二次創作小説(新・総合)

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Re:Re:ポケットモンスター REALIZE
日時: 2023/05/31 20:14
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: HBSbPqD3)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355

現在のあらすじ
一番の仲間を失った深部ディープ集団サイド最強と言われている青年ジェノサイドであったが、世界を一変しかねない騒動を収めて以降平穏な日々を送っていた。
そんなある時、これまで確認されることの無かった"メガシンカ"が発現したという噂を聞き、調査へと乗り出す。
それと同時に、深部ディープ集団サイドの世界では奇妙な都市伝説が流布していた。結社の人間を名乗る男の手紙を受け取った組織は例外なく消滅してしまうという、悪戯にしては程度の低い噂。
メガシンカを追っていたジェノサイドの元に、正にその手紙"解散礼状"を受け取ってしまった組織の人間が現れて……。
結社。それは、深部ディープ集団サイドそのものを含めた裏社会全般を作り上げた、大いなる存在。それが今、ジェノサイドと相見える。

第一部『深部ディープ世界ワールド

第一章『写し鏡争奪篇』
>>1-7

第二章『シン世界篇』
>>8-24

第三章『深部消滅篇』
>>25-

第四章『世界終末戦争アルマゲドン篇』
>>

第二部『世界プロジェクト真相リアライズ

第一章『真夏の祭典篇』
>>

第二章『真偽ボーダー境界ライン篇』
>>

第三章『偉大グレート旅路ジャーニー篇』
>>

第四章『タイトル未定』
>>

第五章『タイトル未定(最終章)』
>>

〜あらすじ〜

 平成二十二年(二〇一〇年)九月。ポケットモンスターブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiはゲームにおいてもグローバルな交流を果たす便利なツールと化していった。
 時を同じくして、ゲームにしか存在しないはずのポケットモンスター、縮めてポケモンが現世において出現する"実体化"の現象を確認。ヒトは突如としてポケモンという名の得体の知れない生物との共生を強いられることとなる。

 それから四年後の二〇一四年。一人の青年"ジェノサイド"は悲観を募らせていた。

 世界は四年の間に様変わりしてしまった。ポケモンが世界に与えた影響は利便性だけではなく、その力を悪用して犯罪や秩序を乱す者を生み出してしまっていた。
 世はそのような悪なる集団で溢れ、半ば無法な混乱状態が形成される。そんな環境に降り立った一人の戦士は数多の争いと陰謀に巻き込まれ、時には生み出してゆく。

 これは、ポケモンにより翻弄された世界と、平和を望んだ人々により紡がれた一つの物語である。



【追記】

※※感想、コメントはお控えください。どうしてもコメントや意見等が言いたい、という場合は誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にある解説・裏設定スレ(参照URL参照)にて御願いいたします。※※

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.24 )
日時: 2023/05/12 00:16
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: m6roaYco)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 遂にこの時が来た。
冷静に考え、振り返ってみると信じられないことばかりだった。
人や考えによってはチートと評されるかもしれないポケモンを相手に、あと一歩のところまでやって来た。二体のポケモンを、チートに塗れた伝説のポケモンを倒したその現実が妙に誇らしくも感じる。

 ジェノサイドは長く息を吐く。
これまでの疲労により乱れた呼吸を整え、内に宿る意識を叩き起すために。

「お前さんの強さは……」

 バルバロッサの声だ。追い込まれた状況とはいえ、その声は落ち着いている。ジェノサイドが抱いているように、彼もまた勝利を手にしたと思い込んでいるのだろうか。

「正直なところゾロアークだけだと思っていた。お前さんはこれまでに打ち勝ってきた難敵はどれもゾロアークの前に倒れたからな」

「結局はテメェの油断かよくだらねぇ。散々"うつしかがみ"とか言う機械を介して〜だの何だの言っておきながら、結局はテメェの手心で決まるもんだったのかよ。ポケモンじゃなくてテメェだけを見ていれば良かったってかぁ?」

「私の意思も介在しているに過ぎんと言うことさ」

 ランドロスが鏡から姿を現した。
手足が露わとなり、普段の人型の姿から一転して動物のような、それでこそどこか白虎を想像する威圧的で堂々とした様は、視線を移す度に身が縮まるような思いがする。
ランドロスはこのバトルで何度か戦っている。しかし、ここまでに一度として攻撃が届いたことは無かった。
だが、今回ばかりは当てられる自信がジェノサイドにはあった。いや、当てるしかないのだ。

「ところでお前さん、いい加減次のポケモンを出したらどうなのだね? コジョンドの"とんぼがえり"はまだ終わっとらんよ」

「そんなん一々言わずとも分かってるっつーの」

 ジェノサイドは最後に賭けに出た。
ランドロスが相手では体力一のゾロアークも、相性の悪いコジョンドでは勝てるとはとてもだが思えない。
だが、ジェノサイドにはまだ使用していない最後の一匹が残っている。
そのポケモンは訳ありであるがゆえに、これまで使う事が出来なかったのだ。

「あとはお前だけが頼りだ……頼んだぜ、リザードンっ!」

 ジェノサイドはモンスターボールを天高く放り投げた。



 時刻は八時を大幅に越している。
もしも今日が普段と変わらない日で何事も無い一日であれば、今頃はこのメンバーで近くのファミレスかラーメン屋あたりで夕飯を取っていたことだろう。
だが、今日に限ってそんな事はなかった。
ジェノサイド改めなばり洋平ようへいの言いつけを守り、サークルに顔を出しに来た全員が教室で待機している。
やはりと言うか、空模様に変化は無い。金色に輝いているため、外がまるで昼のように明るく、眩しいほどだ。

「先輩、もう帰る時間過ぎてますけど……どうします?」

「うーん……もう少し、もう少し待ってみようよ」

 二年生の大三輪おおみわ真姫まきが鞄を片手に椅子から立ち上がった。そのスレンダーな見た目に見蕩れかけた佐野さの宏太こうたは瞬時に我に返り、しかし返答に迷う。

 もう少しと言って既に二時間は経っている。それまで隠から連絡も無ければ変化らしい変化も見当たらない。
果たして隠の言葉を信じて良いのだろうか。外が危険かどうかなど最早誰も分からないでいる。

「さーせん、先輩。俺飲み物買ってきます」

「うん。いいよ、行っておいで。廊下の自販機で買うんだよ」

 どこか不服そうな表情を浮かべながら穂積ほづみ裕貴ゆうきは立ち上がり、廊下へと出た。何故か佐伯さえき慎司しんじを呼んで二人で出ていく。
穂積は自販機の前に立つと迷うこと無くコーラを選んだ。ボトルの落下音が静寂に包まれた廊下に無駄に響き渡る。
彼がコーラを飲むタイミングは決まっている。煙草を吸うときだ。

「悪い佐伯、ちょっと付き合ってくれ」

 指で合図する穂積はそのままその階の非常階段のある方へ、つまり外へと出た。
佐伯は少しばかり警戒しているようだった。

 外に出て風を浴びた二人は予想以上の心地良さに少々感動した。
どこか天国をイメージする金色の空から降り注ぐ光は、秋になりかけの今であるにも関わらず"暖かさ"を感じる。風も寒すぎず気持ちが良い。これで"外は危険"と言われても信じられないくらいだ。
穂積は決まりの動作の如く煙草を吸い始めた。
佐伯は喫煙者ではないものの、このように彼と語らう場面が多いので既に慣れている。穂積自身喫煙になれているからか、非喫煙者には最大限の配慮をしているつもりだった。煙ひとつ浴びせることはしない。

「レンの奴……何なんだろうな?」

 ボソッと突然穂積は呟いた。

「何って……何に対して?」

「アイツ、俺らと会う前からジェノサイドとか……えっと……」

深部ディープ集団サイドのこと?」

「そうだ、それそれ。そこに居たんだよな?」

「……みたいだね」

 佐伯は深部ディープ集団サイドのことを詳しくは知らない。それは穂積も同様だ。
予想だにしないところから現れた"未知"にストレスが募ってゆく。

「何を考えてアイツはそんな事してたんだろうな? アイツそんな事するような奴なのかよ?」

「それは……こっちもよく分からないな。レンの高校時代の話なんてまず聞かなかったし」

「……ぶっちゃけると俺は、お前らとは出遅れていると思っている」

 話の流れをぶった切る唐突の告白だった。
初めて聞いた時は驚くこともあったかもしれないが、今となっては最早彼の口癖のようなものへと変化している。佐伯は、これを彼が抱いているコンプレックスのようなものだと解する。

「お前や大三輪、御巫かんなぎ、それから樋端といばなにレン……。皆このサークルで会ったのは一年だった去年だ。対して俺がこのサークルに入ったのは今年。皆とは学年も歳も同じだけど輪みたいなものがあったとして、それに入れずにいる気がしてならねぇんだ。皆良い奴だし俺も仲良くなりたいと思っているけど……まだ完璧仲良いとは言えないような気がしてな……」

