二次創作小説(新・総合)

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Faveric~SS集~
日時: 2021/12/04 23:47
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

こちらのスレッドは、日常系を中心とした様々な二次創作のSS集となっております。私綾木の気の向くままに更新しています。
他の綾木作品とは一線を画した作風となっております。あらかじめご了承下さい。
シリアス要素も含まれておりますので、その類の描写が苦手な方は閲覧をお控え下さい。



①9月の空の色   >>1-11
 元作品:キルミーベイベー、きんいろモザイク

②心地のよい朝   >>12-14
 元作品:ご注文はうさぎですか?

③執筆中



2021.12.3 スレッドを大幅にリニューアルいたしました。

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.10 )
日時: 2021/09/05 23:50
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

「……て」

「……?」

窓からうっすらと差し込む暖かな太陽の光。その光の向こうから何かが聞こえます。

「シノ、朝だよー!起きてー!」

「ん……アリス……」

私、大宮忍と言います。キラッキラの女子高生です!

「早く起きないと、ソーニャちゃんが帰っちゃうよ~」

「えぇ!?それはダメです!待ってくださいソーニャちゃん!」

「えっ!?起きた!?」

昨日と同じ失敗はしません。昨日はアリスが行く前に起きることができませんでしたが、今日はソーニャちゃんが帰ってしまう前に起きることができました!

「スゥ…………」

いや、ソーニャちゃんは帰るどころかまだ隣で寝ていました。

「……って、まだソーニャちゃん寝てるじゃないですか~!アリスったら~!」

「…………シノ~~~~!」

「えっ?どうしたんですか、アリス?」

アリスはどうやら怒っているようでしたが、私にはその理由が分かりませんでした。

「昨日私が行っちゃうって行っても全然起きなかったのに、今日はしっかり起きるなんて…………!」

「あっ…………」

私の成長が、どうやらアリスには不満だったようです。アリスはまるで風船のように頬を膨らませています。私はアリスのそんな表情にも魅力を感じずにはいられないのでした。

「私とソーニャ、どっちが大事なの…………!?」

「そんな~!どっちも大好きですよ~!」

「…………わぁっ!?」

お詫びの意味も込めて、私はアリスの小さな身体を両腕で包み込みます。そして、身体全体でアリスの体温を感じ取ります。

「シノ……?」

「私がアリスのことを嫌いになったりするはずありません。アリスは、いつまでも私の宝物ですよ」

「シノ…………」

小麦のように柔らかいアリスの金髪を撫でながら、アリスの怒りを鎮めます。

「ソーニャちゃんは今日で帰ってしまいますから、つい慌ててしまって………別にアリスのことが大事じゃないとか、決してそんなこと思っていませんから、安心してください」

「シノ…………そうだよね、変なこと言ってごめん」

何とかアリスを落ち着かせることができたようです。私はアリスから腕を解いて一つ息をつきました。

「でもシノ、これからはいつもすぐに起きられるようになろうね」

「は……はい!頑張ります!」

隣ではまだソーニャちゃんが静かに眠っています。色々と疲れていたようなので、無理には起こさないことにしました。
ソーニャちゃんはいつの間にか壁の方ではなくこっちの方を向いていたので、寝顔を見ることができました。その寝顔は、どこか安心し切ったような、暖かく柔らかい表情でした。私は、そんな表情をいつまでも見つめていたいと思いました。

アリスと私は着替えてから1階に降り、洗面所に行きます。いつも私の寝起きが悪いこともあり、アリスと一緒に顔を洗いに行くのは何だか久しぶりです。
顔を洗って洗面所から出ると、そこにお母さんがいました。

「あら2人とも、おはよう」

「おはよう!」

「おはようございます!」

お母さんと朝の挨拶をかわします。これもアリスと2人でというのは久しぶりで、何だか新鮮な気持ちです。

「忍、どうしたの?今日日曜日なのに随分早いわね」

「はい!今日からの私は、昨日までの私とは違いますから!」

「アハハッ!何よそれ」

「ちょっと!何で笑うんですか~!」

私の言ったことは嘘ではありません。これからは自分のことのみならず他の人をこれまで以上に思いやり、できればその人に信頼されるような存在になると決めたんですから。

「じゃあアリスちゃん、朝ご飯の準備手伝ってくれるかしら?」

「うん!任せて!」

これは……新しい自分を見せるチャンスです!

