二次創作小説(新・総合)

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【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ
日時: 2022/02/14 19:09
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

【】状況 <>説明 ○五条 ●創作主

※夢要素を多分に含んでおります。閲覧する際は充分に注意してスクロールして下さい。
※文章がありますが、あくまで脳内の情景や私が考えているキャラの思考回路を少し具体的にメモったに過ぎません。雑です。つまり小説ではないのでご留意下さい。
※返信欄にR-14くらいの続きがあります。頑張りました。



【降雨】

[五条&創作主 -女-]
○五条・自覚無し。野暮ったくて鈍くさい奴だと思ってる。
●創作主・センシティブな漫画に出てくる性質。オタク(であればいいと思ってるけど多分違う)。
五条に対しては軽い恐怖心があるけどちゃんと大切な友人として見てる。

(人っ子一人居ない地方の遠征任務。
 数時間に一度の頻度で来るバス停までやっと辿り着いた二人、撥水加工が施してあるとは言え、濡鼠のようにびしょ濡れの状態。だぼついた服でボディラインがくっきり見える)


<バス待ち場にて、申し訳程度の屋根の下ぽつんと置かれたオープンのベンチ。誰が使うのか疑問に思いながらも着席(●)、雨音の中二人きり。>

「うえぇぇ靴ん中がプールだよプール!」

●靴と靴下を脱ぎ、立ち上がってスカートをたくし上げて雑巾のように絞る。ビシャビシャと水が地面に叩き付けられ、思わず謎の歓声を上げてしまった。

「うわ見て見てコレ、やばぁ……。道理で重い訳だ」

○男とも女とも取れない、どちらかと言えば高い声が、雨の音で掻き消されていく。眉間に皺を寄せ目を凝らしても、灰色の何かが見えるのみで文字らしい物は見えない。

「絶っっ対バスとか来ないよ。確定演出入ってんもんコレ」
「朗報~、確信に変わった。あのバス停信じらんねぇ」

<服を絞りながら身を屈め屋根下へ入ってくる五条、察した主。>

「ずいぶん年季が入って趣のあるバス停だったわ、文字掠れてて殆ど何も見えねーし」

<ぶつくさと文句を言いながらも、頭の中ではどうしようか思考が巡っている二人。五条、ベンチに着席。>

「迎え来て貰うとか」
「バカ言え、何時間かかると思ってる」

○適当な相槌を打ちながら横を見遣ってみれば、いつも体の線がハッキリしない服が雨によって体に張り付いており、どうにも妙な気分になる。自らも服を絞り、ベンチに座ってぼーっと曇り空を見つめた。

「デスヨネー。大前提として此処なぁんにも繋がってないですもんネ」

<圏外だわ、と短い言葉を点々と紡ぎながら、ただ時が過ぎるのを待つだけ。余りの寒さに身震いが走るが、まだ歯は鳴っていない。>

●OKOK何も問題は無いモーマンタイ……。心中で呟きながらそっと五条の方を盗み見る。
 白銀に煌めく髪は雫が滴り二度見する程のハイライト、サングラスが取っ払われた碧眼はぶすーっと虚空を睨む。長い足を大きく広げチマチマ手遊びをしている五条は、いつもの癪に障る感覚が少ない。いつもであれば退屈だなんだと文句を垂れる筈なのに。

○静かな静寂の中で、あいつと二人きり。この状況が何故だが無性に嫌で堪らなくて、だが面倒だからとか生理的に無理とか、そういう理由も無いのに、変に嫌なのだ。何かが嫌で仕方が無い。あといつまでこうしていればいい。バスの望みは薄い、ならば徒歩か……。時刻は夕方過ぎ、急げば駅に間に合うなんて筈も無く。

「……待って? 暇過ぎん??」
「今か」
「いやする事無さ過ぎて最早ハゲる。…てかどした? 何か怒ってる?」
「…何で」
「極端に口数少ないやん無言やん、マジで怖ぇよ自称最強が無言だよ怖ぇよ……」
「“二人で”な」

○ハァー…と大きな溜息を吐きながら後頭部をガシガシと掻き、首ごとあいつの方を向く。じとっと睨みつけてみても、怯えるでも困惑するでもなく、「はァ?」みたいなふざけた顔しかしない。

●急募・ムカつく顔面国宝が急に無言になってクソでか溜息を吐いたと思えばめちゃくちゃ睨まれた時の対処法
 そう脳裏にタイピングして送信ボタン(概念)をクリックするまでがハッピーセット。とりま目ぇ逸らしとこ……。

「は?」
「エ怖ッッ、急に良い声でド低音出さんといてくれる??」

○何か、何かが変だ。気に喰わない、何かが。
 何気なく視線を下にズラすと、あいつの体の線が目に映る。狭い肩幅と震える白腕。段々下へ視線は向かう。薄い胸板に膨らみと、細いくびれ。柔い太腿、未だ雨の滴る生足……。

「……おい」
「な、何。サンドバッグにはならんよ?」
「………」
「え、え、何? 無言? 嘘だろコイツ」
「……お前良いのか そんなんで」
「んぇ急に哲学的な話出てきた今? どゆ意味??」

●ちょっとキャパオーバー、タイム! 頭の中でそう腕をTの字にしてみるが効果は無い。さっきから五条の視線が変だ。何かかにかに絡み付くような視線が……怖。
 と、急にガッと手首を掴まれる。「だから、」と吐き捨てるように五条が叫んだ。




力尽きた^^
(P.S.返信の所にR-13くらいの続き書きました。付き合ってたら問答無用で襲ってたんちゃうかなと思って書いたので五条さんが大分ガンガンいきます。でもピュアピュアです。
キャラでえrを書いたのは始めてだったので新感覚でした。でも私には向いてないかな……)

私ね、元々主人公が女なの嫌なんですよ(作品の話じゃなくて書く方の話)。…いや、語弊がありますね。自分が女だから口調が寄っちゃうのが悩みなのは確かなんですけど、こう、何か、ね?
自分でも自分がそう思ってるのか分からないんだけど、「チッここでも夢主かよ」みたいなこと思われそうで(圧倒的被害妄想)なんかね……。
でも苦手克服のために書きました。ちなみにラブストーリー系は見るのも書くのも苦手なんだけど、寄せてみようと思って。続きません。②に続く!! (これには続かない)


“柔い太腿、未だ雨の滴る生足……。”
             ↑ここ“絶対領域”ってルビ振りたかったけど我慢した(偉い)。










※めっちゃ分かりにくい設定出てくる
※クロスオーバーちょぴっと入ってる(キャラは居ません)



名前:自称『廿楽つづら』。偶に関西弁が出るようだが都会暮らしの都会育ち。
「名前? あー……廿楽だよ。呪術師。忘れてくれて構わない」
―――偽名である。



術式:自称『魔法』。周囲からは「よく分かんねーけど何かやべーし何かすげー」。
簡単に言えば「想像の具現化」だが実際にはちょっと違う。対象が物理的に存在していない殆どの場合、使おうとする『魔法』を物理現象に持ってくる過程に呪力を使っているだけで『魔法』の行使自体には魔力or聖なる力が必要なので呪力は其処まで必要じゃない。
ちな魔力or聖なる力は必要なだけで使ってない。あくまで“必要である”という“印象”なので。心の底から思っている“印象”がそうなのであれば魔力も聖なる力も必要無い。
「呪力はねえ、まあ普通だよ普通。……多分」
―――呪術そのものをよく分かっていないので呪力感知に乏しい。残穢は見える。


その術式の正体は「印象の具現化」である。
例えば剣を使おうとすると、彼の中でその剣がどれ程強いのか、どのように使うかなどの深く根付く「印象」がその剣に適用される。どれ位の切れ味?振り上げる?突き刺す? のように。
これは対象が物理的に存在している時のみで、彼の言う『魔法』を使おうとするとその魔法がどれ程強いのか、言うなれば“信用”によって威力・効果は異なる。

更に『魔法』の正体とは、『現実世界から飛ばされてきた彼の魔法』である。何が言いたいかと言えば――それは例えば<フェアリーテイル>。例えば<まどか☆マギカ>。例えば<ドラゴンボール>、<ワンピース>、<僕のヒーローアカデミア>――。ゲームで言うならば<ゼルダの伝説>、<ツイステッドワンダーランド>、<東方project>など。他にも沢山あるが、彼らが使う様々な『魔法』、若しくは『聖なる力』、若しくは『能力』。その印象を使う。
(エルサの第六の精霊の力とか、ラプンツェルの治癒の力とかも使って欲しい)
「つまり、強くなるにはどれだけ常識の枠を超えた思考回路してるかって事さね」
―――皮肉なものだ。



戦闘方法:手数が何よりの武器。その手数故パワーバランスも良く、戦闘・潜入・援護など大体の状況に対応出来る。反転術式など全く以て出来る訳ないが治癒能力はある(ブレワイのミファ―とかラプンツェルとか)。
腰の背中側に【残心の小刀】を模した短刀を携えており、切れ味は呪具の中でも抜群。『魔法』を使いながら接近してきた敵を斬る、というのが板についている。偶に違う剣を携えている事や、何処からか槍や大振りな武器・日本刀・苦無や弓矢、銃などを持ち出したりもする。
【残心の小刀】の印象がリンクが使ってる所だから彼にもそれが反映されて、リンクと似たような事するし破茶滅茶に強い。
「なッ……強くない!! 俺は強くないよ!!? いや彼らはとっても強いのだけどね!!!」
―――(呪術の子達にとっては)意味不明な言動を口走る事が多い。


手の内は簡単には見せられないので命を賭けた戦闘でも先の事とか考えちゃって本気出せない事が多々あるし、どれだけ身近な人も数種類の『魔法』しか知らない。
よく自分に縛りを設ける。これめっちゃ便利とは彼の言葉。「○○のこんな能力のみしか使わない代わりに能力の底上げと呪力消費を抑える」という縛りをめちゃくちゃ使う。手数が凄いからこそ効果も凄い。○○に似合った紋章・マーク・光などが身体の何処かに浮かび上がる。印象が強かったら口癖とかも偶に移る。

(ここが一番初めに思い付いた設定。呪術廻戦の世界でツイステのユニーク魔法使わせるにはどうしたらいいか考えてる時に、例えばオフウィズryってる時、頬とか手の甲とかに薔薇の色付の刺青みたいなんが体に浮かんだら面白くない? と思って。
縛りを使ってる時は寮章が浮かべばいいなー。あとハーツラビュルで縛ってる時は、「勝負の切り札はハートのエース…ってね」とか、何か教えてた時に「…お分かりだね?」とか言って変な目で見られてて欲しい。他寮でも同様)
「『魔法』が何なのかって? 面白い事を訊くね。魔法は魔法、それ以外の何物でもない」
―――中二病を拗らせている。



等級:二級行けそうな三級。本編開始の時は二。これ以上上がらないように頑張っている。準一飛ばして一級いけるが命が惜しいので評価されないよう気張っている。
「待っ、待っっ?? 御上から通達来たな思たら我二級??? は?????」
―――こうなるのは原作が始まる約二年前くらい(ちなみに「ふざっっっっけんなよ!!!!」と届いた紙を地面に投げつけ叫ぶのはお察し)。