「そ、そんな事ないって! 誰もそんな事思ってないよ!」

 佐伯は理解した。今この場は隠を糾弾したり批判したりする場ではなく、自身をフォローしてほしい場なのだと。

「なら……いいけどさ」

 佐伯は本来であればこう言いたかった。
隠に対して得ている情報はお前も自分も変わらない、と。年数など関係ない。皆立場は同じなのだ、と。

「こっちだけじゃない。それは皆同じだと思うよ。"なんでレンが深部ディープ集団サイドなんかに"って」

 隠洋平。
パッと見クールで大人しいと思いきや、友人といる時は大いにはしゃぐ子供っぽくも大人のような男。そんな彼が何故裏社会に近しいような世界で生き、更に頂点に立っているような人間でいられたのか。
誰もがその事実を受け入れられずにいるし、ゆえに知りたいと思っている。

「さっき佐野先輩も言っていたけど、とにかく話をしないと。レンと話をしてお互い理解しないときっと絶対に解決しないよ」

「そう……だよな。アイツが全部正直に話してくれるかそれは分からないが……まぁ、それについては俺も賛成だよ。……ったく、早く帰って来いよっつーの」

 穂積は眩しい空を見上げる。
天国とは案外こんなものなのかもしれない。吐き出した煙が光の中で消えゆくのを見つめながら、心の中ではらしくない想像をしている自分が居た。



 ジェノサイドはポケモンが飛び出し、空になったボールをキャッチする。
彼の前で凛々しい竜が翼を羽ばたかせつつ着地した。
バルバロッサはそれを見て虚を突かれたような顔をしたあとに堪えきれなかったのか、小刻みに身を震わせつつ軽く笑う。

「なんの……つもりだね?」

「見て分かるだろ、リザードンさ」

「お前さんは何をしようとしている? 私の記憶が正しければだが、お前さんのリザードンは確かゲーム上ではメガシンカをする個体だったような気がするのだが?」

 バルバロッサが笑うのも無理はなかった。他愛もないバトルであればどうでもいい事だが、今は世界そのものを秤に掛けている"かもしれない"重要な戦いでもあるのだ。
そこにメガシンカを期待して挑むというのはあまりにも無計画で無謀で、それでいて挑戦的である。
何故ならば。

「メガシンカという現象はこの世界では確認出来ていないのだぞ。一部を除いてあらゆる道具がこの世にも反映されるものの、メガストーンやキーストーン……そしてメガシンカに必要なデバイスもこの世には未だ存在しないし反映されない! ゲームでは使えるメガシンカはこの世界では使えない。この意味がお前さんには分かるか!?」

 ゲームで本領を発揮出来るポケモンはこの現実世界ではその通りにならない。
ポケモンの世界とは違うこの世界ではメガシンカが果たせないのだ。
そしてこれこそが、ジェノサイドが挑んだ賭けであった。

 リザードンにはゲーム内で"リザードナイトX"を持たせている。あとは、この世界に呼び出すことでどのような反応を見せるのか、他の道具と同様反映されるかが注目のポイントだった。
しかし、何も変わらない。変化が見られない。
通常色のリザードンが、そのままの姿で佇むのみだ。

「それが……お前さんの望んだ結果なのだな」

 バルバロッサの勝利宣言に反応するかのようにランドロスが雄叫びを上げ、今にも"げきりん"を放とうとしたその瞬間。

「いや、成功だよ。バルバロッサ」

 異変は突如として起こった。

 リザードンの全身が輝き出した。
自然のエネルギーを大量に吸収しているようだった。
それだけではない。ジェノサイドの右腕もリザードンに呼応するかのように同様の光を放っている。
ゲームを深くやり込んでいる者ならばそれが何なのかは分かる。
その光景は、まさしく"あれ"と酷似している。
光に包まれたリザードンは溢れたエネルギーを外に撒き散らし、遺伝子を模した二重螺旋のエフェクトを放つ。
体色も大きく変わり、漆黒の竜が姿を現した。

「まさか……、お前さん……嘘だ」

 バルバロッサは絶句した。
信じられないものを、決して存在してはいけない光景が眼前で繰り広げられているせいで。

 紛れもなくそれはメガシンカだった。
メガリザードンXが、確かにそこに居た。

 彼方で歓声が沸き起こった。
見ると、戦闘を眺めていたハヤテら仲間たちがメガシンカを果たしたリザードンに対して反応しているようだ。

「よかった……! 道具を持たせてデバイスもこの時までに間に合わせたけど上手くいったみたいだな……」

「有り得ない……っ! 一体何をしたと言うのだ! 未だ発見も観測も成されていない現象を……何故お前さんが操れるのだ!」

「俺が史上初を成し遂げるってのがそんなにおかしいのか? テメェ……誰と戦ってんのか分かってんだろうなァ?」

「やかましい!」

 バルバロッサのランドロスは動いた。
彼の叫びに応じてそのポケモンは自身の爪を燃やす。
怒りを身に纏ったランドロスが一瞬で姿を消したかと思うと、既に眼前に迫っている。

「お前さん如きが……この世界を、世の理を……そして私の夢を……否定するなぁ!!」

 バルバロッサは我を忘れていた。まるでランドロスと意思を同一としているかのように。
竜の爪がリザードンを捉えた。その動きは"こだわりスカーフ"でも巻いているような神速を思わせる。ジェノサイドもリザードンもその動きにはついて行くことも、反応することすらも出来ない。
間に合うか間に合わないかの次元では無かった。
認識した時には既に攻撃が決まっている。

 メガシンカに沸いたのはほんの数秒前だったはずだ。
だが、その希望や喜びは一瞬で葬られる。
彼らは、呆然と眺める事しか出来なかった。

 だからこそ、目の前の光景に理解出来なかった。

 リザードンの手が、ランドロスの爪を不自然なまでに"掴んでいる"ことに。

「なっ……?」

 初めに異変に気付いたのは伝説のポケモンを操る老人だった。

「ランドロス……? 何をしているのだ……」

 たとえ未知の世界であるメガシンカを果たしたリザードンであったとしても、所詮はリザードン。能力が強化されたランドロスには到底届くものでは無い。

「手を……止めるな……っ! リザードンを切り裂け、ランドロス!!」

 しかしその声は、その叫びは"彼"には届かない。

「ごっめーん、言い忘れてた事があったわー」

 ジェノサイドは大きく顔を歪ませた。
一定の感情が昂り、それまで有るはずのなかった"余裕"を生み出す。その声色は歌っているかのような口ぶりだった。

 ランドロスを拘束したリザードンの周囲の空間が物理法則を無視する形で歪みだした。
そしてその光景を、その現象を、バルバロッサは知っている。

「……!?」

 だが、その現象は本来であれば有り得ないものだった。
それがたとえ、"メガシンカしたリザードンに化けたゾロアーク"のものだったとしても。

「どういう……ことなのだ……?」

「これで終わりだ、バルバロッサ。お前は俺たちに見事に化かされた」

 瞬間。
"げきりん"のダメージを受けて耐えたゾロアークによる"カウンター"が炸裂した。
攻撃力の高い自身の力を倍にして返されたランドロスは、反動でゾロアークの手元から離れ、大きくその身を吹き飛ばされると岩壁に深々と突き刺さる。

 長かった戦いが今、幕を閉じた。



 最早誰も異変を異変と感じなくなった同時期。また別の異変が起こった。

「えっ……えっ!? なに!? 何があったの!?」

 教室の中で誰かが叫んだ。
佐野が釣られて空を見る。

「戻ってる……?」

 眩い光が、黄金色の空が瞬く間には消えていた。
窓を開け、外の景色を見てみる。
漆黒の空と、月の光で存在感を増している流れる雲と、そして僅かに輝く小さな星があるのみだった。
時刻は夜の九時に近付いている。本来の夜空を取り戻した。そんな風に見えた。

「まさかレンの奴……何かしたんじゃねぇの!?」

 樋端といばなかけるは狼狽えながら外の景色と教室にいる仲間たちの顔を何度も何度も交互に見る。半ば興奮しているようだ。

「それはまだ……分からないけれど、とにかく連絡しないと! レン君、無事だよね!? 僕達もう帰って大丈夫だよね!?」

 佐野は震える手でスマホを操作する。LINE越しに通話を試みるも、隠が出ることは無かった。



 世界は元に戻った。
地上を埋めつくしていた花は全て枯れ、雪を乗せた風は止み、空を彩った天国は消滅していた。まるで、一睡のうちに見ていた夢のように。

「待て……待つんだ……ジェノサイド……」

 バルバロッサは足の弱くなった老人のように覚束無おぼつかない足取りでこちらにゆっくりと近付いて来る。まるで一気に歳を取ったようだった。

「お前さんのゾロアークは……化けたというのか……? 死に体のゾロアークが!! 何故!!」

「少し考えば分かるだろーが……。まぁ、俺もすぐには気付けなかったがな」

 ジェノサイドはゾロアークの入るダークボールを掲げる。闇夜に溶けて輪郭が消失する。

「俺のゾロアークが……俺の命令無しに勝手に動くことがあるのはお前なら知っているよなぁ?」

「そ、それは……いや、だとしてもだ……」

「ゾロアークはあの時に化かしたんだよ。周囲のモノ全てを。トルネロスも、お前も、そして俺も」

 コジョンドに化けたゾロアークのイリュージョンが見破られた。その時トルネロスの"ぼうふう"を受けて瀕死寸前となってしまった。
それが、このバトルを構成していた全てのモノの認識だった。