「わ……私も手伝います!」

「忍?」

「シノ!?」

お母さんとアリスはとても驚いた様子でした。無理もありません。私が率先して家の手伝いをするなど、これまでほとんどなかったのですから。

「忍…………大丈夫?熱でもあるの?」

「シノ、無理に起こしちゃってごめんね……」

「何でそうなるんですか!私は健康ですよ~!」

でも、こういう些細なことの積み重ねが大事だと思います。一歩ずつ、自分を理想に近づけていきたい。

「じゃあ、せっかくだから今日は忍にもお願いしようかしら」

「はい!よろしくお願いします!」

そう言うと私たち3人は台所に向かいます。
リビングではお姉ちゃんがスタンバイしていました。

「イサミ~おはよう!」

「お姉ちゃん、おはようございます!」

「あら忍、今日は早いじゃない」

「はい!今日の私は一味違いますよ!」

お姉ちゃんはすぐにこちらに向かってきて朝食の準備を手伝おうとします。
でも、今日は私の仕事です。

「お姉ちゃん、今日は休んでてください!今日は私がやりますから!」

「えっ、そうなの?」

「勇、今日は忍が手伝ってくれるって、自分から言ってたのよ」

「こんなこと、もう二度とないかもしれないよ!」

「ひ、一言多いですよ~!」

今日の私は本気です。私のことは誰もストップできません!

「フッ……じゃあ、お願いするわ。私のカップ、割らないようにね」

「はい!任せてください!」

そう言うと、お姉ちゃんはリビングに戻っていきました。
私たちは早速準備に取りかかります。私の仕事はみんなの分の食器を出すなど簡単なことばかりでしたが、それでもみんなで作業をしていると気分がよくなります。それは、今までみんなに任せっきりでどこか申し訳なさを感じていたからだと思います。

「じゃあ、あとはお母さんがやっておくから!2人ともありがとう、助かったわ」

「分かりました!お願いします!」

こんなに充実した朝は久しぶりです。これからは毎朝でも協力したい、できれば料理までできるようになりたいと思うのでした。

「じゃあ、そろそろソーニャちゃんを起こそうか」

「はい、そうですね!」

「あ、ソーニャちゃんの着替え、持って行ってあげて~」

一通り準備を終えた後、私たちはソーニャちゃんを起こすために一旦部屋に戻ります。
上に上がる間、どっちが先に声をかけるか2人で考えていたのですが、部屋に着いたときソーニャちゃんはちょうど起き上がるところでした。

