コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 【完全版】
日時: 2019/02/08 08:35
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 
 --------------------------------------------

 これは

 運命に抗う、義兄妹の戦記
 
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 *不定期更新になりました。


 ■ご挨拶

 初めまして、またはこんにちは。瑚雲こぐもと申します!

 こちらの「最強次元師!!」という作品は、いままで別スレで書き続けてきたものの"リメイク"となります。
 ストーリーや設定、キャラクターなど全体的に変更を加えていく所存ですので、もと書いていた作品とはちがうものとして改めて読んでいただけたらなと思います。
 しかし、物語の大筋にはあまり変更がありませんので、大まかなストーリーの流れとしては従来のものになるかと思われます。もし、もとの方を読んで下さっていた場合はネタバレなどを避けてくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします!



 ■目次

 一気読み >>001-

 プロローグ >>001 
 ・第001次元 >>002
 ・第002次元 >>003
 ・第003次元 >>004 

 【花の降る町】 
  >>005-007

 【海の向こうの王女と執事】
  >>008-009 >>012-025

 ・第023次元 >>026

 【君を待つ木花】
  >>027-046

 ・第044次元 >>047
 ・第045次元 >>048
 ・第046次元 >>049
 ・第047次元 >>050
 ・第048次元 >>051
 ・第049次元 >>052
 ・第050次元 >>055
 ・第051次元 >>056

 【はじまりの雪】
  >>057-


 ■お知らせ

 2017.11.13 MON 執筆開始

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13



Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.58 )
日時: 2019/01/01 14:15
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw
参照: ※内容加筆修正のため再掲

 
 第053次元 はじまりの雪Ⅱ

 快晴に恵まれたある冬の朝。エポールの家から北の方角にいくと、家宅がいくつか立ち並んでいる場所へ出る。そのうちの一軒はこじんまりとした茶屋で、常に小さな旗を構えている。ここは朝早くに門を叩くと焼きたてのパンを売ってくれるのだ。おつかい係に任命されたロクアンズは今日一日で消費する分のパンを詰めこんだ袋を抱え、行きとおなじ道を辿って家に戻ってくる。そして大きな声をあげながら玄関をくぐった。

 「ただいまーっ! かってきたよーおばさんっ!」
 「あら、この元気な声はロクアンズね。おかえりなさい」

 ちょうど洗濯をし終えて小川から戻ってきたらしいエアリスが、裏の庭に竹籠を置いて家にあがる。愛用している前かけで手元を拭いながらロクアンズのもとに歩み寄った。

 「ありがとう、ロクアンズ。あなたが早起きで助かっちゃうわ」
 「えへへ」
 「これで朝食を作るから……あ、ごめんなさい、もう一仕事だけ引き受けてくれる?」
 「もう、ひとしごと?」
 「洗濯物を裏庭に干してほしいの。その間におばさん、おいしい朝ごはんを作って待ってるから」
 「わーい! おいしいあさごはんっ! あたしやる!」
 「ありがとう」

 ロクアンズはバタバタと走って裏庭へ出る。水浸しの衣類が山のように積まれた竹籠を両腕で抱え、よたよたと危なげに歩きだした。案の定、彼女は物干し竿の前にやってくるや否や吹っ切れたように両腕を離した。竹籠の底が、どすんと草木を踏む。
 ぜーはー、とロクアンズは息を吸ったり吐いたりする。心拍が落ち着いてきたところで、彼女は服の袖を捲った。

 「よしっ! もうひとしごとだ!」
 「あさからげんきだな」

 そこへ、寝間着姿のレトヴェールが上着を羽織りながら近づいてきた。ロクアンズは左目をまんまるにして、声のしたほうへ振り返る。

 「れ……。あっねえ、てつだって? そしたらはやく、おいしいあさごはんたべれるよ」
 「やだよ。めんどくさい」
 「……。おばさんいってたよ。れとぶぇーる、おきるのおそいんだって。あたしがパンをもらいにいったんだよ」
 「おまえはとうぜんだろ。いそーろーなんだから」
 「い、いそ、なに?」
 「よそものってことだよ」

 ロクアンズの手に握られた衣服から、ぽたぽたと水が滴り落ちる。ぎゅっと力を入れると、さらに大きな雫が落ちて、水溜まりが跳ねた。

 「……やさしくなんか、ない」
 「あ?」
 「ねえ、なんでいっつも、いじわるいうの? あたしなにも、なんにもしてないっ」
 「してんだろ」
 「なにを!」
 「かあさんのほんとの子どもでもねえくせに」

 レトヴェールの金色の瞳と、ロクアンズの緑色の片瞳が、真正面からぶつかり合った。

 「かあさんをとんなよ!」
 「とったとかとらないとか、おばさんはものじゃないし、とってないもん!」
 「じゃあちかくにいんな!」
 「やだ!」
 「んだと──このっ!」

 レトヴェールはかっとなって、ロクアンズの襟元を乱暴に掴みあげた。すると彼女の軽い身体は簡単に地面に落ちた。強く背中を打ちつけ、「うっ」と小さい呻き声をもらす。同時に洗濯物の入った竹籠も派手にひっくり返った。
 ロクアンズは細い手足をばたつかせて必死に抵抗した。

 「やーだあ! はなして!」
 「おまえがいなくなったら、はなしてやるよ!」
 「やだっ! はな、はなれるのは、ゃだ……!」
 「んでだよッ!」
 「また……っあたし、ひとり、なの……ぃやだぁ……!」

 そのときだった。突然、ロクアンズの首元の苦しさが和らいだ。ぱっと左目を開くと、レトヴェールが目を丸くして自分を見下ろしていた。
 彼の目には、新緑の瞳に滲んだ涙が映りこんでいた。

 「……」
 「……?」

 ロクアンズが動揺の色を浮かべた、そのとき。

 「なにをしてるのっ、2人とも!」

 大きな声がして、ロクアンズとレトヴェールの2人は我に返った。
 庭に出てきたエアリスは、揺れる草花の上で無造作に散らばっている衣服をすべて拾い上げて、籠の中に戻した。ふたたび山となった竹籠を2人の前に突きだし、彼女は言い放った。