「だが、実際は違っていた。ゾロアークはあたかも自分がお前のトルネロスの"ぼうふう"を受けたかのように惑わしていたんだよ。実際はノーダメージ。だから"きあいのタスキ"も残っていたし体力もこの時まで満タンだった。それだけだ。ゾロアークをボールに戻した時初めて知ったよ、俺も」

「だからお前さんはあの時不自然な笑いを……」

 そこから先は全て演技だった。
ジェノサイドはメガシンカを確立する事も無ければ、メガストーンもキーストーンもデバイスも、全てが嘘の空っぽの虚ろでしかなかったのだ。

「ふっ、……はは……。そんな莫迦な……」

 バルバロッサの全身から力が抜けた。同時に、台座に鎮座していたはずの"うつしかがみ"も派手な音を立てて転がる。

「バルバロッサ、ここからは真面目な話だ」

 ジェノサイドは言いながら背後をちらっと見る。そこには、何が起きたのか理解が追い付いていない仲間たちが控えている。

「私を……裁くのかね?」

「そうだ。お前は俺を含め組織を裏切った。そう解釈している」

 風が吹き荒れる。冷たく鋭い自然現象は時折二人の会話を遮りさえもする。
"天国"が消えた分、元に戻ったはずなのに今までの異変に慣れていたせいで逆に違和感に感じる。

「これも……裏切りになるのかね?」

「そこが気になる点だ。お前は別に組織そのものに対して背信行為をした訳じゃない」

「お前さんは……そう思うか」

 膝から崩れ落ちたバルバロッサは俯き、こちらを見ようともしない。声も低く、ジェノサイドは意識を集中させてなんとか聞き取ろうと必死になっている。

「組織内で裏切り者が出た場合、結社に任せる事は出来ない……。ゆえに組織内で事を終わらせる。裏切りは断罪。例外無くな。お前さんが過去に言った事じゃないか……」

 ジェノサイドという組織は過去に大きな裏切りと反乱が発生した。その際の犠牲も大きかったが、二度とこのような事態を生まないためにも、組織の名を冠したジェノサイド自らが発した取り決めだった。はずだった。

「だが、俺は人を殺さない」

 正確には"殺せない"だった。ジェノサイドという物騒な名を得ているにも関わらず、彼は一人として人の命を奪う事はしない。いや、出来ないのだ。
たとえ、相手がどれほどの悪人であったとしても。

「そしてお前には……恩がある」

「今更何の恩があると言うのだね?」

「これまで共に……組織を指導してくれたことだ。……それだけじゃない。"あの時"俺の命を救い、この世界を教えてくれたのもバルバロッサ、お前だった」

 鼻で笑ったようだった。口角が若干上がっているらしいところを見るとバルバロッサがそうしたようだ。

「だからバルバロッサ。お前は全部話せ。お前がここまでした訳を、その理由を……。お前の目的を隠すことなく全てハッキリと言うんだ」

「言わなかったら……どうなる?」

 バルバロッサはここで初めて顔を上げた。
皺だらけの、疲れきってはいるがどこか清々しい目をしている。

「言うまで粘る」

「お前さんらしい……」

 バルバロッサは再び鼻で笑う。それからゆっくりと立ち上がった。

「良いだろう。その代わり……私が今から話す事を全て受け入れることだ。いいな?」

「受け入れる……? そういう抽象的だったりふざけた表現はやめろ。誰が聞いても理解出来る説明をするんだ」

「私の目的は昔から変わらんよ……。私は……戻りたかっただけなのだよ、元の……世界へ」

「てっ……テメェ、だからそういう意味の分からねぇ言い方はやめろって言ってんだろうが!!」

 手を出したくなる衝動を抑えつつ、しかしジェノサイドはバルバロッサの元へ走る。
これもある種の脅しのつもりだった。

「だから……言っているだろう……? 受け入れろ、と。私の夢は……昔から変わらんのだよ……」

 ジェノサイドは彼の様子がおかしい事に気付く。やけに呼吸が乱れている。
彼が走り、両腕を差し出したタイミングとバルバロッサが前方に倒れ込んだタイミングはほぼ同時だった。
ジェノサイドはその腕に、遥かに歳を離した老人を抱き抱える格好となる。

「バルバロッサ? ……おい、バルバロッサ」

 呼び掛けに応じない。その目は深く閉じられ、開くことも無い。眠ったような顔をしている。
呼吸も心音も腕には伝わらない。その腕に感じるのは、普段よりも重く感じる彼の身体の重量のみだった。

 様子がおかしいと判断した仲間たちも駆け寄る。
ハヤテを含めそこに居る誰もが自分とバルバロッサの名を何度も呼んでいた。

「リーダー、何があったのですか?」

「ハヤテ……。すまん、しくじった」

 ジェノサイドは振り返り、最も信頼している仲間の一人であるハヤテを認識する。

「バルバロッサの野郎……死にやがった」



 戦いが終わって何時間経っただろうか。
ジェノサイドとその仲間たちはそこから離れる事はなかった。
山頂へと刺さる冷たい夜風を浴びながら、闇に覆われた漆黒を見つめている。

「リーダー……。一体何があったのですか?」

「分からねぇ。分からねぇまま何もかもが終わっちまった」

 バルバロッサは寿命を迎えたようだった。
戦いの直前もその最中も、頑強そのものであったのに、終わった途端にその生涯をも終えてしまった。

「なぜ……このタイミングで?」

「分からねぇ。この戦いが相当の負担だったのか、それとも……」

 あまりにも都合が良すぎる最期のように思えて仕方が無い。バルバロッサという一人の道化が仕組んだ壮大な芝居だったのか、世界を巻き込んだ大袈裟な自殺だったのか、それとも、死期を悟った老人がせめて最後にと夢を叶えようと足掻いた結果だったのか。
真相は、夜空を染める闇に等しい。

「分かったことは……いや、ハッキリとした事じゃないが……"うつしかがみ"がこの世に突然湧き出るほど世界そのものの本質が変わっている"かもしれない"ってことと、バルバロッサが、元の世界に帰りたがってたってこと……くらいかな……?」

「元の世界とは……何の事でしょうか?」

「分からない……分かるわけがない」

 ハヤテの問いにそうとしか答えられない自分が惨めに感じた。
世界を巻き込みかけた、迷惑でしかなかった騒動の果てに得られたものがこの程度だと思うと胸糞が悪くて仕方が無い。

 悪い意味で脱力感を覚えたジェノサイドは目を瞑り、息を吐いて岩に寄りかかる。
無心になり、その顔に風が浴びせられる。

「俺たちも……」

 どれ程の時間が経ったのか自分でも分からなかった。
数時間かもしれないし、ほんの数秒だったかもしれない。
ジェノサイドはスッと立ち上がる。

「俺たちも帰ろう。俺たちの世界へ」

 渦巻く未練を、心残りを置き去りにして彼等はその場を後にした。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.25 )
日時: 2023/06/10 16:32
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: .4xJpncQ)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 部屋が揺れた。
大きな振動である。一人の青年は地震かと思い、目を覚ます。
目が開けられたことで、自分が居る空間の情報が入ってくる。横になっていた身体を起こすことで、よりその情報は多くなる。
彼は自分の部屋に居た。自身が所属、立ち上げた組織。その基地にて作られた、あまり広くない部屋だ。
その部屋に窓は無い。基地そのものが地下に作られているせいだ。

 東京都八王子市。都内北西部に位置する、自然が多く残るこの街のとある林。その中に棄てられた工場、その跡がある。その地下に、組織の人間百人から二百人ほどの人間を集められる空間を、彼は作り上げた。

 ジェノサイド。
"裏の世界"において、その名を知らない者は存在しなかった。
深部ディープ集団サイド。その裏の世界を、人はそう呼ぶ。
その裏世界、深部ディープ集団サイドにおいて頂点に位置し、存在するだけで情勢そのものを、世界全体を左右させるほどの影響力の強い人間へと彼は成ってしまっていた。

 事の始まりは四年前に遡る。
二〇一〇年。この年は決して忘れられない一年となった。ポケモンがこの世において実体化したのである。
非力な人間とは比べ物にならないポテンシャルを秘めたその存在を、人間は有難がり、日常のたすけとする一方で、手頃な武力として悪用する者も現れる。
そのような無頼なる人間の及ぼす治安の悪化を防ぐ為に、自警団のような存在として彼らが生まれたのだ。
その果てにおいて、本来の意義も目的もとっくの昔に失ったはずの彼は、いつしか莫大な強さと富を手に入れ、Sランクなどと不可解な称号をも手に入れ、この世界における最も命を狙われる存在として化した彼は。常に命と金を狙われる、暴力の世界に全てを委ねた彼は。

「おめーらうるせええぇぇぇ!!! こっちは寝てたんだよ! 静かにしろや!」

 仲間たちが集まり、何やら騒いでいる広間へと駆け上がると、そう叫んだ。

「お前らなぁ! この広間で皆して集まるのは良い。別に構わねぇことだ。だがこの部屋の真下に俺の部屋があるって事を忘れんな!」

「いや、そう言われましてもリーダー……」

 彼の怒りに反応したのは広間の真ん中で格闘技か相撲でも取っていそうな構えをしている、彼の部下の一人ケンゾウだった。
坊主頭で筋肉質という、"強い男"を思わせる彼はその見た目に反してか細い、弱々しい声で答える。

