コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 【完全版】
日時: 2018/12/31 23:07
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 
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 これは

 運命に抗う、義兄妹の戦記
 
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 *毎週月曜日に更新(※書き溜めができたら木曜日にも更新します)


 ■ご挨拶

 初めまして、またはこんにちは。瑚雲こぐもと申します!

 こちらの「最強次元師!!」という作品は、いままで別スレで書き続けてきたものの"リメイク"となります。
 ストーリーや設定、キャラクターなど全体的に変更を加えていく所存ですので、もと書いていた作品とはちがうものとして改めて読んでいただけたらなと思います。
 しかし、物語の大筋にはあまり変更がありませんので、大まかなストーリーの流れとしては従来のものになるかと思われます。もし、もとの方を読んで下さっていた場合はネタバレなどを避けてくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします!



 ■目次

 一気読み >>001-

 プロローグ >>001 
 ・第001次元 >>002
 ・第002次元 >>003
 ・第003次元 >>004 

 【花の降る町】 
  >>005-007

 【海の向こうの王女と執事】
  >>008-009 >>012-025

 ・第023次元 >>026

 【君を待つ木花】
  >>027-046

 ・第044次元 >>047
 ・第045次元 >>048
 ・第046次元 >>049
 ・第047次元 >>050
 ・第048次元 >>051
 ・第049次元 >>052
 ・第050次元 >>055
 ・第051次元 >>056

 【はじまりの雪】
  >>057-


 ■お知らせ

 2017.11.13 MON 執筆開始

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12



Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.55 )
日時: 2018/12/18 08:49
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第050次元 再会

 「……」
 「……」

 ほんの一瞬、レトヴェールと小麦色の髪をした少女の間を吹き抜ける風に冷気が交じった。少女ははっと我に返って、手元の薬と包帯とに視線を落とした。ギィ、と床を軋ませながら歩いてくる。
 呆然としているレトの傍までやってくると、少女はその場にしゃがみこんで、ぎこちなく笑みを落とした。

 「久しぶりだね」
 「……」
 「……。あ、えと……元気、だった?」
 「ああ、まあ」

 なんとなく少女の顔から視線を外したレトは、やや俯きがちになることでなんとか返事をした。
 それが少女には、レトの顔が沈んだように見えた。覗きこむことを躊躇われた彼女はおなじように視線の置きどころを見失い、唾を飲んだりしていた。

 「そうだ。ロクは? 元気にしてる?」
 「……」
 「……ロクと、なにかあったの?」
 「おまえが気にすることじゃない」

 思った以上に冷たく低い声が出てしまい、レトはすぐに後悔した。ロクアンズとの喧嘩は決してこの少女のせいではないし、むしろ「気にしなくていい」という意味合いをこめたつもりだったのが、失敗した。突き放すような言い方に聞こえたのか、思った通り少女は動揺していた。
 
 「……そ、そうだよね。ごめんね、手当てをしにきたのに」

 消え入りそうな声で呟いてから、少女は手元に視線を戻した。包帯の取り換えを行わなくてはならない。ふたたびレトの顔を見上げるも、彼とは相変わらず視線が合わない。

 「包帯、取り換えてもいい?」
 「……ん」

 肯定か否定かよくわからない返事だった。少女はすこし悩んでから、緊張した面持ちでレトの腰元に両手を伸ばした。

 「あのさ」

 急に声をかけられ、びっくりして少女は手を引っこめそうになった。

 「な、なに?」
 「こんなところにいたんだな」
 「……え?」
 「いや、どこ行ったのかと思ってたから。1年前」
 「……ああ、そうだね。レトヴェールくんたちにはなんにも言わないで、出ていっちゃってたから。でもあてもなくて、あんまり遠くへ行く勇気もなくて、だからずっとここにいたの。お店もたくさんあって便利だしね」
 「そうか」
 「……」
 「……手、止めさせて悪かった」

