込んだらキリあらへんでアレは」

 横腹を晒している敵艦隊に向けて、川内の15.2cm連装砲、そして夕立と江風の12.7cm連装砲B型改二が放たれた。
 対する重巡リ級flagshipもそれを躱し、主砲を放って反撃するも、3人が相手では狙いが定まらない。

「これでトドメっぽい!!」

 接近していた夕立が、超至近距離の魚雷をぶつける。怨嗟のような悲鳴が響き、リ級は海の藻屑と化した。
 残りは、片方が虫の息となっている装甲空母鬼2隻と、旗艦の装甲空母姫のみ。
 しかし、流石鬼・姫級と言ったところか。なかなか、主砲を直撃させても沈まない。
 そのまま航過し、離れてしまう。

「まっず!! 機関全力、面舵一杯!! 逃したらあかんで!!」

 大破した瑞鳳を抱える龍驤。
 しかし、離れたのを好機と見たのか、装甲空母姫と装甲空母鬼は再び自らの艦載機を飛ばし、上空から猛襲を掛けた。




「シズンデイキナサイ……ユウバクシテ、ムネンノママニ——」 

Re: 艦これ! ~黒い雨と夜明け〜 ( No.8 )
日時: 2017/01/22 20:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

ダモクレイトスさん

コメントありがとうございます。見逃していて申し訳ありません。
まあ、大体こんな感じで海域を攻略する話を小説全部で3つくらい上げる予定です。まあ、短編とか言っておきながら結局長くなりそうな予感がするんですけどね。

そちらの小説も読ませていただきました。というより、元はそちらの小説に影響されて、というのもあるんですよね。近々コメントしに行くと思います。

艦隊戦とか書けているかどうかとか、そもそも既存のキャラをメインにして書くこと自体が初めてなので不安もありますが、色々参考にして書いているところです。

ともかく、コメントは励みになります。これからもよろしくお願いします。ではでは。

E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.9 )
日時: 2017/02/02 18:23
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——!!」

 全艦は空を見上げた。
 染め上げていくかのような新型機達。
 そこから、雨のように爆弾が落ちていく。
 
「まずいっ、回避運動!! 輪形陣!! 高射高角で撃ち落して!!」

 川内の声と共に、夕立と江風も空を睨み、高角砲で敵機を狙う。
 イタリアも90mm単装高角砲で撃ち落そうとするが、やはり動きが速い上に機体の耐久力が高く、なかなか接近を防げない。 
 それどころか——

「!!」

 魚雷が、死角から直撃した。爆発と共に、イタリアの船体が穿かれて、煙と炎を吹く。

「っ……撃ち落せなかった——!!」
「イタリア!!」
「来ないでください!! 川内さんは艦隊の、防空を——!!」
「で、でも!!」

 川内が、損傷を負った彼女へ呼びかけるが、手で制された。
 しかし川内も損傷を負った仲間が何人も出る様を見て、冷静でいられるわけではない。

「!!」

 はっ、と川内は目を見開いた。
 爆撃機が1機、こちらへ超低空で突っ込んでくる。
 撃ち落し損ねた1機だ。爆弾が投下される。
 今度は自分が——覚悟を決めて、砲門を向けようとするが間に合わない。



「川内!!」


 
 空中で、爆弾は爆ぜた。
 硝煙が降りかかっただけで、自分に損傷は無い。
 見れば、撃ったのはずっと後ろの龍驤のようだった。

「倒れた仲間気にするのはええけど、自分の事疎かにしたらあかんで!!」

 彼女の25mm連装機銃がすんでのところで爆弾を狙撃したのだ。
 恐ろしい集中力が成す離れ業に、川内も戦慄する。
 すぐさま、夕立と江風の声も聞こえてきた。
 
「川内さん、夕立達まで落ちたら、装甲空母姫を落とせないかもしれないっぽい!!」
「今はイタリアを、今は信じるしかねぇって!!」
「……そ、そうだけど——!!」
 
 装甲空母姫は、嘲笑った。
 艦載機に翻弄される彼女達を。
 ——まずい、このままでは——!
 イタリアは後ろを見た。
 龍驤が大破した瑞鳳を庇っているのだ。しかし、この状況では誰かが持ち場を離れればすぐさま艦載機が対空砲火の抜け目から侵入してくるだろう。
 龍驤が、首にぶら下げた宝珠を握ると、”迎撃”と右手に文字が浮き出た。さっきから、ずっとそうだ。しかし、その直掩機達も、物量の差を前にして押されているようにさえ見えた。
 このままでは、皆爆撃を食らって終わりだ。
 海域に響くノイズ混じりの声が、死を奏でる不協和音を生み出していく。