「あっ!おはよう、ソーニャ」

「ソーニャちゃん、おはようございます!」

「ん…………2人とも、起きてたのか」

ソーニャちゃんは目を擦りながら立ち上がります。朝日に照らされたその髪は、昨日以上に光を反射していて眩しいくらいです。

「朝ごはんの準備できてるよ!着替えて早く降りてきてね」

「あぁ……すまないな」

「じゃあ私たちは下で待っていますね!」

「その…………忍」

「……ソーニャちゃん?」

私とアリスが下に降りようとしたその時、ソーニャちゃんに呼ばれた私は立ち止まります。

「少し話したいことがあるんだが……いいか?」

「分かりました……アリス、先に行っててもらえますか?私もすぐに行きますから!」

「うん、分かった!下で待ってるね!」

そう言うと再びアリスは下へ降りて行きました。朝日が差し込む電気のついていない部屋には私とソーニャちゃんの2人だけになりました。

「ソーニャちゃん、話って何ですか?」

「その…………昨晩は色々すまなかった。話聞いてもらって」

「そのことでしたか……私全然大したこと言ってないですし、そんなに丁寧にお礼を言われる義理はないですよ」

「そんなことはないと思うが」

ソーニャちゃんは重ね重ね私に感謝してくれています。
その姿を見て、私はいつまでもソーニャちゃんとお話をしていたいと思いました。

「ソーニャちゃん……今日帰ってしまうんですよね……」

「あぁ、本当は昨日のうちに帰りたかったんだが」

「その……1つお願いがあるのですが、いいですか?」

「……?何だ?」

「最後にその金髪、触らせ」

「ダメだ」

「で……ですよねー……」

やっぱり、まだそこまでは心を許していないようです。出会ってまだ1日なので当然と言えば当然だとは思いますが、少し距離を感じて寂しい気持ちになりました。

「じゃあ支度するから、先に行っててくれ」

「私、ここで待ってます!もう少しお話をしていたいんです」

「今からここで着替えるんだが……見てたらシメるぞ」

「はっ……じゃあ、ドアを閉めて外で待ってます!これなら見えませんし、お話もできますよね!」

「忍…………」

「これでも、ダメですか……?」

「フッ…………勝手にしろ」

そう言うソーニャちゃんの口元は心なしか少し緩んでいたような気がしました。

ソーニャちゃんが帰る準備を済ませた後、私たちは再び食卓に戻り、朝食をとります。
食事は1人よりも複数人で一緒にした方がおいしく感じるというのはよく聞く話ですが、今日ほどそのことを実感した日はありませんでした。
これからは休日も早く起きて、アリスと一緒に食事ができるように頑張ろうと思います!

「じゃあ、私はそろそろ撮影に行くわね」

「お姉ちゃん!もう行くんですか?」

「今日はちょっと遠いから、早めに出ておこうと思って」

「イサミ、行ってらっしゃい!」

「ソーニャちゃん、またねー」

そう言うとお姉ちゃんは出て行ってしまいました。ソーニャちゃんに対する最後の言葉があっさりしているのはお姉ちゃんらしいと思いました。

「私も、そろそろ行こうと思う」

「えっ!ソーニャちゃんも行っちゃうんですか!?」

「私がここに長居させてもらう義理はない……それに、これからどんどん暑くなるだろうしな」

「そっか……確かに暑くなる前に出発した方がいいね!」

「ソーニャちゃん、何度も言いますが、遠慮は不要ですよ!」

「だから遠慮してないって」

すぐにソーニャちゃんは出発の準備を整え、玄関に向かいます。
私、アリス、お母さんの3人も送り出すために家の外に出ます。

「ソーニャちゃん!」

「……?」

ソーニャちゃんが出発する直前、私はソーニャちゃんを呼び止めます。

「これ、持って行ってください!」

ソーニャちゃんに手渡したのは昨日と同じ2Lの水のボトルです。

「だから、こんなに要らないって……」

「この暑さだと何があるか分かりませんから!少し重いかもしれませんが、これで絶対安心です!」

「確かに、これだけあれば足りそうだね……」

結局、ソーニャちゃんはそのボトルを受け取ってくれることになりました。
手に2Lのボトルを持つその姿は端から見ると少し滑稽でしたが、命より大事なものはありません。

「じゃあ、行くぞ」

「来てくれてありがとう!少しの間だったけど、楽しかったよ!」

「ソーニャちゃん、気を付けて帰ってね~!」

「…………」

ソーニャちゃんが帰ってしまいます……でも、言葉が出てきません。最後にお別れをしないといけないのに、それを認めたくない自分がいます。

「行っちゃったわね……」

「そうだね……」

「…………」

1日しか一緒にいなかったのに、いざソーニャちゃんが行ってしまうとなると心に大きな穴が空いたような感覚になりました。私は今、ものすごくやるせない気持ちです。

「…………ッ!」

「……!?シノ!?」

無意識のうちに、私は走り出していました。
まだソーニャちゃんと話したいことがあります。まだソーニャちゃんのことを見ていたいです。
いつの間にか、私にとってソーニャちゃんはなくてはならない存在になっていたんです。

「ソーニャちゃ~ん!」

私の声を聞いてソーニャちゃんはこちらに背中を向けたまま立ち止まります。
その背中は、凛としてまるで大きな壁のようにそびえ立っていました。過去を振り返らず、決意を固めて新たなスタートを切るソーニャちゃん。顔を見なくても自信に満ち溢れていることが雰囲気から伝わってきます。

「…………」

そうです。ソーニャちゃんは未来に向けてもうすでに歩き始めています。私も、いつまでも甘えず前を向かなければいけません。
お別れはいつでも辛いものですが、出会いがある以上避けられないものです。
弱音を吐く場面ではありません。最後は笑顔で送り出しましょう!