 レトがそれ以上なにも言わなかったので、少女は恐る恐る手を伸ばしなおした。彼の上半身に巻きついた包帯を音もなく剥がす。
 どことなく空気は張りつめていて、一般でいうところの若い男女が2人きりでいる雰囲気とはかけ離れていた。少女の動きには無駄がなく、こういった傷の手当てに慣れているようだった。
 店で取り扱っている薬を傷口に塗布し、真白の新しい包帯を巻きなおす。
 留め具で包帯の端を処理し終えると少女は満足そうに一息ついた。

 「……」
 「これで大丈夫。あの、ごめんね、時間かかっちゃって」
 「……あの、さ」
 「ん? あっ、ど、どこか痛む?」
 「……そうじゃなくて──その、」

 レトがなにかを言おうと口を動かしたとき、豪快に扉を開け放つ音とともに女店主が入ってきた。

 「キールア! もうその子の手当ては済んだかい?」
 「あ、はい」
 「ちょっと手伝っておくれ。重体の客なんだ」
 「わかりました。いま行きます」

 少女はすっくと立ち上がり、扉の近くに立っている女店主にそう声を投げ返した。それからレトのほうを振り返った。

 「ごめんね、レトヴェールくん。……あの、さっき、なにか言いかけてた?」

 レトは口を結んだ。それから、いや、と小さくかぶりを振った。

 「……なんでもない」
 
 少女は、そっか、と寂しそうに笑みを返してから、くるりと背を向けた。遠くから扉の閉まる音が聞こえてきた。室内はふたたび静寂に包まれる。
 窓から入ってきた風が冷たくて、レトはぶるっと身を震わせた。

 (……──なにも変わってない。俺は、昔のままだ)
 
 
           *
 
 埃を被った腰かけに鎮座し、灰の髪の少女はただただじっとしていた。白い肌や長いまつ毛、纏う雰囲気もさながら人形のようだった。それほど歳も変わらないはずなのに、なぜかロクアンズは少女に対して委縮していた。「ヒマだから遊ぼっか」とか「どうしてそういう色の服を着てるの?」とか「お腹空かない?」とか、いろいろと反応を窺ってみたがどれも無反応に終わっている。ルイルを姉と親しんでいるくらいだし似ているところがあるのかもしれない、なんて思いながらロクは手持ち無沙汰に腰かけから足を投げ出しぶらぶらと揺らしたりして、暇を持て余していた。
 何の気なしにコートのポケットに手をつっこんだそのとき。ロクははっとした。手を入れたり出したりを繰り返すも、ポケットの中には両方ともなにも入っていないことに気づく。
 ロクが焦って立ち上がったとき。玄関の扉が開いたような気がして、ロクはぱっと視線を上げた。

 「ロクちゃん、ルイルちゃんたちを連れてきたわ」
 「あっ、フィラさん、おかえりなさい」

 ロクは笑みだかよくわからない複雑な顔をして言った。不思議がるフィラの後ろからルイルとガネスト、そして新規班員のメッセルが顔を覗かせる。

 「あれ、メッセル副班も?」
 「このガキどもの担当っつことで、同行してんだよ。だけど話に聞きゃぁ、ガキのお守りだっつぅじゃねぇか。これ以上ガキ抱えんのはごめんなんでな、俺ぁ事が終わるまで外にいる」
 
 屋内に片足も踏み入れずに、メッセルは玄関口から伸ばしていた首を引っこめた。
 そのとき。メッセルが履いているズボンのポケットからなにか黒い布切れがひらひらと揺れているのを見えて、ロクはメッセルの衣服に飛びついた。

 「待っ、ねえ! ちょっと待ってメッセル副班っ」
 「うわぉ! んだよ」
 「それ、その黒い布みたいなの、見せて!」
 「おい、勝手にとんな!」

 ロクはメッセルのズボンから布切れを引き抜いて、それをまじまじと見つめた。
 それから驚いたように、しかし安心したように息を吐いた。

 「よかったあ、あった! いつの間に落としてたんだろ」
 「んだよ、これおめぇのだったのか。隊の玄関前に落ちてたぜ。ふつうだったらこんな布切れ、捨てちまうとこなんだが……。なぁおめぇ、こいつをどこで?」