 
「ケイクウボ2セキ……ザコゴトキデ、コノソラハトラセナイワ……!! ムナシイワネ……!!」


 
 
「——あ”あ”?」

 怒気の籠った声が、波を揺らした。
 次の瞬間——白い艦載機は全て、撃ち落されていく。
 彼女の手には、展開された巻物が握られていた。
 全機発艦。
 それが、彼女の、龍驤の下した唯一の指示であった。

「オマエ、さっきから何サマやねん。やれゆーばくやのやれ無念やの——誰に向かって言い寄るんや?」

 射貫くような視線が、装甲空母姫を睨んだ。
 彼女の近くには、飛行甲板の巻物が浮かんでいる。見れば、さっきまで彼女が手首に掛けていた宝珠が巻物にひっかけられており、それが浮力を与えている。
 
「軽空母ォ? 大日本帝国の軍艦の分類にンなモンあらへんわボケッ!! ウチは最初っから空母として作られた正真正銘の正規空母やし、瑞鳳も立派な航空母艦やッ!! それを馬鹿にする奴は、誰やろーがこの龍驤サマが、海の底にブッ叩き落とす!!」

 瑞鳳を抱きかかえた龍驤は、彼女の矢筒から弓矢を抜き取った。見れば、まだ無事だ。使える。掌でぼうっ、と炎が燃えると、矢は式神へと姿を変えた。

「ごめんな、瑞鳳。ちとうち、頭に血ィ上っちまったわ。やからこれ、借りるな——」
「……うん、龍驤」
 
 無言で、それらを甲板に載せると——再びそれは空へ向かって発艦し始める。
 龍驤の怒りの号令で士気が取り戻されつつあった烈風隊と流星隊だが、此処で更に増援が入ることで形勢が逆転する。
 白い艦載機達を、ヘッドオンし、撃ち落していく深緑の戦闘機。
 そして——水面へ急降下し、抱えた魚雷を放つ何筋もの流れ星。
 それが、2本。直進していく。
 
「食らえやっ!! これがお前の馬鹿にした軽空母の力やで!!」

 避ける間もなかった。
 装甲空母鬼2隻の船体に穴を開ける。
 悲鳴が海域に響き渡った。元より虫の息だった1隻は、成す術なく深海へ再び叩き落される。
 もう1隻も煙と爆炎が上がったので、ダメージコントロールを図るも時既に遅し。


 
「弾着観測射撃——今よ、撃て!!」



 装甲甲板を、イタリアの放った九一式徹甲弾が貫いた。
 爆炎が、敵艦隊を覆う。

「バ、カナ——!?」
「まだ、やれます……!! 私は、私は戦艦ですからっ!!」

 旗艦・装甲空母姫は、最後の随伴艦が沈められた事に衝撃を隠せないようだった。
 損害を負ったイタリアだったが、曲がった電動式の主砲を自らのカンと偵察機から送られてきた視界をフル活用し、ブレるであろう命中を補正して辛うじてトドメを刺す事に成功したのだ。
 沈んでいく夕陽。深海の艦載機は夜間でも行動が出来るものの——暗闇の中では動きは制限される。
 艦隊は、夜間での追撃戦に入った。
 撤退を試みる装甲空母姫だが、宵闇に打ち上げられる光の数々、そして照らされる自身。
 最後に龍驤は、探照灯に照らされた姫へ向かって冷淡に呟いた。



「——オマエの敗因は空やなくて、こいつらに”夜を渡した”ことや。夜は——狼が出るんやで。ごっつ怖い狼や。生きて帰れると思うなよ」



 黄金の眼光と、真紅の眼光が海を舞う。
 硝煙の匂いと共に——自らの船体に穴があけられ、沈んでいくことに装甲空母姫は気付いた。
 退避。退避しなければ。此処で逃げ切れば——そんな淡い願望は敢え無く打ち砕かれる事となる。




