二次創作小説(新・総合)

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HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ
日時: 2018/04/21 14:52
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

お久しぶりです!モンブラン博士です!
現在放送中のHUGっと!プリキュアのルールーが好きすぎて作品を投稿することにしました!タイトルが示す通り本作品はクライアス社のアルバイトである美少女
ルールーちゃんが主人公です!
基本的に1レス1話という投稿スタイルにします(文字数が多すぎた場合は2レスなど分けて投稿する場合があります)!
それでは本編スタートです!

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.15 )
日時: 2018/08/19 06:56
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

その短い回答に彼の本心が詰まっていた。
タイタンはシャドウがブラックサタンの大幹部に就任して以降、彼と自分との間に埋めがたい実力差があることを痛感していた。それは、彼が1度ストロンガーと戦って死亡し首領が復活させたのに対し、シャドウは幾度もストロンガーと一騎打ちをしているのも関わらず平然としていることからも知ることができた。ストロンガーに敗れた彼は地獄に落ち、そこでシャドウがブラックサタンに下剋上を起こして組織を崩壊させたこと、百倍にパワーアップしたストロンガーに相打ちになるまで追い込んだ末に戦死したことを風の噂で聞いた。
自分が全力を出し切ったにも関わらず通常状態のストロンガーにも勝てなかったのに比べ、奴は百倍にパワーアップしたストロンガーと闘い事実上の相打ちにまで持ち込んだ。常に孤高で真っ向勝負を挑むシャドウと、首領に可愛がられ部下も大勢いるにも関わらず結局は誰も信用できず、最後の最後まで卑怯な手段に頼るしかなかった自分。
今度蘇ることがあった時は、必ずやブラックサタンを復興させ、ストロンガーも倒し、後あと蘇ってくるであろうシャドウを実力で叩き伏せ、己の優位を証明して見せる。
だが肝心の城茂は病で倒れ、ブラックサタンの生き残りは僅かなサタン虫だけだった。それでも彼は諦めずどうにかして組織が復興できる方法を模索した。
そしてクライアス社に辿り着いたのだ。この会社で地位を高め、会社を乗っ取ればブラックサタンの復興も現実的なものになり、更に彼にとって幸いだったのは宿敵であるシャドウがライダーからプリキュアへと標的を変えていたことだった。シャドウは数年前にプリキュアに倒され天国に送られたとの報を聞いた。それは自分がプリキュアを倒せば、間接的に奴を超えたことになる。
まさしく一石二鳥ではないか。だが、全ては彼の思った通りにはいかなかった。
タイタンは全身に力を込め、炎のオーラを出現させ、顔中に無数の目を現した。
それこそタイタンの最終形態である百目タイタンだった。


「バイト。お前もクライアス社も、オレがシャドウを超え、この世を支配する為の踏み台になればそれでいいんだよ」


彼は無数の目玉の1つを外してルールーに投げつける。


「食らえ! ファイアーボール!」


投げつけられた目玉は火の玉へ変化し業火をあげながら、彼女へ向かってくる。
けれどルールーは微動だにせず、それをつま先で華麗に蹴り返す。
自らに返って来たそれを忌々しそうに払いのけるタイタン。
地面に着弾したファイアーボールが大爆発を起こし、彼の視界を煙に包む。


「奴め、どこへ隠れた!?」


彼がキョロキョロと辺りを見渡すと、背後からよく知る声が聞こえてきた。


「タイタンよ。俺を超えたいとは笑止千万」
「その声は!」
「察しの通り、俺だ」


背後を振り返ると、そこに立っていたのはジェネラルシャドウだった。


「貴様! 何故ここに!?」
「そんなことより、前を向いたらどうだ?」
「何――」


背後を指差され気を取られたタイタンが振り返ると、彼の視界に大きく拳を引いたルールーの姿が飛び込んできた。


「しまったぁ!」


散々殴りつけられてきた怨みを晴らすかのように放たれたルールーの拳はガラ空きとなった彼の瞳を穿つ。
急所を打ち込まれ大きくのけ反った彼に待っていたものは。


「タイタンよ、教えてやろう。人が誰かを超えたいと思った時点で、既に敗北しているものなのだ!」
鋭い音と共にシャドウのレイピアが突き刺さる。


シャドウの愛剣は無防備の彼の背骨を貫き、腹までも貫通した。
タイタンの身体の至る所から黄色い火花が飛び散り始める。
シャドウがレイピアを引き抜くと、タイタンはゆっくりと両膝から崩れ落ちる。


