二次創作小説(新・総合)

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HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ
日時: 2018/04/21 14:52
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

お久しぶりです!モンブラン博士です!
現在放送中のHUGっと!プリキュアのルールーが好きすぎて作品を投稿することにしました!タイトルが示す通り本作品はクライアス社のアルバイトである美少女
ルールーちゃんが主人公です!
基本的に1レス1話という投稿スタイルにします(文字数が多すぎた場合は2レスなど分けて投稿する場合があります)!
それでは本編スタートです!

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.5 )
日時: 2018/04/10 16:26
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

※ 今回はチャラリート視点となっています。

オレちゃんは喪黒さんの作戦通りに輝木ほまれを誘拐し、ビルの上に置いて過去の失敗を煽って心の傷を抉ることでオシマイダ―を誕生させた。
キュアエールとキュアアンジュが現れたら、ほまれを素体にしたポニーテールの付いたプテラノドンのオシマイダ―は二人の攻撃を全く寄せ付けない。
プリキュア二人は傷だらけのボロボロの状態で地面に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。ほまれはトゲパワワを身体から大量に放出している状態なので意識はなく、駆けつけたプリキュアの仲間と思しき赤髪の男と赤ん坊は無力な存在。つまり、この時点でオレちゃんの勝利は確定したも同然!

「やった! ざまあみろプリキュア共!
これでオレちゃんの出世は間違いなし! 課長や部長の座も夢じゃない!
ルールーに成功報酬を分けてやれ、だって?
そんなことする訳ないじゃん!
手柄は全部オレちゃんのもの!
バイトは一生こき使われていればそれでいい!
アハハハハハハハ、ウヒヒヒ、ヒャハハハハハハハハハーッ!」

嬉しさに自分でも信じられないくらい笑い声が込み上げてくる。
これから何が起きようともオレちゃんの勝利は揺るがない。

「チャラリートさん、約束を破りましたね」

不意に辺りが深夜のように暗くなる。
暗さのせいで、プリキュアもオシマイダ―の姿も見えない。
何が起きたんだ。
それに、先ほどの声は……まさか!
聞き覚えのある声に脳裏にその人物の姿が思い浮かんだ刹那、彼が俺の顔前に現れた。
肥満した腹に帽子にスーツ、白い歯を剥き出しにした気味の悪い笑顔の中年オヤジ――紛れもなく喪黒さんだ。
一体、いつから?
どこに隠れていたんだ。
まさか、今の言葉を聞かれていたのか!?
全く予想外の出来事に対し、オレちゃんの理解力が追いついていかない。

「も、喪黒さん……」

絞り出すように小さく出たのは、彼の名だった。
言い訳を考えようにも口がうまく回らない。
先ほどの言葉は全くのでたらめで、成功したら約束を守る気でいる。
そう言えばいい。それだけのはずなのに、口を動かしてもパクパクと音がするだけで言葉が出てこない。
何故だ、何故なんだ!

「チャラリートさん。ひたすら自分の地位にしがみつき、自己保身しか考えず、部下を蔑ろにするあなたは、もうお終いです!」

まるで金縛りにでもあったかのように、オレちゃんの身体は硬直し、全く身動きが取れない。
喪黒さんはオレちゃんの顔にゆっくりと指を突きつけてくる。
そして。



「ドーン!!!」


鼓膜が破けるかと思うほどの大音量が響き、徐々に意識が途切れていく。
そしてオレちゃんは深い闇の中へと落ちていく――

気が付くと、ほまれが黄色い光に包まれ、プリキュアへと覚醒を果たしていた。
バカな。何でそんなことが起きたんだ。
オレちゃんの勝利は絶対だ。
絶対のはず……なのに。
プテラノドン型オシマイダ―が上空高く跳びあがったキュアエトワールの錐揉み回転キックを食らって被弾した瞬間、自分の身に絶対に想像したくない現実が忍び寄っている感覚に陥った。
両手が小刻みに震え、全身から大量の汗が噴き出す。
嫌だ。嫌だ、負けたくない。罰を受けたくない。
オレちゃんは出世するんだ。オレちゃんだけの手柄なんだ。
オレちゃんだけの――