 ロクは表情を一変させた。それから布切れに目を落として、言った。

 「もらったの。昔、大事な人から」
 「大事な人、ねぇ」

 その布切れを見つめるロクの目は優しかった。それは黒一色で、平たく細長い織物だった。片方の端は綺麗に糸などで装飾されているが、もう片方は鋏かなにかで切られたように不格好だ。

 「メッセル副班長、その織物がどうかしたんですか?」
 「あーそれがよぅ、大層な上物なんだよ、それ」
 「え?」
 「おめぇも城使いが長ぇっつぅんならわかんだろ。ゆうに数百万は飛ぶような代物しろもんだ」
 「す……。本当ですか、ロクさん」
 「さ、さあ。あたしはよく知らないけど」
 「その大事な人ってのは貴族か? それとも王族か?」
 「……エアリス・エポールっていう、あたしの、恩人」

 メッセルは驚き、それから「なるほどな」と何度も首を縦に振った。

 「エポールっつぅことは元王族の末裔か。そら金持ちのはずだ」
 「……」
 「どうかしたの、ロクちゃん?」
 「……ああ、ごめんごめん! へへ、なんでもない」

 おどけたようにロクが笑うのをただじっと見つめていたルイルがふいに視線を外すと、その視線の先には、灰色の髪をした少女がいた。

 「ティリ」

 ルイルが驚いたようにその名前を口にすると、少女は腰かけから静かに立ち上がった。ルイルとガネストは慌てて少女の傍まで近寄った。

 「ティリ……な、なんでここにいるの?」
 「あいにきたの。ルイルねえねに」

 ルイルとガネストは呆気に取られていた。アルタナ王国の言葉らしいものが交わされていることはなんとなく理解できるも、どこか取り残されたような気分になりロクはそわそわと3人の様子を伺っていた。

 「あいにきたって……」
 「おとうさんとおかあさんにはないしょ。それでふねにのって。でもどこにルイルねえねがいるかわからなくって。ここにいたの」
 「だめだよティリ。おばさまもおじさまも、すごくすごくしんぱいしてるよ」
 「……いい。べつに。ルイルねえね、いなくなっちゃったから。こわくて」
 「ルイルに会いたがっている人物とは、ティリナサお嬢様のことだったんですね」
 「ガネストたちの知り合い?」
 「はい。ティリナサお嬢様は、ルイル王女の血縁者なんです。ルイルの母君様、亡くなられた王妃様の妹君様が、ティリナサお嬢様の母君様にあたりまして……──」

 この頃。屋敷の扉に凭れかかって見張りなどしていたメッセルだったが、ただ少女を説得するだけのことにどれほど時間を費やしているのかと早くも苛立ち始めていた。実際にはさほど時間は経過していないが、メッセルはすでに耐え切れなくなっていて、蹴破るかのように荒々しく扉を開けた。

 「おぅいおめぇら! どんだけ時間かけ──」
 「──それが、ヴィヴィオの一族です。つまり亡き王妃様のご実家で……」
 「……。ぶ、ヴィヴィオ、だぁ?」

 メッセル以外の全員が一斉に玄関のほうを向く。彼は奇妙に眉を曲げ、訝しげにそう言った。驚く一同を代表してガネストが答える。

 「は、はい……。ここにいるティリナサお嬢様が、ヴィヴィオ家のご息女様でいらっしゃいますが……」
 「おい、おめぇか、ヴィヴィオのガキってなぁ」
 「……」

 体格の大きいメッセルはかなり腰を曲げて、ティリナサの顔を覗きこむ。彼女は睨むようにして彼の顔を見上げた。

 「なるほどな。ヴィヴィオのおやっさん、ガキなんて産みゃあがったのか! そら何年も経てばガキの1人や2人できるか」
 「メッセル副班長は、ヴィヴィオ家となにか繋がりが?」
 「なんかもなんもねぇや。昔、アルタナに渡ったときに作品を買ってもらったんだよ」
 「……へ? さ、作品?」
 「俺ぁちょいと前までは壺造ってたからな。いやぁあんときは儲かってた儲かってた」
 「うえぇ!?」