「ま、まさか貴様が不意打ちを仕掛けるとはな……」
「お前が言うな」
「オレには分かっているぞ。貴様がこれまでプリキュアやバイトの裏で糸を引いていたことを」
「だったらどうする?」
「どうもしないさ。ただ、健闘を称えようと思ってな」


タイタンがよろめきながらもシャドウに握手を求めると、シャドウは不敵に笑い、彼に手を差し伸べる――と見せかけて、その腕を払った。


「その手には乗らぬぞ」
「畜生お……」


目論見が外れ声も絶え絶えに無念を悟る彼にシャドウは。


「お前のような卑劣漢は浄化された方がいいかもしれんな」
「まさか、貴様!」
「そのまさかだ。お前に止めを刺すのは俺でもルールーでもない」


シャドウはその言葉を残してトランプフェイドでその場を去る。
ルールーもその場におらず、代わりに彼の前に現れたのは3人のプリキュア達だった。キュアアンジュが前に歩み寄り。


「タイタンさん。さっきの話を聞いたよ。
あなたはずっと自分に自信がなくて、シャドウさんを超えられれば自分に自信が付くと思って頑張ってきたんだね。でも人と自分を比べても、自信を無くすだけ。それよりも、自分の良いところを探した方がいいんじゃないかな」
「下らぬ説教だ。悪のオレに説教をしたところで無意味だぞ。
それに、お前がオレの何を分かると言うのだ」
「わかるよ。私も自分に自信がなくて、優しさしか取り柄がないと思っていた。
でも、エール達と出会って変わったの。
私にもできることがたくさんあるって」


ここで彼女は優しくタイタンを抱きしめ。


「あなたもきっとあなたを認めてくれる人に出会えれば、自分の良さがわかるはず」
「オレにそんな奴が現れるとは思えんがね」
「きっと会えるよ。あなたは悪いことをたくさんしたけれど、どれも自分を雇ってくれた人の期待に応えたかったからだと私は思うの」
「だとしたら何だと言うのだ?」
「あなたの良いところは誰よりも真面目で一生懸命なところ。
だから、今度生まれ変わった時は、悪いことばかりではなくて良いことにも一生懸命さを発揮してほしいの」
「オレは悪だ。生まれ変わっても、悪の限りを尽くしてやるさ……」


1つ目から人間態に戻りアンジュに呟くタイタンだったが、その口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。そして彼は足先から徐々に黒の粒子となって消滅した。
タイタンの最期をあさばぶ支社のビルの屋上から眺めたルールーは、プリキュア達の支社の居場所に関する記憶を消す。
彼女はプリキュア達が居なくなった後も何を思ってか、彼女達の居た場所を無言で見つめ続けていた。彼女はシャドウとタイタン、そしてプリキュア達との出会いを出会いから何を得て、何を学び、どう変わるのか。
それは彼女でも分からないのかもしれない。

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.16 )
日時: 2018/08/19 07:22
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

この日もいつものように仕事をしていますと、私宛に1通の封筒が届きました。
人から配達物を貰ったことはこれまで1度もありません。
誰から送られてきたのかと送り主を見てみますと、そこには『ジェネラルシャドウ』の名がありました。
ジェネラルシャドウさん。
以前、チャラリートさんに代わり新係長に就任したMrタイタンを失脚する為、『師弟関係を持つ』という条件でMrタイタンの打倒に協力してくれた元デルザー軍団の幹部です。
しかしMrタイタンも失脚したことですので自然と師弟関係も解消されたと思っていたのですが、手紙が送られてきたことから察するにそうではなさそうです。白い封筒をあけ中身を見ますと、そこにはハートのキングが描かれた1枚のトランプと1枚の手紙が入っていました。私が折りたたまれた手紙を広げ、内容を読もうとしますと、横からぬっと誰かの手が伸びてきて私の手紙を奪ってしまいました。机から顔を上げてみますとその人物は私のマスターにしてあさばぶ支社課長のパップルさんです。