「フレフレ! ハート・フォー・ユー!」

キュアハートの必殺技が真っ直ぐな軌道を描き、オシマイダ―に炸裂。
「ヤメサセテモライマス……」と言ってオシマイダ―は浄化される。
それはつまり、オレちゃんの敗北を意味する。
全身から力が抜けていくのがわかる。
道路に胡坐をかいて座ったと思う。
自分が何をしているのかわからない。
現実が受け入れられない。
オレちゃんが負けた。
エリートであるはずのオレちゃんが。

「負けたぁ……オレちゃん、オシマイダ―……」


Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.6 )
日時: 2018/04/21 14:51
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

クライアス社に出勤したチャラリートは、目の前に広がる光景に己の目を疑った。

「ない! オレちゃんの机がなーい!」

どこを見渡してもこれまであったはずの自分の机が見当たらない。
まさかの状況に彼は大声を上げて取り乱す。すると、彼の様子を見ていたバイトのルールーが短く言った。

「机は倉庫に移動済みです」

クライアス社にとって会議室の机の移動は降格を意味していた。

「そんな、嘘だ」

何よりも地位に固執するチャラリートにとって、自らのポジションを失うことは自らの存在意義を否定されたに等しく、決して認めたくない現実だった。
口を継いで出た言葉は現実を嘘だと思い込ませ、瞼を閉じ、頬をつねる。
だが頬には痛みが走り、再び瞼を開いた時には自らの机だけがない景色が目に飛び込んでくる。全身から急激に力が失せ、今のチャラリートは立っているだけがやっとの状態であった。
そんなチャラリートの様子を知ってか知らずか、会議室の外からはコツコツと何者かが近づいてくる足音が聞こえてくる。自動ドアが開き会議室に入ってきたのは長髪(前髪は紫系でメッシュしている)に丸いイヤリング、ボディコンに網タイツ、コートを羽織った女性だった。

「いつまでも、あると思うな、机と仕事……
アンタ、この前『最後の仕事』って言って失敗したじゃん!」
「課長!」

声に反応して振り返ったチャラリートは女性を見て驚愕の声を発した。
彼女がクライアス社あさばぶ支社の課長にして彼の直属の上司にあたるパップルだったからだ。
まさかの上司の登場と彼女の言葉にチャラリートは唇を噛みしめることしかできない。彼は数日前、社長の前で『最後のチャンスを』と懇願した結果、見事に失敗し社長からの信頼は地の底に落ちてしまっていた。
自らモノにしたチャンスを自分で台無しにしたので反論の余地はなく、机が倉庫に移動されようとも、任務の座を上司に奪われようとも甘んじて受け入れる以外の選択肢は無い。あの時、第三のプリキュアさえ覚醒しなければ、オレちゃんは勝っていた。今頃、課長の座は自分のものだったのに。
敗北した原因をキュアエトワールに転嫁させ、悔しさのあまり彼は握り拳を震わせる。そんな彼を無視するようにバイトと課長は互いの意見を交わす。

「これまでのプリキュアの出現場所を中心に調査範囲を広げると、ミライクリスタルホワイト発見の可能性が高まると推測します」
「それ、採用。ヘイ、タクシー!」

ルールーの的確な意見を指を鳴らして採用したパップルは、早速仕事にとりかかるべく、タクシーを呼んだ。徒歩を好まない彼女の移動手段は専らタクシーである。意気揚々とタクシーに乗り込み、運転手に行き先を伝える。

「課長―!」

チャラリートが呼び止めるが、パップルは「バイビー!」とだけ返し、その場を去っていく。手を伸ばすチャラリートだが、その手はパップルには届かない。
膝から崩れ落ちるように床にへたりこみ、がっくりと項垂れるチャラリート。
その様子に思う所があったのだろうか、ルールーは近寄り、彼の肩をポンポンと軽く叩く。それが「お役御免」なのか「新しい持ち場で頑張って」という励ましなのかはチャラリートには分からなかった。ただ、バイトである彼女に肩を叩かれるという行為をされている自分自身が酷く情けなく思えた。

チャラリートが降格してから翌日、係長の席が空白になったこともあり、人員を埋めるべく、あさばぶ支社は社員の急募をかけた。
未経験者も歓迎し、係長職に就いていた者を優遇、更には給与、賞与、有給は応相談で決めることができると言うのだから好条件である。
しかしながら最初は簡単な発注業務からとはいえ、ミライクリスタル及びプリキュアの捜索という聞きなれない仕事内容だった為に、全く新入社員が集まらない。面接官はルールーが務めることになっているが、あまりにも人が来ないので彼女は面接室にパソコンを持ち込み、他の仕事をこなしていた。
午前の仕事が終了し、行きつけのカレー屋で無料券を使用し大盛りカレーをペロリと平らげ、午後の仕事に彼女が戻った頃、一人の男がクライアス社の玄関に立っていた。