 一同はどよめいた。中でもひっくり返る勢いで声を荒げたロクを、メッセルはキッ、と睨み返した。

 「んだよその反応はよぉ」
 「ああごめん、つい……。ちなみに壺ってどんな? 果実とかを漬けとくあの壺?」
 「ちげぇよ。芸術品だ。おやっさんに売ったときのは、アメリオンって名前をつけたけどな」
 「……アメリオン?」

 ロクはその名前をどこかで聞いたことがあった。むむっと眉をしかめて両腕を組む。直近の記憶から順に遡っていくと、ロクは「あ」となにかを思い出したように口を開けた。

 「そうだ! 競売場!」
 「きょ、 競売だぁ?」
 「うん。数ヶ月前にね、近くの島で競売してるとこがあって、そこでアメリオンの壺っていうのが出てたんだ」
 「おいおい、アメリオンはヴィヴィオのおやっさんに売ったんだぜ。向こうにあるもんがなんでこっちにある?」
 「それが全部偽物で、競売場で責任者やってた……でー、でーなんとかって人がほかの人に作らせてたって」
 「デーボン・ストンハックだな。芸術家の間で噂になってた。あんの野郎……!」
 「ああでももう大丈夫! そのデーボンさんはあたしたちが政府に連れていったし!」
 「……は? おめぇが?」
 「そ! でも驚いたなあ。偽物っていったって、本物そっくりに作るんでしょ? すごく大きくて、装飾とかもすごいなんか、キレイだった! あの壺の本物を、メッセル副班が作ったなんて」

 ロクは大きな片目を輝かせながら、身振り手振りでその壺がいかに凄かったのかを体現した。彼女の笑顔があまりにも無邪気なもので、メッセルは、ぶはっと豪快に吹き出した。

 「ぶぁははは! おんもしれぇなぁ、おめぇ。そうかそうか。知らねぇ間に、俺ぁおめぇらのやんちゃに助けられてたってわけだ。しゃぁねぇ。礼は返すもんだ。おい緑のガキんちょ、このヴィヴィオの嬢ちゃんをアルタナ王国に送り届けりゃ、万事解決か?」
 「え、いいの? メッセル副班」
 「おぅよ。ヴィヴィオのおやっさんに、いい土産話ができた」
 「じゃああとは……」

 ロクはちらりとティリナサを見やる。数多の視線を浴びてもなお、ティリナサはじっと無表情を湛えていた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.56 )
日時: 2018/12/24 11:28
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第051次元 会いたい人

 「あのね、ティリ。きいてくれる?」
 「……」

 ルイルに話しかけられてもティリナサの面持ちは変わらなかった。普段からティリナサが何事に対しても反応が薄いことを知っているルイルは、とくに気にすることもなく続けた。

 「ルイルはここにのこる。ろくちゃんたちといっしょにたたかうんだって、そうきめたの。だからくににはかえらない。……わかってくれる?」
 「どうして。ルイルねえねが、じげんしだから?」
 「それもだけど……いっしょにいたかったの。ろくちゃんや、みんなと」

 冷たい寝台の上で抱えこんだ身体。姉のこと。扉を閉めて塞ぎこんだ。連れ出してくれたのはロクアンズで、傍にいてくれたのはガネストで、その道の先にあったのは、此花隊だった。姉の生存を信じてやまなかったルイルはようやくその姉、ライラとの再会を果たすも、ロクたちとともにあることを望んだ。そこにロクへの敬愛や信頼が大きく働いているのだとルイル自身が気づくのはもうすこし先の話で、ただ「一緒にいたい」という漠然とした感情に任せて、アルタナの地を離れたのだった。
 ティリナサは幼いながらも、ルイルが纏っているそのきらきらした雰囲気に勘づいていた。2つの白いもやがティリナサの周りをくるくると回る。