「アンタから手紙が来るなんて珍しいわね」
「はい」
「え~と、何々……『本日 仕事終わりに屋上で待つ。話がある』……
まあ! これってアンタに告白したいってことじゃないの?」
「告白?」


彼女の言葉に私の頭の中に疑問符が浮かびます。
登録情報が無い単語なのは間違いありません。
するとパップルさんは私の様子にニヤニヤと笑みを浮かべ。


「前に色恋沙汰はアンタにはまだ早いって言ったけど、訂正するわ。
男から告白の手紙を差し出されるなんて、アンタも隅に置けないじゃない。
ゆっくりラヴのひと時を楽しんでらっしゃい」


彼女は私にウィンクを1つして踵を返すと、人差し指と中指に挟んだ手紙を落として去っていきました。
パップルさんは一体何がしたかったのか理解不能ですが、それはともかく、私は支社の屋上に向かわねばなりません。


時刻は午後5時半。次第に空がオレンジがかった色になってくる頃、私はようやく仕事を終え、手紙を渡した真相を確かめるべく、支社の屋上に行くことにしました。屋上へと続く階段を駆け上がり、扉を開けてパラボラアンテナがそびえ立つ屋上にやって来ますと、そこには背を向けて立っている1人の人がいました。
190はあろうかという長身にスマートな身体、白いタイツにピラニアの如き謎の背びれ、腰にはサーベルの黒い鞘を携帯し、髪の毛が一本もない頭部を透明なカプセルで覆った奇怪な外見――私が知る限りそのような恰好をした人は世界で1人しかいません。


「ジェネラルシャドウさん、ですね」
「早く着いたので待ちわびたぞ。ルールーよ」


渋みのある低音で告げ、彼はゆっくりとこちらに顔を向けました。
皮膚が剥き出しになり筋肉や血管が浮き出て、耳まで裂けた真っ赤な口が特徴的な人体模型にも似た顔立ち――紛れもないシャドウさん本人です。
その顔は夕日の逆行を浴びてオレンジ色に輝いています。
彼は備え付けのベンチに片足を乗せた気障なポーズをとると、独特の含み笑いをしました。


「フフフフフフ、時間きっかりに来るとは。最近の若者は遅刻する者が多いと聞いていたが、どうやらお前は違うらしい」
「会社にとって遅刻は悪影響を及ぼしますから」
「なるほどな」
「シャドウさん。私とあなたの師弟関係は解消したはずです。
なぜ、再び私の前に現れたのです」
「それはお前が1番わかっていると思うがな」
「何のことです」
「とぼけても無駄だ。オレが気づいていないと思っているのか」


彼はフッと鼻で笑うと私の腕の方を指差しました。


「そのマントの後ろに隠した両手を見せてみろ」


言われるがままに彼に手を見せますが、私は視線を横に背けました。
己の不調が信じられないのです。
1週間前までは正常だった私の両手が時折激しく震えるという現実。
分析したところによると身体の機能自体は全くの正常にも関わらず、何故か両手が震えるという結果が導き出されました。私の超高度なAIを持ってしても解けない不調。クライアス社の誰もが気づきもしなかった異変を一目見ただけでピタリと指摘した彼ならば、もしかするとこの震えの正体がわかるかもしれません。彼は白いマントを羽織り、それを風に靡かせながら颯爽とした足取りで私に近づき、口を開きます。


「ルールーよ。お前がこうなることはオレの占いが事前に予言していた」
「占い?」
「左様。オレのトランプ占いは絶対だ。外れたことは1度もない。
それはともかく、お前はこの両手の震えの原因を知りたくはないか」
「あなたは知っているのですか」
「無論」
「……教えていただけるのですね」
「その為にここへ来た」
「私の両手の不調の正体は何なのでしょう」
「恐怖だ」