容姿:特に整ってない一般的な二次元の顔面だけど三次元から見れば二次元のモブは美形。性別がハッキリしないので美女かイケメンか分からないがマジで一般的。目は特に特徴の無いアーモンドアイ、睫毛も普通で二重。髪はストレートで、結べそうだけど結べないなー位のショートボブ。偶に前下がりボブにしてる事もある。
元は黒髪黒目だけどちょくちょく目の色とか髪色とか縛りの影響でほんのり変わるかメッシュぽくなる。目は片目だけだったり瞳孔だけ・水晶体だけなどあるが結構がっちり変わる。

服は中性的。膝下まであるブラックのメンズスカートを履き、グレーのタイツを下に履いている。上は真希さんのトップスをだぼっとさせた感じの服を着て、下にブラックの長袖ハイネックを着ている。夏は冷気を纏わせ服も通気性を良くしているが見た目は同じ(暑苦しいと不評)。靴は機能性抜群のハイカットスニーカー、よく汚れるのでベージュとネイビーどっちも持ってる。両方とも靴紐は白。
色が暗く地味でボディラインがハッキリしない服が多く、また露出が少ない服を好む。休日などに外出する場合は、夏なら通気性の良いスカイブルーのシャツブラウスにダメージジーンズ、透明度が高く涼やかなクマツヅラのイヤリング(服は変わるがイヤリングはしょっちゅう付けている)。冬なら鍔の付いたブラックブラウンの帽子にホワイトベージュのオーバーコート、スタイリッシュなスリットニットパンツとヒール低めのキャメルブーツ。他に私服としてカシュクールブラウスやタイパンツなどを持っている為、矢張体付きがよく分からん服が多い。

右耳の近くに、縦型の全ての蕾が開花したクマツヅラの髪留めをしている。淡い桜色をしたクマツヅラの花が何列も連なっている髪留めは、黒髪に似合う彼のトレードマーク。状況によって前髪を留めている事もある。
「周りの顔面パンチ力が強過ぎてどっかのムスカ並に視力削られたんどうしてくれる??」
―――目がッ、目がァッ!!



口調:オタク語りは披露しないがオタクの口調ではある。一人称が定期的に変わる。都会育ちなのによく関西弁になっているが特に深い意味はない。立場が下・対等の場合どう思われるかは知ったこっちゃねぇと何も気にしないが、立場が上の場合は大分丁寧な言葉遣いにジョブチェンジ。クソ上層部も例外ではなく、しかし心の中では罵詈雑言が飛び交っている。
前世で二次元に触れ過ぎて口調がブレブレ。五条みたいに喋る時もあれば夏油みたいに話す時もある。それに加えて縛りによる口癖移りがある為、術師きっての変人という認識。
「更に中二病こじらせてるからさ、もー自分でも何が何だか☆」
―――自覚はある模様(故に自制は利く)。



境遇:転生者ではなく、転世者。作者わたしがいつ、彼が“転生した”と言っただろうか。彼は“飛ばされてきた”のだ。身一つで術師に昇り詰めるまでの時間を考えると、彼がどれ程の齢で飛ばされたのか見当も付かない。
「みたいにシリアスしてるけど言うて苦労してないで」
―――推しの部屋の壁or床希望だった彼は、このようにシリアスをぶち壊す事は少ない。



所属:ほぼフリーランスのような生活しているが一応高専所属。任務も他方から受ける。
「私、高専に通ってた頃もほぼ登校出来なかったじゃん? 適当に流されてるのが楽だよ」
―――嘘である。



その他:推し活以外だと乗馬と読書と料理が好き。好きな食べ物はモンブランと南瓜たっぷりのほうとう、嫌いな食べ物は蒟蒻。夢・腐・姫・二次全てに精通し、ピュアっピュアの王道からグッッロい悲劇、Rが付くゑちな物まで何でも見る。漫画・アニメ・小説・ゲームなど方法を選ばず、SF・恋愛・ファンタジー&ダークファンタジーその他諸々全てを受け付ける地雷が無いオタク。ただ自己投影はしないタイプ。全部ひっくるめるなら“二次元オタク”と言え、他に声優オタクでもある。
オタクと言えども術師やってる位にはイカれてるし忍耐力もある。基盤はまともで真面目、正義感のある術師だが色々と狂っている。基本自分本位だが推しの優先度は大分高い。見た事のある作品の殆どを箱推ししており、今回飛んだ次元も例外ではない。
「この世界直ぐ人死にそうだし…推しに悲しい思いも痛くて辛い思いも、IFを除いてして欲しくないから」
―――良い事言ってる風だがIFでは良いのか、IFでは。



裏設定:クマツヅラという花から着想を得たキャラクター。最初に思い付いたのは「クマツヅラの廿楽さん」という語感の良い詩で、そこから性癖を含めながら妄想を広げて行ったらこうなった。何でや。クマツヅラは10月26日の誕生花で彼の誕生日。趣味の乗馬は“馬鞭草”という別名から。
古代ローマでは“聖なる花”とされ、止血・消炎作用及び通経・黄疸・下痢に効果があるとされた。ヨーロッパでは解毒・婦人病・皮膚病に効く薬草とされ、キリスト教のキリストの出血を止めた草。潜伏任務の場合は姿を変え“バーベナ”と名乗る。これはクマツヅラの英名である。

元々ああいう術式使う子書きたいなーと思ってて、そのイメージが魔法だったから「魔法」の花言葉を持つ花を調べていたら出会った花。他に“魔法の力”“魔力”“魅惑”“心を奪われる”の花言葉を持つ。これから呪術廻戦の子達が魅了されて心を奪われるかは知らん。
「一般的に“雑草”とされてるみたいだけどね、クマツヅラ……」
―――そうそう。あの髪留め、クマツヅラを模しているだけあって“何か”があるみたい。




6000文字超えだってよ。
結構時間かけて練ったんだけどここまで文字数少なくなるとは思わんかったわ。

ここまでの長いお付き合い、誠にありがとうございました。



ばいちゃ☆

Re: 【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ ( No.8 )
日時: 2022/03/13 17:33
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

中編②
○ワンクッション○
ツイステクロス有り(キャラは出てきません)。地雷の気配を察知した方は速やかにブラウザバックを推奨致します。
また、ツイステキャラのユニーク魔法ネタバレもございますので、十分にお気をつけてスクロールするようお願い致します。
前編・中編・後編に分ける予定ですのでご留意下さい(予定が変わる場合もございます)。





 ヒュオオォ……と風が吹き、落ち葉が舞う。二回目に付けた赤印の場所から気配のする方を探ってみると、思った通りまだ敵の集団が居た。
 五条の言った「イヤな感じ」。二回奇襲を受けてから、一切あちらから手を出してこないという事。だが廿楽が見つかった時には明らかに敵意を剥き出していた事から、非好戦的で無い事は確かだろうという廿楽の意見と、一年生組の失踪。家入は「あーあ、怒らせちゃったね」とケラケラ笑っていた。起こしてはならない猛獣を呼び起こしてしまった、と。

 廿楽は今、明確な敵意と殺意、そして何より怒りを感じていた。理由は簡単、曰く「可愛い後輩達に危険要素が少しでもあるのなら、先輩が動かない訳にはいかないだろ」。もうムグラノリは使えない、かと言って二人を配置した場所は恐らく敵が少ないと思われる、奇襲された最も裏側。夏油も自分も危険の多い表側に居たのが徒となったのだ。裏側に居るかも攫われたかも分からないのに、わざわざ人員と時間を割いて捜索に出るなら、こちらから仕掛けた方が得策だと廿楽は言う。
 夏油や二級術師などは止めに入ったが、家入と五条は『無理だよ。だってあの廿楽を怒らせたんだもん』『馬鹿だなー』と笑うばかり。結局先に折れたのは夏油で、最終的には『まあ…あの廿楽なんだからね』と、こちらもまた悪い笑みをして二級術師を説得していた。


『目的箇所に到着。』
――『準備は良い?』

『私は良いよ』

『特に準備する事ないのでー』


 画面にずっと張っているのだろう、直ぐに返事が返ってくる。枯れた植物の風流な匂いが今からあの血の匂いに塗り替えられるのだと思うと、何か躊躇う所もある。が、手を抜いてはいられない。


『開始まで約一分。健闘を祈る。』


 再び風が吹く。強風で裾が捲れ音を立てないよう布端を持って体の前に引っ張った。自然の匂いを肺一杯に吸い込み、吐き出す。腰を低くして気配を攪乱させながら、隊を成している敵集団の周りを走った。ここには高低差がある。奇襲し返すのにぴったりだった。

「……ここは俺の縄張りッス」

 走りながら小さく呟き、集団のなるべく中心に居る顔も見えない何者かに焦点を当てる。左手を何もない虚空に伸ばすと、どこからか琥珀色の魔法石が嵌め込まれたペン―サバナクローのマジカルペン―が出現する。
 マントの端と身を翻してバッと止まると左腕を“対象”に向け、呪力――魔力を体に巡らせた。片目を瞑り、よく狙いを定めてマジカルペンを対象に向ける。

「夕食にしてやる……【愚者の行進ラフ・ウィズ・ミー】!!」

 そう叫び、間髪入れず開いていた右手を勢いよく横へ薙いだ。右腕には、飢えた顔をした透明で巨大なハイエナが淡く光を放ちながら、空を走って消えた。ブォンッと音がする程の速さで裏拳をかまされた、運悪く対象の右に居た呪詛師は、その周りの呪詛師も巻き込んで後ろに吹っ飛んでいく。急にあんな速度で腕を動かされたものだから、対象は肩が脱臼紛いの事になっているだろう。

(固まって動き過ぎなんだ、ざまぁみろ)

 それに何の罪悪感も感じず、唾を吐き捨てたくなるのを抑え、何が起こったのは分からぬままざわめいている奥の方の集団にも同じ魔法を掛けた。騒ぎで人が中心に寄って行っていたから、今度はその一番外側にいた呪詛師に、内側に居る呪詛師を殴らせたのだった。するりと腕の中を抜けていくハイエナの顎を緩く撫で、お疲れ様と呟く。

 【愚者の行進ラフ・ウィズ・ミー】 ツイステッドワンダーランド、ラギー・ブッチのユニーク魔法。効果は“魔法を掛けた対象の動きを自分の動きとリンクさせる”。右に裏拳をかました廿楽の動きが中心に居た対象の体と“繋がり”、まるでその中の一人が故意的に仲間に攻撃したのだと見せかけたのだった。
 廿楽は内乱だと勘違いした呪詛師の一人が大振りな剣を取り出し、叫びながら外側に居た呪詛師を斬り捨てるのを捕えた。遠くからでも分かる鮮やかな赤が、ぱたりと地面に舞うのが見える。――ああ、ハイエナを呼び出したからだろうか。肌が粟立ち、唾液が絶えず湧き上がる。電流のような物が腰から脳までを駆け巡ったようだった。

「……好都合♪」

 ペロッと口の端を舐め、始めに魔法を掛けた呪詛師に剣を取り出した呪詛師を襲わせた。スパッと斜めに肩から腰までを切り裂かれた呪詛師は、内臓まで行っていれば失血死、行かなくてもあのまま放っていれば何れ死ぬだろう。片が付いたら治癒してやらねばと思う頭の隅で、勝手に口の端が持ち上がるのを感じた。