「これだけ広い部屋だと……暴れたくなるじゃないですか!」

 意味が分からなかった。
瞬間にしてジェノサイドの脳は動きを停止した。
寝ぼけていたせいで細くなった目が、余計に細まる。
あまりにも、予想の斜め上を突き抜けた返事でついポカンとした。

「……はい?」

「ですから……」

 確かにケンゾウの言う通り、この部屋は広かった。今見るだけでも構成員の二、三十人ほどが此処に居る。大きなホールに居るような、トレーラーハウスを幾つかくっ付けたような大きな空間がそこにはあったのだ。

 考えてみれば、この部屋を含めた基地全体も相当に広いものだった。地上こそは今にも崩れそうな廃工場でしかないが、その地下一体が彼らの住処となっている。正に秘密基地だ。
この地下には、広間に加えて同等の広さを有する食堂や、それらを囲むように設けられている廊下、暖炉付きの休憩部屋である談話室、そして個々人の部屋までもが存在する。流石に全員分の部屋は無いが、工夫次第では幾らでも出来そうだった。

 それはそうとして、寝起きでボサボサになった髪を掻きながらジェノサイドは尋ねる。

「んで、何してたの?」

「リアルポケモンファイトっす!」

 聞いた自分が馬鹿だった。
そう思うしか無かったジェノサイドは、直後にそれに混ざることとなった。



「って事が昨日あった」

「揃いも揃ってバカなのかな?」

 翌日。ジェノサイド改めなばり洋平ようへいは自身の通う大学の構内で友人と会うと、早速この話を披露した。返しが正論なのでそれ以上言い返すことは出来ない。

 裏の世界ではジェノサイドと名乗っている彼ではあるが、"表の世界"では何の変哲もないただの大学生である。講義のある日に限っては裏の身分を隠して勉学に励んでいる。
隣を歩く友人は同じ大学にして同じサークルに所属している、佐伯さえき慎司しんじだ。

 数ヶ月前に発生した事件のせいで、隠はサークル所属の友人や先輩たちから大いなる不信感と敵意にも似た何かを生み出してしまったが、その直後に起きた騒動とその顛末てんまつによって彼は許されたようだった。何かが起きた訳では無いが、誰もその話題をしなくなった。
表面上では隠が深部ディープ集団サイドの人間であると判明する以前の空気に戻っていた。そのお陰で、一時はサークル脱退も考えていた隠も後ろめたさを感じることなく彼らと接する事が出来ている。

「それよりもさ、レンに伝えておきたいことがあって」

「なんだ、告白か? 生憎俺は女子が好きな訳だが……」

「仮にこっちが告ってきたとして、嬉しいの?」

「すまん冗談だ……」

 隠は友人らからは"レン"と呼ばれている。中学時代にやらかしたテストの珍回答が元となったあだ名だが、それで呼ぶよう彼は周りに呼び掛けている。お陰で本名よりもこの名で呼ばれる身となってしまった。

 佐伯も特徴的な人間である。眼鏡を掛けた高身長で自身でも認めるほどの大人しい性格の人間なのだが、一人称が"こっち"である。お陰で彼との会話は分かりやすくてやり易い。隠は常々そう思っていた。

「サークルに常磐ときわ先輩っているでしょ? 先輩から聞いたんだけど……」

「あぁ、やけに俺らの世界に詳しい人だよな。あの人ホント何なんだろうな?」

「ま、まぁ、とにかく……先輩が言ってたことなんだけど、メガシンカってあるじゃん?」

「あぁ。ゲームで使えるあのギミックだよな」

「それがこの世界で使えるようになったんだってさ!」

「なに?」

 隠は反射的に聞き返した。今自分は幻でも聞いていたのか、それとも佐伯が話の内容を理解して真面目に話しているのかを。

「それは……おかしいんじゃねぇか? だってメガシンカは……それだけじゃなく、関連するギミックやアイテムがこの世には反映されてないんだ。誰かが意図的に手を加えない限りそんなものは有り得ないと思うんだが?」

「うーん……それに関してはこっちもよく分からないんだけど、どうも先輩の知り合いでメガシンカに成功した人が居るらしいんだって」

 にわかには信じ難い話だった。
メガシンカが成立しないことは、隠が身を持って証明させている。
数ヶ月前のバルバロッサとの戦いにおいて、ジェノサイドはゾロアークの"イリュージョン"を駆使して誤魔化したことがあったが、逆を言えばそのように表現しないと成し得ない動きのはずだ。
この世界でポケモンが実体化した。それだけで言えばそれ以上の変化は起こりようが無い。
しかし。

「世界そのものが……変わっていっている……としたら?」

 隠は半ば無意識に呟く。

「ん? なんだって?」

 うまく聞こえなかったのか、隣の佐伯が聞き返そうとするも隠はそれに答えることはしない。余計な混乱を生みたくないからだ。

「とりあえず……メガシンカは俺も興味があるな。常磐先輩に尋ねてみるしかないな」

「でも今日は水曜。サークルは休みだね」

「そう言えばそうだった……」

 隠はスマホを開いてカレンダーを確認する。
彼らが所属するサークル『Traveling!!!!』はその名の通り旅行サークルではあるのだが、特別な日でない限り旅行はしない。普段は毎週月曜日と火曜日、木曜日に特定の教室に集まっては各々自由な時間を過ごすという、ゆるい集まりだ。
先輩に個人LINEを送るのも気が引けるので、これ以上の事は今日においては出来ない。
隠はひたすら時が過ぎるのを待つしかなかった。



 翌日。
隠はその日の講義すべてを終えると、いつもの教室へと向かった。片手には講義で使う教科書やノートが入った手提げの鞄、もう片方にはお菓子の詰まったビニール袋がある。

 サークルの活動場所となる教室の扉は開いていた。そこには見知った人の顔がある。
お菓子の袋をその辺の机に置き、直後としてそれに群がる友人の姿を横目に、隠は先輩の元へと向かう。

「こんちはっす、先輩」

「よう。レンか。どうした? バトルの申し込みか? 悪いが今、佐野さのとやり合ってるからその後で……」

「いえ、そっちではなくてちょっと聞きたいことが……」

「んあ? まぁそれもバトルの後にしてくれや」

 暫くしていると、自分の座る席の近くに自分より学年が二つ上の先輩が二人ほどやって来た。
一人は常磐ときわ将大しょうだい。もう一人は佐野さの宏太こうた
何故佐野まで来たのかよく分からないが、隠にとって一番親しくしてもらっているのが彼なので、聞かれる分には何の問題も無かった。

「聞きたいことって?」

「えっと、バトルどうでした?」

「僕が負けちゃったよー。常磐強ぇもんな」

 佐野が軽く笑いながら言った。どうやら実力で言えば常磐はこのサークル内ではかなりの上のものらしい。

「聞きたいことってそんなの?」

「いや、それとは別で……。えっと先輩、"メガシンカ"って分かります?」

「今更なんだよそんな事!」

 常磐は大いに笑う。後輩の隠が深刻そうな面持ちで言うので何事かと身構えていたくらいだ。

「ゲームの話じゃなくて、どうも実体化したとかで……」

「あぁ、そっちね」

 話が長くなりそうなのを肌で感じたのか、常磐は隠と机を挟んで向かい合うようにして、つまり隠の前の席に座りだした。

「俺もこの目で見た訳じゃねぇが、どうも今のこの世で、実体化したポケモンを使ってメガシンカを成功させた奴が居るらしい」

「詳しく聞かせてください! 俺としても信じられないというか……有り得ないというか……」

「何となくだが想像はつくぜ。その気持ち」

 常磐はスマホのゲームを例えに出した。アップデートという名の更新があればゲーム内の世界や環境は変わる。しかし、この世界、この世においてそのような概念があるはずもないが故に、新しいギミックが反映されるのはおかしいと。だからお前の言いたい事は分かるとその様に代弁した。

「そうです。ただでさえポケモンがどんな理由や目的、どんな原理で動いているのかも分からないのに……。誰もそんな説明出来る筈が無いのに……」

「まぁそれは関係無いって事なんだろ。だが、メガシンカとは言わずここ最近お前の身の回りで何か変わった事は無かったか?」

「変わったこと……」

 そう尋ねられた隠は、記憶を頼りにあらゆる事象を思い出そうとした。
とは言ったものの、すぐに思いつくのはここ最近営んでいた日常生活と、その裏で繰り広げていた組織間抗争ぐらいしかない。
だが、数ヶ月のスパンで見てみるとまた違った景色が見えてくる。

「九月の事になりますけど……"うつしかがみ"が発見されたり、その力を使って俺の仲間だった奴が伝説のポケモンを使ってましたね……。本来使えないポケモンなんですけど。メガシンカみたいに」