「ここがあさばぶ支社か。俺の腕が鳴るぜ……」



「クライアス社の急募を見て来た。君が面接官か」
「はい」
「君のような若い姉ちゃんを面接官に回すとは、このあさばぶ支社はよほど人材が不足しているらしい」
「面接室でのおタバコはお控えください」
「そうかい。まあ、オレは仮にも面接を受ける側だ。面接官さんには従うとするよ」
「失礼ですが、その筋の人ではないでしょうか?」
「どの筋だかは知らねぇが、オレはそうじゃない。よく間違えられるが。
さ、早く面接を始めてくれよお嬢さん」

急募を打ち切ろうとしていた時にようやく現れた一人の男。
彼は雇われる側にも関わらず非常に態度が大きかった。
黒い三つ揃えのスーツに薄茶色のサングラスをかけた強面の顔、口には先ほど注意された忠告を完全に無視するかのように紙煙草を咥え、両足を机の上に乱暴にのせている。今時には珍しい貫禄溢れる若者と言った風貌の青年は、ギロリとルールーを一睨み。
これではどちらが雇われる側なのか分からなくなるが、ルールーは臆することなく淡々とした調子で言った。

「まず、お名前を聞かせてください」
「Mrタイタン」
「元の所属先は?」
「ブラックサタン大幹部」

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.7 )
日時: 2018/04/21 14:56
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

チャラリートさんが任務の失敗とデータに無いプリキュアが出現したとの報告を怠ったことが原因で降格となり、あさばぶ支社では係長の席を埋めるべく急募を開始しました。ところが1週間が経過しても希望者は0のままです。
係長優遇・有給や給与は相談で応じ、未経験者は簡単な発注業務からの担当という他の企業と比較してもかなりの好条件での募集だとは思います。
しかしそれでも希望者が来ないということは、高確率で「プリキュア」や「ミライクリスタル」という聞きなれない単語に違和感を覚えているのでしょう。
このままチラシを見る人達に不信感を与えては希望者が集まらないだけですので、チラシの内容を変えるか、もう少し待ってみるか、あるいは急募を打ち切るか、いずれにせよ何らかの対策をしなくてはなりません。
それに面接官を任命された私が、志願者がいない為に面接室で他の仕事をしているという状況も正直言ってあまり良いものではありませんから。
パソコンを打つ手を止めてふと時計を見上げてみますと、時刻は正午になっていました。昼休みになりましたので一旦は仕事を中止し、エネルギー補給をすることにします。午後に希望者が来てくれるとよいのですが。


行きつけのカレー屋さんで無料券を活用し大盛りカレーを食べたところで支社に戻りますと、面接室前に設置されているソファに1人の男性が腰を下ろしていました。短い黒髪に薄茶色のサングラスが特徴的な強面な顔に紙煙草を咥え、筋肉質の体躯を三つ揃えの黒スーツで包んでいます。

「係長希望の方でしょうか」
「面接に来のですが、面接室が閉まっていましてね。どういうことなのか知っていたら教えて頂きたい」
「申し訳ございません。面接室を開けますので少々お待ちください」

私は深々と彼に頭を下げ、扉の暗証番号を入力し自動ドアのロックを外します。

「どうぞ」
「助かりましたよ」

彼は煙草を咥えたままニヤッとキザな雰囲気で笑い、部屋の中へと入っていきます。私も後に続いて入ります。
面接室は横長の机と向かい合って高級ソファが設置してあるだけのシンプルな部屋ですが、壁は防音になっており中の会話が外に漏れることはありません。