『赤印場所、作戦成功。
水谷二級術師の待つ箇所へ向かう。』

『りょーかい』

『くれぐれも気を付けて』



――この返信より八分四十秒が経過。

『人数が目視で二十三人だった為、水谷二級術師と共闘の後 無事に制圧完了。』

『戦ったのか!?』
『無茶はするなと』
『怪我は』

『どちらとも問題無い。いずれも腕、足に深手を負わせた。』
『第一箇所に戻り状況を把握する。』


最終返信より四分余りが経過。

『第一箇所にて問題発生 速やかな対処を要求する』


 廿楽は悲惨な状況となった初めの“狩場”を見下げながら、再び返信を打っていた。治療してやらねばと思った標的も剣を携えたあの呪詛師も、一切姿が見えない。もうここに人員は派遣していない、ならば敵の手であの人数全てを回収したとでも言うのか。それが術式か何かでない限り、あの人数以上の敵が待ち構えていると言う事だ。更には奇襲までバレてしまった。


『何があった?』


 素早く夏油から返信が来る。起こった事を包み隠さず話すと、少し間が開いて『バレたなら攻めるしかなくないか』と返ってきた。実際、もう選択肢は「逃げ回る」or「攻める」の極端な二択しか存在していない。そして大事な後輩があちらの手にある(と思われる)……。これで攻めないとか言わないよな? と、画面からでも廿楽の圧が、家入や五条や夏油まで伝わってきた。


『夏油、そちらに変化は?』

『不思議な事にさっきから一切の気配が無い。
恐らくだけど、高専の正規の入り口から右側に偏っているんだと思う』
『ほら、奇襲受けたのは左側で、あっちも私たちが左側に固まっていると思っているんじゃないかな』


 夏油から長文がすらすらと送られてくる。……その可能性は考えていなかった、と廿楽は少し目を丸くする。あちらを強いと見過ぎて固定観念が生まれていた。その気持ちを素直に文に起こし、送信ボタンを押す。


『なるほど 流石に夏油だな』
『その可能性は高いと思う。
何故あちらが手を出してこないかは分からないが、それだけ守りに徹していると言う事で』
『あちらとこちらの境界線を明確にするのはどちらの利にも繋がるから。』

『あ、やっと堅苦しい口調崩れた?』

『あれは急いでいたからああなっていただけ。
みんなと話す時は普通だよ』
『いつもそうだろ』

『雑談している暇はないよ』
――『今居る場所を捨てて私もそちらに向かうというのも手だけど』


 そう返ってきた途端、ドクリと心臓が重く鳴った。もし夏油がこちらに来て、夏油が元居た場所をぬけぬけと通られたら、という想像が脳裏を過る。


『いつまでも防衛に徹してちゃ勝てるもんも勝てないよ』
『攻めるなら攻める。ある程度のリスクは覚悟するべきだと思う』
『怖いのは分かるけど、誰も廿楽を責めないから』


 続けて三件、家入から。この一言で決心が決まった。手早く新たな作戦を簡易的な口調で纏めて送ると、灰原と七海以外の全員から威勢良く肯定の返事が返ってくる。
 最後に『これより数分休憩時間。何か適当に食べて』とだけ打つと、携帯をポケットに仕舞い、高専から掴み取ってきた栄養補給ゼリーをグビグビと飲んだ。



 ガサッ、と草木の揺れる音がした。感じ慣れた呪力を拾い、びくりと波打った心臓を宥める。

「……お疲れ、夏油」

 ほい、ともう一つのゼリーを投げ渡すと、パシッと音を立ててそれを取ってから、夏油がのそりと姿を現した。短い謝礼を鋭い聴覚が聞き取る。キャップを外し喉仏を上下させて、特に美味しくはないゼリーを嚥下する夏油からは、どこか焦るような雰囲気が感じられた。

「あんま気張り過ぎないで」
「廿楽こそ」

 ゼリーから口を離し、そのまま動きを止める。地面を見つめ動かない夏油の傍ら、脳内で幾つもの戦闘パターンを反芻しながらイメージを膨らめた。

「そのローブは?」
「? …ああ、ちょっと訳ありで……五条達にも話していない。戦闘になったら邪魔だし、何れは脱ぐけど」
「そうか」

 お互い必要最低限の言葉だけを話す。二人と違い、夏油からはありありと緊張の気配が感じ取れた。
 『一分後、作戦開始。心の準備しといて』。そう送り、ずっと腹の底で渦巻いている怒りの蜷局を体に巡らせる。呪力とは負の感情、その出力をいつでも制限出来るようにするのが呪術師だ。だが今の廿楽…自分には、溢れ出る呪力をギリギリ隠蔽する理性があるだけで、感情の制御が出来る状態ではなかった。

「……。じゃ、行くよ」
「分かった」

 深呼吸を繰り返すと、全身に余す事無く均等に呪力を巡らせる。目を開き、夏油をちらっと振り返ってニヤリと笑った。

「吠え面かくなよ」

 再び前を向き直す瞬間、目を見開いた夏油が映る。呪力がぶわっと浮き上がり、その呪力が形を伴って自分の後ろに付いた。その呪力――巨大な狼が、残光の尾を引いて身を逸らし、耳も張り裂けんばかりの音量で遠吠えをした。こだまする遠吠えに引っ張り上げられるようにして空へ突き上げた左手には、琥珀色のマジカルペンが握られている。

「【月夜を破る遠吠え(アンリイッシュ・ビースト)】!」

 そう叫ぶと、先程のハイエナのように淡く光っていた狼が、後ろから自分に覆い被さるようにして消えた。自分の体がカッと光り、みるみる内に巨大な白銀の狼へと変身していく。面食らった顔をしている夏油が面白かった。
 聴覚は人間の10倍、嗅覚なんか100万倍にも上る狼。ガルルルルルと唸ってから、夏油の匂いのする方へ歩を進め、自分の背中に乗るよう背を擦りつける。少し時間が空いて、のしっと背中に重みが掛かるのを感じた。自分が痛がるのを恐れているのかあまり毛は握られていなかったけれど、振り落とさないようギリギリの所で体を動かすと、流石の夏油もちゃんと毛を握り安定した体勢を取る。

 此処から件の場所までは、ショートカットするなら4メートルはあるこの高低差をどうにかしなくてはならない。だが狼の姿ならば……出来なくはないだろう。垂直跳びならどうか分からないが、幅跳びに近い高い所→低い所なら4メートルはいけると踏んで、助走をつける為後ろに退くと、一応ガウッと唸って「行くぞ!」と夏油に合図してから、その4メートルの崖を飛び越えた。更に鋭くなった耳が夏油の小さな悲鳴を聞き取る。
 ズザッと土煙を立てて、的集団が内乱を起こしていた(起こさせていた)場所に下りた。不思議な事に、血痕や足跡が残っているだけで一切人の気配が見られなかった。
 高い崖から見渡しても、この周りに人はいない。気配も呪力も感じられなかった。だから潜伏している呪詛師の可能性は省き、こうして下り立った訳なのだ。すると、様々な足跡から一つだけ、後ろへ伸びている足跡を見つける。

 狼の脚力は凄まじい。そもそもの狩りの仕方が、群れを作り相手の体力が無くなるまで追い回すという物だそうで。最高速度は時速70キロメートルらしいが、大体は30~40キロメートルで走るのが妥当だろう。自分の体にも夏油の体にも負担が掛かりにくい程度の速度だ。そう考え、匂いに頼りながら、一目散にその足跡を追った。

(……ふわふわだな)





中編②終わり(約4900文字)。次 or 次の次ら辺で修羅場来ます。

Re: 【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ ( No.9 )
日時: 2022/03/13 17:39
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

中編③
○ワンクッション○
ツイステクロス有り(キャラは出てきません)。地雷の気配を察知した方は速やかにブラウザバックを推奨致します。
また、ツイステキャラのユニーク魔法ネタバレもございますので、十分にお気をつけてスクロールするようお願い致します。
前編・中編・後編に分ける予定ですのでご留意下さい(予定が変わる場合もございます)。





 ぶく、ぶくり。

(…?)

 ぶくぶく、ぶく。

(…ここは……)

 ぶくぶくぶく……ぶくっ。

「七海?」

 ――ザパァッと、息苦しい水の中から顔を出す。
 …ように、七海は意識を浮上させた。聞き慣れた声が自分の名を呼んだ、それだけは分かる。だが取り留めのないそれは、直ぐに溶けて消えてしまった。

「……灰原?」

 そう呼んでみても返事は無い。ここはどこだ? 確か高専の高学年と先生が京都へ……そう考えた途端、一気に今までの記憶が雪崩れ込んでくる。七海は大きく目を見開き、そして目をぎゅっと瞑り深い呼吸を繰り返した。

(奇襲……!!)

 そうだ、何故忘れてなど居たのだろう。高専は奇襲を受け山中に潜伏していたのではないか。自分は灰原と二人で行動していて、それで…家入先輩が、五条先輩は戦える容態じゃないと返信があって……。
 幾ら思い出そうとしてもそこから記憶が無い。殆ど同じ位置で潜伏し続けていたのは、廿楽先輩が“一番安全な場所だ”と言っていたからで、無闇に動くのは得策ではないと言う自分の言葉に灰原が従ったのだ。携帯を取ろうとしたが、目隠しされている圧迫感も無いのに目の前が真っ暗で、腕や足も動かせない。

 此処はどこなのか。誰が自分達をこんな所に置いているのか。敵と先輩達はどうなっているのか。灰原はどこに行ったのか。今がいつで、そもそも此処は高専の敷地内なのか。敵に捕まっている状況なら相当にまずいのではないか。なら、灰原は……。
 考えれば考える程に疑問は募っていき、それに伴って不安感も募る。ふっと短く息を吐くと、七海はふと動きを止めた。

(さっき私の名前を呼んだのは……)

 明らかに灰原の声だった、筈だ。朧気だった意識でどこまで正確な情報を拾えていたのかは分からないが、短い間でも信頼を置いている同級生だ、そう簡単に間違える訳はない。
 そう言えばこの空間、暑さも寒さも感じない。一吹きの風さえ無かった。自分が今どういう体勢かも分からず、目の前が真っ暗な事も相俟って、七海はこの空間が現実では無い、または何者かの術式によってそうされているのだと気付く。だがさっき声は出せたし、灰原の声もした。もう一度小さく「ぁ」と呟いてみても、自分の声はしっかり聞き取れる。
 すると、不意に人の気配を感じた。粉っぽい空気と共に目の前が急に明るくなる。無意識に自分の目が見開かれ、口が薄く開くのを感じた。この時見た光景の事を、自分はこの先、一生忘れないだろう。



 ぶく、ぶくり。

(……)

 ぶくぶく、ぶく。

(敵……、七海は…?)

 ぶくぶくぶく……ぶくっ。

「な、なみ…」

 気付けば勝手に口が開いていた。朦朧としている意識が徐々に覚醒していく。目の前が真っ暗だ、心做しか水の中に居るように息苦しい。

「灰原?」

 ハッと一気に意識が戻るのが分かる。七海の声だと分かった途端、此処はどこで今がいつなのか、という疑問が溢れると同時に、今までの事を徐々に思い出してきた。
 高専内で奇襲を受け先輩たちは単独行動に入ったけど、確か僕と七海だけは二人で行動する事になって…廿楽先輩が指定した場所に留まっていたんだっけ。それで、五条先輩がメールに参加してくれて……どうなったんだ?