 「2人で洗ってきなさい。いい? 2人でよ。わかったら行きなさい」

 エアリスは険しい顔つきになっていた。いつもは穏やかな眉がきつく吊り上がり、顔も真っ赤だ。これほどあからさまに怒りを露にしているエアリスを見たのは2人とも初めてだった。返す言葉が見つけられず、黙って竹籠を受け取った。
 
 
 小川は家の裏庭からすこし行ったところで流れている。そこまでの道のりは遠くないので、すぐに川のせせらぎが聴こえてきた。
 ロクアンズとレトヴェールはお互いの顔を見ないようにして歩いていた。先に竹籠を抱えていたロクアンズが、ちらりとレトヴェールのほうを向いて言う。

 「ねえ、あなたももって? あたしつかれた」
 「……」
 「ねえってば」
 「おまえのせいでこうなったんだろ。だからおまえが持てよ」
 「……れとぶぇーるがさきにやったのに」 
 「だからなんだよそのよびかた。ちげえし」
 「じゃあなんてゆえばいいの!」
 「しらね」

 レトヴェールはつんとしていて、反省をする気はまるでないようだ。自分ばかり竹籠を運んでいるのがばからしく思えてならない。なにを言っても聞いてくれそうにないレトヴェールの頭に竹籠をぶつけてやりたいが、ロクアンズはそれほど重たい物を持ちあげられない。代わりに小石を蹴飛ばしていた。
 小川に辿り着くと、ロクアンズは汚れた衣類を草花の上にぼとぼとと落とした。それから川べりに座りこむ。
 流れゆく川の水に衣服をさらして、引き上げて、吸いこんだ水をよく絞ってから、カラになった竹籠に戻す。黙々とそんな作業を続けるロクアンズを、レトヴェールは立ったまま見下ろしていた。

 「……」

 あなたもいっしょにやって、だとかそういった文句を言わないのかとレトヴェールは訝しんだ。ロクアンズは彼に目もくれず、言いつけられた仕事にだけ向き合っている。これだけは完遂させないとという執念の色さえ見えた。

 「おい、あれ、ウワサの緑髪じゃねえか!?」

 聞き覚えのない声がして、ロクアンズはその声につられて横を向いた。すると背格好のよく似た3人くらいの子どもたちが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
 
 「ほんとだ! すっげえ! ほんとにいた!」
 「おいやっぱあれだよ、右の目! 閉じてやんの。すっげきっもちわりぃ」
 「──」

 ロクアンズは咄嗟に、自分の右目を手で覆った。直後、その様子を見ていた少年たちがどっと笑った。

 「おい、もっとみせろよ」

 3人のうちで一番大きな身体をしている茶髪の少年が歩み寄ってくる。ロクアンズは後ろに下がろうとした。が、踵が浮くような嫌な感覚がして、身震いした。すぐ真後ろには小川が流れている。
 茶髪の少年はロクアンズの右手首を豪快に掴んだ。

 「手どけろよ」
 「ぃ、やだ!」
 「いいじゃんかよ。みせろよ。みてえんだよ」
 「やだってば!」

 少年がロクアンズの右手首を引っ張ろうとし、彼女はその強い力に負けないようにと抗っていた。
 が、子どもといえど男と女には力の差がある。いまにでも右手首をはがされそうで、ロクアンズの目尻にはまたじわりと涙が浮かんだ。

 「……」

 ただただ、レトヴェールはその光景を見過ごしていた。
 そのままなにもしないかと思われた彼だったが──
 
 「は?」

 その場でしゃがんで、落ちていた小枝を拾うと、ロクアンズの手首に纏わりついていた少年の手の甲に思い切り突き刺した。

 「いッ!」
 「!」

 少年の手が彼女の手首から離れた。彼女はじんじんと痛む手首にもう片方の手を添えながら、ぱっと顔をあげた。
 3人の少年たちはロクアンズではなく、小枝をぽいと抛るレトヴェールに視線を集めた。
 
 
 
 * * *

 2018年はお世話になりました。
 来年も本作をよろしくお願いしますー!(*'▽')

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.59 )
日時: 2019/03/16 17:19
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第054次元 はじまりの雪Ⅲ

 「んだよおまえ! じゃますんなよ!」
 「そうだぞ!」
 「……」

 レトヴェールは口をきこうとはせず、つんとよそ見なんかをしていた。ようやく少年の手から解放されたロクアンズは彼の後ろでまだすこし痛む手首を擦る。

 「こいつさぁ、たまにみるやつだよな」
 「おれらんことウラヤマシソーにみててさ、きもちわりぃんだよ」
 「みてねえよ」
 「みてんじゃんかよ!」
 「あと、うらやましいとかそういうの、かってにきめんな」
 「んだと!」

 少年たちの興味の矛先が、ロクアンズの右目からレトヴェールへと遷移しつつあった。彼女はとっくに顔から手を離しているのに、その傷のついた右目に少年たちは見向きもしない。

 「……」

 投げられる数々の暴言はすべてレトヴェールに当てられている。いつの間にやら蚊帳の外に立たされていて、その場から見えるものといったら彼の背中だけだ。
 小さく結われた金色の髪が、さらりと揺れて──綺麗だ、なんて。ふとそんなことを考える。

 「かっこつけてんのかよ? おんなのまえだからって」
 「おんなみてぇなかおしてるくせによ」
 「あ?」
 「かあちゃんが『かかわんな』って言ってたぞ」
 「……」
 「えぽーるはのろわれてんだ。かみさまにきらわれてんだってな!」

 強い語尾とともに、レトヴェールは肩を突き飛ばされた。次の瞬間。一、二歩だけ後ずさった彼は、──どぼんっ! と真っ逆さまに川底へ落ちた。水しぶきが高く打ち上がる。
 ロクアンズは川べりに飛びついた。

 「っ! れ──」
 「きっもちわり。あーせいせいした!」
 「おまえやりすぎだろこれは」
 「あはは!」

 げらげらという汚い笑い声にまぎれて、レトヴェールが川面を割って顔を出した。前髪がべたりと張りついていてその表情ははっきりしない。

 「れ……」
 「……」

 ロクアンズは、驚きと疑問で胸がざわついていた。ついさきほど少年の1人に腕を掴まれたときに、横槍を入れなければ彼はまちがいなく無事でいられた。やいやいと悪口を言われることも、凍えるような冬の川に身を投じることもなかった。