「それで、面接官さんはどこにいるんですかね」
「私が面接官です」
「君が?」

サングラスをかけているので彼の表情は分かりませんが口元を見る限りですと鼻で笑ったのは間違いなさそうです。

「君のような若い姉ちゃんを面接官に回すとは、このあさばぶ支社はよほど人材が不足しているらしい」

皮肉を口にし、豪快な音を立ててソファに腰を下ろしました。先ほどは私に敬語口調で話しかけていたのですが、私が面接官と知るなり尊大な口調になったところを見ますと、どうやら彼は人の地位や権力に弱く自分より立場や年齢が上の人には媚びへつらう性格のようです。私も向かいの席に座って彼と対峙します。彼は私が自分より若いと思って調子づいたのでしょうか、机の上に両足を乗せるという非常識な態度を見せています。
それも大いに問題なのですが、それよりも気になりますのは――

「面接室でのおタバコはお控えください」

扉にも大きく張り紙がしてあるのですが、この面接室は禁煙です。
他のところではそうでもないのですが、面接をする部屋である以上、タバコを吸ったままで面接を受けるというのは志願者として相応しい態度ではないというのが主な理由です。その旨を伝えますと彼はタバコを灰皿に押しつけ火を消しました。タバコの火が消えたところで私は彼に会った瞬間から気になっていた疑問を口にしました。

「失礼ですが、その筋の人ではないでしょうか?」
「どの筋だかは知らねぇが、オレはそうじゃない。よく間違えられるが。
さ、早く面接を始めてくれよお嬢さん」

服装といい顔立ちといい裏社会で実績を積み重ねてきたようにしか見えないですし、口振りから察するに私が何を言わんとしているのか理解しているのでしょうが、追求するのは面接が始まってからにした方が賢明と考え直すことにしました。彼と目を合わせますと、ギロリと鋭い目で私を睨んできます。
タバコを消されて苛立っている模様ですが、このようなことで動じては面接官として失格です。

「まず、お名前を聞かせてください」
「Mrタイタン」
「元の所属先は?」
「ブラックサタン大幹部」

彼の口から飛び出した組織名に私は違和感を覚えました。
ブラックサタンと言えば今から40年以上も前に栄光の7人ライダーの1人である仮面ライダーストロンガーにより全滅させられた組織のはず。
昔の資料を紐解きますとブラックサタンの大幹部はMrタイタンとジェネラルシャドウの2人と書いてありました。ですがどちらも既にストロンガーに倒されこの世にいないはずでは?
すると彼は再びタバコに火を着けますと、私の考えを読み取ったかのように口を開きました。

「オレは正真正銘のタイタン本人だ。地獄から蘇ったんだよ」
「地獄から?」
「そうだ。まあ、データ上の数字や文章、結果を重んじるお前さんには理解できんことだろうがな」
「なぜ復活を?」
「理由は聞くな。それに、今大切なのはオレが蘇ったことなどではなく、係長への志望動機ではないかと思うがな」
「それでは志望動機をお聞きします。
どうして、わが社に就職しようと思ったのですか」
「ここならオレの力を存分に発揮できると思ったからだ。
オレはブラックサタンの大幹部として常に前線で指揮を執った実績がある。
プリキュアなどという小娘連中など軽く捻ってみせる」

ブラックサタンという名の知られた組織で重要なポジションに就き、前線で指揮を執っていたというのですから性格はともかくとして手腕はありそうです。
今後も希望者が現れないようであれば、急いでいることもあるので彼を係長に就かせるのも策かもしれません。最も私は面接官とはいえ、採用の権限は上層部が握っているので安易に決定を出すことはできないのですが。

「わかりました。それではこれで面接を終了します。結果は後日、郵送で届きますのでお待ちください」
「オレの居場所を特定し通知を送ると言うのか。
大企業に恥じぬ情報網と称賛しておくとしよう。では、失敬」

彼はソファから立ち上がり、ドアに向かって歩き出し、外へ出ていきました。
玄関まで見送ろうと彼についていきますと、前から倉庫番に降格したチャラリートさんが両手で大きなダンボール箱を抱え歩いてきます。
Mrタイタンとチャラリートさんがすれ違った時、互いの肩が接触しました。

「あッ、すいませんっス」
「君は何者だ?」
「新人さんっスか? 
オレちゃんは係長から降格したチャラリートってもんっスよ」
「ほう、倉庫番か……」
「それじゃ、失礼するっス」
「お前は、潔癖症であるオレに触れたらどういう目に遭うか知らないらしいな」
「え?」
「こうなるんだッ」