 「じゃあ、わたしも。わたしもいる。わたしもじげんしだって、おかあさんとおとうさんがいってた。だからいる」
 「ティリ……」
 「そいつぁダメだな」

 メッセルは言いながらルイルの隣までやってくると、大股を開いて腰を下ろした。

 「此花隊に入るんなら、メルギースの言葉が話せなけりゃダメだ。それにあの温厚なおやっさんのことだ。いまごろ死ぬほど心配してんぜ、おめぇのことをよ」
 「……べつに。いい」
 「いいこたあるかバカたれ。いいかよく聞け。おやっさんたちがおめぇを笑顔で送り出せるようになるまでは我慢しろ。そんでいつかそういう日がきたら、そんときは面倒見てやるからよ」

 (……メッセル副班長、これ以上抱えるのはどうこうって言ってたのに)

 子ども好きなのかなと、ガネストは小さく吹きだした。メルギース語が理解できないロクとフィラはさておき、口元を抑えて笑っているガネストに向かってメッセルは悪態をついた。

 「おいなに笑ってんだおめぇ」
 「すみません。メッセル副班長はお優しい方だなと思いまして」
 「ああっ!?」
 「え、メッセル副班なんて言ってたの?」
 「それがですね」
 「大したことじゃねぇよ! 親を心配させてるうちはガキだっつぅんだ! 自立できるようになってから来いってな。ったくよぉ」
 「……」

 ぶつぶつと文句をこぼすメッセルの傍ら、まだ納得がいっていない様子でティリナサは顔を逸らしていた。
 ルイルが「ティリ」と声をかける。身体は正直で、ティリナサはびくっと反応を示した。

 「あいにきてくれてありがとう、ティリ。いまはいっしょにいられないけど、でも、でもぜったい、またあおうね。こんどはルイルが、ティリにあいにいくよ」
 「……」

 ルイルがぎゅっとティリナサの手を握った。そうして、ティリナサはようやくその重たい頭を縦に振った。表情でいえばさきほどからなにも変わっていないが、ルイルだけはわかっていた。寂しそうだけれど、諦めてくれたんだな、と。
 ルイルがほっと息をついたとき、2つの白いもやも満足したように、ぽふん、と姿を消した。

 「それにしても驚きましたね」
 「え? なにが?」
 「ティリナサお嬢様が次元師だったということです。さっきまで見えていた白い煙のようなものがそうなんでしょうか。いつか一緒に戦うことにもなりそうですね、ロクさん」
 「……」

 その一瞬、ある考えがロクの脳裏を過ぎった。彼女は一歩、足を踏み出して、「ねえティリ」とティリナサに話を切り出した。

 「ティリの次元の力は、幽霊を扱うことができるの?」
 「……?」
 「こっちの言葉は通じねぇって」
 「あ」
 「僕が訊いてみます」
 
 ロクの発言をそのままアルタナ語に訳し、ガネストはティリナサに訊ねた。すると、彼女は小さくこくりと頷いてみせた。

 「ティリ、なんて?」
 「『そう』だそうです。もしかしたらさっきの白い煙は、守護霊かなにかかもしれませんね」
 「……」
 「ロクさん?」
 「ねえガネスト。お願いがあるの。ティリの次元の力で、あたし、会いたい人がいるんだ」
 「……もしかしてロクさん」
 「ティリ」

 ティリナサの視界にロクの姿が入りこんでくる。新緑に輝く左瞳は、真剣そのものだった。

 「死んだ人間の霊なら、だれでも呼んだりできる?」

 ふたたびガネストが代弁を務める。おなじようにティリナサは小さく頷いた。「できるそうです」と、ガネストがその旨を伝えると、ロクは思い切ったように言った。

 「エアリス・エポールって名前の、女の人を呼んでほしい」

 ガネストの通訳を介したため、まちがいなくティリナサにはその言葉が伝わったはずだったが、今度は即答をしなかった。ティリナサが目を伏せ、これは時間を要することなのかもしれないと判断したガネストは立ち上がった。が、いつの間にか彼女がじっと見つめてきていて、彼は素早く傍耳を立てた。

 「ティリナサお嬢様が、『その人を特定できる手がかりのような物がほしい』……と」
 「手がかり?」
 「なんでもいいそうです。……血縁者であれば、髪の毛などが望ましいとのことですが、遺品でも代用はできるそうです」
 「遺品……」