(七海は、)

 どうなったのだろう。一定の所から記憶が残っていない、敵から何かしらの術式を掛けられたと見て良い。
 自分が今座っているかも寝転がっているかも分からないこの空間は、空気の微かな圧力も音も、自分の肌の温度さえも、あらゆる情報が遮断されていた。そうなると、この視界のように触覚や嗅覚などの五感も遮断されていると見て良い筈だ。……語感と言えば、聴覚は? さっきの声は…七海の、声は? 勘違いなのだろうかという考えが頭を過ったが、それは絶対に違うと言い切れる。僕が七海の声を間違える筈が無いからだ。
 ならこれはどのような術式なのだろうか? 頭の中には複数の選択肢が浮かんでいるが、恐らくは二つ。“指定した場所”に対象を送り込む術式。もう一つは、術式で“作り出した空間”に対象を送り込む術式。どちらにせよワープ系か封印系の術式である事は間違いないだろう。

 そんな事を考えていると、不意に手が動いた気がした。動かしてから分かったが、今までは手足があるか無いかさえ頭が理解していなかったのだと分かる。ゾッと恐怖が身体を駆け巡った。そして次に起こった変化は――聴覚だった。ヒュオォォ、と、風の音とも取れない空気の回る音がする。触覚、聴覚…次は、視覚。暗闇を見ていた目が急に光の下へ晒された物だから反射的に目を閉じてしまう。だがそのお蔭で、五感が全て戻り、漸く外界と自分の感覚が繋がったのが分かった。恐る恐る目を開くと、そこには―――。

「……廿楽、先輩?」
「ッ!! 二人と、ぐっ……」

 近くから声がした。バッと勢いよくそちらを振り返ると、声の主…七海もハッと気づいたような顔をして僕の方を見る。目が合い、思わずうるっと来てしまった。

「ぅ、うぅ~……七海~~!!」
「…気持ちは分かりますけど、離れて下さい。恐らく戦闘中ですよ」

 戦闘という単語を聞き取って、あまりよく見ていなかった風のような音のした方を見遣る。その悲惨な光景に、まだ完全に覚醒し切っていなかった五感が研ぎ澄まされるように鋭くなった。
 刺すように立ち込める血の匂い、荒い息遣いと、口の中に広がる鉄の味。廿楽先輩は広く開けた場所で、何故か両腕を後ろに回しながら俯いて片膝立ちで居る。その少し離れた所には、見覚えの無い男が立っていた。

「……ッ、先輩!」

 慌てて足を動かそうとするも、がくんと重力が掛かる感覚がして立ち上がれない。よく見ると、足が呪符の貼ってある鎖で繋がれていた。素早くそれを振り返り自分達で解呪出来る物では無い事を確かめると、また先輩の方を向く。
 先輩は俯いていた顔をゆっくりと上げ、ハァーッと息を吐き出した。遠くからでも見える先輩の顔に、僕も七海も大きく目を見開いた。毎日のように口調が違っていても、僕達に向ける笑顔だけは毎日同じで。先輩の印象は初対面の時と随分変わっていた。それでも今、その“険しい”という言葉だけでは表せない表情を、僕はきっと一生忘れない。



―――時は少し遡り。
 廿楽は水の中のような圧迫感に耐えながら、(しくったな)と虚ろな目で呟いた。最も声は出せずに心の中で呟いたのみだったが。
 夏油を背に乗せ山を駆けていたのは今さっき、追っていた足跡に濃く付いていた匂いを追っていたがばかりに、あんな簡単なトラップに引っ掛かったのだ。今更ながら後悔が押し寄せてくるが、考えても仕方が無いと首を振る―素振りをした―。あの時、どうしていればよかったのだろう。廿楽は改めて、あの失敗を思い返す事にした。


 匂いの一際濃い所で一度足を止め、ヒトの姿に戻る。夏油とは少し前に分かれて捜索していたので、夏油を振り落とす心配は無かった。

(この呪力、どこから……?)

 嫌な予感はしていた。だが二人が攫われて焦っていたのもあるのだろう、敵もウヨウヨと居る場所だし、呪力の残穢が残っていても何ら不思議ではない。そう思い込んでいたのだ。あれは確実に“残穢”では無かった、濃い呪力だったのに。

「――ッ!!?」

 ドプッ、と足が掬われる。困惑の声は出ず、一瞬で状況を理解した自分は驚いて下を見下げると、考える間も無く呪力を練り近くの木に印を付けた。その間 約1秒、それが精一杯だった。底の無い罠へ堕ちていく、落ちていく。頭のどこかに居る冷静な自分が、「成程」と独り言ちた。こうしてあの二人も、と。
 まぁそうして今に至る訳だが。…夏油は、あの印に気付いてくれるだろうか。


「おい」

 パチ、と目が開く。バッと音のした方を見上げると、見覚えの無い男が居た。ガタイが良く、呪力の強い人間だ。恐らくは呪詛師、あの奇妙な術式もこの男の物だろうと見当が付く。

「高専の人間だろう。俺の術式の中で暴れるな」
「……ぁ゙、っ…」

 あの術式に引っ掛かりどれ位時間が経ったか知らないが、少し喉が荒れていて嗄れた声が出てしまう。血の味が仄かにし、眉を顰めてしまう始末だ。
 両手は後ろ手に縛られ、足は呪符の貼られた鎖で縛られている。此処がどこかは分からなかった。手には呪符が何枚にも繋がった物が巻き付けてある。見た目だけは紙なのだし力を入れれば破けてしまいそうだが、破けないのが呪符。呪いの力を込め、結界や攻撃に応用するのが呪符なのだから。

「……あ゙、暴れ、る゙、とは…何の、ごとだ」
「お前と俺の呪力の相性、つくづく悪ぃんだなァ。聞き取り辛いったらありゃしねえ。俺の術式の“中”でも気味が悪くて悪くて…。暴れるってんのはその事だよ、抵抗するがあまり無意識の内に術式内で暴れてたってか? 気持ち悪ィ」

 そう言うと、呪詛師が手遊びしていたナイフの切っ先をビュンッと音がする程の速さで喉元に当てられる。ひやりと冷たい物が触れた感覚はあれど、それに恐れを成す程初心な術師ではない。

「俺らの仲間をあんな風にしたのはお前だな?」
「…あの窪み゙ッ…の、部分、だろう。高低差の、あ、る。……自分が、やった。一人で」
「へえそうかい、よくもやってくれたな。我らがボスがお怒りだぜ」

 そう言うと、喉元に当てられていたナイフがすぅっと上に行き、瞬間、スパッと鮮血を舞わせて左の頬を切り裂いた。と言っても、幅2~3センチ程の浅い傷で、どちらかといえば威嚇にも似た物だという事が想像出来る。
 それに何の感情も示さず、視線もブラさず。男を見つめたまま呟く。

「誰か死んだか」
「さァな、知らねえよ。興味も無ぇ」

 あの二人の事がある、それに手足を拘束されていては全力も出せない。なるべく下手に出ようと試みた。
 そんな事思ってもいないような、感情の籠っていない平坦な声。それが有りもしない自分の恐怖心を煽る。それでも汗一粒も流さず、眉もぴくりとも動かさない。真黒い漆の闇のような瞳をした男をしっかり見つめながら、宛がわれた切っ先がいつ動かされるだろうと心臓が脈打った。

「お前は此処じゃ殺さねぇ。それがボスのお望みなんでな」
「……アン゙タの術式で、もう二人、捕まってはい、な゙、い゙か。…ゲホッ、……青年が、二人」
「あ? …そういや掛かってたなぁ、お前と違って大人しい獲物が二匹」
 ギリッと奥歯が鳴る。血の匂いがより一層鼻を抜けていった。
「何だ、オトモダチか?」
「ああ。大切な、可愛い、後輩さ」
「ならお前の前で解体ショーをやるのも良さそうだ。…そう言やぁボスの奴、殺すなとは言ってたが」

 その男の目が、一瞬にして狂気を帯びた。殺意を感じていなかったからああやって冷静に対応する事が出来たが、流石の自分でもこれ以上は……。
 弱気な考えは自我を蝕む、考えない方が良さそうだ。そう首を振る。

「傷を付けるな、とは言ってなかったな」

 そう呟く男をキッと睨みつけてやると、男はナイフを仕舞いどこかへ消えた。
 良いのだ、自分の体を傷付けるのは、まだ。だがあの男、解体ショーが云々言っていなかったか。ぐるりと殺意の蜷局が腹で渦巻くのを感じた。
 暫くして、男は数人の人間を引き連れてやって来た。性別も年齢も、呪力の有無さえバラバラな人間達だった。呪力を持っていない者も半分は居る、呪詛師ではないのだろうか。

「…~~、~~~……」

 人間達は、普通の人間なら聞こえない程に小さな声で、ぼそぼそと何かを呟いている。でも今の自分の聴覚は、さっきの狼程で無いとは言え、一般の人間よりは優れていて。よく耳を澄まして音を拾うと、その意味が理解出来た。その瞬間、殺意に加え、怒りと憎悪が湧き上がってくる。
 不思議だとは思っていた。そこまで群れを作らない呪詛師という奴らが、何故あんな人員を持っていたのか。なら、その人員は何の為の物で、どう集めたのか。

「あんたらが、父さんを……」

 これは、年端も行かない少年の声。声変わりも始まっていない、幼い声だ。

「呪術師なんか居るからッ…あの人は……!!」

 これは、五十路の坂を超えそうな夫人の声。悲痛に満ちた、高くも重い声だ。

「帰ってきてよ……この人達が皆死んだら、帰ってきてくれるの?」

 これは、二十歳を過ぎて間も無いような少女の声。虚ろで、感情すら無い声だった。
 後ろから、男が出てくる。暗くて見えにくかったが、確かに先程会話を交わした男だった。

「ハハッ、驚いたか? こいつら全員、お前らの事を恨んでるぜ」
「……下衆が」

 如何にも愉快そうに笑いを含んだ声をこの耳が捉え、更に憎悪が渦巻く。下から睨みつけるように男を見上げると、自分の言葉に激昂する事も無く、余裕そうに口の端を持ち上げるのみだった。

「下衆で悪かったね。だがまぁ少なくとも、こいつらは俺達に感謝してるぜ? お前らが殺した呪詛師達の所為で狂った奴らさ。お前らも人一人の目線で見れば、憎ったらしい殺人犯でしか無ぇんだよ」

 笑っちまうよなァ! そう叫んだ男の目は享楽的な色を持ち、狂気と快楽が滲んでいる。正直言って、この言葉には余り感情を持てない。呪術師が呪詛師を殺しているのは、望んでやっている訳ではないにせよ紛れも無い事実であるし、それで恨みを買うのは分かり切った事だからだ。結局は、呪いを祓う呪術師も、呪いを作り出す歯車と化すのである。

「ま、そういうこってな。お前にはこいつらの鬱憤を晴らす為の機械になって貰うぜ」
「ッ! ……あの二人は」
「ああ心配すんなよ、ちょっと暇潰しに付き合って貰っただけで、酷ぇ事はしてねぇから。まだな」

 自分がこういう待遇を受けているのは、男曰く「術式内で暴れた」からだ。呪力の相性って物が悪かったのもあるし、抵抗する気持ちがそのまま呪力として溢れ出したのだろう。詳しくは分からないが、恐らく男の言っていることは事実だろうと思う事が出来た。
 ああ あと、そこからはお察しの通り。呪詛師の親類達に色々されたよ、殴られたり蹴られたり。だからと言って何という事も無い。呪術師をしていれば、何れにせよあったかもしれない事なのだから。…一番堪えたのは人間達が叫ぶ言葉の雨だ。呪術師への恨み辛みに加え、涙声の含まれた声も混じっている。更には狂気を孕んだ恐ろしい言動もあり、痛みよりその声の方が辛かった。