「ほんっと、夜って良いよね——夜って」




 ——眼前に突きつけられる15.2cm連装砲の2つの砲門が火を噴く。
 それが、装甲空母姫の見た最後の光景であった。

E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.10 )
日時: 2017/02/24 21:38
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

***


 ——数時間後、インド洋スリランカ島沖。
 西方海域の深海棲艦の拠点となっているこの地区に、連合機動部隊が最後の追い打ちを掛けていた。
 翔鶴達の航空隊による奇襲から始まり、更に長門の砲弾が守りについていた敵の戦艦を沈めていく。
 そして、重巡洋艦による三式弾砲撃が、夜間になったことで始まる。
 火花が飛び散り、その巨大な航空甲板に降りかかる。
 怨嗟の声を上げて燃え上がる陸上型深海棲艦の港湾要塞・港湾棲姫に——

「これで終わりよっ!! 三式弾、発射!!」

 ——青葉型重巡洋艦2番艦の衣笠の20.3cm3号砲から放たれた砲弾が、火の雨を撒き散らしたのだった。
 爆音と共に、呻き声があがる。

「ナニモ……ナニモ…ワカッテイナイ……」

 海域に広がっていた赤い海は、次第に元通りの済んだ青へと戻っていく。
 それは、この近辺の深海棲艦が全て打倒されたことを意味していた。

「——こちら旗艦・翔鶴。連合機動部隊、敵港湾要塞を破砕することに成功。帰還します」
『了解した。気を付けろよ。まだ作戦海域に、例の艦載機がいるかもしれん』
「承知しました」

 基地の木更津に連絡を取った翔鶴は安堵の息をついた。
 何とか、今回の作戦も無事終える事が出来そうだ。

「——!」

 その時だった。翔鶴は偵察機から入った電報を確認する。

「……どうした? 翔鶴」
「長門さん……実は……只今こちらの偵察機隊が輸送艦を発見しまして——」
「ねえ、翔鶴姉!」

 割り込むように入ってくる妹の瑞鶴を窘める翔鶴だったが、慌ただしそうにツインテールを揺らした彼女は言った。

「こっちも発見したよ——変なのを、見たって——」


 ***



「——というわけで、突入部隊によってマラッカ海峡に侵入していた敵艦隊は殲滅完了。そして、連合機動部隊によって敵港湾要塞の破壊も成功した」  
「はあ……何とかなったね……」
「時雨もデスクワークお疲れさん。今回は、敵が陸上型だったってのもあって余り出番は無かったな」
「まあ、ね……」

 苦笑いを見せる時雨。
 しかし、彼女のおかげで作戦中の大本営との連携が上手くとれたのも事実だ。
 
「……とはいえ、まだ終わっていないようだがな」

 厳しい表情で、提督は書類を見た。
 作戦の最後に翔鶴の彩雲が撤退する敵の輸送艦隊を捉えたのだという。
 丁度、既に後退しているところだったのとこちらの被害が大きかったのもあって、追撃は難しかったが。

「これがどういうことか分かるよな?」
「敵は、更に後方から支援を送っている、だよね」
「ああ。今回、こっちの対潜哨戒艦隊を襲撃した謎の艦載機……たいてい、深海棲艦が新しい兵器を使う時は輸送艦が不穏な動きを見せていることが多いんだが——頼めるか?」
「! 僕に任せるのかい?」
「ああ——」

 険しい顔で彼は言った。



「——小規模の水上打撃艦隊で、カスガダマ沖の敵の輸送艦隊を撃滅せよ。大本営からの命令だ」



 こくり、と時雨は頷く。
 しかし、同時に木更津は言った。

「今回の輸送艦隊……さっきの翔鶴が見た通り、少し不穏な動きを見せているらしいからな。くれぐれも気を付けてくれ」
「というのも?」
「偵察機が見たのは、輸送艦だけじゃない」