彼の発した一言は、まるで周囲の時間が停止したかのように感じられるほど私の耳には絶大な効果を発揮しました。原因は恐怖。私とは無縁の人間の感情。それが何故、直接の原因と言えるのでしょうか。
彼は夕日をバックに1歩ずつ歩みを進め近づいてきます。その彼が先ほどまでとは異なる存在に感じた私はその場から離れようとしますが、足が接着剤で地面に固定されたかのようにピクリとも動きます。次第に彼は接近し、とうとう目と鼻の先の距離まで近づくと彼は言いました。


「お前は先のチャラリートがオシマイダ―化した挙句にプリキュアの手に寄り浄化される最期を見届けた」
「はい」
「その時、お前自身は感じたなかったかもしれんが、お前には無意識ながらもはっきりとした恐怖が刻みこまれたのだ。
失敗を重ねればいつかは自分も左遷部屋送りにされる。暗く何もない空間に誰からも必要とされず真っ暗な未来だけがあり、あとは機能停止する時を待つばかり。よしんば左遷部屋から解放されても上司の出世のためにオシマイダ―化され捨て駒になる結末が待っている。
それだけは嫌だ――とな」


彼の言葉を聞くと脳裏にチャラリートさんの姿が映ります。
涙を浮かべ恐怖と寒気で両腕を抱きしめ、左遷部屋の地獄の光景に怯え、以前とはまるで別人のように精神が崩壊してしまった彼。
大量のトゲパワワを注入され絶叫する姿。
オシマイダ―となって見境なく暴れまわり、苦悩を吐き出す姿。
そしてキュアエール達によって浄化された際に浮かべた安らかな笑顔。
それらの映像が次々にフラッシュバックしていき、それらが見終えた私は自分でも信じられないほど荒い呼吸をしていました。
見ると両腕はしっかりと両肩を抱きしめ、離そうとしても離れません。
床に水滴が落ち、小さな水たまりを作り出しますが、空を見上げても雨雲が無いことから、これは私の髪や額から流れ出た汗であることがわかります。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ!」
「お前の急激な寒気、全身の震え、過呼吸は恐怖によるものだ。
お前は人間の心の影響など受けないと高を括っていたようだが、チャラリートの最期はお前の無いはずの心に強い恐怖という感情を植え付けた」


彼はここで私の瞳を覗き込み。


「そんなお前に今の境遇から抜け出すたった1つの方法を教えてやる」
「この不調が治るのでしたら何でもします」


藁をも掴む思いで彼の伝授する方法に耳を傾けますと、彼の口から飛び出したのは信じられない言葉でした。




「この会社を辞めろ」




あさばぶ支社を辞める。それは私には決してできない選択でした。


「申し訳ありません。それだけはお断りします」
「何故断る」
「あさばぶ支社を辞めるという考えは私にとって理解不能です」
「理解不能なのではない。お前はただ、オレの言葉を拒絶したいだけだ」
「……」
「お前にとってクライアス社とはなんだ」
「私の存在意義の全てです」
「与えられた仕事を忠実に守り、社の発展に尽くす。一見すると良い心がけに見えるが、オレの目から見てお前はこの会社に相応しくない」
「相応しくない……」
「いや、正確には後々相応しくない存在になる」
「それはどういう意味です?」
「お前は遅かれ早かれこの会社を辞めることになるという意味だ。
それが何故なのかは、自分で答えを探すがいい。トランプフェイド!」



言いたいことだけ言って満足したのでしょうか、シャドウさんはトランプをバラ撒きその場から消えてしまいました。
彼の謎の助言の真意がわかるのはまだまだ先になりそうです。

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.17 )
日時: 2018/08/19 07:30
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