「また、いつでも来てくださいね~!」

「…………」

ソーニャちゃんは何も言わず、私の呼びかけに応えるように軽く手を挙げて歩いていきました。言葉は交わせませんでしたが、最後に心が通じ合ったような気がしました。
去り際までクールなところに、どこかソーニャちゃんらしさを感じました。

家の前に戻ると、アリスが私を待ってくれていました。

「シノ、大丈夫?」

「アリス…………私、寂しくなんかないですよ。ソーニャちゃんと私の心はもうつながっていますから……私も、いつまでも立ち止まっているわけにはいきません!」

「そっか…………そうだよね!」

「それに、私にはアリスがいますしね!」

「えっ!?シノ!暑いから離れて~!」

アリスにくっつきながら、私はもう一度小さくなっていくソーニャちゃんの方を見ます。
9月の太陽の下、ソーニャちゃんの後ろ姿に映えるのは純粋な金色の髪です。
背中に伸びるツインテールのその先まで、それは輝きに満ち溢れています!

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.11 )
日時: 2021/12/03 23:26
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

忍の家を去って1時間ほど。どれくらいの距離を歩いただろうか。
私は普段からあまり公共交通機関というものをあまり利用せず、学校はもちろん、殺し屋としての依頼で指示された場所へも徒歩で向かっている。今回も例外ではなく、今私は自分の足で帰っている途中だ。

「しかし…………暑いな…………」

早めに出発したのに、今日も体の芯まで焼けてしまうほどに暑い。よく9月は秋の始まりだという話を聞くのだが、私は9月はまだ夏の一部だと思っている。

歩きっぱなしで少し疲れてきたので、私は近くの木陰に腰を下ろして少し休憩することにした。

「ハァ…………」

太陽の反対側に伸びる木の影は、私の身体をうずめるのには十分な広さだった。直射日光が当たらないこの空間に吹き込む風が心地いい。

「…………ぬるいな…………」

私はペットボトルを口に運び水を一口だけ飲んだ。しかしこの暑さのせいか、1時間前に出発したときの冷たさは完全に無くなっていた。

すると突然、ポケットに入れていた携帯電話が振動し始めた。私は手に持っていた水のボトルをそばに置いて携帯電話を取り出した。

「来たか…………!」

本部からの電話だった。どうやら1日経って最終的な結論が出たらしい。
私は小刻みに震える指で発信ボタンを押し、電話を耳に運んだ。

「もしもし……?」

電話の向こうからは聞きなれない声がした。恐らく組織の中でもトップの方の人だろう。こんなに高い地位の人と話すのは、私が殺し屋になったとき以来だろうか。
話しているうちに、私は、自分の鼓動が激しくなるのを感じた。さっきまであんなに暑かったのに、頭の奥に寒気が走る。いくら息を吸っても酸素が足りず、呼吸が荒くなる。

「…………ッ!」

いよいよ私の処分についての話を切り出されたとき、思わず言葉に詰まってしまった。
心の準備はできていたつもりなのに、これから発せられる言葉を聞くのが怖い。雑音でかき消してしまいたい。今すぐに電話を切り、電源を切ってどこかに隠れてしまいたい。
でも、そうするべきではないということは分かっている。私は、どんな運命もしっかりと受け止めると決めたのだ。現実から目をそらしてはいけない。
そばに置いておいたペットボトルに目をやった。そうだ。私はもう一人じゃない。私のことを本気で思ってくれる人がいる。その事実が私の背中を押してくれた。

電話の相手は私の様子がおかしいことに気づいていたのか、話をするのを待ってくれていた。私は少し時間を使って呼吸を整えてから、話を始めるように促した。

「…………えっ…………?」

いざ話が始まると、私は思わず耳を疑った。何と、私の指令書が無事本部に戻ってきたというのだ。

「ど……どういうことだ……?」

そこで初めて事件の全貌が明らかになった。あの時私を襲ったのはやはり別の殺し屋グループの一員で、何らかの原因により私への依頼の内容があちら側に知れ渡ってしまったらしい。しかし、指令書を奪ったその殺し屋は本部に戻る途中であろうことか腰を痛めてしまったらしい。それでそいつが悶絶しているところを、幸運なことに私と同じ組織のメンバーが見つけ、難なく指令書を奪い返してくれたとのことだ。

「…………そうか…………」

しかし、私がいともたやすく指令書を奪われ、あわや情報漏洩寸前にまで至ったという事実は組織も重く受け止めており、私は3週間の停職処分を言い渡された。これでしばらくの間私の元には依頼が来なくなる。しかし、永続的な処分でないことは不幸中の幸いだ。

「はい……では……」

電話を切って、私はゆっくりと一つ大きな息をつく。すると、コンロの油汚れのように私の内側にしつこくへばりついていたものが、一気に洗い流されるような感覚を覚えた。何か体の中身が空っぽになったようで、このままだと宙に浮いてしまいそうだ。

