”絶望”と”希望”交わる世界で。

作者/ 藍蝶



第13話 「VSスモディオ・ガーレンクス」



「あの人優しかったですね」
「あぁ、有力な情報を与えてくれた」
「この世界に吞み込まれてない人もいたのね」
「そういうのもアリだと思いますよ?」

上から光流、拓人、優乃、由梨菜。
老人のいた洞窟から出てきた所だ。
さっきまで普通に歩いていたので、水の中が新鮮に感じる。

「思ったんだが」

拓人が口を開いた。

「何ですか?」

疑問符を浮かべる光流に、拓人は言葉を続ける。

「何か……忘れてないか?」

途端に、近くの崖が一瞬にして崩壊した。

《グゥガァァァァァァッ!!!》

4人の顔が一瞬にして青ざめた。
すっかり忘れていた舞冥土回路の主が、コチラに向かって攻撃してきたのだ。
外れたのは奇跡だと、4人は同じ事を考える。

「く……コイツを忘れてましたね!」

崩れた崖の一部が龍の叫びによる衝撃波で、思い切り飛んできたのだ。
それに当たってしまった由梨菜は小魔法で簡単に傷を治していく。

「見つけられたのは仕方ないし。……倒すよ!《水の弾丸 -アクアショット-》!」

水で作られた弾丸は、そのまま龍……スモディオ・ガーレンクスの腹部を貫いた。
瞬時に紅い液体が敵の腹部の周りを漂う。
が、すぐに貫かれた穴は閉じてしまった。

「なッ……!?」

コレには技を出した張本人が一番驚いた。
いつもより弾丸を大きくし、殺傷能力も上げたつもりだったが……相手には治癒能力も備わっているようだ。

「ならば完治される前に一点を攻撃です!《光彩槍 -ブリリアンススピアー-》!!」

光輝く巨大な槍が光流の手から連射される。
体が半分に千切れる。だが、頭のある方だけすぐに再生する。
しかも、全ての攻撃は相手にダメージを与えるどころか、怒りを大幅に買う事になってしまった。
龍が大きいその尾をコチラに向けて振り回す。
その尾が通った道筋は瞬く間に爆発。しかも広範囲で。

《ドォンッ!》《ドォォン!!》《ズガンッ!》

「この技……《水素爆発 -ハイドロボム-》か!」

防御陣を張りながら紙一重でかわしていく拓人。豊富な知識から技の分析をしているが、相手が出来なきゃ意味は無い。

「きゃあッ!?」

由梨菜の声。どうやら爆発に足だけ吞み込まれたようだ。
と言ってもすぐ抜いたので、見た目からして軽傷。少々マグマの如く熱くなっているだけだ。
それに周りは水。回復薬”ベカ・メテラ”を取り出した由梨菜は火傷の場所に振りかける。コレは火傷の特効薬で、冷す役割も持ち合わせた便利なものだ。

「由梨菜さん!大丈夫ですか!?」

拓人と同じく防御陣を張り持ちこたえている光流。

「”ベガ・メテラ”がある限り、大丈夫です!《風月空羽 -フウヅキクウハ-》!!」

懐から薄紫の扇子を取り出し、相手に向かって仰いだ。
その風が強風を巻き起こし、殺傷能力を備える。あまり威力は無いが、じっとしてても標的にされるだけだ。

「《アクアリボルバー》!男二人!ずっと防御してないで攻撃しなさい!」

優乃の掌から氷の弾丸が発射されていく。本来《アクアリボルバー》は水の弾丸を発射するものだが、優乃は氷属性も持ち合わせている。
その力を上手く応用し、水は氷に姿を変えた。

しかしやはり攻撃しても穴は塞がってしまう。
駄目元で撃ってるというのは、優乃の顔から心底感じ取れる。
その時、弾丸が龍の付けている蒼い玉にヒビをつけた。

《ギャオオォォォン!!》

相手は、途端に苦しみ始める。同時に貫かれた部分が、再生されない!

「まさか、あの玉が……!」
「永久の体を作っていたのだろうな。分かれば、玉を割る事に集中するんだ!」

拓人の指示により、4人の注意は一斉に首にある蒼い玉へと向けられた。

「《風月空羽 -フウヅキクウハ-》!」
「《フォルテシモ》ッ!!」
「《光彩槍 -ブリリアンススピアー-》!!」
「《水麗波 -スイレイハ-》ッ」

4人一斉攻撃の衝撃波が、龍の生命とも言える玉を砕いた。
と同時に、龍は無残化していく。細かい泡となり、消えたのだ。

龍の居た場所に、小瓶が落ちていた。

「これ、”アスモディアスの鱗”……!?」

先に取りにいったのは由梨菜だ。小瓶を手に取り、中に入った藍色の鱗をまじまじと見つめている。

「ホントに”アスモディアスの鱗”なら良い調合薬の材料になるんじゃない?あ、高額でも売れるけど」

同じく優乃も藍色の鱗を見つめた。そう、この鱗は超貴重品として扱われる調合薬の材料。
その調合薬の材料は全てとても手に入れにくい代物。これはその中の一つだ。

スモディオ・ガーレンクスの死により、舞冥土回路に異変が起きた。

第13話 終わり