彼はサングラスの奥で目を血走らせ、口に咥えていたタバコを手に取ると、いきなりそれをチャラリートさんの肩に押しつけました。

「アッチ!!」

タバコの温度は800度近くもあります。それを押し付けられたチャラリートさんはあまりの熱さに飛び上がり、彼と距離を置きます。
ですがMrタイタンは距離を詰め、右手をチャラリートさんの前にかざします。
するとチャラリートさんの全身が炎に包まれ、あっという間に火ダルマと化してしまいます。

「あああああああああああああぁ!」

ダンボール箱を手放し床を転がり悶絶する彼をMrタイタンは一瞥して唾をかけ、何事もなかったかのように歩き出します。
そして背を向けたままで言いました。

「生ゴミを出してしまったようだ。後で処分しておいてくれ」

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.8 )
日時: 2018/04/22 12:10
名前: モンブラン博士 (ID: zXm0/Iqr)

タイタンの発した「ゴミ」と言う言葉にルールーは違和感を覚えた。
確かにチャラリートは報告を怠り自らに残業を押し付けた相手だ。態度も馴れ馴れしく一個人として尊敬できる相手とは言えないだろう。だが、彼がクライアス社の一員で一人の人間であることには変わりがない。人間なのだから最低限の敬意は払うべきではないだろうか。だが、タイタンにはそれがない。
倉庫番として降格したとはいえチャラリートにも人間として然るべき生きる権利がある。だがタイタンはあろうことかゴミ呼ばわりし、曲りなりにも謝罪の意思を見せたチャラリートを無慈悲に火ダルマにし処分するよう命じた。
彼女がそこまで思案した僅かの間にタイタンは何処へともなく消え去り、後に残されたのは苦悶の声をあげながら床を転げまわる元係長と自分だけ。
放っておけば間違いなく彼は手遅れになり黒焦げになってしまうだろう。
動けるのが自分しかいないという状況下、ルールーは迅速に答えを決め、動き出す。

「至急、救急車をお願いします。場所はクライアス社――」

ルールーの速やかな対応によりチャラリートは病院に搬送され、一命を取り留めた。全身に大やけどを負ってはいるが社の管轄である大病院には未来から取り寄せた超最新鋭の設備が整っていることもあってか、早ければ二週間で退院できるとのことだった。
彼女が見舞いに行くと、チャラリートは集中治療室にいた。
面会時間は限られはするが、誰もいないよりかはバイトの自分かつ少しの時間であったとしても誰かと一緒に過ごす時間があった方が彼の回復が早くなると分析してのことだった。呼吸器を付けているチャラリートは3日間も意識が無い状態が続いたが4日目で意識が回復すると、ルールーの手を握り、微かな声で言った。

「ルールーちゃん……オ、オレちゃんを助けてくれて……あ、ありがとう……」
「同じクライアス社の社員として当然のことをしたまでです」


数日後、ルールーはいつものようにパソコン前で自らの仕事をしていた。
つい先日、ルールーの報告を受けた上層部がタイタンを係長として審議した結果、その長い経験と実績を買われ晴れてクライアス社の係長に就任した。
だがタイタンは係長に就任してから係長室に籠りきりで部屋から出ようとしない。仕方がないのでルールーは自らの仕事もこなしつつ、ミライクリスタル奪取の任務に就いているパップルを支援することにしたのだ。
順調に仕事をこなしていると部屋の扉が開き、パップルが入ってきた。

「ルールーちゃ~ん。今日、暇だったりする?」
「マスターのご用命であれば何なりと」
パソコンに向かいながら事務的に答える彼女にパップルは背後に回って。
「実はシーカレに誘われちゃってさ」
「シーカレ。データに無い言葉です」
「もう、彼氏よ彼氏。仕事も大切だけど、ラブも大事じゃない?
その点、同じ女子ならわかるでしょ?」
「ラブ、申し訳ありません。理解不能です」
「あら、アンタにはまだ早すぎたのかしら?
ま、そういうことでよろしくちょんまげー!」

ジュリ扇を振りながら部屋を出るパップル。
彼氏とデートする為にルールーに仕事を押し付けたが、残業を理由なくさせるのは彼女の本意ではないので、同性である彼女も異性に恋する経験があるのなら共感してくれ、快く仕事を引き受けてくれるに違いないと踏んだのだ。
だが実際は違った。仕事自体は引き受けてくれたが、肝心の恋の話は彼女には理解できない模様だった。データに無いからなのか、まだ少女だからなのか、それとも恋をした経験が無いからなのかパップルには判別ができなかったが、今回のやりとりでこれから彼女相手に恋バナはしない方がいいと心に決めた。
一方のルールーはパップルに代わって任務を遂行すべく、プリキュア打倒の確率を計算する。九九パーセントという答えは弾き出されたが、残りの一パーセントの不確定要素が何かわからない。だが、一パーセントというのは微々たる数字だとルールーは捉え、愛用のUFOに乗って出撃した。