「…………」

力が抜けて抜け殻のようになった私は快晴の空を見上げた。
今回私が組織を追放されずに済んだのはただの運にすぎない。二度目はないだろう。だが、何はともあれ私はもう一度チャンスを与えられたのである。

「フッ…………」

忍、すまないな。私はもう少し殺し屋として頑張ることができるようだ。
でも、忍から教えてもらったことは決して無駄ではない。今の私はもう後ろ向きではない。自分のやるべきことを見失ったりはしない。いつまでも過去のことを引きずったりしない。このことを改めて思い出させてくれた忍には感謝しかない。本当にありがとう、忍。

そんなことを思っていると再び携帯電話が振動するのを感じた。

「今度は何だ……?」

やすなからのメールだった。日曜日にやすなからのメールをもらうことはこれまであまりなかったため、少し驚いた。
メールを開いてみると、こんな内容のことが書かれていた。偶然UFOの着陸現場に遭遇し、そこから降りてきた宇宙人を捕まえたから、早く見に来いと。日曜日だというのに、いつも通り全くくだらない。本当にヒマな奴だ。

「さて……分からせてやるか」

携帯電話をしまい、私は再び歩き始める。初めの一歩は、紛れもなく新たな私としての第一歩だ。



Re: Faveric~SS集~ ( No.12 )
日時: 2021/12/04 23:52
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

「チノちゃん、おはよう!」

「おはようございます、ココアさん。今日は早いですね」

「えへへ~、私だってやればできる子なんだから!」

 いつも私がいないと起きることができないココアさんが自分でこんな時間に降りてくるなんて、いつ以来でしょうか。今日この後嵐にならなければいいのですが。

 今日は私もココアさんも学校が休みなので、朝からラビットハウスのシフトに入っています。こういう日は普通開店時間まで私が1人で準備を行うのですが、今日はココアさんもいることですし、少しは手伝ってもらいましょう。

「ココアさん、早速ですがここにあるカップとお皿を洗ってもらえないでしょうか」

「いいよ!ここにあるの全部?」

「はい。量が量なので大変だとは思いますが、私もお店の掃除が終わったらすぐフォローに入りますので」

「大丈夫!お姉ちゃんに、まかせなさ~い!」

 そう言うとココアさんはすぐにコーヒーカップを洗い始めました。仕事に取り掛かるのは人一倍早いのに、毎回謎の「お姉ちゃんポーズ」を欠かさないココアさんには複雑な心境しかありません。

 ココアさんがカップを洗ってくれている間、私はテーブル周りの掃除を行います。掃除と言っても、雑巾で軽く椅子やテーブルの表面を拭いて、メニューなど小物のセッティングを行うだけの簡単な作業なのですが。ココアさんには比較的大変な食器洗いの方を投げてしまいましたが、こっちを任せた方がよかったでしょうか。いや、普段は私が一人で全部やっているんですし、ココアさんには少しでも私の日頃の苦労を知ってもらうということにしましょう。

Re: Faveric~SS集~ ( No.13 )
日時: 2021/12/04 23:53
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

 私が一席目の掃除を終えようかというとき、突然台所の方から何かが砕け散るような、高く鋭い音が聞こえてきました。

「うわぁっ!?割れちゃった!」

「ココアさん!」

 私はすぐにココアさんの元へ駆け寄りました。どうやらカップを落として割ってしまったようです。胸元で両手を震わせ立ち尽くすココアさんの足元には、無数の白い欠片が散らばっていました。

「ココアさん……大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

「うん……私は大丈夫。でも……」

「とりあえず、こっちに来てください。足元には気を付けてくださいね」

 破片の近くにいると危ないと思い、ココアさんを私の方へ呼び寄せました。ココアさんの手を引き、体勢が崩れないよう慎重にこちらに手繰り寄せます。その間、ココアさんはうつむいたままで私と目を合わせることはありませんでした。
 ココアさんの指先は洗剤まじりの水道水で湿っていましたが、どこを見ても傷は見当たりません。とりあえず怪我はなかったようで、私は一つ胸をなでおろしました。