 ――耳鳴りが酷い、目が霞んできた。血の匂いすら感じられない。ずっと俯いて圧が掛かっていた首は―そのお蔭で顔に傷は少なかったが―、急所だからか特に狙われ、酷い所は引っ掻かれ皮膚が裂けていた。首の外には特に腹。内臓が集まっているし、圧迫されると他のどこの部位より酷く苦しい圧迫感に苛まれる。油断している時に一際強く蹴られた瞬間思いっ切り口の中を切ってしまい、口の端からは真っ赤な血が滴れていた。
 もう少し人生を謳歌しても良かったのではなかろうか。そんな考えが頭を過る。感覚的にまだ瀕死では無いだろうが、このままでは何れ死ぬ筈だ。後悔と言うよりは他人事としか捉えられない感情が巡る。

「ちょいと失礼」

 そう言って男が徐に前に出た。その瞬間ピタリと手や足が止まり、男が近付く足音だけが嫌に響いて聞こえる。

「呪術師の嬢ちゃん、死ぬ前に良いモン見してやるよ」
「………」

 嬢ちゃんでは無いと言おうとしたが、どこもかしこも酷く腫れてしまって声も出ない。いや、正確には“嬢ちゃんでは無い”という訳ではなく“嬢ちゃんで無いかもしれないから呼ぶな”と言う事なのだが、その話は置いておいて。

「ほら、見えるか? もう目が霞んで見えねぇかなあ」

 馬鹿にしたような口調で話す男に怒りを覚える気力も無い。だがピタリと動きを止めて無表情のまま居る彼らを見ると、静かにふつふつと憎悪が再び湧き上がる。死ぬ前にあいつだけは……殺したかった。
 意地だけで何とか顔を上げると、目の前が真っ赤に染まるような感覚がする。その瞬間、ぶわぁっと渦巻いていた憎悪が呪力に変わった。は? と小さく声が洩れるのが遠くから聞こえた。

「――さっきお前が言ってた可愛い可愛い後輩クン達だ。おい、こいつらも呪術師だぞ」

 そう男が言うと、自分を凝視していた彼らがブンッと二人―七海くんと灰原くん―の方を向き、嫌悪を漲らせて進んでいく。ああ、駄目だ。あの痛みは、あの子達には。
 今更だがこの手の拘束が解けないかと身動ぎをする。呪術を封ずる呪符の拘束だ、術式は使えない。どうすれば、夏油は? 駄目だ、まだ呪力さえ感じない。早くしないと、あの二人が……!





中編③終わりです(約6900文字)。中編は多分⑤くらいまで続きます。

Re: 【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ ( No.10 )
日時: 2022/03/13 17:46
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

中編④
○ワンクッション○
ツイステクロス有り(キャラは出てきません)。地雷の気配を察知した方は速やかにブラウザバックを推奨致します。
また、ツイステキャラのユニーク魔法ネタバレもございますので、十分にお気をつけてスクロールするようお願い致します。
前編・中編・後編に分ける予定ですのでご留意下さい(予定が変わる場合もございます)。





(……使えない?)

 これは呪術を封じる呪符だろう。魔法は、封じられてなんて、していないのではないか。
 自分は魔法使いだ。呪術師であり、魔法を扱う術者(魔法使い)。そうだ、そうだ! 自分の術式を思い出せ! 自分が、自分自身が心の底から信じれば……それが印象イメージとなるのなら。“彼ら”が魔法を封じられていた所なんて、深紅の暴君と冥界の番人である彼らしか見た事が無い。この呪符が何だ、封印が何だ?

(あの子達の為に、今! 自分が出来る事を!!)

 その時、遠くから小さく「七海?」という声がした。獣人である彼らの力を最大限に借りていなかったら聞き逃してしまう程か細く小さい声をした、灰原くんの声だった。その少し後、「灰原?」と七海くんの声も。気力と呪力が沸き上がる。あの子達を、助けなければ。

「……あ゙?」

 男が怪訝そうに呟く。
 ああ、そうだ。自分は、魔法使いなのだ。彼らもそう言って、自分に笑い掛けてくれたでは無いか。

「……廿楽、先輩?」

 不思議そうな七海くんの声。自分程に男との相性が悪くは無かったのか、少し突っ掛かる程度の喉の具合で済んでいた。

「ッ!! 二人と、ぐっ……」

 急に声を出した物だから喉が引き攣り、更に殴られ蹴られた体にびりっと電撃が走って苦痛の声が洩れる。だが何とかそれを抑えて、違和感のある呪力の感覚を手に集める―イメージをする―。霞んだ目で二人を確認すると、少し顔が綻み、痛みがほんの少し引いた気がした。灰原くんの方が七海くんの方に抱き着いていて(彼らは手は拘束されておらず、足のみ呪符の貼られた鎖で繋がれていた)、その空間だけ輝いているように見える。
 ――そう言えばあの男、この二人の“解体ショー”とか何とか言っていたような。それはつまり、……。そこまで考えて、今まで心を覆っていたほわほわとした幸福感が一瞬にして消え去り、男に対する嫌悪と憎悪が倍以上に膨れ上がった。眉がぎゅっと寄り、今までに無い程顔を顰めているのが自分でも分かる。

「……ッ、先輩!」

 灰原くんの声がする。再び顔を上げ、痛みを逃す為にハァーッと息を吐き出した。その時、違和感があった、いつもより少なく感じていた呪力が手に集まる感覚があった。イメージでは無くしっかりとだ。どこか捉えどころのない薄い呪力が、いつものようにしっかりと巡る感覚を伴って身体中を駆け巡る。
 男の方を盗み見ると、信じられないような顔をしてこちらを凝視してきていた。物理的には破れていないが、呪力の巡る感覚がある今、力を入れればこの呪符だって破れてしまう筈。痛む口を故意に歪め、好戦的にニヤリと男に笑い掛けた。

―――ビリィッ、ガシャアン!

 盛大な音を立てて呪符を破り、と同時に足の拘束も破壊する。男が驚愕に顔を歪め、その直ぐ後に狂気的な笑みを浮かべてこちらを見下げた。
 男が右腕をバッと伸ばすと、突っ立っていた人間達が一斉にこちらに向かってきた。黒いローブをはためかせ凄まじい脚力を使い二人の傍に寄ると、瞬時に足の拘束を破り二人の手を引いて走り出す。恐らくだが此処には抜け穴があるのだ。曲がりくねった道を走りながら琥珀色のマジカルペンを出現させ走りながら空へ向けると、水魔法を応用した魔法を空中で発現させ、それをパンッと破裂させた。シャランという効果音と共にキラキラとしたエフェクトが舞い、その光は天井を突っ切ってどこかに飛んでいく。

「そのまま走れ!」
「先輩はッ!?」
「必ず追い付くからっ、早く!」
「ッ!」
「ぁ、七海…!!」

 そう叫ぶと、七海くんが灰原くんの手を引いて走り去っていった。フードの端を持って顔がバレないようにしながら彼らの方を急旋回して振り向き、マジカルペンを向ける。

「【愚者の行進ラフ・ウィズ・ミー】!! そのまま固まっとけ!」

 出現したハイエナが人間達に向かって突進していった。横になって追いかけてきていた人間達を“彼”の魔法で出し抜いて、急いで二人の後を追う。気遣ってくれていたのか、二人は案外近い所に居た。
 ――その時。

「っぅわ!?」
「何ッ、」
「目つぶんな開けとけ! 意識を保っていて!!」

 目の前があの暗闇に蝕まれる。男が術式を使ったのではないというのは、後ろの人間達が転んでいるのを見れば明確だった。ドゴォン、という重苦しい音と共に視界が暗転する。それでも感覚はあった。目をしっかり開けて、体を駆け回る重い痛みに耐えながらも腰を落として辺りを探る。
 ――パチッと電気の爆ぜるような音がして目の前が明るくなった。だが風景は依然として変わらない。それでも、この鋭い呪力感知の為の触覚は、待ち望んでいた人物の呪力を確かに感じていた。

「…―――、――――!!!」

 自分の、直ぐ後ろから声がした。フードの下の目を大きく開けて、頭は“動け”と言うのに、体は固まって動かない。七海くんと灰原くんが慌てて振り返るのを目の端が捉えた。
 視界の右の方でキラリと何かが光る。灯りを反射した凶器だった。このままいけば右腕から左腕の端まで一刀両断……いや、術師で無いならあばら骨で止まるだろうか。よく見えなかったが、非力なら腕も切断出来ないかも。いや、それはないだろう。なら脇腹を裂いて終わるか…。どちらにせよ治癒の封じられたこの体では、死ぬのは確定事項だ。頭のどこかにある俯瞰した自分がそういう答えを導く。
 既にかなり近くまで夏油の呪力が近付いてきている。これならもう、任せても、良いのではないか。

(それもそうだ)

 相手が凶器を振りかぶる、そのひとときの間。自分はゆっくりと瞼を下げて、最後に一言呟いた。
「死なないでね?」
 ニコリと笑んで、鮮血が舞う。――自分の、右側の視界から。



 呪力の爆ぜる、音がした。バッとそちらを振り返り一目散に走り出す。感じた呪力はいつにも増して弱々しかったけれど、その呪力を私が間違う筈が無かった。

(廿楽……!)

 呪力の濃い場所に行くと、キラキラとした水色の何かが宙に漂っている。それに触れると、シャランという音を残して消えてしまった。その下には、廿楽の物とは全く違う色濃く残った残穢が地面にへばり付いていた。この時の私は気が付かなかったが、後の廿楽に依ればその近くの木に印が付けてあったそうだ。
 へばり付いた残穢に触れて、ふと違和感を感じる。――ああ、これは残穢ではない、と。確かに残穢のように感じるのに、根拠のない頭の本能的な部分がそう言う。
 ここに廿楽の呪力があった事、何者かの呪力が残っている事、そして場所と状況。それらを加味した上でも、これが何の意味も無い物だとは思えなかった。私は呪霊を出し残穢のような何かの解呪を始める。解呪と言っても、大雑把に言えば相手の術式を強引に自分の呪力で抉じ開けるような物で、呪力も体力も必要とする事だった。

―――早く、早く、早く……!