ルールーは得意の分析で特定した居場所に到着すると、劇のオーデションを受けていた少女からトゲパワワを発見。それをUFOのボタンを押してネガティーブウェーブを発射、抽出した後に足元に現れたパネルを軽快なリズムに乗って踏み、半透明のデータを作成し、そこからオシマイダ―を発注した。
アルバイトである彼女は身分が低い為、他のメンバーと比べるとオシマイダ―の発注に手間と時間がかかってしまうのだ。
こうして発注したオシマイダ―はルールーがインプットした過去6戦のプリキュア達の戦闘データが功を無し、彼女達の攻撃を見切り、的確に弱点を突いた戦法で追い詰めていった。だが当初はワンパターンのバリアを張るしか能がないと思われていたキュアアンジュが思いの力を高め新たなるミライクリスタルを誕生させることに成功。結果、強化版ハートフェザーの勢いに押され、ルールーのオシマイダ―はまさかの敗北を喫してしまった。
予想外の出来事に対応できないというキュアエトワールに指摘した弱点が己に返ってきてしまう結末となったが、ルールーにとっては次の戦闘に活かすことができるので成果は上々だった。
しかし、それを許さない相手が一名だけいた。
パップルでもダイカンでもリストルでも、ましてやチャラリートですらない。
新しく係長に就任したタイタンだ。
彼はパップルからルールーが敗北した知らせを聞き、すぐさま彼女を自らの部屋に呼び出した。タイタンは椅子に深く腰掛け、机に両足を乗せ、口には煙草を咥えるという尊大な態度をとりつつルールーに訊ねた。

「バイト。お前は身分を弁えず出撃した上、小娘共に敗北して帰ってきたようだな?」
「はい」
「小便臭ぇガキ共の3人も倒せないで帰ってくるとは、お前はとんだポンコツのガラクタだ。いや、鉄クズと言い換えてもいいかもしれんな」
「申し訳ありません。次は必ずプリキュアを――」
「今、何と言ったのかね。悪いが聞こえなかった。繰り返してくれ」
「次は必ずプリキュアを」

言葉の途中までルールーが繰り返すとタイタンはサングラスを外して血走った眼で彼女を睨み、椅子から立ち上がる。そして彼女の眼前に立つとポケットから両手を出し。
ピシャリ!
乾いた音が部屋内に響き渡る。タイタンがルールーの頬を張ったのだ。
衝撃で倒れ込むルールーの背を踏みつけ、更に頭を掴んで何度も堅い床に叩き付ける。

「次のチャンスがあると思ったら大間違いだ。
お前など、焼却炉かスクラップにしてゴミ山に投げ捨ててやる!」
「申し訳ありません」
「オレに謝罪したところで意味はない。役立たずは全て消す!
と言いたいところだが――」

彼はここで足をルールーの背中から離し、彼女が起き上がるのを待つ。
ルールーは顔や服が埃が付いたものの身体には何のダメージも無いようだった。それを確認するとタイタンはニヤッと笑い。

「お前のデータ分析は少しは役立つようだ。今回はそれに免じてお前の始末は保留する。そして今度は!」

彼は再び机に戻ると引き出しから一個の虫かごを取り出した。
中にはドクロと蜘蛛を合体させた気味の悪い虫が三匹入っている。

「見たこともない種類。この虫は?」

彼女の問いかけにタイタンは口から煙草を離して豪快に煙を吐き出す。

「これはサタン虫。ブラックサタン時代に養殖していたものが何匹か残っていたのでな、利用することにした。サタン虫は人間の耳から入り込み、侵入した相手を意のままに操ることができる」

彼の口ぶりから明晰な頭脳で作戦を察したルールーは、彼の企みが企業としての範疇を超えたものであることに気が付いた。だが、抗議したとしても聞き入れるとは思えない。今は自分の考えた答えと彼の立てた作戦が同じものであるかを確かめるのが先決だ。ルールーは無言で次の彼の言葉を待った。
すると彼はサタン虫を指の腹で愛おしそうに撫で、作戦内容を口にした。