「正にそれだ。ってかモロ関わってそうな出来事ばかりじゃねーか」

 常磐は含みを持った笑みを浮かべる。
彼は直接的な表現をあえて避けているようにも見えるが、"それ"は隠には何となくだが伝わる。

「俺が戦った場所は神奈川県の大山ってところです。そこに行けば……何かがある、とか?」

「かもな。俺の知ってる話ではその山でメガシンカした訳では無さそうだが、まぁヒントくらいはあるだろ」

「ありがとうございます。時間見つけて行ってみますよ」

「おう」

 そう言うと常磐と佐野は席を立った。
会話に混ざる事は無かったことで何故佐野まで寄ってきたのか結局分からずじまいだったが、そこまで深い理由は無いのだろう。
この日最大の目的を達成した隠は、いつも通りポケモンのゲームを開くと育成を始めた。



「ただいまー。誰か居るか?」

 ジェノサイドが基地に帰ったのは夜の十一時を過ぎた頃だった。
基地は木々が生い茂る林の中にあるせいでどっぷりと深い闇が広がっている。
はじめの頃は得体の知れない恐怖に怯えた事もあったが、この生活を続けて四年も経つといい加減慣れてくる。
基地の中の広間に着くと、彼の部下の一人ハヤテが出迎えた。

「お帰りですか、リーダー」

「いつもの時間通りさ。飯は食って来たから俺の分はいらないよ」

「それを見越して用意はされてないと思いますよ」

「ならいい」

 ジェノサイドは数歩広間を歩くと、適当にその辺に置かれている一人がけのソファに座る。

「突然だけど、明日大山に行こうと思う」

「また急ですね。何かあったのですか?」

「何かあったって程のことじゃないが……」

 ジェノサイドは今日あった出来事をハヤテに話した。裏の世界に生きるハヤテやジェノサイドが知らなかった情報を、表の世界に生きる人間が知り得ていたという点が気掛かりではあったらしく、終始ハヤテは唸る。

「その話は……本当なのでしょうか? 何かしらの罠の可能性も……」

「先輩に限ってそれは無いだろ。まぁ、この手の情報に少し詳しい人ってのが気になるがな」

「僕も明日ご一緒しましょうか?」

「いいよ別にそこまでしなくても。仮に何かあった場合の対策ぐらいなら俺一人でなんとでもなる」

 ジェノサイドの相棒は"イリュージョン"を駆使するゾロアークだ。幻影さえ魅せてしまえば、並の人間を倒す事も、逃げる事も造作もない。

「お前はお前でやって欲しいことがある」

「なんでしょうか?」

「この組織内に居る人間限定でいいから、この手の話に詳しそうな奴等を集めて情報を集めて欲しい。それと、俺が仮にメガシンカに関わるアイテムを手にしたときにそれを解析出来そうな奴も揃えておいて欲しい。そういうグループと言うか……班を作りたいと思ってる」

「未知のアイテムを調べ尽くせる人間がこの世に居るかどうかすらも怪しいでしょうが……分かりました。やれるだけの事はやってみます」

「ありがとう。バルバロッサが居なくなった今、お前らが頼りだ」

 二ヶ月ほど前、ジェノサイドは長きに渡って親しくして来た盟友とも言える存在を亡くしている。
そのせいで組織の運営にも支障をきたす不安もあったが、結局それは杞憂に終わり、今現在問題無く活動を続けるに至っている。

「じゃあ俺もう寝るわ。明日も色々あるしな」

「おやすみなさい、リーダー」

 日中は騒がしく多くの仲間でごった返すこの広間も、夜中ともなれば嘘のように静まり返る。
そんなポッカリと空いた空間において、ハヤテは敬愛するリーダーの背中を目で追い、見えなくなると自分も寝るために自室へと移動し始めた。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.26 )
日時: 2023/06/07 00:11
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: YnzV67hS)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 夜が明けた。二〇一四年の十一月七日。金曜日。
この日ジェノサイドは基地の食堂で一人悩んでいた。それを見かねたのか、それとも単に出来上がった朝食を運びに来ただけなのか、一人の構成員が彼の元へやって来る。女性だ。

「どうしたの? 何か考えごと?」

「お、おう……。秋原あきはらか。おはよう」

「深刻そうな顔してるの珍しいなって思ってた」

 彼女とは高校の頃からの付き合いだった。そして、元々はと言えば深部ディープ集団サイドとも無縁の存在だった。ある時に深部ディープ集団サイドの陰謀に巻き込まれて以降非戦闘員として保護するに至ったのだ。彼女もまた、闇の世界の犠牲者であった。
そんな彼女、秋原あきはら友梨奈ゆりなは、眩しいばかりの笑顔を彼に注ぐ。

「大学の講義に行こうか山登ろうか迷ってた」

「ええっ!? それって迷うことなの? レン君って時々よく分からない事言うよね……」

 まともな人間ならば誰もが言いそうな反応だった。ハヤテなど、事情を知り尽くしている一部の人を除いたらの話だ。もっとも、当のハヤテも「学校はサボるな」と言うかもしれないが。

 秋原は非戦闘員とはいえ、組織"ジェノサイド"を取り巻く環境の一切を知らないという訳ではない。二ヶ月前に起きた戦いのこともある程度の事は把握しているはずだ。かと言って、自分ほど最新のポケモンにのめり込んではいない彼女にメガシンカ云々について語っても、恐らくだが完全に理解する事は出来ないだろう。なので、ジェノサイドとしてはそのように言うしかなかった。

「授業はきちんと出た方がいいと思うけど……」

「やっぱりそうだよな。今日の講義は昼前のコマにひとつだけだし行ってからにするか」

「それだけなのに何でサボろうって思ったの!?」

「出来るだけ早く山登りたいなと思って」

 これだけ聞くと熱心な登山家である。秋原は明るい笑顔から一転、引きつった苦笑いを浮かべている。

「そ、そんなに重要なんだ……ね」

「あぁ、重要だ」

 ジェノサイドはそう言うとコーヒーを一口啜る。思ったほど熱くはなかった。

「この組織のこれからを二分させる程のものになるかもしれねぇからな」

 数分後。軽めの朝食を終えたジェノサイドはトレーと食器を流しの手前の台に置くと、目の前で洗い物と格闘している秋原を眺める。

「ごちそうさま。ここに置いとくからお願いな。それと、今日の成果は今夜中にも分かるかもしれねぇから乞うご期待な」

「ナニソレ。行ってらっしゃい」

 彼女は慣れたような笑顔で彼を見送る。思えば、二人が会話をしたのはかなり久々であった。



 昼前の講義は十一時前に始まる。
ジェノサイド改めなばり洋平ようへいは開始十分前に教室に入る事が出来た。
自分がいつも座る席の隣には、深部ディープ集団サイドともサークルとも無縁の友人が居る。挨拶を互いに交わすと隠も座った。
しかし、隠の意識は講義には向かない。彼の頭の中は大山へ行くことと、メガシンカの事で既に一杯だ。
程なくすると、講義を担当する教員が教室に入ってくる。チャイムが鳴り終わるのと同時に、抑揚の無い声で講義を始めた。

 隠にとってこの時間は苦痛でしかなかった。はじめは面白そうだと思っていたこの講義も、蓋を開けてみれば真面目一本の退屈な内容のものでしかなく、面白味を感じられない。いつもならば聴いているフリをしながらノートを取っているのだが、今回はそれすらもしない。意識がそこまで向かないからだ。

(メガシンカに必要なアイテムって何だろう……? キーストーンだよな? メガストーンだよな? あと、キーストーンを埋め込むデバイス的な物もだよな。ゲームの主人公はメガリングとか言うの装着してるしな……)

 隠の座席は窓際である。教員と、彼が説明しているプロジェクターには目もくれず隠は外の景色をボーッと見つめてはそのように考える。
しかし、意識がフッと戻ったような感覚を覚えるとプロジェクターに写った日付を見て今日が十一月の第一金曜日だという事に気が付いた。
そう言えば、と隠はポケモンの新作『オメガルビー』と『アルファサファイア』の発売日が近付いている事を思い出す。

(どっち買おうかな……)

 今この世に現れているポケモンとは、持ち主のゲームのデータがそのまま反映されている。たとえ最新作が出たとしても今現在『ポケットモンスターY』で育成したポケモンを転送してしまえば何の問題もない。あとは暇を見つけてゲームを進めるのみである。

 流石に講義開始時点からあらぬ方向を見ていたせいであろうか、隠のそのような態度に気が付いたからか、教員はそちらをチラチラ見ては時折睨むようになった。



「レンさぁ、ずっと何してたんだ?」

 講義終了後、隠の隣に座ってた友人がニヤニヤしながら尋ねてくる。

「ん? 何で」

 答えになっていない答えを隠は返すと、友人は一層笑みを強めた。

「いや、だからさ……。先生が明らかにレンを見ながら授業進めてたんだぞ。んで、肝心のレンはずっと外見てたよな。気が付かなかったのか?」

 その通りで全く気付かなかった。とはどこか言いにくかった。意識が集中し過ぎると周りの視線や反応が気にならなくなる性分らしい。

「あー、あれかー……」

 隠は少し考えた。会話の相手は深部ディープ集団サイドなどを知らない人間である。正直に全てを話す気にはとてもでは無いがなれない。

「この後どうしようかなーって。山とか登りてぇなぁって」

「ん? 何だよそりゃ。意味わかんねー」

 本日二度目となる"不可解なモノに遭遇してしまった微妙な反応"を受け取ることとなった隠であった。
その後、友人は午後も講義があるらしく、コンビニの前まで歩くとそこで別れた。