 「もういこうぜ。あきたし」
 「そうだな」

 彼は相変わらず目を合わせようとはしない。川底に尻をついたまま、ただ時間が過ぎるのを待っているようにも見える。
 少年たちがくるりと背を向けた。
 そのとき。

 ロクアンズは竹籠を掴み、躊躇いなくひっくり返した。そして籠の中身をすべて地面の上に落とすと、それで川の水を汲み、少年たちの背中に水を投げた。

 「ッ!」
 「っうわあ!」
 「つめて!」

 ばしゃあっ! ──と。少年たちは冷たい水を背中に被った。3人は不格好にもよろめいて膝をついたり転んだりする。
 レトヴェールは水の冷たさも忘れて、間抜けにもぽかーんとしていた。

 「お、おい! なな、なにすんだよっ!」
 「……らわないで」
 「はあ?」
 「レトのこと、わらわないでよ! たしかにおんなのこみたいだし、ぜんぜんやさしくないけど、でもあたしの……あたしの、おにいちゃんだから、わらったりしたら、ゆるさないから!」

 目尻にじわりと滲んだ涙を落とさないように、ロクアンズはきつく唇を結んだ。怯んだというよりは、得体の知れない怒りをぶつけられて少年たちは呆れ返っていた。

 「な……なんだよ。ほんとになんなの、こいつ」
 「ぎりのきょうだいってんだろ、こいつらみたいなの」
 「ああ。ぜんぜんにてねえし」
 「いっしょうやってろ、ぎりのきょうだい!」

 少年たちは、あかんべーなどをしながら水浸しの背中を向けて行ってしまった。
 レトヴェールは川底に座りこんだまま、ロクアンズの後ろ姿を見上げた。しばし静寂が流れた。
 
 「……」
 「……」
 「……んだよ、れと、って」

 ロクアンズはぎくりとした。やや目を泳がせながら、もっともらしいことを口にする。
 
 「な、ながいから。よぶときじかんかかるし、みじかいほうがかわいいし」
 「うそつけ。いえないんだろ、ヴェールって」
 「……それも、はんぶんくらいある」
 「ぜんぶだろ」
 「はんぶんだもんっ」
 「いいやぜんぶだ」

 また言い返すと永遠に終わらないな、とロクアンズは反論を諦めて、川の中で座りこんでいるレトヴェールの顔の前に手を差し出した。

 「かぜひいちゃったら……おばさん、しんぱいするよ。だからはやくあがろ?」
 「……」
 「レト?」
 「おまえ、へんだよな。なぐろうとしたやつかばったりして」
 「それは……レトもいっしょでしょ。さっきたすけてくれた」
 「べつにたすけてねえよ」

 レトヴェールは差し出された手をぷいっと無視して、起き上がろうとした。が、川底のぬめりけに足を滑らせ、そのまま大量の水しぶきをあげて彼はすっ転んだ。
 唖然としてその一部始終を見ていたロクアンズは、耐え切れず、大声をあげて笑った。

 「ぶっ……ははは! レト、レトおっかしーっ!」
 「笑うな!」

 高らかな笑い声が、澄んだ川面に浮かぶ木の葉をかすかに揺らす。笑われて頭にきたらしいレトヴェールは、ぐんっとロクアンズの腕を引いた。すると彼女は成す術もなく川面に直撃した。彼女の奇声が川の中から聴こえてくるも、彼はざまあみろと言わんばかりにフンと鼻を鳴らした。
 美しい小川の底では、2匹の小さな魚が寄り添い合っていた。
 
 
 
 レトヴェールとロクアンズの2人に小川での洗濯を言い渡したのには、いくつか理由があってのことだ。一つは言うまでもなく、2人の言い争いが原因でせっかく綺麗に洗った洗濯物が土まみれになってしまったからだ。喧嘩をすると面倒なことになりかねないと身体に教えこませることも目的のうちである。
 そしてもう一つ。2人には共同で作業をしてほしかったのだ。つい最近出会ったばかりで、互いのことをよく知らない状態では、会話やコミュニケーションがなかなか成り立たないのも無理はない。そこでエアリスはなかば強制的ではあるが、2人に共同作業をさせることで仲間意識や友情のようなものがすこしでも芽生えるのではないかと考えたのだった。しかし。

 「ちょ、ちょっとどうしたのよ2人とも! そんなにびしょぬれになって……いったいなにがあったの?」

 裏庭から帰ってきたロクアンズとレトヴェールの姿を見るなり、エアリスは卒倒しそうになった。
 頭の上からたらいの水でも被ったのかと疑うほど、2人は頭のてっぺんから足の爪先までしっかりと濡れていた。エアリスがしごく心配そうに顔を覗きこんできたので、ロクアンズは先に口を開いた。

 「ね、ねえね、おばさんきいて! あのね、レトがぜんっぜんてつだってくれなかったんだよ。だからあたし、たくさんあらってて、それでとちゅうで川におっこちちゃったの」
 「え?」

 エアリスは目をぱちくりさせた。ロクアンズの言ったことはほとんど嘘だ。が、このまま押し切ればエアリスを騙せると踏んで、ロクアンズは調子をあげた。

 「でねでね、レトったらひどいんだよ。川におちたあたしのことすっごくわらったの!」
 「ええっ? ほんとうレトヴェール?」
 「ちげえよ。かあさん、こいつがいってんのウソだから。おれはこいつをたすけようとおもって手のばしてやったのに、こいつおれのうでつかんで、おれまでかわにおとした」
 「ええっ!」
 「それはレトでしょ! レトのばか! うそつき!」
 「おまえのほうこそおれを笑っただろ。でかい声で」
 「それは! それはほんとだけど……」
 「おい」

 レトヴェールはロクアンズの頬を両手でつまんで、「このやろう」とぐいぐい頬の肉を引っ張った。「いひゃっ」と悲鳴をあげながらも、彼女も負けじと彼の頬をつまみ返して対抗する。エアリスはそんな2人を交互に見やって、唖然とした。