 一言おいて言うと、提督は続けた。



「——瑞鶴の彩雲隊が後退していく敵機を見たらしいんだ。マダガスカルの方へ、な」



 ***



「——ヘーイ、艦隊の皆さんー! 今回も、この金剛型四姉妹長女・金剛がバッチリ旗艦を務めマース!! 目を離したら、No!! だからネー!!」
「お姉さま!! 今日も素敵です!! 決まってます!!」
「でも、輸送艦隊相手なのに何で提督はわざわざ私達戦艦を使ったのでショウか? Why?」

 巫女装束のような服装、そして背中に巨大な主砲が伸びた艤装を背負っているのは金剛型姉妹の長女と次女、金剛と比叡だ。
 その後ろをついていくのは、2隻の駆逐艦。

「高速戦艦の皆、はっやーい!! 島風も負けませんよー!」
「島風ー……追い越しちゃだめだからね?」

 勿論、窘めているのは時雨だが、びゅんびゅんと勢いよく水面を走っているのはハイレグな下着にスカート、そして丈の短いセーラーというどこか目のやりどころに困る服装の駆逐艦だった。
 兎の耳のように長いリボンがゆらゆら、と揺れ、極めつけにはぴょんぴょんと海面を走っているロボットのような連装砲だった。

「連装砲ちゃん、かけっこしよ!」
「キューキュー!」
「島風ー! 今任務中だから!」
「ちぇー」

 後ろから時雨が呼びかけると、つまらなそうに彼女は言った。
 島風型駆逐艦、島風。既存の駆逐艦の枠を超え最新型の機関とタービン、武装を身に着けた高級駆逐艦だ。
 自らの速さにはとことんまで自信を持っており、奔放な性格で皆も手を焼いている。
 
「おーおー、高速戦艦の方々は速いこった。本当、何であたしらがこんな事やらなきゃいけないのかね、通商破壊」
「慢心は禁物よ、隼鷹。提督が私達を配備したってことはそれなりに危惧しなければいけない事態ということよ。敵に航空戦力がいるかもしれないということだわ」
「そーかい? ま、あたしと飛鷹がいりゃ機動部隊って言えるっしょ。だいじょーぶだいじょーぶ」

 そして、最後尾は彼女らよりも一歩遅い速度で航行する2隻の軽空母。
 両方とも、紅のスカートに銀色のジャケットを羽織っており、胸元には勾玉がついている。
 元、商船の改装空母・飛鷹と隼鷹だ。元の船体が大きいからか、搭載数は軽空母にしては非常に多い。
 また、龍驤と同様に2人共巻物から艦載機を発艦して飛ばしていた。
 此処まで、敵の駆逐艦がぽつ、ぽつといる程度だったが——

「! ソナーに反応! 敵潜水艦の反応だよ!」

 時雨のソナーが、敵の潜水艦を探知した。
 そのまま、対潜哨戒機の役目も果たす隼鷹と飛鷹の艦攻と時雨の爆雷がそれを排除しにかかる。
 しばらくして、すぐさま沈める事が出来たのでことなきを得た。
 何か、嫌な感じがするのだ。
 以前装甲空母姫と対峙したマダガスカル沖だが——今度はまた、違う様相となっていた。 
 その時、隼鷹が叫ぶ。

「——発見したよ!! 敵の艦載機隊!!」
「!!」

 全員は身構える。
 巻物を展開した飛鷹と隼鷹は、そこから式神の艦載機を一気に飛ばした。
 それが海鷲となって大空へ飛び立つ。

「敵空母、発見! 周囲に輸送艦多数! でも、あれって——」

 彩雲隊から送られた共有する隼鷹。
 確かにそれは輸送艦と、護衛の空母部隊だった。
 ただし——問題は、その空母だった。



「ナニヲシニ……ココマデキタノ——?」



 不協和音のように、”声”が海域に響き渡った。
 彩雲隊が捉えた影は、高角砲を備えた艤装。
 そして——”歯”が並んだ番傘を携えた着物の女性だった。
 しかし、その肌は酷く白く、また目は不気味に赤く光っており、深海棲艦であることを表していた。
 そして——自らの眷属である輸送艦隊を守るようにして、大量の白い球状の艦載機を飛ばしたのだった。

E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.11 )
日時: 2017/02/25 20:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——ナニヲシニ……ココマデキタノ……?」