 冷静な自分とは裏腹に、何かに焦る自分も居た。一刻でも早くこの残穢を解かなければ。そうしないと…、廿楽が!
 その時、視界が暗転した。


 ぶくり、と、水泡が弾けるような音が耳元でした…気がした。パチッと電球の切れた時のような音がして、暗転した視界が戻ってくる。

(ここは……)

 サッと顔が青ざめる感覚がする。吐きそうな程の血の匂いと嫌な予感が立ち込めた。遠くから感じ慣れた呪力を感じる。それを感じた瞬間、またそちらへ走り出した。
 廿楽だけじゃない、灰原も七海も居る。そちらに近付くにつれ、胸の中でざわめく嫌な予感がはっきりと確かな物へと変わっていった。

「―――、――――!!!」

 よく分からない叫び声のような物が、直ぐ右側からする。反射的にそちらへ曲がると、数メートル先に七海と灰原が…そして、廿楽が居た。三人以外にもう一人、最も近い場所に、見知らぬ誰かが廿楽にナイフを向けているのが見える。二人が必死なのも廿楽が諦観した瞳をしているのも、濃い雰囲気で感じ取る事が出来た。
 私の今の立ち位置は、廿楽と第三者の後ろ、二人の前。ナイフを向けている第三者も私に気付いてはいないだろう。それでも、一秒後には廿楽の右腕が切っ裂かれてしまう程の距離だった。ほんの少しの瞬間でそこまで正確には見えなかったが、仄かな哀愁を纏わせて微笑んでいるのは分かった。

「死なないでね?」

 瞬く間程の時間だった筈なのに、何故かそれが長く長く感じられて。周りから音が消え、廿楽の声だけが響いて聞こえた。その時には、勝手に手が動いていた。

「――ぇ」

 小さな呟き声と共にぶわっと鉄臭い匂いが充満する。首根っこを掴んで引き寄せ、何とか右腕が切断されるのは防げたようだが、かなり深手を負わせてしまった。シャッと噴き出た真っ赤な血がぱたりと地面に飛び散る。ナイフを持っていた第三者が驚いたように身を引くのが見えた。そのまま流れるように身をくねらせて、七海と灰原の方へ向かっていく。

「七海く…っ灰原、ぁ゙……!!」

 それを認めたのか、苦し気に顔を歪めながら廿楽が左腕を伸ばした。切られた右腕が痛むのも厭わず、私の手を振り払って第三者の方へ向かっていく。が、余りの痛みに顔を引き攣らせ、膝から崩れ落ちてしまった。それを支えながら立たせ二人の方を向くと、多少の傷は負いながらも何とか応戦している。

「クソッ、二人が……ッ」
「それよりも廿楽、早く応急処置を」
「平気だ。一応は固めるが」

 焦ったような口調で早口に捲し立てた廿楽は、高らかな効果音をさせながら右腕に青い呪力を纏わせた。廿楽曰くこれが応急処置なのだそうだが、量が減ったと言えど未だに血は滴っているし、見た目も良い物ではなく、思わず顔を顰めてしまう。何より廿楽が痛いだろうに。その時、聞き慣れない男の声が響いた。

「やぁやぁやぁやぁ、こりゃまあ皆様お揃いで」
「ッ!?」
「…誰だ?」

 元々気配はあったが、廿楽は傷の所為か気が付いていなかったようで、驚きに顔を染めている。私は気付いていたからすっと顔を向ける事が出来た。

「此処のボスだ。…こいつは、殺したい。殺さなきゃいけない」

 そう静かに言う廿楽に、私は内心面食らった。会う度に変わり行く口調に違和感があっても、深い所の芯は変わっておらず、穏やかで非好戦的な性格の廿楽から“殺したい”などという不穏な言葉が出た事に驚いたのだ。
 だがその分、こいつ―此処のボスらしい―がどれだけ嫌な奴なのかが分かる。男を睨み付ける廿楽を見て私もその方に目を向けた、瞬間。大きく目を見開く廿楽と私を見て、男が上から心底楽しそうに私達を見下げた。

「!?」
「灰原ッ!!」

 後ろから七海と灰原の声が聞こえてきた。背後―男が居る方向―に意識を払いながらバッと後ろを振り向くと、そこには数十人の、非術師も混じった人間の集団がある。その集団を見るまで気配すら感じなかったのは、恐らくそういう術式か呪具か何かを使ったのだろう。

 目を凝らすと、二人共そこらかしこに小さな傷が出来ていて、七海は首を狙った攻撃を何とか逸らしたのだろう、右肩の鎖骨の辺りが切られていた。そして灰原が、呪具を使った攻撃をいなしきれなかったのか、持っていた呪具をカランと落とし、呪具を持っていた方の右腕を深く切り裂かれている。それを見た七海が灰原の名を叫んだ。
 更にそれを見た廿楽は、瞳に憎しみと心配の色をごっちゃに宿しながらヒュッと浅く息を吸う。その音が何故か深く耳に残った。男がニヤニヤと笑っているのを後ろに感じながら、廿楽を一人にするのも厭わず、私は迷わず二人の方へ突っ込んでいく。――廿楽がギリッと奥歯を噛み締め、何かに必死に耐えるような顔をしながら呟いた声に、気付きもしないで。

「……もう、うんざりだ」





中編④終わりです(約5000文字)。いつもより2000~3000文字くらい短めだったかな。
もしかしたら中編⑥いくかも。

Re: 【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ ( No.11 )
日時: 2022/03/13 17:51
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

中編⑤
○ワンクッション○
ツイステクロス有り(キャラは出てきません)。地雷の気配を察知した方は速やかにブラウザバックを推奨致します。
また、ツイステキャラのユニーク魔法ネタバレもございますので、十分にお気をつけてスクロールするようお願い致します。
前編・中編・後編に分ける予定ですのでご留意下さい(予定が変わる場合もございます)。





 サポートに呪霊を呼び出したものの気持ちが先走りしてしまい、懐に忍ばせていた暗器で手ずから集団を追っ払う。携帯用の小型ナイフだ。柄の部分を手の中でするすると滑らせ、右へ左へ流れ来る敵を浅く切って怯ませる。死角を呪霊に守らせ、二人の方へ近寄った。

「怪我は!?」
「私は深くありません、それより灰原が…!」

 七海にほんの少しの間敵を任せ、呪霊を近くに付ける。逸る気持ちを抑え冷静になるよう努めながら、痛みに呻く灰原の傷を手早く止血してやると、灰原は短く礼を言ってから利き手でもない左手で落ちた呪具を握り込んだ。碌に練習もしていない左手で戦うのは流石に無理があったが、そうとも言っていられない人数差があるのも事実だった。

「大丈夫。僕は大丈夫です」

 そう気丈に笑ってから、体力を切らさぬよう交代で交互に攻め来る敵へ向かっていく灰原に、何とも言えぬ苦い気持ちを抱えながら援護に回る。後ろで男と廿楽が言い合う声が虚ろに聞こえていたが、敵に集中していたのと、金属と金属が触れ合う甲高い音によって、それも掻き消されてしまった。

「――。――、―――。……――はもう、駄目なんだ」

 その言葉だけが妙にしっかり聞き取れた、と思った矢先、盗み聞きしていた背後からぐるりと複雑な呪力が轟々と音を立てて渦巻き、旋回しながら廿楽を覆った。それはまるで秋の旋風つむじかぜのように周りの物を巻き込みながら、だが廿楽はピクリと動きもせずに、その質量を増させていった。これには男とその味方の集団も怪訝に思ったようで、様子見しようと後退するのを触覚が捉える。廿楽が纏っているローブが絶えず激しく棚引く音が耳に付いて離れなかった。

 唸りを上げて速度を増していくその旋風には、廿楽の呪力が色濃く混じっていたが、目で見ても分かる“砂”も混じっていた。あまりの風の強さに空気が揺らいで廿楽の周りがぼんやりとしか見えなくなった程だ。目が白む程に燦々と照る、何もかもを焦がすような太陽の下で、風に曝され徐々に形を変えていく砂漠の中の一粒。そんな明るい、そして細かい砂粒だった。照明の当たり方によれば金色こんじきにも見える砂粒は、どこから来るのか段々と目に見えて量が増え、連なって風の周りを旋回するまでになった。

「熱くなるのは好きじゃねぇが、負けるのはもっと好みじゃないんでね」

 一際早く、連続してバタバタッとローブがはためいた瞬間、廿楽の身長の二倍はあった呪力の風が、勢いはそのままに段々と収縮していく。それは密度を増したのか、所々に混じっているだけだった砂粒は、今や全体に行き渡り、金色の粉が廿楽の周りをぐるぐると囲っているように見えた。砂粒の間隔も開いて、漸く廿楽がしっかり見えるようになってくると、何かが弾けるような音と共に、必死で強風に耐えていたローブが廿楽の体から離れ上手い事風に乗り、ふわりとこちら側の地面に落ち着いた。
 金色の旋風は数秒ごとに小さくなっていき、やがて廿楽が手を伸ばすと、その手の中で一定の大きさを保ちながらぐるぐるとその風が舞った。廿楽の背を越していた時の旋風は、砂漠のようなオレンジに近い色合いだったが、今廿楽の手の内にある凝縮された呪力の風は、薄い黄色までに白んで見える、輝かしい光の色をしている。

 まじまじと廿楽を見てみると、ローブで隠れて見えなかった制服の解れが見えてきた。左のふくらはぎと背中側の右脇腹が数センチに渡って裂かれている。一番目を引くのは、右の上腕だ。骨まで届いたのでは無いかと思う程深く切られたのが、暗い色の制服の中で白い肌が際立って、この距離でも分かった。金色の風を浮かばせている左手の手首には鮮やかな石で出来たブレスレットが目立つ。そして、右手には見慣れない杖が握られていた。
 南国を思わせる鮮やかな飾り羽に、巻かれた黄色の布。膨らんだ杖の頭頂部は何かを模しているようだったが、後ろからは見えなかった。廿楽はハッと息を吐き出すように笑うと、伏せていた目を上げて自嘲気味に笑った、ように感じた。私には見えなかったが、男は廿楽の顔を見て眉を跳ね上げ驚いたような顔をするのがチラリと見える。

「ああ……もう何だか、全てがどうでも良い」

 くるりと杖を回す廿楽からは、先程までとは別人のような余裕の雰囲気を纏わせている。“今日の口調”とは全く違う口調で廿楽が男に問い掛けた。知らねぇよと返す男には、嫌と言う程垣間見えていた余裕が、少し失われているような気がする。額に汗を浮かべて、如何にも余裕無さそうに笑みを作っている男の動揺具合に誘われ、廿楽の顔が見たくなった。

「お前が、消えてさえくれるなら」

 静かに低く呟かれたその声は、諦めの色が混じった声音とは少し違く、何も含みの感じない、寧ろ感情すら感じられない声をしている。

―――ビリィッ!!

 突如、静まり返った只中に、繊維を裂く高音が響いた。驚いて廿楽の方を見ると、廿楽が風から手を放し、体に金色を纏わせている。空いた左手で、半分を切られた右上腕の制服の袖を、切られた口から強引に破り捨てているのだという事が分かった時には、廿楽は破った袖をそこらに放って、右足をそっと左足の後ろに添えていた。一切陽の光を浴びて来なかったのであろう廿楽の腕は、眩いばかりに白く、そして、微かに残った引き攣れが痛々しい。
 コツ、コツと足音を立て、しっかり男を見据えながらゆっくりと後ろ歩きに後退してくる廿楽の背中に、何故だかとても覚束ない、儚げな雰囲気を感じるのは私だけなのだろうか。今直ぐ廿楽を支えなければという衝動に駆られて立ち上がろうとしたその瞬間、

「!」

 くるりと廿楽がこちらを向いた。横暴ささえ感じられる、人を上から見る為に上げられた顎が、こちらを向いた途端すっと下げられた。ちらりと見えた杖の頭頂部は、どうやら獅子を模した彫刻のようで、獰猛に牙を見せているその杖がどうにも狂暴的に見えてならない。
 そして私は―否、私と七海と灰原は―廿楽の顔に焦点を当てた瞬間、海の波が引くようにすぅっと周りの音が消えた気がした。見知った廿楽の顔に、どうしようもない変化を見て取ったからだ。