 下を向きつつ思考を巡らせていると、若草色の髪の毛が、視界の端にちらりと映りこんだ。
 
 「おい。さっきおめぇが持ってった黒い布切れの持ち主、元はそのエアリスって奴なんじゃなかったのか?」
 「え? あ……」
 「そいつで代用すりゃいいだろうが」

 慌ててコートのポケットに手を突っこみ、織物の感触を得ると、それを抜き出した。

 「これ……これで、できる?」
 「……」

 ロクの手のひらにふわりと架けられた織物が、ティリナサの手に渡る。ティリナサはそれを丁寧に折りたたむと、小さな両手で優しく包みこみ、──詠唱した。

 「"索砂さくさ"」

 ティリナサの手や腕、全身から透明な糸のようなものが幾千幾万と芽吹く。それらは天井や壁を悠々とすり抜けていった。
 空高く距離を伸ばす糸、地面の上を走っていく糸、森や建物の中を縫うように通り過ぎる糸。驚くことに、目には見えない糸の大軍が様々な場所まで辿り着くのには、数刻も要さなかった。
 じつにその範囲は、メルギース国全土のうちの半分──西側の地域全体にまで行き渡っていた。そこには当然レイチェル村も含まれている。

 「……どう? ティリ」
 「……」

 ティリナサは閉じていた目をぱちっと開いた。ガネストのほうへ顔を向けると、また彼にしゃがむように目で促す。ガネストがただこくこくと頷いているだけにしては、これまででもっとも時間がかかっていた。ガネストの耳元からティリナサが離れると、彼はロクに対して弱々しく首を振った。

 「いないそうです。どこにも」
 「……そ、っか。ありがとうティリ、ガネスト」

 「じゃあもう行くぞ」と言って、メッセルはティリナサを玄関の外へ連れ出した。見送りのためにほか全員も外へ出る。建物からすこし歩いたところで、ティリナサだけがくるりと振り返った。するとルイルではなく、ロクのほうを見つめて呟くように言った。

 「ありがとう」

 ロクが目をぱちくりさせているうちに、ティリナサはさっさと背を向けて歩きだしていた。ティリナサが最後に口にした「ありがとう」は、まちがいなくメルギースの言葉だった。さきほどロクがティリナサに対して「ありがとう」と言ったのをその場で覚えたのだろう。ロクは深く感心していた。

 「てぃ、ティリすごい……。さっき覚えたんだ。あれ、でもなんで『ありがとう』?」
 「ルイルと会わせてくれたから、という意味だと思いますよ。ティリナサお嬢様ははっきり言っておられませんでしたが、お別れの際には、お顔は綻んでいらっしゃるようでした」
 「そうなんだ」
 「……ところでなんですが、ロクさん。ティリナサお嬢様からもう1つ、伝言を預かりました」
 「なに?」

 ガネストはロクに向き直り、ティリナサの言ったことを思い出しながら告げた。
 
 「死んだ人間は思念体、つまり魂だけの存在となってしばらくこの世界に居続けますが、未練がなくなると魂が浄化されて、この世を去るのだそうです」
 「未練がなくなる?」
 「はい。どうしても憎い相手がいるとか、愛しい人を残してしまっただとか、そういう生きた人間に対する執着がなくなるってことです。もう思い残すことはなにもない、そういう意味だと思います」
 「思い残すことは……なにもない。か」
 「なにを訊きたかったんですか」
 「え?」
 「……あなたを拾ったエアリスさんが、もしもまだこの世界にいらっしゃっていたら、あなたはなにを訊きたかったんですか」
 「それは……」

 ロクはうまく舌が回らないみたいに口ごもり、なんとなく頬を掻いた。それから突然笑顔になっていつもの調子良さに戻る。

 「べつに、なんでもないよ! ちょっと会いたくなっただけ。もう二度と会えないって思ってたのが、もしかしたら会えるかもしれないーなんてなったら、ふつう会いたいでしょ?」
 「ロクさん、はぐらかさないでください」
 「え?」
 「あなたは笑ってごまかそうとするときがあります。他人に対しては事情もお構いなしにずけずけと入りこんでくるというのに、自分が踏みこまれるのは嫌だと言うおつもりですか」
 「ガネストくん、言いすぎだわ」