 先月と比べて少し肌寒い。
冬が近付いて来ているのを日に日に感じている隠は、シンプルなシャツの上にジャケットを一枚羽織る。
本来であればこの日は一日の講義を終えたことになるのでポケモンに乗って直接基地まで帰るか、大学から出ているバスに乗って駅まで向かい、そこから基地の最寄り駅まで交通機関で移動するかのどちらかであるのだが、今日だけは違った。

「頼むぞ、オンバーン」

 隠は大学の裏門を出て人気のない裏道まで歩くとポケモンを放った。ここまでする理由は、構内でのポケモンの使用は一切禁止されているからである。注意から免れるためだが、ぶっちゃけ即座にポケモンに乗ってその場から飛んで行ってしまえば注意のされようが無いので気にする事でも無いのだが、念には念をである。

「この前行った山まで頼む。分からなかったら時折指示出すからな」

 隠はそう言っては飛び乗る。オンバーンは元気よく返事をし、翼を大きく広げた。そして、瞬く間に空へと浮かぶ。
目指すは丹沢たんざわ山地が広がる神奈川北西部、不思議な力が宿っているであろう聖山、大山だ。

 到着には三十分ほど掛かったようだった。やはりと言うか、長い時間一定のスピードを保てないのは人間もポケモンも同じようである。モンスターとは言われてはいるものの、このような一面を垣間見ると怪物と言うよりは自然界に生きる動物のようである。

「ご苦労さん」

 大山おおやま阿夫利あふり神社には拝殿が二箇所ある。標高千二百メートルの山頂に立てられた本社と、山の中腹にある下社と呼ばれる位置にそれぞれだ。
下社まではケーブルカーなどの連絡手段が通じており、通常の参拝客は下社に集まる。本社は信仰心の篤い参拝客であったり、登山家が参るのがほとんどだ。
恐らくだが、バルバロッサが戦いの場に山頂を選んだのもそういう人気の無い点が絡んでいるのだろう。隠は今更ながらそう考えた。

 隠はオンバーンに労いの言葉を掛けてボールへと戻す。
この山の頂きに来たのは二度目だが、心境には大きな変化がある。
以前は戦いのために赴いた。だから他に集中するものが無かった。今回は違う。大きな違いとして、景色を楽しむことが出来た。

「ん?」

 そこで、小さな違和感に気が付く。
参拝客の多くは下社に集まる。その対応のため、社務を執り行う神職の方々もそちらに集まり、社務所などもそこにある。
しかし、隠は今山頂にて祀られている本社と共に、社務所らしき建物もその目に捉えていた。
中腹にあるのならば、存在する必要の無い建物だ。

「そういう神社……なのかなぁ」

「はい、その通りでございます。理由があるからこそ、存在しているのであります」

 背後から冷たい声がした。
時間の問題からか、平日だからか。しかしどういう訳か此処には自分以外に人は居なかった。そのせいで突然響いた声に、隠は内心強く驚く。
それだけでない。隠は思ったこと全てを口に出したわけではない。心情の一部を吐露したに過ぎない。にも関わらず、背後の声は全てを見透かしている。そんな気がしてならなかった。
振り返ろうか悩んだ。もしも背後の人間が得体の知れない存在であったとしたら。
もしも、敵対する深部ディープ集団サイドの人間だとしたら。
そう思うと迂闊に動くことは出来ない。

「誰だ?」

「どうかこちらをご覧になっていただけないでしょうか。わたくしは敵ではありません。この社の者です」

 そのように言われて何度騙されてきただろうか。片手にゾロアークのボールを握る。振り返ると同時に化ける作戦だ。
深呼吸をして即座に身体を回転させる。

 そこには。
新品と見紛うほどの純白の礼服を着用し、手にしゃくを持った、神主を思わせるような若い男性が柔らかな表情を見せて立っていた。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.27 )
日時: 2023/06/18 11:35
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: IAmTfG0H)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 敵意が感じられない。
気を集中させたジェノサイドは直感ながらそう結論づける。

「お前は……」

 言いかけたジェノサイドだったが、それを察してか純白の和服の男が笑顔を絶やさずに口を割る。

わたくしは此方で神主をしております、皆神みなかみと申します。とは言え、正式なものではなく貴方たち向けのものになりますが」

 柔和な表情と声色から漂う不穏な影。
ジェノサイドはそれを決して見逃さない。

「俺たち向け? それはつまりお前も俺と同じ……」

「はい。深部ディープ集団サイドの者でございます」

 ジェノサイドは呆れる思いだった。
神社という神聖な場においても、深部ディープ集団サイドの闇の手が蠢いている。穢れを赦さない世界が穢れに満ちている。その事実にジェノサイドは失望しかける。

「いえ、そういう訳ではございません」

 意を察した皆神が突然否定する。どうやら、この男は心を読み取る力があるようだった。

「元々この社には正式な神主がおります。ですが……どういう訳かこの社にも深部ディープ集団サイド出身の参拝者が現れるようになりました。"本来の"神職の方々にご迷惑をかける訳にもいきません。そこで抜擢されたのが私ということでございます」

 この世界は、二分されている。
ポケモンとは無縁の人々も含めて、一般の人と呼ばれる人間たちによって作られ、日々営まれている"世間"とも"社会"とも呼ばれている表の世界。
ジェノサイドのような、ポケモンを行使して裏稼業に生きる裏の世界。
表の世界と裏の世界は相反するものであり、決して交わってはいけない領域だ。
そのような接触を避けるために設けられたのが、今ジェノサイドの目の前に立っている男ということになる。

深部ディープ集団サイドの人間が神頼みねぇ……。一番似合わないと言うか、そういうのとは無縁な世界だと思うんだが?」

深部ディープ集団サイドの人間も元々は"あちら側"から来られました方々です。何気なくお祈りをされたり、大事な局面の前では御参りもされますでしょう? それらと同じ感覚かと。それからこの社は歴史も古く、古来から山岳信仰という側面からも……」

 営業トークなのだろうか、皆神は社伝を語り始める。あまりにも長々としているのでジェノサイドはその話をほとんど聞かず意識も別の方へと向いていた。

「あの……聞いておりますでしょうか?」

「悪い。何だっけか……。確か最近になって色々変化が起きたとかなんとか……」

「話聞いていませんね……。そのような話題は一つとして挙げる事は無かったのですが」

 皆神はため息をついた。
神聖な土地を踏んでいる以上参拝目的か、少なくとも畏敬の念くらいは抱いていてもいいものだが、目の前の男からはそれが感じられない。明らかに自分が深部ディープ集団サイドの人間だと公表してから態度が変わっている。

「まぁ、それも良いでしょう。では、貴方の目的は……」

「メガシンカ。それに関わる物品が無いかと思ってやって来た」

 ジェノサイドは山頂の開けた土地を眺めながら言った。そこは、かつてジェノサイドとバルバロッサが戦った地点である。当然だが今は何も無い。"うつしかがみ"は戦いの後回収している。

「成程、貴方も"それ"をお望みという訳ですね……」

「まぁ、そういう事だな。って待て。貴方"も"ってなんだ。まるで他にも居るみたいな言い方じゃねぇか」

 皆神の細い目がより細くなった。ジェノサイドも仕草では表さないものの内心身構える思いである。恐らくだが、この後何かがある。長い間戦いに身を投じたジェノサイドの中で冴える勘がそう訴えている。

「……少々宜しいでしょうか。お見せしたいものがございます」

 そう言った皆神はこちらの返答もなしにさっと背を向け社務所のある方へと歩き出した。やや遅れてジェノサイドは一歩後ろをついて歩く。

「二ヶ月ほど前でしょうか。此方で大きな争いがありました」

「……」

 ジェノサイドは念の為、自分がそれに関わっているとは言わないでおいた。皆神に心が読める能力があればこの事実も知り得ているかもしれないが、この状況下で自分からでしゃばりたくは無かったのだ。

「その日は夜であるにも関わらず昼のように明るくなったと言います。白夜など、この日の本の国では観測されません。となると、人智を超えた"なにか"があったと言うことになります」

 皆神は少し歩いては立ち止まる。身を屈んで木片を拾った。戦いの余波を浴びた社務所か本殿のものかもしれない。掌でクルクルと回したかと思うと投げ捨てた。

「ところで……貴方様はいつまでお黙りになるおつもりで?」

「やっぱり知っていたのか」

 ジェノサイドは舌打ちをして皆神を睨んだ。

「私は目撃者の一人ですから。ですが、"ただの"目撃者ではありません。今の私ならば、あの戦いの本質と、それらが与えた影響。それら全てが見通せます」

「流石は神に仕える人だ」

「お名前はジェノサイド。貴方様がこちらの世界で名乗っている名前で間違いありませんね?」

「一応見た目は特徴の無い大学生を意識しているんだがな……」

「ジェノサイド。それは、この世界における王者にも等しい存在であると見受けられます」

「どうだかな。俺はただひたすらに戦いに勝ちまくっただけだったんだがな」

 皆神が社務所の前で立ち止まる。そして、両手でゆっくりと扉を開けた。

「さぞお辛いことでしたでしょう。二ヶ月前。貴方様は此方でお仲間だった方と戦いました。あまり知られていませんが、あの戦いを鎮められた事で今現在、こうして世界が保たれております」