「この三匹のサタン虫をプリキュアとかいう小娘どもの家に放ち、奴らの家族を介してプリキュア共の命ごとミライクリスタルを強奪する!!」

Re: HUGっと!プリキュア ルールーちゃんシリーズ ( No.9 )
日時: 2018/08/19 06:38
名前: モンブラン博士 (ID: mrjOiZFR)

土曜日。先日の劇のオーデションの疲れもあってか、薬師寺さあやは深い眠りに就いていた。外では朝日が昇り始め、薄らと空が明るさを帯びてきている。
青で統一された広い彼女の寝室のドアが開いて、静かに一人の男が入ってくる。
だがさあやは眠っており、男が部屋に入ってきたことに気づかない。
彼は足音に細心の注意を払いながら、彼女の寝ているベッドに近づき、物静かな寝息を立てている彼女の細い首に手を伸ばし、両手で掴むとゆっくりと力を込める。ここにきてさあやは息苦しさを感じ、目を覚ました。
目に飛び込んできたのは、一人の男が自らの首を絞める姿。


「きゃああああ……ッ」


何者かが部屋に侵入したことだけでなく、相手が自らの首を絞めてくる息苦しさに加え、暗がりのせいで相手の顔が判別できない恐怖。様々な要素が重なりあった体験したことない恐怖の前にさあやは高い叫び声をあげ、目の前の恐怖を振りほどこうと必死で抵抗する。だが、声は首を絞められているため大きく出すことはできない。幸いにも滅茶苦茶に振り回した手足が相手に当たり、どうにか男の手を首から離させることに成功した。さあやは男の顔を確認すべく、急いで部屋の電気を付ける。するとそこに倒れていたのは。


「お父さん……!?」


それは紛れもなくさあやの父であった。いつも優しく、女優業で忙しい母に代わって大好物の激辛カレーなどを作ってくれる大好きな父。
その父が自分の首を絞めて命を奪おうとした。絞められた首に手を触れると、冷や汗でびっしょりと濡れている。ホラー映画などの怖いものには割と耐性のあるさあやであったが、流石にこの出来事には肝を冷やした。


「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」


荒くなる呼吸を胸を抑えて落ち着かせ、いつもの冷静さをどうにか取り戻した彼女は改めて自分の身に降りかかった出来事を整理する。
寝ていたら父親が部屋に侵入し、首を絞めてきた。普段は優しく自分をフ弱愛してくれる父がそのようなことをするとは考えにくい。ということは父は誰かに操られたか、あるいは何者かが父に化けての仕業なのか。
顎に手を当て考えていると、父の耳たぶに見慣れない模様があるのを発見した。


「これは何かしら?」


不審に思った彼女が父の耳たぶを引っ張ると、模様がグニョグニョと動き出し、気づいた時にはドクロと蜘蛛を合体させたかのような奇怪な虫が床を這っていた。


「きゃあああああああッ!」


顔に怯えの色を見せ血の気が一気に引いていくさあやであったが、この謎の虫が父をおかしくさせた原因であることには間違いない。
巨大な虫はカサカサと音を立ててさあやに接近している。どうやら、今度は彼女に取り付こうとしているらしい。


「嫌ぁッ!」


無意識のうちに振り下ろした右掌が虫の胴体を潰し、絶命させることに成功させたが、手には気色の悪い粘膜がべっちょりとこびりついてしまった。
そのままでは何も手が付かないので一先ずは台所で手を洗う。
父親をリビングのソファに運び込んで寝かせ、謎の虫の背に付いていた「サタン虫」というラベルから、この虫の名がサタン虫であることを割り出し、早速得意のパソコンで検索をかける。サイトを読み進めていくうちに危険を覚えたさあやは急いでパソコンを愛用の鞄に入れて、キュアスタではなとほまれに事態を伝え、外へ出た。



ハリー、はぐたん、さあや、はな、ほまれの5人は待ち合わせ場所である公園に集まり、現状を話し合う。ハリー達以外の2人はいずれも寝ているところを家族に命を奪われそうになったという。