 ――それは、まるで、エメラルド。若しくは、遠い昔にテレビで見た、デマントイドガーネットとでも言うべきか。春の新緑とも、夏の若葉とも、秋の木賊とも、冬の深緑とも全く異なる、光を屈折させる度複雑に色合いの変わる宝石のような……緑眼だった。深い緑をした瞳孔はいつもとは違い、獲物を見定める肉食動物のように細まっている。いつもの廿楽からは全く想像もつかない表情をしているのも相俟って、今の廿楽は別人のように見えた。
 廿楽は享楽的な光を目に宿し微かに眉を寄せながら、今まで見た事の無い程に険しい顔をしていた。細い糸を限界まで張り詰めているような緊張感が、廿楽を見るだけで全身を駆け巡る。真一文字に引き結ばれた口からは、ふぅ…っと重い空気が流れ出た。

「!? な、」

 隣で声がする。驚いたような声を聞いて、どっと汗が噴き出した。廿楽に気を取られたのか、背後に回った集団の一人の気配に気が付かなかったのだ。手負いの灰原を狙ったのか集団の一人が人質に灰原を狙ったようで、両手を後ろに回されると、ぐんっと強引に立ち上がらせ、鋭く砥がれた刃物を灰原の首に宛がう。それを認めた廿楽の表情から、すっと色が消えた。

 直ぐ様手の中にあったナイフを隣の敵に突き出すが、刃が敵に届くより僅かに早く、敵が灰原をこちらに向けてくる。寸での所でナイフを止め、手の内で柄を親指と人差し指で操り反対を向かせて、元から呼び出していた呪霊を囮に身を屈めて走り出す。
 そのまま凄まじい速度で敵の横をすり抜け背後を取った、が、その左後ろから増援が駆け付け、呪力を纏った何か―鮮明には見えなかったが恐らく苦無―が頬を掠める。反射神経に身を任せ体を捻りそれを避けたが、応戦するより先に数十の集団が戻ってきた。冷静にと心中で呟き、少し後退して息を吐き出した刹那、背後で感じ慣れた呪力が何倍にも膨れ上がるのを感じ取る。不審に思いちらりと廿楽を見遣ってみれば、絶対零度の冷たい表情が、明らかに怒りの色を帯びさせていた。

「七海くんに灰原くん、その上夏油まで……」

 心底不愉快そうに顔を歪めた廿楽は、見るも恐ろしい顔をしていた。人はこれを般若と呼ぶのだろうか。だが怒りに染まっていた顔に、束の間躊躇いと惑いが浮かんだのを私は見逃さなかった。眉が寄り、引き結ばれていた口に力が入ったのを、しかとこの目で見たのだ。
 そんな気持ちを抑える為か、廿楽は目を伏せて軽くかぶりを振り、再びきつい光を目に宿す。その一連の動作は、夏油には、殺す決意をした廿楽の少しの惑いを表しているようにも見えた。
 廿楽は再び杖を振り、空気中の呪力を濃くした。体を巡る全能感と、高揚感と、そして少しの虚無感。それら全てを腹の奥へ押し込め、飲み下して、呪力へと変換させていく。それはまだ一年である二人には少し早かったようで、少しの隙を与えてしまった。夏油は慣れっこだったが、あまり共闘をした事のない一年生二人には些か刺激的過ぎたようだ。そこまで強くの無い呪霊をそれぞれ一体二人に付けると、流石の夏油も疲労を感じたが、そんな事は言っていられない。痛みに耐えながら戦っている他の三人の方が疲れている筈なのだから。

 すると、男が動いた。今までずっと傍観していた男が急に動いたものだから四人は警戒を強めたが、それよりも集団の方が厄介だった。数でゴリ押しするタイプかと思ったが、一人一人が何気に場慣れしている。一般人である筈の彼らに何故そんな感覚を懐くのか分からなかったが、とにかく集中、と夏油は自分に言い聞かせた。
 男は戦場を余裕ありげに―だが笑みは無く―歩き、手を振って集団を後退させていった。このまま逃げるつもりかとも思ったが、全くそのような素振りは無い。一体全体どうしたのだと、夏油は遣り場の無くしたナイフを握った手を下げ、落としていた腰を上げて、眉をひそめた。

 男は、この戦場に危険を感じ始めていた。それは廿楽が呪力の風を巻き起こし、右の袖を破り捨てた時からだ。よく聞く事だが、いつも優しい人間は怒ると怖い、というのは戦場でも言える事のようで、敵意はあったが芯の部分は朗らかな性格なのだろうと予測がつく程だった廿楽がわざわざ目立つ行動を取ったのは、男の本能的な恐怖を刺激したのだった。――そして、その本能は、男をしっかりと導いていた。

 夏油……私は、集団をある程度離れた所に寄せ、廿楽の次の一手を待ち構えている男を見遣る。流石の私でも、敵が数十の単位で集まっている場所に突っ込む程馬鹿では無い。
 振りかぶった杖を勢いよく横に薙ぐと、廿楽はゆっくりその杖を横に倒れさせて持つ。今までずっと廿楽の周りで吹き荒んでいた美しい金色が、杖を持っていない左手に集まるのが見えた。その金色は段々と廿楽の背後で形を成していく。それが何かの動物を模している、と気付いた時には、その砂粒は今にも動き出しそうなライオンに変わっていた。
 その獅子は本当に動き出し、春一番に乗る新芽のような軽々しさで空を跳ね回ると、最後に一声、耳を押さえたくなる、畏怖心を擽る咆哮を目一杯に浴びせる。廿楽はそれに動じもせずに一歩前へ出ると、杖を掲げて高々と言い募った。

「――俺こそが飢え、俺こそが渇き。お前から明日を奪う者……」

 廿楽は目を見開き、これでもかという程響く腹の底から出した声で、低く低く叫んだ。

「平伏しろ! 【王者の咆哮 (キングス・ロアー)】!!」





全編⑤終わりです(約4900文字)。短かったね。

Re: 【呪術廻戦二次】ツイステ微クロス有 パッと思い付いた設定2つ ( No.12 )
日時: 2022/03/13 18:02
名前: ゆずれもん (ID: 08bdl7kq)

後編
○ワンクッション○
ツイステクロス有り(キャラは出てきません)。地雷の気配を察知した方は速やかにブラウザバックを推奨致します。
また、ツイステキャラのユニーク魔法ネタバレもございますので、十分にお気をつけてスクロールするようお願い致します。
前編・中編・後編に分ける予定ですのでご留意下さい(予定が変わる場合もございます)。





「……え」

 指をピンと逸らした左腕を伸ばした廿楽は、糸が切れたようにふらりと左へよろめき、その流れに乗って集団へ近付いた。野生動物が獲物に近付く時のような、表現し難いしなやかさだった。何故だか分からないが、そう素早い訳でもないのに「目で追えない」。奇妙な感覚に囚われながら、私は驚愕を感じていた。――何と、廿楽が足を付けた地面が次々に砂と化していく。全てが崩れる訳では無いが、くっきりと足跡になった砂が窪んだ床にたまっていた。ハッと気が付いて背後を向くと、集団の周りが砂を含んだ竜巻で覆われている。
 と、呪力の弾ける音と共に竜巻が消えた。男が抵抗に呪力を重ねて強制的に術式を解除したようだ。術式と言ってもほぼ呪力の塊のような物だから、容易く風は消えてしまう。男は無表情で神妙な面持ちだったものの、どこか楽し気な雰囲気も感じられた。

 集団は男を守るように動き、敵意を剥き出しにして廿楽を睨み付ける。一旦は呪霊を仕舞い事の成り行きを見る事にした。もうここまで来てしまったら、誰も廿楽を止められない。そう感じてしまったからだ。
 集団に接近しきるまであと数メートルという時、廿楽が急に立ち止まり、右足に体重を掛け左足を伸ばし切り、左手を地面に付けた。右膝が完全に曲がっていて、かなり背を低くしている状態だ。そのまま左足へ徐々に体重を掛けていき、それに伴って地面に付けた左手が左へスライドしていく。それに何らかの既視感を感じながら一年の方に寄り、気は抜かないようにと囁いた。二人はこくりと頷いたものの、廿楽に見とれているのか生返事のようなものだった。
 左足に体重を掛けきった時、そのまま右足を左足の方へ持って来て左に走り出しざま、地面に付けていた左手を集団に向けて横に薙いだ。

「お前達はもう」

 薙いだ所から砂塵が巻き起こり、それが風となって回転しながら宙を舞う。それがどんどん大きくなり、突如として突風が巻き起こった。

「明日の日の出を見る事は出来ない」

 集団の方からどよめく困惑の声がした、途端、それは悲鳴と苦痛の声に変わった。甲高い女の声、野太い男の声。幼い少年少女の声すらある。目を凝らしてよく見てみると、そのあまりの衝撃に声を失った。

「……っ」

 声を出そうとしても、喉の上と下が張り付いたようになって音すら出ない。ぱくぱくと口を上下させるに留まらせたそれは、まるで廿楽がしている事だとは思えなかった。この手でやった訳では無いにせよ、家入とつるんでいる私達は、そして何より呪術師なのだから当然だが、今まで散々血だの内臓だのを見てきた。だがそれ以上に凄惨でむごい。どれだけの屍を見るより、どれだけのはらわたを見るより、不快感と恐怖感を煽る現場だった。ギラギラと光る緑眼が美しい故に恐ろしい。何より、廿楽に恐怖していると言う事実が信じられなかった。

「お前」

 男が呟く。

「最ッ高に、狂れてる!!」

 恍惚とした色を含んだ声は、この場に全く似つかわしくない。こいつには人として決定的な何かが欠けている。頭のどこかでそう思った。 ――たった今、男(お前)を囲っている人間達が砂塵に巻き込まれ、徐々に徐々に塵芥と成っていくのが見えないのか。ピキピキと耳に響く不穏な音がする。人間達の体から水分が失われ、手足が罅割れていく音だというのは嫌でも分かった。
 廿楽を止めては駄目だ、止める理由など無い。あれは敵なのだから。そう頭では分かっているのに、止めなければ、今直ぐ止めなければと焦る気持ちも確かにある。それは殺人という事に抵抗を持っているのではなく、廿楽の精神に心配を持っているのは明確だった。

「夏油先輩……あれ、若しかして」

 ぽつりと七海が呟く。恐らくだが、彼らは一般家庭出身だし一年だし、血を見慣れてはいても“命を奪う”行動に抵抗があるのだろう。そして、それを廿楽がしているという事を理解したくないのだ。

「ああなったら、もう誰も廿楽を止められない。――あいつ、お人好し過ぎるんだよなぁ」

 ぽつりと独り言ちるように返事を返すと、それ以降何も言葉は振りかからなかった。目を瞑り耳を塞ぎたくなる衝動を必死に抑え込み、ただ只管に廿楽を見つめる。
 男と廿楽の戦闘が始まった。と言っても、男は満足そうに微笑み突っ立っているのみで、一切の戦意が感じられない。廿楽はそれに感情を示す事も無く、すっと男に杖を伸ばした。集団は男を守ろうともせず、涸れ行く身体をどうにかしようと慌てふためいている。顔や耳、首、手足に罅割れが起こっていたが、未だ砂に成ってはいなかった。その時、私の中にある考えが浮かぶ。

(若しかしたら廿楽は、躊躇っているのか?)