 慌てて止めに入ったフィラのことがガネストにはまるで見えていなかった。彼は一度もロクの顔から目を逸らさずに、声を低くして告げた。

 「……ロクさん、覚えてますか。まだ僕たちがアルタナ王国にいたとき、あなたが僕とルイルに言ったこと」
 「え?」
 「『無敵の関係になれるとは思わないか』、と」
 「──」

 『でもそういう、いろんな壁を越えて笑い合えたらさ、だれにも邪魔できない、無敵の関係になれると思わない?』

 「あれは、あなた自身がレトさんとの間で望んでいることでもあるんじゃないですか。あのときは僕も、自分たちのことで頭がいっぱいだったので、そうは思っていませんでしたが。でもいまならわかります」

 ガネストの脳裏には、此花隊本部の談話室でのことが浮かんでいた。ロクとレトの言い争いを目にしたガネストは2人が義兄妹となった経緯をすこしだけ知っている。そしてロクが「家族にしてもらったんだ」と告げていたことから、彼女がレトや義母に対して引け目のようなものを感じているのではないかと疑ってもいる。それはまるで、お互い踏みこみ合わず、距離をとっていた頃のガネストとルイルの関係に酷似していた。

 「あなたは、あなたたちは、ちがうんですか」

 ロクは黙ったまま下を向いていた。それからすこしだけ顔をあげて、重い口を開いた。

 「さっきね、メッセル副班が言ってたのを聞いて、ちょっと思ったんだ。心配をかけているうちは子どもだって。おばさんは……どう思ってるかな。あたし、レトとケンカしちゃって、どうしたらいいかわかんなくって。あたしはレトと、まだ一緒にいたいけど、おばさんには……いまのあたしたちが、どう見えてるのかな──って」

 義兄妹となった2人を抱きかかえていた腕は、もうない。残された2人は、ただおなじ女性からもらった愛だけを知っていて、ただおなじ次元師だったというだけで現在まで道をおなじくしている。ロクは悩んでいた。エアリスという"母"を失った義兄妹の、これからの関係の在り方を探している。普段身に着けることのないエアリスからもらった織物を持ち出したのも、レトヴェールとの唯一の繋がりがそれだったからだ。

 「ねえ、ろくちゃん。ろくちゃん、れとちゃんとなかなおりしたい?」
 「う……うん。仲直りしたい」
 「ろくちゃん、まえにいってたよね。さいしょはいもうとだってみとめてくれなかったけど、って。じゃあどうして、なかよくなったの?」
 「え……」
 「僕もまだそこまでは聞いてません。もしかしたら昔のことがヒントになるかもしれませんよ」
 「こんどはるいる、ろくちゃんのためにおはなし、ききたい」

 ロクは、ルイルとガネスト、そしてフィラの顔を見渡した。それぞれ事情はちがうけれど、自分が勝手に心の奥まで踏みこんで、そして心を開いてくれた人たちだ。
 廃屋の正面玄関の傍には白い長椅子が置かれていて、ひしゃげたパラソルがすぐ隣で立っている。ロクはその白い長椅子に腰をかけた。傘に空いた穴から木漏れ日がちらほらと降り注ぐ。
 
 ──現在から遡って、5年前のことをロクは話し始めた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.57 )
日時: 2019/01/04 17:39
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw
参照: 特別更新*