「奴は言葉を濁していたが、やっぱりそうだったんだな」

「あの力は人智を、世のことわりを超えていましたから」

 扉をくぐったジェノサイドは、そこで靴を脱ぐよう指示される。滑らかな木の床が足裏を冷ますかのようだ。

「貴方のお仲間……バルバロッサは少々特殊な方法で本来使えるはずのない伝説のポケモンを行使されました。それが完全なるオカルトな方法であったか、そうでないかは断言出来かねますが……とにかく、それにより世界そのものが少しだけ変質してしまいました」

「変質だと? 特に変わった様子は見られないがな。どこがどう変わった?」

「こちらです」

 皆神は一つの扉の前で立ち止まる。この建物の奥にそれはあるようだった。

「その一件以来、どういう訳かこの社の境内……いえ、この山の範囲内ではありますが妙なモノが発見されるようになりました。それも無数に」

 ジェノサイドは何となくだが想像出来た。だが、問題はもっと別なものにある。それは皆神も察していた。

「原因は今をもって不明です。どうしても分からないのです。因果関係が見られません。なので、我々は伝説のポケモンを無理矢理に扱った事で"世界が変質した"と結論づけるしかなかったのです」

 皆神は扉をゆっくり開けた。見た目に反して重い音が響く。
部屋から冷気が伝わってきた。

「ご覧下さい。こちらが、大量に発掘されたキーストーンでございます」

 その部屋には空間を囲むようにショーケースが並べられており、皆神はそれを指している。
見ると、布が敷かれており、その上に透明な石が鎮座してあった。それは不可思議なまでに眩しい光を放っている。

「これが……キーストーンと呼ぶべき物なのか……? ゲームでしか見たことないから何とも言えない」

 それは予想していたものよりもずっと小さかった。丸い石は二センチメートルほどしかない。だが、それがケース内にずらっと並べられている。百個以上はあるだろうが二百個までは無いようだ。
皆神はガラスを取り外してはその中のひとつを掴み、それをジェノサイドに見せる。

「先の戦い以降になって発見されるようになったキーストーンでございます。不思議なことに、私は特に公表などしている訳ではないのですがそれ以降、深部ディープ集団サイドの人間を名乗る者が連日参るようになりました。私は断る理由も無いので、余程のことが無い限り全ての方々にこちらをお渡ししています」

 そう言って皆神はキーストーンによって輝いている右手を差し出している。受け取れということだろう。

「これからの深部ディープ集団サイドの戦いはより熾烈なものへと変わっていく事でしょう。今まで通用していた強さが、昨日までの最強が明日も最強とは限らないものへと成ります。数多の人間たちが、このキーストーンを手にすることによって」

 ジェノサイドは右手を見つめるだけで、まだ受け取ろうとはしない。

「じゃあお前は、自分が元凶である事を自覚しているんだろうな?」

「勿論でございます。だからこそ、私は貴方様に期待しているのです」

「期待だと?」

「はい。今回貴方様が戦いを鎮められたように、これから訪れるであろう災禍をも止められると信じてのことです。私はこれまでお気持ちと引き換えにこちらを渡してまいりましたが、貴方様には特別で無料で差し上げます」

「がめつい奴め……」

 その言動に反して笑顔でいるのが一層不気味であった。皆神は催促するように右手を時折振る。

「じゃあそもそもの話、なんでこんな石を配るんだよ。激化するって分かっているのなら、戦いが起こるくらいならいっその事秘匿しちまえばいいだろそんな物」

「それでは貴方様が来られないかもしれない。逆に、こちらの石をどなたにもお渡ししなければただひたすらに時間だけが過ぎていってしまうかもしれない。それでは駄目なのです。ハッキリと申し上げますと、どうしてもこの石を貴方様にお渡ししたい。と言うだけのことなのです」

 皆神がそう言うのでジェノサイドも断る訳も無ければ理由も無い。彼が小さく笑ったあとにジェノサイドは彼の右手の中の石を握る。

「じゃあ貰ってくぞ。いいんだな? 俺が持っていっても」

「ええ。躊躇する位なら、はじめからどなたにもお渡しすることはありませんから」



 社務所を出ると既に陽は落ちていた。空は闇に染まりつつある。

「メガシンカを駆使したくば、他にキーストーンを抑えるデバイスと、個々のメガストーンが必要になります。メガストーンについても報告が相次いでおりますので、見つける事は可能かと思われます」

「可能って言ってもな……限度ってもんがあるだろ。なんの手掛かりも無しに少なくないメガストーンを全部集めるとなると大変な作業になるぞ」

「……と言う声が多数ありました」

「ん?」

 言いながら皆神は袖の中に手を入れゴソゴソと探る。若干の間を空けて取り出したのはスマートフォンだった。それまで笏を手にしていたせいで古風な姿にメカニカルなアイテムが混ざると強い違和感がある。

「そういう時はこちらを! 私が作りましたスマホのアプリ。その名も『メガ石Go!』。位置情報を利用したアプリでございます」

「そのクソダサいネーミングどうにかならなかったのか……」

 引き気味になりジェノサイドは自分のスマホでアプリの検索をする。ご丁寧に有料アプリとしてストアに登録されていた。

「キーストーンや個々のメガストーンからは特殊なエネルギーが生じておりまして、それらを探知する地図アプリという名目で運用しております。それから、注意事項としましては……」

 皆神はメガストーンのあり方について述べ始めた。メガストーンは全国に散らばっており、数も無数に存在している。地図アプリである程度反映はされるものの、誰もが手に入れられる代物なので現地に赴いた際には実物が残っていない場合もあること、しかし数に限りがあることは現段階では確認されていないので再度探せば入手は可能とのことだ。

「出現場所に縛りみたいなものは無いのか?」

「無いようですね。これまで公園であったり施設内にあったり、川や森といった自然の中、道路などなど……。共通点は皆無です。あまりにも不自然なので、人の手が加えられていると考える方がおかしいくらいです」

「一般の人でも触れてしまう可能性があるのか……」

 それはそれで危険ではないか、とイメージが脳裏をよぎる。しかし、たとえジェノサイドであってもどうにも出来ない話だ。

「メガストーンは現在三十個ほどございます。全てを入手……されるかは貴方様にお任せしますが、その過程で多くの衝突がある事でしょう。どうかご武運を」

「俺を誰だと思ってる。深部ディープ集団サイドの頂点に君臨するジェノサイド様だぞ?」

 わざとらしく作り笑いをしてはそう言い捨てて彼は山を下りた。その足に迷いは無く、すぐにその姿は見えなくなる。
皆神はジェノサイドが立ち去ってもなお、それまで彼が立っていた部分を見つめている。

「その最強の名が何処まで、何時まで通用されるかは分かりかねますが……彼ならばやってくれるでしょう。お願いします。この世界の危機は未だ去ってはおりません」

 足元を見ると、細かい木片が散らばっている。戦いの余波を浴びた建物の保全状態が少し気になるところだった。どのように修復しようか、そもそも修復作業が必要かどうかを考えながら、皆神は薄く小さく笑う。

「バルバロッサとの戦いは、まだ終わっていませんから」

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.28 )
日時: 2023/06/22 22:08
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: gfjj6X5m)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 キーストーンが手に入った。
ジェノサイドは改めて眺めてみる。石の中央部分にDNAの二重らせんを模したような模様が刻まれており、非常に綺麗である。これはメガシンカのシンボルだ。

 ジェノサイドはたった今到着した基地の地下に作られたひとつの扉の前に立っている。扉を通して騒ぎ声が微かに聞こえる。その先は広間だ。また騒いでいるのだろう。
何も言わずに扉を開けた。開く音と人の気配に、部屋にいる人間全員が一斉に振り向く。見たところ彼らはゲームで対戦をしているようだ。対戦者を囲む塊が二つ出来ている。

「あっ! リーダーどこ行ってたんすか!? 帰りにしては遅すぎますよ!」

 手に持っていたゲーム機を放り投げ、塊を掻き分け、そのように叫びながらケンゾウが寄って来る。

「わざわざこっちに来なくてもいいだろ……」

「答えて下さいよ! どこ行ってたんすか?」

「分かった分かった。言うからとりあえずアレ。あれどうにかしろ。お前の3DS勝手にいじってんぞあいつら」

 疲れ気味なのか、淡々とした口調でジェノサイドはケンゾウの後ろを指す。観戦者だった構成員たちがケンゾウのゲーム機に触れて勝手に操作しようとしていた。

「いやいや、今答えてくださいよってオメーら何やってんだやめろーー!」

 ケンゾウの情緒が安定しない。それまで興味津々だったジェノサイドを捨てて彼らの元へ戻ろうとする。それを見た皆が笑う。

「それで結局、何処に行ってたんですか? リーダー」

 再び対戦で燃える集団の輪から離れた、一人の背の小さい構成員が声を掛けた。名前さえも知らない人だ。
ジェノサイドはそれに無言で答える形でポケットに手を突っ込みながら彼等へと近付く。