「チノちゃん……ごめん……」

「気にしないでください。手が滑るなんて、洗い物をしていればよくあることです」

「……そのカップ……」

「カップですか?それなら、いくらでも替えのものがあります。1つ割れてしまったからといって、どうということは」

「違うの…………それは、普通のカップじゃないの……!」

 ココアさんの絞り出すような声を疑問に感じながら、私はもう一度台所の床に目をやりました。転がっている破片の一つに、水色の塗料がついているのが見えました。
 それを見て、普段なら些細な失敗を笑い飛ばしてしまうココアさんがここまで深刻な面持ちでいる理由がようやく分かりました。この破片は、私の一番のお気に入りのカップのものだったのです。このカップは私が小さなときからずっと使っていた私物なのですが、どういうわけかお客さんに出す用のカップと紛れてしまっていたようです。
 私は振り返り、ココアさんの顔を見ました。破片の方に乾いた視線を送り続けるその目に涙が浮かんでいるのが分かりました。瞳からはいつもの活力に満ち溢れた光が消えていて、まるでこの世の終わりを直視しているかのようです。

 「それ……チノちゃんがいつも使ってたやつだよね…………私いつも見てたから、分かるんだ…………」

「…………」

「それなのに……それなのに、私……!」

 とうとう堪えられなくなったようで、ココアさんの目から一粒、また一粒と涙が落ちていきました。その一粒一粒はラビットハウスの木製の床に受け止められ、やがて奥に吸い込まれていきます。

「チノちゃんごめん……私、いつもチノちゃんが準備頑張ってるの知ってるから……チノちゃんの力になりたくて……」

「…………」

「チノちゃんから食器洗い任されて、嬉しかったの……今日はチノちゃんの手伝いができるって思って……でも、こんなことになっちゃって……怒ってるよね…………?」

 ココアさんは両手で目元を拭いながら私に謝り続けていました。それでもその両目から溢れる涙はとどまることを知らず、ココアさんの顔はもうぐしゃぐしゃになっていました。

「本当にごめん…………こんな役立たずで、本当にごめんね……!」

「……役立たずなんかじゃ、ありません」

「……え……?」

 こんなに弱弱しい声で涙を流しながら私に頭を下げ続けるココアさんなんて、もう見ていられません。少し恥ずかしいですが、私の思っていたことをココアさんに話そうと思います。

「確かに、ココアさんは寝坊ばかりで、仕事中もお喋りで、それにコーヒーの味も未だに覚えてくれていません。正直、この店の店員としての品格を疑います」

「……私、やっぱり…………」

「でも、私にはココアさんが必要なんです」

「えっ…………何で……?」

「ココアさんが初めてここに来たとき、私はココアさんに何もしなくていいと言いました。実際、私1人でもコーヒーを淹れてお店を回すことはできます。でも、それだけではダメだったんです」

 昔のことを思い出しながら、私はゆっくりとココアさんに語り掛けました。こんなに自分から何かを話したいと思ったことはほとんどありません。私は、今人生で一番多くのことを語っているのかもしれません。

「私、ココアさんが来る前までは一人で仕事をすることが多かったんですが、本当に自分がこの仕事を楽しめているのか、私は本当にバリスタになりたいと思っているのかが分からなくて……」

「…………」

「そんな時に、うちに来たのがココアさんだったんです。ココアさんが来てから、私は変わりました。前よりも一生懸命に仕事をすることができるようになったんです」

 将来のことで悩んでいた私から不安や迷いを取り去ってくれたのはココアさんです。ココアさんがいれば、どんなことも何とかなるような気さえ湧いてくるんです。

「え…………それって、どういうこと……?」

「言わないと分からないんですか?本当にしょうがないですね」

「ご……ごめん……」

「わ……私は、ココアさんの笑顔が好きなんです!」

「…………!?」

 この気持ちに嘘はありません。ココアさんが来てから、私の周りのあらゆるものが色づき始めました。私には優しくて、見ていると元気づけられて、いざという時に頼れるような心の拠り所が必要だったんです。ココアさんは、まさしく私が必要としている存在だったんです。

「ココアさんと一緒にこの仕事をするのが楽しいんです。ココアさんの元気な姿を見ていると、何だか私まで元気づけられるような気がするんです。ココアさんは要領も悪いし失敗も多いですが……それでも、そばにココアさんがいるだけで、私はこの仕事をしていてよかったと思えるんです!」

「チノちゃん…………」

「だから、自分のことを役立たずとか言うのはやめてください。ココアさんがいなければ、今の私は絶対にありえないんです」

 ココアさんのおかげで、間違いなく私は変わることができました。ここまで積極的に誰かに喋ることができるようになっているのも、もしかしたらココアさんのおかげかもしれません。