 少し前に見たあの表情。躊躇が浮かんだ、束の間の顔。廿楽の話では、大きく言えば“被害者”である非術師さえ廿楽は纏めて制圧しようとしている。それを廿楽は恐れているのだとしたら。

(間に合うのかも知れない)
「あいつ」

 そんな甘い考えを持った刹那、灰原がぽつりと呟いた。いつもの溌剌とした雰囲気は鳴りを潜め、微かに眉を顰めて男と廿楽の方を凝視している。

「抵抗しないつもりだ」

 驚いてもう一度男の方を向くと、廿楽が伸ばした杖を男の額にコツリと触れさせている。緑眼は光を遮り、丁度目の光が見えない位置だった。男は満足そうに廿楽を見上げ続けているが、男にだけ術式が加わらないよう調整しているのか、体の少しも砂に成ってはいない。廿楽がきゅっと口の周りに力を入れた。眉が寄って、覚悟を決めた顔をしている。

(駄目だ)

 そう思っても、体はぴくりとも動かない。廿楽の周りに渦巻いていた砂を含んだ旋風が、するすると形を成しライオンの像を模していく。威厳の滲む獅子は廿楽と似た感情を持った瞳で男を見下ろすと――ガブリ。
 これでいいんだ。廿楽は光を失った虚ろな目をして、心の中でそう呟いた。男の噛まれた部分―右の上腕―からピキピキと音がする。痛みがあったのか少し顔を顰めているが、それでも嬉しそうに男は廿楽を見上げた。

「ああ、良いねェ。歪みきってない良心が、段々と歪になるのを見るのは。お前は良い呪術師になるだろうよ、そんだけイカれてりゃな。それを見れない事だけが心残りだ。ほうら、こいつ等も砂になってきやがった。
 どちらにせよこんな仕事ばっか受けてたら近い内に死んでただろうが……ハハ、人が狂う歯車の一つになれて光栄だぜ。俺ぁコレを求めてたんだ。欲を言えばもっと長生きして人を狂わせたかったが、執着も無いしなァ」

 呻き声が混じった皮肉も、死が目前にあればただの戯言に変わる。廿楽は何とも言えないような目で男を見下げていた。ボトリ、という音がして、男の右肘から下が地面に落ちた。どちらか分からなかったが、七海か灰原が小さい叫びを上げる。

「呪術師の嬢ちゃん、名は何て言う?」
「何故お前に教えなければならない」
「もうそろそろ尽きる命だ、減るもんでも無ぇだろ」

 周りを取り囲む集団が、一人、また一人と、崩れ落ちていく。絶望に打ちひしがれる者も居れば、全てを諦めきって悲鳴一つ出せない者、更には本当に足が崩れてしまった者。様々だった。廿楽は顔を顰めたが、少し目線を外して言い難そうにしながら呟く。

「言わない。……言えない」
「そうかい、残念だな。
 にしても幸運だ。お前は近い内に狂ってくぞ、まだ躊躇ってんだろう。だがお前は確実に俺を殺す、俺には分かる。お前の頭ン中から俺が消える事は無いってこった。嬉しいねェ」

 男の足が、腹が、そして首が、罅割れを起こしてぼろぼろと崩れていく。クルクルとよく回る口に翻弄され、廿楽はぎゅっと眉根を寄せた。黙らせようとしたのか手を男の前に出し制す仕草をし、そのままひらりと腕を振ると、悲鳴が短く甲高い物に変わった。死を目前にした者の声だった。
 駄目だ、と思った矢先に待っていたのは、駄目だったという諦めの感情で。夏油は耐えられず顔を下に向けて俯き、目を伏せて片手で顔の半分を覆った。

 廿楽が元はどういう人間だったか思い出す度に、目の前に居る人間がそのイメージと乖離していく。危ないから、と口実を理由にして二人を後ろに退かせ、更に私の後ろに隠した。それでも廿楽と男から目線を離さない二人からは、こうなったら最後まで事を見納めようという気概と、腹の底から沸き上がる恐怖が匂い立つ。
 エメラルドの瞳、珍しく露出された右腕に、見た事の無い程に悍ましい顔。廿楽の腕が動く度に周りが砂と化していき、目はギラギラと残光の尾を引いて底光りする。それは、“自分は魔法使いだから”と笑う廿楽とは全く違う何者かで、全く同じ同一人物でもあった。

「……お前を、殺す」
「殺せ。その感覚を一生忘れるな、罪を抱えて生きていけ。そしてそのまま狂ってくれりゃ大満足さ」

 廿楽は身を屈め男と目線を合わせると、最後に一言何かを呟いて、渦巻いていた大量の砂塵を一ヶ所に集めると、杖を一振りして砂を男の周りに纏わせた。砂で男が覆われ見えなくなった、その瞬間。もう後戻りは出来ない、そう頭の中の私が言う。
 パアァッと周りが金色に煌めいて、さらりさらりと砂の落ちる音がした。――そこには、廿楽の背の半分も無い砂山が出来ている。つい数秒前まで人が居たとは思えない、だがそれ故に残酷な風景だった。人間達の悲鳴が大きくなり、渦を巻き、呪力が高まる。廿楽は顔をこちらに向ける事無く、人間達にも手を翳す。嫌だ、と、死にたくない、と声が響いた。その殆どが若者で、少年少女や四十を超えていそうな者は沈黙を貫き通している。

「……黙れ」

 ぽつり、廿楽の口が開いた。

「黙れ、黙れ! …黙って……」

 憤りに染みていた声音が、段々とか弱く、哀しみを帯びた声に変わっていく。先程までとは比べ物にならない程に弱々しく……何より、年相応の声に思えた。ああ、哀しいのだ。苦しいのだ。非情に見えていた廿楽が、急に現実味を帯びて私の心に突き刺さってきた感覚がすると同時に、誰が悪いのだろう、という疑問が浮かぶ。
 きっと誰も悪くないのだ。諸悪の根源が男だったにせよ、男を焚きつけた呪詛師だったにせよ、人間達だったにせよ、非術師をあそこまで追い詰めた呪術師だったにせよ。誰にも罪は無くて、全員の所為で、誰の所為でも無いから、その分辛くて。何かを守る為には何かを犠牲にしなければならない。分かっているのに、それが何より苦しくて――。

救いが無い、と心で呟いた時、廿楽がよろりと立ち上がり数歩こちらへ戻って来ようとしたが、色々と限界が来ていたのかガクンと膝から崩れ落ち、だらりと両腕を下げて俯いた。その体勢のまま少し時間が経つと、やがて嗚咽が反響する。悲鳴や呻き声の中で只一つ、哀愁を纏った静かな啜り泣きだった。居ても立っても居られず小走りで廿楽に近付くと、屈んで不器用に背中をさすり続ける。割と近くに居る集団達は、もうそろそろ四肢がもげるだろうかという所まで来ていた。

「ぅ゙…っあ゙ぁ゙、ぁ……ぐ、っ、うあ゙ぁ………ッ」

 細切れになった嗚咽は、段々と声量と連続した音を増しながら続いていく。助けて、と一際高い声がしたと同時に、光を伴って二つ目の砂山を作り出した。廿楽は恐る恐る顔を上げてそれを見ると、ヒュッと喉を鳴らして震え出す。息が荒くなり、目はこれでもかと見開かれている。緑の瞳は光を失い、暗い闇の色を灯した。私はそれを、ただ背中をさすりながら見ている事しか出来ない。
 ぶわっと目から溢れ出した雫は、緑色に反射しながら頬を伝い、顎を流れる。地面にぽたり、ぽたりと雫の跡が出来る、かと思いきや、流れた雫は空中で砂と化し、消えた。自分の流した涙さえ数秒持つ事もなくサラサラと砂に変わって溶けていくのか、と、心に穴が開いたような虚ろを見つける。

 廿楽は何かに縋りつくように白い右腕を伸ばすと、諦めたように地面に置いた。更に背を丸めて右腕を伸ばしたまま土下座するように蹲ると、体を小刻みに震わせてよりくぐもった嗚咽を発する。すると私は、右腕に淡く光る何かのマークを認めた。よくよく見てみると、黒い鬣と左目に傷の出来た獅子がペイントのように光っていたのだった。目を凝らしてみれば、ぼさぼさになった廿楽の髪には白銀のインナーカラーが入っている。

「……っ違う! ち、がぅ…!! じ、自分は、ぁ……!」
「廿楽?」
「まちが、って……? ちが、じぶ、は、間違ってなんて!!」
「っ、廿楽!」

 突如、廿楽が叫び出した。その悲痛さに顔を歪めながら必死で廿楽に叫び掛ける。砂山は既に三つ四つと列を成していた。杖はいつの間にか消えていて、代わりに廿楽が動いても砂は出来なくなっている。人を砂にする能力はもう無いのだと分かった。

「止められな゙、い! 試したけど、で…も、もう……! この…術式の、解呪は……自分が、思っても、出来ないように……なってる、から……。ゔ、ぁ゙、あ゙あ゙あ゙あ゙!!」

 丸まっていた背を再び逸らせると、思い切り宙を仰いで、廿楽は泣き叫んだ。咆哮のような泣き声は、だらりと下げられた両腕と逸らされた背、ちらりと覗く鋭い犬歯と真上を向く首によって悲壮感を増している。
 ずっと固まっていた二人が動く気配が微かにした。灰原がこちらへと向かっていく。ふらふらと覚束ない足取りで、七海もそれに続いた。

「先輩……っ廿楽、先輩」

 よろよろとふらつきながらも、灰原はしっかりと廿楽の肩に手を置くと、そのまま雪崩れ込むように抱き付いた。廿楽の名を呼ぶ灰原の声は、確かに震えて詰まっている。しゃくり上げをどうにか抑えようとしている声だった。くぐもった響きを持ったその声に、廿楽がぴくりと反応する。七海は何も言わず、何も言えず、縋りつくように廿楽に抱き着いた灰原の肩に顔を埋め、あやすように廿楽の背を撫でた。
 鋭い悲鳴をBGMに、もう何個目かも分からない砂山が出来上がる。この場にはもう、敵は数人しか居なかった。多く見積もっても十人以下だ。あれだけ居た人間の全てが砂となり、消えている。只管に皆で廿楽を囲み、泣き、どれくらい時が経っただろう。そろそろと抱き着いた灰原の背に手を回し、もう片方の手で七海の肩を抱き、廿楽は静かにこう呟いた。


「……生きてる」





終わりーーーー!!! 約6500文字ぃぃぃぃぃ力尽きたあああぁぁぁぁ!!!!!

今から違うレスで『クマツヅラの廿楽さん』っていうスレ題名で廿楽シリーズ乗っけます。
どうかどうかリツイート(みたいなやつ)(広告)宜しくお願いします……!!



<メモ> 《という名の裏設定》

「――。――、―――。……――はもう、駄目なんだ」
=「分かった。ちゃんと、理解したよ。……あんたはもう、駄目なんだ」
男がどれだけ世界の塵でクソ野郎なのかっていうのを確認してた。

それに何らかの既視感を感じながら一年の方に寄り、気は抜かないようにと囁いた。
既視感=ライオンが狩りをする時の姿勢。

「お前達はもう」「明日の日の出を見る事は出来ない」
=夏油と二人に戦意を失わせる為に(廿楽に全ての罪悪感を背負わせる為に)。

刺客は無事に全員抹殺。
帰ってきた上級生と教師達、京都の応援により男を向かわせた犯人が発覚。何と(何処とは言えないが)御三家の本家に居る誰かが故意的に高専内をあれだけの人数にし、呪詛師と非術師達の集団を造り上げ仕向けていたと言う。
ちなみにそいつは全勢力を以て叩き潰されましたとさ。めでたくないめでたくない。
まぁ一応IFですから、IF。がっつり本編に関わるつもりで書いたけど、便宜上はIF。



もしも、本当に仮にもしもここまで読んでくれていた人が居るのなら、心から最上級の感謝を。


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