 ——深海前線補給拠点、護衛空母隊——
 以前、装甲空母姫が陣取っていたマダガスカル周辺海域であるが、今回は敵の港湾要塞に補給物資を送って後方支援していたのだ。
 まだ、見えてはいない敵。
 しかし、すでに上空では艦載機隊同士の航空戦が行われている。
 海域中に響き渡る、不気味な”声”をバックにして——
 
「補給拠点護衛部隊ってところね……厄介だわ!」
「ま、索敵はこっちが勝ってるし、先制攻撃行くぜ! ヒャッハー!」

 彩雲隊が敵艦隊を補足する。
 ——新型の深海棲艦を旗艦に、軽母ヌ級flag ship2隻、残りは輸送ワ級flag shipが2隻——そして、

「気を付けて! 彩雲隊が魚雷艇を数隻補足したわ! 近くにもいるかもしれない!」
「魚雷艇——PT小鬼群、デスネ?」
「私たち戦艦じゃ、分が悪いですよ、お姉さま!?」

 戦艦の砲撃では、小さな魚雷艇——数隻で群れを成すPT小鬼群にはなかなか当たらない。
 しかも、彼女たちは強力な魚雷を持っており、食らえば一撃大破は免れない強敵。
 小さけれども侮ることなかれ、だ。

「有効なのは、駆逐艦の高射口角による攻撃ですが——」
「なら、適任が2人もいるデース!」
「うん! 僕たちが排——」

 言いかけた時雨を横切るように。
 三基の連装砲ちゃんと、一陣の風が戦場を駆け抜けた。

「時雨、おっそーい!! 魚雷艇なんて島風が先に全部沈めてあげるから!」
「ちょ、島風——僕も行くから!」

 そして、時雨もまたそれに着いていく。
 有能だが、どうも島風は自己過信しがちだ。
 そんな中、上空から現れる敵機の数々。そして、それを迎撃する隼鷹と飛鷹の紫電改二隊。
 あまりにも制空争いが激しいので、攻撃隊も敵本隊に攻撃を加えることができない。
 が、それは逆もまた然り。
 対空戦闘が得意な時雨が、迫ってくる敵機を1機ずつ叩き落していく。

「速度なら負けないネ! 比叡、私に続いてくだサーイ!」
「はいっ!」

 後に続く金剛と比叡。
 メインである敵輸送艦を、長射程の連装砲で沈めにかかる。
 その前路を切り開くのは——

「本当、しっつこーい! 数が多くて、きりがないって!」
「だから言ったじゃないか! 1人で突っ込むなって!」

 空を狙う時雨と、魚雷艇を狙う島風。
 上空の紫電改二隊が敵の艦爆艦攻を落としてくれているおかげで、対空射撃も捗っている。そのため、島風は魚雷艇の駆逐に専念できるわけだ。

「キャハハハハ……キャハハハ……! キャハハハハ……!」

 しかし——水上に対して手薄な時雨を狙って、不気味に木霊する嘲笑とともに魚雷が放たれる。
 真直線に撃たれたそれは、海に雷跡を残し、彼女をめがけて突貫する——

「だーかーらっ、おっそいってば!」

 ——が、それは時雨に到達することなく爆発して水しぶきを上げた。
 連装砲ちゃんのうちの1基が魚雷めがけて砲弾を放ち、誘爆させたのだ。
 凄まじい速さだった。
 先ほどまで魚雷艇に集中していたとは思えない程の対応だった。
 
「島風、ありがとう——」
「いいって! それよりしぐしぐ、こっちも敵本隊が見えてきたよ!」

 第一次攻撃隊の攻撃が終わったからか、空襲は手薄になり、島風も魚雷艇達の排除に成功する。
 後ろからついてきた金剛、比叡、そして遅れて飛鷹と隼鷹が周囲を警戒したが、このあたりの敵はあらかた片付いたようだ。
 
「……姉さま」
「Yes……敵のボスのお出ましネ!」

 視界の先には——着物を羽織り、番傘を掲げた深海棲艦の新型。
 その傘から、こぼれるように球型の艦載機が飛んでいくのが、偵察機の報告で分かった。
 
「敵艦隊旗艦、確認! ブイン基地へ報告の後、砲撃で敵空母隊へ攻撃しマース!」
「はいっ、比叡は地獄の先まで着いていきますお姉さま!」
「ちょっとは自重しようよ、比叡……」
「もー、グンマー邪魔っこーい!! 着いて来ないでってば!!」