「こんなことができるのは、クライアス社だけだと思います。家族を操り、抵抗できない私達を倒してミライクリスタルを奪うと考えたら、あり得る話です」


さあやが言うと、ほまれが口を開く。


「どうしてサタン虫をクライアス社が使ったんだろう?
さあやが調べた情報によると絶滅しているはずなのに」
「もしクライアス社がバイオテクノロジーの技術を有していれば、絶滅した生き物を復活させることも可能かもしれません」
「でも、クライアス社がそんな凶悪なことするかな~!」


腕組みをし、眉を八の字にし「むむむ」と唸りながらはなが口を開いた。


「どういうこと?」


ほまれが訊ねるとはなは腕組を解き。


「何となくだけど、クライアス社の人達がそこまで酷いことをするようには思えないんだ」


はなは今回の件がどうもクライアス社のやり口とは異なることを感じていた。
これまでのクライアス社なら自分達のいる場所に現れオシマイダ―を召喚し、闘いを挑んでくる。目的こそ許せない連中ではあるが、彼らは常に正攻法でミライクリスタルの奪取をしようとしてくる。
はなは彼らのその態度にはある種の正々堂々とした誇り高さを感じていた。
それだけに今回の事件はあまりにも陰湿かつ卑劣で、とてもクライアス社の仕業とは思えなかったのだ。


「確かに、クライアス社がそんな卑劣な手を使うとは思えない」
「それにサタン虫はクライアス社とは何の関係もないはずですし
この事件は誰かが裏で糸を引いているのかもしれないですね」


ほまれがはなの意見を肯定し、さあやが黒幕の存在を持ち出した時、突然に拍手が公園内に響き渡った。自分達以外に誰もいないはずの公園に鳴り響く拍手の音に警戒し身構え緊張が走るはな達。
すると、公園の正面入り口から一人の人物が現れた。
短い黒髪に薄い色のサングラスが特徴の強面の顔に口には煙草を咥え、黒い三つ揃えのスーツに身を包んだダンディな若者――
はぐたんはその男の顔を見るなり、火が付いたように泣き出す。
ハリーが必死であやしてみるも泣き止む気配はない。
男は不敵な笑みを浮かべ、1歩ずつはな達に距離を詰めていく。
男から放たれる凄まじい殺気に、はな、さあや、ほまれの3人は冷や汗を流し、金縛りにあったかのように身体が動かなくなる。
男は5人の前にくると口から煙草を外し、ペッと唾を地面に吐き落とし、血走った眼光鋭い瞳ではぐたんを睨む。


「サタン虫を使ってミライクリスタルを強奪しようとしたが、その様子を見る限りだと失敗のようだな。まあ、お前達のようなガキがサタン虫を退けたことについては素直に褒めてやるとしよう」


ここで男は拍手を辞め、はぐたんを再度睨む。


「人が話している時は静かにするんだな。でないとお前の身体が消し炭になるぜ」
「は、はぎゅ~!」


恐怖のあまり気を失ったはぐたんに対し男は舌を鳴らし。


「ったく。ピーピーギャーギャー泣き叫ぶとは、耳障りにも程がある。
だからガキは嫌いだ」
「ガ、ガキは嫌いって、あなたも昔は子供だったんじゃ……ないん……ですか?」


男の前に立ち塞がり問いを投げかけたほまれだったが、その声が次第に小さく、そして敬語口調になっていったのは男が凄んだ顔を近づけたからだ。


「背だけ高くて生意気な小娘だ」


男はいきなりほまれの足を思いきり踏みつけ、次に左手でほまれの服の胸倉を掴んで強引に身体を引き寄せ、耳元に顔を近づけ囁く。


「オレにはガキの時代などなかったよ」


そしてそのまま空いた手でほまれの腹を殴り、胸倉から手を離す。
体勢を崩したほまれは後方に倒れそうになるが、はなとさあやのフォローで助けられた。しかし少し咳込み、顔を苦痛に歪ませているところから、はな達は彼女がどれほどの痛みを受けたのか感じ取る。そしてさあやは男を睨み。


「なんてことをするんですか!」
「あなた、何者なの!?」


はなの質問に対し、男はニヤッと不敵に笑って。


「知りたいのなら、冥土の土産に教えてやるとしよう」


男は1歩だけ前に進み。


「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!
正義を滅ぼせと俺を呼ぶ!
聞け! プリキュア共!!
オレはクライアス社の新係長、Mrタイタン!!」


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