 「ふ、2人とも……。ケガは、ケガはなかったの?」

 2人ははたと手を離し、じとーっとお互いの顔を見合ってから、同時に告げた。

 「ない」
 「ないよっ」

 泥まみれで、水浸しなのに、清々しい顔をして2人が言うものだから、エアリスもつられて顔を綻ばせた。

 「そう。2人とも、風邪を引いてしまうといけないわ。私がすぐに湯船の準備をしてくるから、そのまえに服を着替えていらっしゃい。いいわね」
 「ん」
 「はーいっ」
 「そうだわ、ねえロクアンズ」
 「なあに?」
 「その……"レト"っていうのは、もしかしてレトヴェールのことかしら?」

 ロクアンズはこくんと大きく頷いた。

 「うんっ。だってレトのなまえながいし、こっちのほうがなんかかわいいかなって」
 「ヴェールっていえないだけだろ」
 「しーっ! なんでゆっちゃうのっ」
 「じじつだろ」
 「じじつでもだーめー!」

 言葉の売り買いが勃発し、ふたたびエアリスの胸に不安の芽が出るかと思われたが、違った。彼らが纏っている雰囲気はこれまでのような冷たく張りつめたものではなかったのだ。
 エアリスは、ぷっと小さく吹きだした。それから、こみ上げてくる笑いを抑えることができなかった。

 「……な、にかあさん」
 「おばさん?」
 「いいえ、なんでもないわ」

 目尻を拭い、エアリスは「それじゃあお風呂の準備してくるわ」とその場をあとにした。残された2人はエアリスに聞こえないように、小さく安堵の息をもらした。

 「ばれなかったあ」
 「ああ」
 「おばさんに、しんぱいしてほしくないもんね」
 「……ん」

 エアリスに心配をしてほしくない。悲しい顔をさせたくない。──2人の意見が一致したのはこれが初めてのことだった。
 ぶるるっ、とロクアンズは寒さで身が震えあがるのを感じた。両腕を擦って暖をとりつつ、自室に戻る。
 そのとき。レトヴェールはなにかに吊られるかのように鼻をひくつかせたかと思うと、頭を豪快に振り下ろした。
 
 「くしゅっ。……うぇ」
 
 ぐずり、と彼は痛いくらいに鼻を啜った。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.60 )
日時: 2019/01/21 17:51
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第055次元 はじまりの雪Ⅳ

 鼻水が止まらない、なんとなく身体がだるいという症状を彼が訴えだしたのはあれから間もなくのことだった。
 ロクアンズはよく彼の部屋の扉を開けたり閉めたりしていたのだが、「うるせぇな」と一蹴されてからは大人しくするようにした。とはいっても頻繁に扉の前に訪れては、その辺りをうろうろしている。

 「あらロクアンズ。またここにいるのね」
 「おばさん!」

 台所のほうから、エアリスが木の板に食事を乗せて現れた。

 「レト、だいじょうぶかな?」
 「大丈夫よ。ちょっと風邪を引いただけなんだから。あの子、あんまり体力ないから」
 「うぅん……」
 「さ、入りましょう」

 ロクアンズは踵を浮かせて、扉の取っ手を両手で掴んで引いた。「あら、ありがとう」とお礼を言ってからエアリスは部屋に入る。ロクアンズもあとに続いた。
 木の板には、麦の入った温かいスープと木製の大きな匙が乗せられていた。エアリスが寝台の近くにある棚の上にその板を置く。椅子に腰をかけて、寝ているレトヴェールの前髪を指先ですくった。

 「この子が川に落ちて風邪を引くなんて、らしくないわね」

 くすくすと小さく笑うエアリスの顔はどことなく嬉しそうだった。自分で言ったことだが、この母子おやこは顔立ちもなにもそっくりだ。ふいに、ロクアンズは視線を落とした。

 「あら? ロクアンズ、その手はどうしたの?」
 「え?」
 「右のほうの手首よ。すこし赤くないかしら」
 「あ……」
 「見せてみて」

 なんとなく躊躇をするような仕草を見せたロクアンズに構うことなく、エアリスは彼女の右腕をやんわりと掴んだ。思った通り、右の手首には赤みが差していた。

 「どこでケガをしたの?」
 「……あ、え、と」
 「……。もしかして、レトヴェールとケンカしたとき?」
 「え」

 本当は違うのだけれど、と心の中で呟きながらもロクアンズは口を結んだ。村にいるほかの子どもたちと喧嘩をしてしまったなんてことがエアリスに知られてしまったら、彼女は心を痛めるにちがいないのだ。

 「起きたら、今度こそちゃんと言わないとね」

 エアリスは、右手首の赤らんだところを指の腹で撫でながら呟いた。何の話だかわからないといった風にロクアンズが小首を傾げると、彼女は笑み交じりに答えた。

 「いつもレトヴェールには言っているのよ? 女の子を泣かせてはだめよって」
 「──」

 エアリスは寝台で眠っているレトヴェールに目を向けた。

 「男の子はね、女の子を守るものなの。もちろんそれは国の決まりではないし、男の子と女の子を差別したいわけでもないわ。でも……レトヴェールには、大切な女の子を守れるような、そんな男の子になってほしいのよ」
 「……」
 「あとで塗り薬を塗ってあげるわ。こんなに赤くして……痛かったでしょう」
 「……う、ううん。ぜんぜん、いたくないよ」

 ロクアンズはどぎまぎしながらも、しっかりと首を横に振った。
 ふと、エアリスが棚の上の食事に視線を戻す。すると彼女はぱっちりと目を見開いて、「あら」と驚くとともに立ち上がった。

 「いけない。せっかく薬湯を作ったのに、台所に忘れてきたみたい。ごめんなさいロクアンズ、私、取りに戻るから、それまでレトヴェールの様子を見ていてくれる?」
 「うん。いいよっ」
 「ありがとう。ついでに塗り薬も持ってくるわ。待っていてね」

 部屋から出ていくエアリスの背中を見送りつつ、ロクアンズは振り返った。
 
 「……」

 眠っているレトヴェールは普段とは打って変わって、存外穏やかな顔をしていた。寝顔ともなると持ち前の少女らしさが余計に際立つようだ。性別が男だとはとても信じられない。
 ロクアンズは椅子に腰をかけた。