「メロディソード」なる謎の物体が出現して以降、アスパワワの増加率は78%増。その影響か各地で急激にトゲパワワが減少するという事態が発生しました。パップルさんは名誉挽回をかけて休日返上で出撃しましたが、あまり乗り気ではない休日出勤だったからなのか、それとも非効率極まりないトゲパワワの集め方をしていた為に集中力が切れたのか、それとも功を焦ったことが原因なのか、あるいはその全てなのかもしれませんが――プリキュア達に敗北するという結果に終わりました。
先日、オシマイダ―化したチャラリートと対峙したキュアエールはどういう訳かチャラリートの活動を停止せず彼を抱きしめるという理解不能な行動をとりました。普通ならばあの場で鋭利な剣である「プリキュアの剣」を一振りにして攻撃対象であるチャラリートの活動を停止させるのが定石であるはず。
ですが彼女はそれを拒み、「プリキュアの剣」を「メロディソード」なる全く新しい武器に変化させ、彼を浄化させることでチャラリートから膨大な量のアスパワワを放出させたのです。先述の行動も含めて、これは調査する必要があるのかもしれません。


「これまでのプリキュアの出現地を分析……」


今までの戦闘で彼女達が出現した場所を分析しますと、はぐくみ市というところに集中して現れていることがわかりました。おそらくここがプリキュア達の活動拠点なのでしょう。更に分析してみたところ、キュアエールの変身者である野乃はなの家、キュアアンジュの正体である薬師寺さあやの家、キュアエトワールの正体である輝木ほまれの家を確認することができました。
彼女達のいずれかに忍び込むことができればミライクリスタルホワイトの居場所も特定し、あるいは奪取できることも決して不可能ではないでしょう。
ですが仮に奪取できたとしても彼女らの力の正体を見極めないことには、ミライクリスタルホワイトを奪回される可能性もある訳です。
それならば先に彼女達の力の源を突き止め、その上でミライクリスタルを奪取した方が効率が良いのではないでしょうか。
プリキュア達は全員で3人確認していますが、その中でも私が最も理解不能なのが野乃はな。先日の戦闘の際に2人を守りたいという気持ちがキュアアンジュに新たなる力をもたらしたとのことですが、よく調べてみますとその大元の要因は野乃はなにあることがわかりました。つまるところ、薬師寺さあやも輝木ほまれも野乃はなに出会い感化されることがなければ、プリキュアとして覚醒することも無かったと言えるでしょう。
今後、彼女の手により第4、第5のプリキュアが誕生する前にその芽を摘んでおかなくてはなりません。
こうして私は上層部に稟議書を提出し無事に採用されたことで、一番の危険因子である野乃はなの家に潜入調査をすることになりました。
ところが、ここで1つ問題が発生しました。
それは、このクライアス社の社員共通の制服(私の色は黒と紫を基調としています)では相手に疑われる可能性があるということです。
さりとて服を買おうにも何処へいけばいいのか……
思案していますと、大量のトランプを撒き散らしながらジェネラルシャドウさんが現れました。


「俺を呼んだか」
「呼んでいません。帰ってください」
「堅い事を言うな。服の用意は俺が手伝ってやろう」


どうやら彼は何らかの情報網により、私が野乃はなの家に調査に行くことを知っているようです。そして服装に困っているということも。
彼はいつものように不気味な含み笑いをして告げました。


「ルールーよ。これはどうだ?」


彼が指を鳴らしますと、いつの間にか私の服は薄紫色の薄い服に黒い半ズボン、ニーハイソックスになっていました。
どうやらシャドウさんが何か理解不能な方法で私の服を変えたそうです。
野乃はな達と近い関係で調査すべく女子中学生を装うつもりでしたので、この服装は都合がいいと言えるでしょう。しかし一つだけ気になる点が。


「シャドウさん」
「何だ」
「どうしてへそ出しなのです?」


私が着ているその服は下から何も着ていない上に服の下部分が二つにわかれていることもあってか、ちょうどおへその部分が露出する形となってしまっているのです。その旨を伝えますと彼は小首を傾げ。


「へそ出しなど大した問題ではあるまい。不満なのか」
「はい。私は女子中学生という設定で潜入捜査するする予定なのですが、この露出度の高い服装だと思春期真っ盛りの男子中学生が欲情するのではないかと」
「フム、ならば中から何か着ればいい」