「いいかお前ら。俺は今日コレを取るために帰りが遅くなった。見て驚くな? ほら、キーストーンだ」

 まるで大学において自身が所属しているサークル『Traveling!!!!』に居る時のような高いテンションだった。自分で気が付いていないだけで自然と興奮しているのかもしれない。
そう言いながらジェノサイドは手に持った小さな石を掲げる。
それを見るやいなや、方々から歓声が上がっては部屋にいる人"全員"がこちらに駆け寄って来た。有無を言わさずジェノサイドは揉みくちゃにされる。

「見せて見せて!」

「もっと近くに寄せてください!」

「お前邪魔だどけバカ」

 時に揉まれ、時に払いのけようとして空を切った平手が顔や体に直撃する。
痛い思いをしつつ自分がここで宣言したこと自体が間違いだったと悔やみながら、あとで見せるから落ち着けと叫ぶことしか出来ない。天下のジェノサイドも数の暴力には弱いのだ。
身体の細いジェノサイドは人と人の間の細い通路に活路を見出すと、身をくねらせ翻して波をくぐり抜ける。
彼が逃げたと知ると残念そうな声が上がるも、それを無視してジェノサイドは部屋から逃げた。

「危なかった……小さいから気を付けないと失くすよなこれ……。そしたらヤバいじゃ済まねぇよなぁ。また山登りに行くなんて勘弁だぞ俺」

 こういう時は自室に篭もるのが一番だ。皺だらけになったシャツを整えながら廊下を歩く。
皆が皆キーストーンについて興奮していたが、まさかここまで騒ぎになるとは思わなかった。それまで有り得なかった現象が、力が身近なものになったのだからそれも仕方なかったのかもしれない。
神社には大量にキーストーンがあったのだから、おまけにあと二、三個は貰うべきだったと若干後悔しつつ静かに自室の扉を開けた。



 キーストーンを手に入れてから休日を挟み、月曜日。
ジェノサイドはなばり洋平ようへいとして大学に向かっている。キーストーンはハヤテの尽力によって寄せ集められた、技術開発を担当とする者たちに預けている。

「今日はサークルあるけど、天気もいいしメガストーンの探索やってみようかな」

 空を見上げながら隠は呟く。雲ひとつ無い晴天だ。好きなサークルに行けないのは少し残念だが別にそれは痛くも痒くもない。むしろ、組織の戦力確保のために必ず必要なことだ。どう見てもサークルよりもこちらが重要である。
そういう意味では大学の講義も全部放り投げたいところだが、生憎とそういう訳にはいかない。



「えっ、キーストーンを手に入れた!?」

 珍しく声を上げたのは隠と同学年にして友人の一人であり、同じサークルに所属している佐伯さえき慎司しんじだった。最近眼鏡からコンタクトレンズに変えたようで印象がかなり変わっている。元から顔は整っている事が分かっていたものの、改めて見るとその顔は綺麗だ。

 時刻は昼休み。彼らは学校の文化祭終了後に設けられた部室に集まっては昼食を食べていた。部活でないのに部室を与えられた事の意味が分からないが、どうも部屋が空いていたところを部長が申請したらしく、それが通ったらしい。

「元々怪しいと睨んでいた場所をピックアップしたらドンピシャだったよ。だから入手自体はかなり楽だった」

 隠は部室をぐるっと眺めた。そこまで広い空間では無いが、二年生は隠と佐伯の他に二人いる。あとは先輩がチラホラ居る程度だ。
隠は彼らと会話をする。
ポケモンとは縁の無い御巫かんなぎや他の先輩たちにとってはどうでもいい話で実際聞いてもいないが、佐伯や他の先輩たちには関係があると言えば関係あるもののようで、熱心に聞いている。話の内容柄どうしても深部ディープ集団サイドが絡むので話すかどうかはかなり悩んだところだが、結局話したい衝動が勝ったので今こうして話している。
しかし、彼らが深部ディープ集団サイドと関わりを持って欲しくないので一部事実とは異なる表現を混ぜる。

「じゃあレン君、どうやって入手したの?」

 隠のあだ名に君付けで呼ぶのは佐野さの宏太こうたしか居ない。
隠ら二年とは学年がふたつ上の四年生の先輩。十一月も始まったこの時期にこうして部室に来ているという事は来年の内定が決まっているのだろう。
関西地方出身の彼は他の先輩たちとはノリが良く、明るく陽気な性格をしている。身長は隠とほぼ同じくらいだが、体型はかなりガッシリとしている。単に太っているだけかもしれない。しかし強そうにも見える。
だが、彼の良いところはその性格だった。
陽気でノリが良いのに加えて、彼は誰とでも仲良く接する。特に輪に入れずに一人で居る子には自ら率先して声を掛ける。隠もそんな彼の優しさに救われたお陰で仲がかなり良いのだ。
そのように慕っている先輩の前で隠し事をするのは良心が痛む思いだが、こればかりは仕方の無いことだった。
場所を隠す代わりに事実を話す。

「"俺たちのグループ全体"からしていわく付きな場所がありまして……。昨日行ってみたんですけど案の定他の組織の奴等も来ていたみたいで既にメガシンカゆかりの地として有名になってたっぽいです。なんか普通にそこに居る人と話をして貰ってきました」

 言葉を濁したが、それが深部ディープ集団サイドだと分かったようで、佐伯は不安そうな声を上げる。彼が他の組織の人間から狙われている事実は以前の騒動の時に知った。

「レンそれ大丈夫だったの?」

「大丈夫だったよ。途中で他の連中と出くわすなんて事は無かったし。別に"こっちの"人間の全員が全員その情報を把握している訳でもないし、時間の都合もあったしな」

 情報を知る深部ディープ集団サイドの組織は恐らくだがまだ少数に留まっているはずだ。でなければあの日に誰かと遭遇していてもおかしくはない。もっとも、それは今限定の話で今後は事実を知る組織も増えていくだろう。
それに、余程のことがない限り冬が近付きつつあるこの季節の中で標高千二百メートルの山を登ろうなんて普通は考えないだろう。軽いハイキングを通り越して登山である。軽い気持ちで行けば遭難してしまう。隠としてはそれらを含めての昨日の行動だったのだ。

「って事で今日はサークルパスしてメガストーン探しに行ってくるわ。何かあったら宜しくな」

「えっ……。でもレンそれは危なくない? 狙われているんでしょ?」

「うーん。確かに不安っちゃ不安だけど大学でもなければ基地でもない所にいきなり俺がいる訳だからな。事前情報が無ければバレるとは思えないし。偶然でない限りは大丈夫だと思うけどなぁ。それに、探さなきゃすべて始まらないし、かと言ってそれが怖いからって部下に全部押し付けるのも可哀想じゃん?」

 佐伯のこの気持ちは、今ここに居て事情を知る者たちの代弁でもあった。しかし隠は楽観的である。それが彼の本性であり真の性格かもしれないが、危機感が無さすぎると彼等は思ったことだろう。

「でも危ないよ? 絶対に目立たないでね」

「わざわざ目立つかよ! 一応これでも無個性で特徴皆無の大学生のつもりでいるんだがなぁ」

 そう言う隠の服装は確かに特徴が無かった。白と紺のボーダーシャツの上に薄緑の薄いパーカーを着ている。下は青のジーンズだ。
そこまで言って隠は昼食に全く手を付けていない事に気付く。喋りすぎたせいで時間を浪費した。彼は急いで食べ始める。



 退屈な講義がやっと終わった。時計を見ると十五時前だ。外を歩くには丁度いい時間である。

「じゃあね。お疲れ」

 隠はこの講義を一緒に受けていた友人に一言掛けて足早に教室を去る。とりあえず今は早く大学から出たかった。
構内を歩きながらスマホを開く。大山の神主、皆神みなかみが作ったメガストーンを探す地図アプリだ。
地図は広範囲であれば反応も多いが、自分の姿が分かる範囲まで拡大すると反応は極わずかとなる。

「反応はひとつ……。この近くだとあの公園か……」

 それは、隠も知っている場所だった。
と言うのも、隠の通う大学の周辺は住宅が多く並び、それでも土地が余っているので公園の数も多い。多摩のニュータウンはそんなものである。
彼も暇な時間を見つけては、近くの公園にフラッと立ち寄っては時間を潰すなんてことはよくある事だ。

「どうせ取るだけなら後は暇だしな。公園内でゆっくり休んだ後に帰るか」

 場所を確認すると隠はスマホをしまう。同時に取り出したのはオンバーンが入ったダークボールだ。
此処が大学構内だと言うことを忘れているくらい大胆にそれを投げる。
オンバーンが元気良く飛び出し、隠はそれに飛び乗った。
あっという間に大学が遠ざかってゆくが、地上付近で何やら怒鳴り声が聞こえた気がする。
そう言えば、今大学では以前にポケモン絡みの騒ぎがあったせいか監視と罰則が厳しくなったとかいう話があった気がしたのを彼は思い出す。

「ったく、誰だよ……そこまで騒いだアホは……」

 風を浴びながらそう呟く。
その原因が自分だということに全く気付いていない隠洋平であった。


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