 「…………あたしが、ないたから?」
 
 問いかけたというよりは、つい声がこぼれたというほうが正しかった。
 ロクアンズの前では常につんとした態度をとり、それでいて他人が嫌がることを平気で口にする。かと思えば、まるでロクアンズを庇うような一面も見せた。正直彼女にはレトヴェールの気持ちや行動がさっぱり理解できなかった。
 けれど、さきほどのエアリスの話を聞いてわずかに心境が変わった。

 レトヴェールと取っ組み合いの喧嘩になったときのことだ。なにをされるのかと怖かったのと、喉元を掴まれて苦しかったのと、また一人になれと言われたのが、自分の中でごちゃ混ぜになって、気がついたら目から勝手に涙が溢れていた。
 彼が驚いたように目を丸くして、手をひっこめたのはまさにそのときだった。

 きっとエアリスに言われたことを思い出したのだ。村の子どもたちに「右目を見せろ」と怒鳴られたときも同様だった。自分の右目には切り傷のような痕がついていて、目そのものも開かない。初めは驚きこそしたが深く考えたことはなかった。けれど、このような傷はほかのだれも持っていないし、見ていて気持ちのいいものではないことはなんとなく理解していた。ただ、それを「気持ち悪い」とはっきり音にされたのは初めてだった。エアリスにもレトヴェールにも言われたことがなかった。言われて初めて、「やっぱり気持ちの悪いものなんだ」と改めて理解させられたし、傷つきもした。またいろいろなものが混ざり合って、瞼がかあっと熱を帯びた。
 あのとき、レトヴェールはたしかに助けてくれたのだ。泣いたつもりはなかったけれど、彼にそう見えたのであったら、きっと自分は泣いていたんだ。そんな気がしてくる。

 「へんなの、レト。……わかんないよ。まだよく……わかんない」

 レトヴェールの前髪をつんつんとつつく。起きそうな気配はなく、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
 部屋の扉がガチャリと開く。ロクアンズが音につられて振り向くと、扉の傍で立っているエアリスがばつが悪そうに告げた。

 「ごめんなさい、ロクアンズ。塗り薬を探したのだけど……まえに使ったとき、なくなってしまったのをすっかり忘れていて。いまうちにないの」
 「いいよそんなの、ぜんぜん! すぐなおるよこれくらい」
 「いけないわ。綺麗な肌ですもの。女の子は肌を大事にしなくっちゃ。……でも困ったわ。じつはもう薬草もなくって……。あれはカラが特別にくれたものだったのに」
 「から? って、なあに?」
 「私の親友よ。でもあまり村にはいなくってね。すこしお高いけれど、カナラに行くしかないかしら」
 「おつかいならあたしいくよ、おばさん」
 「ダメよそれは。手をケガしているのに、物は持たせられないわ」
 「でも、レトがおきたとき、おばさんいないとふあんになっちゃうよ。だからあたしいく! もう片いっぽの手でもてば、ぜんぜんへいき!」
 「……で、でも、ロクアンズ」
 「だいじょうぶ! あたしにまかせて!」

 ロクアンズの溌溂さに気圧され、エアリスはしぶしぶ引き下がった。薬代を受け取ったロクアンズは身支度を整えると、早くも玄関に駆けこんだ。
 
 「無理だけはしないでね、ロクアンズ」
 「うん! じゃいってきます、おばさん!」

 とんとんと足のつま先を鳴らし、ロクアンズは玄関の扉から外へ出た。家の戸が閉まって、くるりと前を向いた、その瞬間。
 
 「ぶッ!」
 「!? うわっ!」

 向かい側から歩いてきた人物と、真っ向から衝突した。幸い、硬いものとぶつかった感触ではなくぽよんと跳ね返されただけに終わる。ただ予想外の出来事だったために、ロクアンズは咄嗟に両手で顔を抑えた。わずかに足元も躍る。
 ロクアンズは戸惑いつつも、視界を開けた。指の隙間から見えたのは、やや膨らみのあるお腹だった。

 「おいおい、なんだぁ? この子。見たことない子だ。それにあんたいま、エリの家から出てこなかったかい?」
 「……え? え、り?」
 「──カラ?」

 戸の隙間から、エアリスが顔を覗かせた。ゆっくりと戸を開け広げていくにつれて、彼女はだんだんと顔色を明るくしていく。ついには満面の笑みとなって、彼女はこちらに手を振ってきた。
 
 「カラ! 久しぶりね」
 「よぅっ、エリ! 元気そうでよかった!」

 手を振り返すその人物を、ロクアンズは下から仰ぎ見た。目鼻立ちがはっきりしていてエアリスとは異なる部類の美人だ。ロクアンズが子どもという観点を差し引いても背は高いほうだろう。明るめの小麦色の髪を一つに束ねて、高い位置で結って止めている。

 ──そしてなにより、どこか魅惑的な光を放つ紫色の両瞳に、一瞬で目を奪われた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.61 )
日時: 2019/03/16 17:10
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第056次元 はじまりの雪Ⅴ

 「カラ」──そう呼ばれた女性も大きく手を振り返している。ロクアンズの目は、彼女の紫色の瞳に釘付けになっていた。その視線に気づいてか気づかずが、ふと女性が下を向いた。
 
 「なあエリ。この子はなに? え、坊主のガールフレンド?」
 「ちがうわ。……えっと」

 不意をつかれて、エアリスはらしくもなく口ごもった。

 「ここで話すのもなんだし、入って。温かい紅茶を淹れるわ」

 エアリスは女性を家に招き入れた。流れでなんとなく家に引き返してしまったロクアンズだったが、その手には薬代の入った巾着袋を握りしめている。持ち上げると、ちゃり、と銅貨の音が鳴った。

 「ねえおばさん、レトのお薬、どうしたらいい?」
 「薬?」
 「そうだわカラ。まえにくれた薬草を持っていたりしないかしら? じつはレトヴェールが風邪を引いてしまって。どこで採れるものかもわからなくて……」
 「ああ、あるよ。いま旦那が持ってる。もうすぐでこっちに来ると思うから、そんとき渡すよ」
 「ありがとう。お代は払うわ」
 「いいよいいよ。あたしたちの仲だろ」
 「だめよ。そういう物の売り買いは、たとえ幼馴染の間でもしっかりしなくちゃ」
 「変わんないねえ、エリのそういうとこ」