最もな答えを言って彼は指を鳴らして黒い服を出すと、それを私に放り投げます。キャッチしてみますと非常に軽い上に通気性も良さそうです。
それにこれならおへそも隠せますし、一石二鳥ですね。
中から黒い服を着て全身鏡で自分のチェックをしていますと、シャドウさんが切り出しました。


「その髪も下ろせ。仮に元の姿に戻っても髪型の違いで同一人物だと疑われる可能性は低くなる」
「髪型を変えた程度で疑いは減るのでしょうか」
「お前の潜入先は野乃はなの家だろう。成績優秀な薬師寺さあやならともかく、ドジでノロマで変顔しか取り柄の無い野乃はなに限って同一人物であるとバレることはなかろう」
「同意ですね」


彼の意見に賛成し髪を下ろし、両耳のアクセサリーも外したことで印象はだいぶことなるように思えました。
シャドウさんは私の姿を見て頷いた後、ギロリと目を光らせます。
これは他にまだ注文があるということです。


「服装に関しては良いのだろうが、肝心な点をお前は忘れている」
「肝心な点……」
「名前だ」
「ルールーの名ではいけませんか」
「短すぎる」


短いと違和感を持たれるのかはわかりませんが、あるに越したことはないでしょうから、とりあえず名前を考えてみることにしましょう。
すると、私の脳裏に一つの単語が浮かび上がりました。


「アムール。アムールはいかがでしょうか」
「ルールー・アムールか。悪くない名だが、フランス語で愛を意味する言葉を愛に最も遠いお前が選ぶとは片腹痛い」
「……私も何故、この単語を選んだのか分析できません。
ですが登録情報が無いはずのこの単語が突然脳裏に浮かんできたのです」
「その謎はいずれ解ける時が来るであろうな。最もその時はお前自身に大きな変化が起きた時であろうが。ともかく、俺は引き続きお前を見守ろうと思う」
「……何故、私にここまでしてくれるのです?」
「お前が俺の弟子だからだ」


意味深な発言を残してまたまたシャドウさんは消えてしまいました。
何はともあれ準備が整いましたので、今の姿をインプットして私は野乃家へ向かいました。
そして、野乃はなの母親にマインドコントロールをかけ「知り合いの娘」ということにして潜入に成功します。丁度その時、野乃はなが帰ってきましたので私は作り笑いをして。


「よろしくお願いします。野乃はなさん」

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.18 )
日時: 2018/08/19 07:31
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

私はルールー。クライアス社のあさばぶ支社でアルバイトとして働いています。最近はアスパワワが著しく増大したことに伴い、その元凶であるプリキュア達の力を分析すべく、プリキュアの1人である野乃はな/キュアエールの家にルールー・アムールという「知り合いの子」という設定で潜入調査をしています。はなの家に潜入し、中学生として学校生活を送っているのですが、人間達の行動は私には理解不能なことばかりです。転校して初日に数人の男子に囲まれ「付き合ってください」と言われてしまいました。私としてはこれほど多くの人間と付き合う暇はありませんし、彼らと付き合うメリットもなかったのですが、どこに付き合えばいいのかわかりませんでしたので、


「どこにですか」


と訊ねました。
すると男子達は「そういう意味ではなく……」と否定しましたので、傍にあったコンクリート製の柱を一突きしました。彼らの言っている意味が「どこかに付き合う」のではないとしたら「拳の付き合い」以外の考えが思いつかなかったのです。私の常人離れした拳の破壊力を見て男子達は驚愕し「拳の……突きあい!?」とだけ叫んで去っていきました。彼らの目的は不明でしたが、どの「付き合い」だったとしても時間の無駄かつ非効率なものだったとは思いますので、拳を突くことによって彼らを敬遠させることができたのは調査の邪魔になる他の人間達を私から遠ざける結果にもなり、野乃はなに関する調査がしやすくなりましたので結果オーライと言えるでしょう。
さて、問題は調査を開始してから1週間後に起きました。
この日、休みということもあって皆が暇だったのかは不明ですが、私を歓迎すると称して「歓迎パーティ」なるものを開きました。「二人羽織」なるいい歳をした大人が未成熟な赤ん坊の手を借りておでんの具である大根を口に運んだり、調理前の未完成の料理を出したりと非効率極まりない行動ばかりとっていました。理解不能です。その旨をパーティの参加者に伝えますと、クラスメイトの一人である輝木ほまれが不満を口にしましたので、これ以上この場にいたとしても口論になると判断した私は、自分の部屋に戻ることにしました。そして、問題は起きたのです。