 前路掃討を行う時雨と島風。
 そして、電信によってブインへ電信を飛ばす金剛と比叡。
 後方から艦載機で援護する隼鷹と飛鷹。
 単縦陣となり、ついに接敵した敵艦隊との砲撃戦が始まったのだった。
 球形の艦載機が飛んでいく。
 それを搭載しているのは、旗艦のみならず随伴の軽母ヌ級flag shipも同様だ。
 しかし。

「——全砲門、fire!!」
「——撃ちます!! 当たって!!」

 ごしゃあっ、とヌ級1隻の巨大な頭部を九一式徹甲弾が4発、貫通した。
 轟音とともに爆炎が上がり、偵察機が敵の轟沈を確認する。

「金剛と比叡……やったわね……! 一隻、黙らせたわ!」
「だけどまだ、旗艦も含めて敵の空母は3隻もいるぜ?」
「みんな軽空母だから、やれないことはないはずよ! どうも、全員新型艦載機を積んでるみたいだけど——!」

 

「ジャマヲシナイデ——!!」



 不協和音。
 それとともに、敵の航空隊がこちらへ接近するのを彩雲隊が捉えた。
 
「こっちも負けないわよ!! 改装空母を嘗めないで頂戴!!」

 ブウウン、と音が鳴ると共に飛鷹と隼鷹の巻物から式神が艦載機となって飛び立つ——



 ***



「——提督、敵旗艦の情報が送られてきました」
「ご苦労、大淀」

 言った木更津は、偵察機から撮影された敵艦隊の写真をコンピューターで確認する。 
 それを見た途端、顔が青褪めたようだった。
 
「新型の鬼姫級でしょうか……?」
「……いや、違うな」
「でも、基地に置かれているデーターベースには——」
「ここに来る前、ある情報を見せて貰ったんだ。2年前に起こった、”ブイン大空襲”のな」
「——!」

 ブイン大空襲。
 それは、突如大規模な空母機動部隊がブインに襲来したというもの。
 この時、ブイン基地の艦隊は壊滅、多数の轟沈艦が出ており、非常に大きな被害を齎したといわれている。
 その原因は、ヘンダーソン飛行場こと飛行場姫の復活に機動部隊が呼び寄せられたから、というものであった。

「そして、その際に——写真のこいつは確かに確認されている。空母棲姫に比べれば確かに小型かもしれないが、深海棲艦の例に漏れず小型艦でも堅牢な装甲を誇っている」
「と、言いますと——」
「ああ。ある意味では、因縁の敵といったところか——」

 

 ***



「こちら、金剛旗艦水上打撃部隊——報告します!!」

 悲壮な声で比叡が叫ぶのが聞こえる。
 時雨は、目の前の高射砲を空に向かって撃ち続けるが、きりがない。
 さらに、金剛と飛鷹が先の艦載機による雷撃を受けて、大破したことで、戦況が危ぶまれてきたのだった。

「金剛姉様、飛鷹大破——!! 航空攻撃が苛烈で、敵艦隊に接近するのが困難——!!」

 思わず目の前の敵を睨んだ。
 輪形陣の中心にいる、青白い肌の深海棲艦——今まで、その姿を見ることが出来ていたのは、偵察機を搭載している戦艦や軽空母達だけだったが、ここまで接近すれば艤装を装備した時雨でも視認することが出来た。
 そしてその姿は——彼女の記憶に、強く訴えかけるものがあったのだった。



「——ジャマヲシナイデ……シズミタク、ナイナラネ——!!」




 強く唇を噛み締めた。
 2年前の悲劇——それを起こした深海棲艦——覚えているのは、自分だけだ。

「見たことがある——こいつは——」

 ——軽空母、護衛空母鬼——艦種、鬼。



「——沈めなきゃ、いけないっ——!!」



 ——ブイン大空襲機動部隊、旗艦——


Page:1 2 3



この掲示板は過去ログ化されています。