 けたけたと女性は笑う。エアリスの名前を縮めて「エリ」なのだろう。『カラ』はどうやらエアリスとは親しい間柄のようだ。促されずとも勝手に玄関からあがって、彼女は居間に向かう。
 台所で紅茶の準備をしていたエアリスが、くるりと振り向いて言った。

 「そうそう。紹介するわロクアンズ。彼女はカウリアっていうの。さっき言ってた、私の親友よ」
 「かうりあ……さん?」
 「親友かあ。嬉しいこと言ってくれんねえ、エリ。あんたはロクアンズっていうの?」
 「う、うん」
 「いい名前じゃん」

 カウリアに名前を褒められてロクアンズは気分がよかった。

 「ロクアンズ。ちょっとの間、レトヴェールの様子を見ていてくれる? おつかいはもう大丈夫だから」
 「うん。わかった!」

 ご機嫌のロクアンズは言われるがまま居間を離れた。エアリスは、運んできたティーポットとカップをそっとテーブルの上に置いていく。

 「……」
 「それにしてもどうしたの、カラ。連絡もなかったから驚いたわ」
 「ああ、それが……」

 カウリアは椅子の向きを変えて、膨らんだ下腹部を撫でながら告げた。

 「2人目ができちまってね。落ち着けるとこに帰ってきたってわけ」
 「まあ、そうだったの。おめでとう、カラ」

 エアリスは自分のことのように喜び、カウリアのお腹の前で屈んだ。新しい生命が宿った印でもあるその膨らみを見つめ、「触ってもいい?」などと訊ねたりする。
 反して、カウリアの表情は強張っていた。屈託のない「おめでとう」と、その笑顔を崩すようなことを言うのは少々無粋かとも思ったが、彼女は思い切ったように口を開いた。

 「それで? さっきの子はいったいどうしたのさ」

 胸に刺さる一言だった。エアリスは驚いて顔をあげる。が、言われるだろうとは覚悟していた。予想していただけあって幾分か心は落ち着いていたが、それでも立ち上がるまでに時間がかかった。
 カウリアは、向かい側にエアリスが座るのを確認すると、テーブルから身を乗り出した。

 「あんたの隠し子ってのもムリがある。顔もぜんぜん似てないし、あたしがまえに帰ってきたときもいなかった」
 「……。カナラ街で、ひとりで倒れているところを見かけたの。凍えていたからうちに連れて帰ってきて、それで……」

 長年の付き合い故か、エアリスがはっきりとしたことを告げなくても、カウリアにはなんとなく伝わったようだった。何度も瞬きをして、大きくため息を吐く。

 「あんたさあ。まさかあの子の面倒見てくって言うつもりじゃないだろうね」
 「ええ。そのつもりよ」
 「『そのつもりよ』じゃないわ! このおばか! あんた自分で言ってることわかってんのか!?」
 「お、落ち着いて、カラ。お腹の子に障るわ」
 「やだね。あんたのそのお人好しには、ほとほと呆れる! 見た感じどこの生まれかもわかんないような子じゃないのさ。それに目に傷があったね。あんたは、あの子についてなんか知ってんの?」
 「……いいえ。なにも」
 「ほら見ろ。事情もなにも知れたもんじゃないってのに、ただ"可哀想"ってだけで拾ってきたってのかい」
 「ちがうわ。私は……その、うまくは言えないけど……」
 「……。あの子を見てなにか感じたとか言うつもりなら、そら、勘違いだよ。嫌な予感ってヤツさ。面倒事に巻きこまれちまうまえに、拾ったとこに戻してきな」
 「カラ!」

 エアリスは椅子から立ち上がった。怒りを孕んだ大きな声と、吊り上がった目つきにカウリアは驚きを隠せなかった。

 「あんたがそんな怒るなんてね。そんなに、良い子だっての?」
 「いい子よ。ロクアンズは、とってもいい子よ」
 「ああ、そうかい」

 カウリアはそれ以上言及することはなかった。エアリスは決して頭の悪い人間ではない。なんの脈絡もなしに捨て子を拾ってくるような博愛主義者でもない。なにか理由があってのことだろう、とある程度察しもつく。
 それに彼女は人一倍情に熱い。その優しさを飛び越えたお人好しさに呆れることはこれまでも多々あった。もしもロクアンズに対して一目惚れにも似た感情を抱いたとするならば、素性の知れない彼女を拾ったのにも頷けなくはない。
 カウリアは大きくため息を吐いた。皮肉にもカウリアは、そういうところも含めてエアリスのことが気に入っている。

 「それで? 旦那には一報よこしてやった?」
 「お手紙は出したわ」
 「どこに」
 「……最後に、あの人がいた街」
 「はああっ!? あんたそれ何月前の話よ! あんの放浪男が、ひと月だっておなじ場所にいると思う!?」
 「い、いないと思う」
 「は~! 相変わらずよくわかんないなあ、あんたたちって。ていうかあんたよく我慢できるよ。旦那が外でフラフラしてるってのに、心配のひとつもないわけか」
 「あの人はそういうことをしないもの。優しくて誠実よ」
 「いっつも仏頂面でさ、なに考えてんだかちっともわかんないよ、あたしは。ああいうヤツとは一緒になれないね」
 「たしかにカラとあの人が話しているところはあまり見かけたことがないわ。カラってば、自分に合ういい人を見つけたのね」
 「まあね。っていってもあたしたちシーホリーの血族は、お互いにくっつき合うしかないんだけどさ」

 紫に彩られた瞳はどこか一点を見つめていた。ぴん、と細い糸が張ったような空気に変わる。急に会話が途切れる。エアリスは沈黙が長引くのを許すまいと、何気なく話題を逸らした。