「いつもの元気はどこへ行ったんですか。まったく、ココアさんらしくありません」

「チノちゃん、本当に怒ってないの…………?私のこと、嫌いになったり…………」

「はぁ…………カップ1つくらいで、私がココアさんのことを嫌いになったりするはずないじゃないですか」

「でも……あのカップは……」

「確かにあれは私にとって思い入れのあるカップでしたが、割れてしまったものは仕方ありません。そんなことより、ココアさんが無事で本当によかったです」

「チノちゃん…………!」

 ココアさんは制服の裾で目元を拭い、ようやく私の目を見てくれました。その瞳には精力いっぱいの光が戻り、いつもの自信に満ち溢れたココアさんの目をしていました。

「ありがとう、チノちゃん。私も、チノちゃんと仕事するの楽しいよ!」

「…………っ!」

 急に私の顔が熱を帯びていくのを感じました。ココアさんが私と仕事をするのを楽しく感じてくれていたのは何よりですが、こうして言葉で伝えられると何だか恥ずかしくなってしまいます。

「でも、本当にごめんね……?」

「こ、ココアさんが悪いと思っているのは十分伝わっていますから。だから、このことはもう気にしないでください」

「うわぁぁぁぁぁ!チノちゃぁぁぁぁぁん!!!」

「こ、ココアさん!?」

 ココアさんは再び泣き出したかと思うと、私に抱きついてきました。突然のことに私は驚いてしまい、2、3歩後ろによろめいてしまいました。

「ごめんね、チノちゃん…………私、もうチノちゃんに迷惑かけない!早起きして、チノちゃんのお手伝い頑張る!」

「ココアさん…………」

「コーヒーの味も頑張って覚える!あと、もうカップ割ったりしない!」

 私の耳元でそう言うココアさんの声は、涙のせいかひどい声でした。でも、ココアさんが本当は私のために頑張ろうとしてくれていることを知ることができて、素直に嬉しかったです。

「ココアさん……分かりましたから、一旦――」

「チノちゃんって…………あったかいね」

「ふぇえっ!?こ、ココアさん!?」

 ココアさんは私に抱きついたまま動こうとしません。ココアさんの吐息が私の首筋にかかるのを感じました。こんなに近くにココアさんがいる……そう思うだけで私の心臓は高鳴り、その激しさはとどまることを知りません。

「えへへ~、チノちゃん、もふもふ~」

「もう…………本当にココアさんは甘えんぼですね」

 私に密着して離れないココアさんはもう完全にいつもの調子に戻っていて、私は安心しきってしまいました。こうも切り替えが早いところがココアさんの短所であり、そして長所であると私は思います。
 ココアさんの胸元はちょうどよい温度で、私は開店準備のことも忘れてしばらくココアさんに自分の身体を委ねてしまっていました。

Re: Faveric~SS集~ ( No.14 )
日時: 2021/12/04 23:55
名前: 綾木 ◆sLmy/eUNds (ID: ANX68i3k)

「ココアさん、起きてください。開店時間ですよ」

「んー……あと5分だけ……」

 次の日の朝、ココアさんの部屋にココアさんを起こしに行っていました。私はすでに開店準備を済ませていて、あとはお客さんが来るのを待つのみです。

「それ、さっき言ってたことじゃないですか」

「じゃあ…………あと20分……」

 昨日、早起きをして私の手伝いをしてくれると言ったのはどこの誰だったでしょうか。決意表明をした次の日に早速寝坊だなんて、こんな話聞いたことありません。

「もう、ココアさんったら……」

 でも、きっとこんな適当で行き当たりばったりなところも、ココアさんの一部なんだと思います。まだまだ、私がしっかりしていなければなりませんね。

 私はココアさんの側に腰を下ろし、窓から射し込む朝日を反射して輝くその柔らかな髪をそっと撫でました。すると、ココアさんは気持ちよさそうに微笑みを浮かべながらこちらに寝返りを打ちました。

「えへへ…………チノちゃん…………」

「まったく…………本当にしょうがないココアさんです」

 幸せそうな表情で眠るココアさんを見ていると、何だか私まで幸せな気持ちになってきます。いつまでもこの寝顔を守りたい――そう思わずにはいられないのでした。

 それは、とても心地のよい朝でした。





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