「……」




私の手に握られているのは黒く薄い紙のような食品。人間達の間では海苔と称されるその物体を私はうっかり持ってきてしまいました。あの時、パーティ会場に置いてくればよかったのですが人間達の非効率極まりない行動を目の当りにしているうちに、海苔の事がすっかり私のAIの中から抜け落ちていたようです。取りあえず、今はこの海苔をどうするかを考えることにしましょう。ベッドに仰向けに寝転がり、海苔を見つめます。
この海苔をどう処分するか、今のところ私が考えた方法は次の三つです。
1 食べる。
2 オシマイダ―として暴れさせる。
3 パーティ会場に戻り置いてくる。
3つの選択肢のうち、実現が難しいのは2でしょう。海苔を素体にしようにも、そもそもオシマイダ―はトゲパワワを材料として作り出すものですから、感情のない海苔を素体にしようとしたところで無理なことは決まっています。
3のパーティ会場に戻るという選択肢も私が戻ってきた際の参加者の白ける確率を計算したところ73%という数字が導き出されました。これが90%以上なら参加者の中からトゲパワワが発生しますので、隙を見てオシマイダ―を生み出すこともできるのですが、野乃はなの家に調査に来ている以上、正体がバレるようなリスクは今後の調査の為にも避けなければなりません。


「――となると、残るは食べるという選択肢だけですか……」
自然と口からため息が吐き出されます。


エネルギー補給は前に済ませたので本来ならば必要はないのですが、この際、背に腹は代えられないとも言いますし効率は割り切ることにしましょう。
部屋の中で私が海苔を噛むパリポリという音だけが響き渡ります。
海苔には目の疲れをほぐすと言われるビタミンAが豊富に含まれているとのことですが、私には全くと言っていいほど関係の無いことです。しかし、この心地よい食感は癖になりそうですね。

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.19 )
日時: 2018/08/19 07:35
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

えみると合唱をした日の深夜過ぎのことです。
またまた私の前にジャネラルシャドウさんが現れました。
ベランダに月明かりに照らされ仁王立ちをしている彼の姿に気づいた私は、はなを起こさないように――と言っても彼女はそれぐらいの物音で起きるような性格ではないのですが――ベッドから抜け出し、ベランダへと赴きます。窓を開けてベランダに足を踏み入れますと、シャドウさんは私を見て。


「子猫のパジャマとはよく似合っている」
「これは、はなの母が私にくれたもので……ッ」
「ほほう。クライアス社の支給品ではなかったのか」


顔の体温が上昇し、耳の穴から湯気が噴出されているのがわかります。これが人間で言うところの『赤面する』というものなのでしょうか。気を取り直して、彼に訊ねます。


「シャドウさん、今日は何の用ですか」


流石に幾度も訪問されてはたまりませんので、いつもより少し語気を強めて言いますと。彼は含み笑いをして。


「お前は怒ると頬を餅のように膨らませるとは、実に笑える」
「な……ッ」


再び顔が赤くなるのを感知していますと、彼が口を開きました。


「お前と愛崎えみるの歌声、天国に届いていたぞ」
「聴いていたのですか」
「感情の無いはずの機械人形のお前が、よくぞここまで成長した。褒めてつかわす」
「あなたは殿様ですか」
「ツッコミも上達したようだな」
「……私が感情を手に入れることができたのは、私だけの力によるものではありません。野乃はな、薬師寺さあや、輝木ほまれ、そして何より――」
「愛崎えみる、か」
「はい」
「愛崎えみるという小娘、俺の目から見ても大したものだ。
お前が機械人形であるという事実を告げてもなお、考えを曲げずに
純粋にお前を信じ、パップルの前でも親友と言い切った。
あれほどの信念を宿した者など、そういるものではない」