 「キールアちゃんはお元気? あの子、イスリーグさんによく似ているわよね。とっても優しくていい子だわ」
 「大人しいとこもね。それになんか不安そうな顔してんだよね、いっつも。あたしに似たらそうはならなかったのに」
 「あらいいじゃない。あなたに似たら大変よ。男の子を泣かせて回って」
 「エリ~」
 「はは。ごめんなさい。でも顔はあなたにそっくりね。きっと素敵な女の子になるのだわ」
 「でしょう! 将来男に困らないよ、あれは。とびきりイイ男を捕まえさせんだから」
 「楽しみねえ」
 「……エリ、あんたもしかして、キールアを娘にとか考えてる?」
 「あら。わかった?」
 「そんなこったろうと思った! やたらキールアのこと気にすんだから」
 「だって、キールアちゃんがお嫁にきてくれたら、それはもう大変幸せなことだわ」
 「イヤだよあたしは。そりゃつまり、あんの可愛げのない坊主に、うちの姫をやれってことだろ?」
 「とってもお似合いだと思うんだけど」
 「ゼーッタイ、反対っ!」

 カウリアが拳をつくってテーブルを殴ると、2人の視線がぱちりと重なった。どっ、と笑い声が溢れだしたのは同時だった。

 「私たちも、自分たちの子どもの将来を考えるようになったのね」
 「やだやだ。まだぜんぜん若いつもりでいたのにさ」
 「でもなんだか楽しいわ。あの子たちは、どんな風に大人になっていくのかしら」
 「……」
 「ずっと見守っていたい」

 ティーカップの熱がなくなってしまわないようにと、エアリスは両手で優しく陶器を包んでいた。時間が経てば冷めてしまうからか、いま残っている熱をじんわりと肌で味わっている。
 
 「ババアになっても傍で世話焼きたいなあ、あたし」
 「ふふ。賑やかで楽しそうね」
 「……あっ」
 「どうかした? カラ。あ、痛むの? 私の部屋で休む?」
 「あーちがうちがう。いま動いたなあって。こういうの感じるとさ、ちゃんと中にいるんだなって実感するよね。来年には産まれんだな、って」

 カウリアがお腹を擦ると、玄関の扉の向こうから「すみません」という大きな声が飛んできた。エアリスは返事をしながら玄関に駆け寄っていく。
 扉を開けると、穏やかな笑みを浮かべた男が1人と、彼と片方の手を繋いでいる少女がいた。
 
 「あら。お久しぶりです、イスリーグさん」
 「どうも。すみません、カウリアがお邪魔しているみたいで」

 男性は帽子をとって挨拶をした。小麦色の髪は短かく刈られていて、清潔さを感じさせた。

 「そんな、私は大歓迎ですよ。それにキールアちゃんも。うちに来てくれて嬉しいわ。寒かったでしょう。さあ、あがって」
 「……」

 急に声をかけられてびっくりしたらしい少女は、なにも応えずにそそくさとイスリーグの背中に回った。

 「キールア。エアリスさんにちゃんと挨拶しなくちゃだめだよ」
 「ああ、いいんです。驚かせてごめんね、キールアちゃん」

 イスリーグの脚の裏から恐る恐る顔を出したキールアは、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.62 )
日時: 2019/03/16 12:52
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第057次元 はじまりの雪Ⅵ

 耳のすぐ下で小麦色の髪が二つに結われている。少女は名をキールアといった。
 ぱっちりとしていて愛らしい瞳は、両親とは異なり、琥珀の石を空に透かしたような色をしていた。

 「そうだわ、キールアちゃん。あなたくらいの歳の女の子がうちにもいるの。ロクアンズっていう子なのだけれど、よかったら会ってくれる?」

 キールアはびくりと震えて、それから不安げに顔をゆがませた。「あ」とか「う」とかかすかに声をもらしたのち、こくんと小さく頷いた。

 「よかった。いま呼んでくるわね」

 エアリスは2階に駆け上がっていった。レトヴェールの部屋の前でうろついていたロクアンズを、居間まで連れて戻ってくる。

 「ロクアンズ、この子はキールアちゃんっていうの。カウリアの子どもなのよ」
 「きー、るあ……」

 この村で暮らすようになってから、ロクアンズは初めて同い年くらいの女の子と顔を合わせた。彼女は感極まってキールアの胸のあたりでまごついていた両手をつかみ、強引に引き寄せた。

 「ひゃっ」
 「はじめましてっ! あたし、ロクアンズっていうの! よろしくね!」
 「ぁ……え、」
 「ねえねえおばさん! この子とあそんできてもいい?」
 「あら。それはいいわね。いってらっしゃい」

 エアリスとそして両親にも見送られ、なされるがままロクアンズに腕を引かれて、キールアは寒空の下に出た。いっしょに遊ぶことになるとまでは想定していなかった彼女は案の定、

 「ねえねえっ、なにしてあそぶ!? あたし、あなたみたいなおんなのこと、はじめてあったの! だからあそぶのもはじめてで、ねえなにしたらいいかな?」
 「……」
 「なにするのがすき? いつもなにしてあそんでる?」
 「……」
 「……。おーい。きこえてる?」

 完全に押し黙っていた。かくいうキールアも自分以外の女の子と遊ぶのはロクアンズが初めてなのであったが、ころころと舌が回るロクアンズとは対照的だった。
 ロクアンズはなかなか合わない視線を合わせようと頭を振った。が、それを避けるようにキールアが俯く。

 「うぅ~ん……」
 「……」
 「そうだ! じゃああれやろうっ!」

 どうやら妙案を思いついたらしいロクアンズは、家の正面扉の傍にある小さな花壇までいくと、その裏から大きな匙のようなものを取り出した。土まみれのその匙は、割れてひしゃげた皿の角をくまなく磨いたようなもので、辺鄙な形ではあるが土を掘ったりするのには適していた。
 さっそくロクアンズはその匙でがりがりと土の表面を削って、土の山をつくりあげた。すると今度はそこらじゅうを行ったり来たり、立ったり座ったりして、細い木の枝を片手で足りるくらい集めた。
 木の枝を土の山の頂上に差すと、手についた土をぱっぱと払いながら膝を伸ばした。

 「これ……なに?」
 「あのね! ……う~ん、じゃあ、『ぼうたおし』!」
 「ぼうたおし?」
 「いまなまえつけた!」
 「……」
 「あのね、木の枝をあつめてきて、こうやって土の山つくって、そこにこう、枝をたてるの。それでね……」

 ロクアンズはとととっと駆けていき、離れた場所からキールアに声を投げた。

 「これくらいのばしょから、石をけって、その木の枝にあてるっていうあそび!」

 えいっ、というかけ声とともに、ロクアンズは実際に石を蹴ってみせた。しかしながらその石の軌道は大きく弧を描いて、目的地とはかなり離れたところで立ち止まった。

 「あ、あれ?」
 「……」
 「……へっ、えへ! しっぱいしっぱい~。つぎはちゃんとあてるよ!」

 ロクアンズは石を拾い上げ、設置し直した。「よーし!」と意気込んで片足を後ろに蹴り上げたそのとき。びゅうっと吹き抜けた風が、数本の標的たちをぱたぱたと倒していった。

 「……」
 「……」

 ふたたび土の山に戻ってくると、ロクアンズは腕を組みながらしゃがみこんだ。
 
 「う~ん。もっとおもたい木じゃなきゃだめってこと? でもおもたい木じゃたおれないし……」

 ひょい、と倒れた枝をつまんで立て直すと、その途端。ぱたり。ロクアンズはまた横になった枝をつかんで、その細い枝先で芝生をつつきながら、ため息をこぼした。
 
 「このあそびね、あたしがかんがえたんだ。レトと、あそべたらいいなって……」
 「……レトヴェールくん?」
 「え? レトのことしってるの?」
 「う……うん。おかあさんが、レトヴェールくんのおかあさんと、なかがいいから……」
 「"しんゆう"ってゆってた。ねえ、しんゆうって、なんだかわかる?」
 「え? それは……ともだち、ってことじゃないのかな」
 「ともだち? じゃあ、ともだちでいいじゃん。なんでしんゆうなんだろう」
 「さ、さあ……」
 「へんなの」

 ロクアンズが口先をとがらせて土の山を睨むのを横目にしていたキールアはそのとき、「あ」と気づきの息をもらした。

 「え、なに?」
 「……」

 キールアはあわてて両手で口をふさいだ。音になってしまった息を飲みこむように、真っ赤な顔を伏せる。

 「ねえ、なあに?」
 「……え、っと……あの……えと……」
 「『えっと』じゃわかんないよ」
 「…………」

 キールアはきゅっと口を結んだ。かと思うと、おもむろに腕を伸ばして、倒れた木の枝をすべてつかんだ。そうして束ねた木の枝にくるくると細い葉を巻きつけるのを、ロクアンズはただ呆然と見つめていた。
 できあがった枝の束を山の頂上に差すと、不思議なことに標的は、ふうっと風が吹いても倒れなかった。

 「す……すっごーい! すごいすごい! すごいよ、キールア!」
 「──」

 どきり、と胸が高鳴った。「キールア」と呼ぶその声が無邪気なせいもあったが、なによりも視界が開けたような感覚がたしかにした。自分の両手を握るこの手の温度は覚えたてだった。けれど同時に、覚えていたい温度になった。

 「ねえキールア、あそぼう! これでいっぱいあそぼ!」
 「……で、でもわたし……こういうの、はじめて、だから……」
 「おんなじだよ! あたしもはじめてなんだ!」

 ロクアンズは浮足立つ気持ちを抑えきれずに「はやくはやく」とキールアの手を引っ張って、小石の前に立った。
 「いくよ~!」のかけ声をあげ、ロクアンズは振り下ろした足先で小石を蹴った。小石はころころかさかさと芝生を掻き分けて、ついには枝の束を正面で捉えた。枝の束は気持ちがいいほど高く弾け飛んだ。

 「す……すごいっ」
 「やったやったー! たおれた! つぎ、つぎキールアのばん!」
 「えっ。や、わたし……」
 「いいからいいから! じゅんばんこでやろっ!」

 戻ってきた小石は、キールアの足先に設置された。土の山に枝束を差しなおし、ロクアンズは「いいよー!」と両手で丸をつくった。
 キールアは緊張と不安で顔がこわばっていた。待たせるのも悪いと思いつめた彼女は心の準備もままならないうちに、ぎゅっと両目を瞑って足を前後に振った。が、小石にはかすりもせず、空振りで終わった。

 「……」
 「……」
 「……ご、ごめん、なさい。わたし……やっぱり──」
 「もっかい!」

 火を噴いたように真っ赤になった顔が、ぱっと持ち上がった。
 見ると、ロクアンズはキールアのすぐ足元でしゃがんでいた。

 「あのね、たぶんけるところがずれてるんだよ。ここからぜったいうごいちゃだめだよ。このまま、まっすぐけるの。そしたらきっとあたるよ」
 「……」
 「いっかいじゃわかんないよ。あたしだってたぶん、さっきのはぐうぜんだったんだよ。だからもっかい! もういっかいやって!」

 ロクアンズが土の山の後ろで、手を振っている。"蹴っていいよ"の合図だ。 
 キールアは両手を固く握りしめて、そっと脚を後ろへやった。
 
 (うごいちゃだめ。このまま、このまま……まっすぐける!)

 振り下ろす瞬間、またきゅっと目を瞑った。足先になにかが当たる感触がして、それからすぐのことだった。
 ロクアンズの甲高いかけ声で、閉じた目が大きく開かれた。

 「やったあー! やったよキールアあー! あたったよーっ!」
 「……!」

 ぴょんぴょんと飛びはねるロクアンズにつられて、キールアの顔がやわらかく綻んだ。嬉しかった。どきどきする心臓を抑えたくて、胸の前で強く両手を結んだ。

 「ねえ、つぎあたし! あたしやってもいい!?」
 「う……うん」
 「そしたらつぎはまたキールアね! あ、そうだ、木の枝ふやそっ! それでたくさんたおせたら、ぜったいもっとたのしいよ!」
 「……うんっ」

 その後、2人は言った通り枝の束を増やし、たくさんの標的を前に夢中になって石を蹴り続けた。全身が泥まみれになっていると気がついたのは、傾いた陽に照らされて、茜色に染まった玄関の扉が開いたときだった。
 
 
 


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