最初は実に一方的だったえみるの親友宣言。ですが、彼女は私と初めて出会った時から「私達が出会ったことは運命」「私達は親友」と言い続け、私がどれほど拒否しても彼女の気持ちが揺らぐことはありませんでした。


「友か……俺には友と呼べる者など一人もおらぬ」


ポツリと漏らしたシャドウさんの言葉に、私は衝撃を受けました。
友達がいないとは、どういうことなのでしょうか。


「知っての通り、俺は元デルザー軍団の司令塔だった。
デルザーは足の引っ張り合いが凄まじく、誰もが俺の地位を狙う輩の集まりだった。隙を見せれば蹴落としにかかる。一部の者は俺の武力に敬意を払うものこそいたが、あのような関係では切磋琢磨し合える友に巡り合えないのも当然至極――」
「シャドウさん……」
「お前を見た時、昔の俺を見たような気がしたのだ。
組織や立場こそ違えど、孤独に生きるお前を見た時、俺と同じような人生を歩んでほしくはないと思った。ましてや、お前の上司として新たに就任したのが卑怯者のタイタンだと知ったら、余計にな」
「……」
「それ故にお前を弟子にし、何とかこの境遇から脱出させてやろうと骨を折ったが、どうやら俺の取り越し苦労に終わったらしい。
お前はプリキュアと闘う中で自分で自分の人生を決めたのだから」
「そうではありません。
あの時、シャドウさんが『クライアス社を辞めろ』と助言することがなければ、私は今でもクライアス社に疑問を抱かずアルバイトとして働き続けていたでしょう」
「そうか」
「はい」
「卒業――だな」
「え?」
「お前は愛崎えみるというかけがえのない友、安らげる場所、そして友に闘う仲間も得た。その点では俺を超えたと言える」
「待ってください、どういう意味ですか!?」
「タイタン打倒の際に手を組む条件は『お前が俺を超えるまで弟子になること』だった。それが達成された今、契約は終わりだ。即ち、お前は俺の弟子を卒業するということになる」


契約の終了。それは彼との共闘関係と師弟の関係が終わることを意味しています。彼は口元に自嘲的な笑みを浮かべ。


「俺はダメな師匠なのかも知れぬ。自分で教えることは殆どせずに、自分で答えを見つけるように突き放してばかりだったからな」
「待ってくださいッ!」


踵を返し、歩き始める彼を私は慌てて正面に回り込み、彼を抱きしめました。


「何をするのだ、ルールーよ。老兵は去り行くのみ。お前は愛する仲間と共にクライアス社の打倒を目指せ!」
「確かに、それは私の大切な新しい使命かもしれません。
ですが、だからと言って一方的に師弟関係を打ち切るのは勝手過ぎます」
「……」
「あなたは先ほど言いました。
自分には友達がいないのだと!
友達ができる環境にいなかったのだと!
でも、当時から半世紀以上も経過した現代では違うはずです!
あなたには友達と呼べるものが、いえ、親友と呼べるものがいます!」
「そのような者など存在する訳がなかろう」
「います! その名はルールー・アムール!
私とあなたは、親友です!!」


今ある思いの全てを彼にぶつけ、彼の目をじっと見つめます。
すると、彼の抵抗する力が弱まり。


「お前の心意気、しかと受け止めた。ならばこのジェネラルシャドウの取るべき道はひとつしかあるまい」
彼は手を私に差し出し。
「どうした。悪手は万国共通の友情の証だと思っていたが」
「シャドウ。これからもよろしくお願いします」
「ルールーよ。俺を呼び捨てにするとは、大した小娘だ」


月の浮かぶ夜空の下で堅く互いの手を握ります。
こうしてもう一つの友情が、ここに誕生しました。


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