  
 第052次元 はじまりの雪Ⅰ

 凍えるような寒さの中──「うちにおいで」と言って差し伸べられた手を握りしめながら、若草色の髪をした少女は雪の降り積もった道の上を歩いていた。ざく、ざくと心地いい音を鳴らす足は、1人だけのものじゃない。
 隣を歩いているのは女性だ。美しい金色の髪をひとつに結って、それが歩を進めるたびに腰のあたりで揺れて、綺麗だった。「寒くない?」とか、「もうすこしだからね」とか、いろいろ気にかけてくれたが、少女は首を振るばかりで、一言も発しなかった。
 倒れていた場所には街灯が立っていたような覚えがあるが、気がついたときには林道へ入っていた。ぼんやりとしていたら道の終わりが見えて、どうやら村らしいところへ着いた。
 ここは『レイチェル村』というのだという。豊かな緑が広がり、木造の家がぽつりぽつりと、間隔をあけて建っていた。道という道はない。新緑に彩られた世界だ。
 形が整えられていない適当な岩を積んでつくった石段が小高い丘の上に続いている。どの家のものかわからない畑が所狭しと並んでいて、その横を順々に過ぎていく。すこし歩いたところで、女性がようやく足を止めた。
 少女が顔をあげると、目の前には可愛らしい印象のこじんまりとした家が建っていた。近くにほかの家はない。この家のすぐ裏側には、細い小川が流れていた。

 「さ、はやく入ってあったまりましょう」
 「……」

 女性が家にあがろうとすると、握られた手にぐっと力が入った。若草色の髪をした少女は難しい顔をして俯いていた。
 強引に連れてきたといっても過言ではない。警戒されるのも当然のことだった。

 「あなたをどうこうしようとは思っていないわ。本当よ」
 「……」
 「うーん……困ったわ」

 そのとき。家の扉がガチャリと開いた。2人が扉に視線を向けると、女性とおなじ金の髪をした少年が中から顔を覗かせた。

 「レトヴェール」

 女性が名前を呼ぶ。少年はなにも応えない代わりにじっと少女の顔を睨んで──

 「えっ」

 バタン! ──と物凄い音を立てて扉を閉めた。女性は「あらら」と、呆気にとられる。

 「ご、ごめんなさいね。たぶんびっくりしちゃったのよ。知らない子が来たから」

 女性は慌てて取り繕ってみせたが、少女は閉じていないほうの左目を丸くして、石のように固まっていた。
 
 無事に家の中へ案内された少女は、扉をくぐるなりさきほどの少年とばっちり目が合ってしまった。居間のテーブルについていた少年はまるで女の子みたいに可愛らしい顔をしていた。が、不愛想にもすぐにぷいっと目を逸らし、椅子から飛び降りてどこかへ行ってしまった。
 女性に促され、少女は暖炉の傍に座って冷えた身体を温めた。しばらくして、少女はあたたかいスープとつけ合わせのパンを馳走になった。ちょうどこの時間がこの家での夕餉の食卓なのだろう。
 レトヴェールと呼ばれた少年もテーブルについていた。時折、幼い子どもとは思えない怪訝な顔つきで少女の顔を睨んでは、黙々と食事を口に運んでいた。野菜がごろごろしていてよく煮こまれたスープやバターの風味が香るパンをおいしいと味わっていた少女は、途中から胃にものを詰めこむようにして手を動かした。
 
 翌日。気持ちのいい朝を迎えた少女は、女性に──「うちの子にならない?」と言い渡された。少女は驚いて、困惑して、そして小さく泣いた。嬉しい、と素直に感じたのだった。もしかしたらこの女性は悪い人で、いつか自分を傷つける日がくるかもしれないなんてことも考えた。けれども少女は、それでもいいと思った。

 若草色の髪をしたその少女はロクアンズと名づけられた。

 「さあロクアンズ、この子が私の息子のレトヴェールよ。これからあなたのお義兄ちゃんになるの。仲良くしてね」
 「れ、ヴェ……る」

 女性の名前はエアリス・エポールといった。彼女には息子が1人だけいて、それがレトヴェールという名前の幼い少年だった。少年、といったが彼はすこしだけ伸びた金色の後ろ髪を紐で小さく結っていて、目も大きいので一見すると本当に少女のようだった。美しい金の髪と瞳、そして整った目鼻立ちがエアリスによく似ている。
 が、その精巧な人形のような表情は昨晩からなんら変わりなく、子どもらしさの一切を切り離したように冷めきっている。良く言えばきりっとしていて賢そう、であるが、悪く言えば不愛想極まりない態度だ。

 「……」
 「あの、えと、なかよく……なかよくしてね、レ……レと」
 「おまえのあになんかなるかよ」

 レトヴェールはふてくされたようにそう言い捨てた。鋭い目で睨まれ、ロクアンズは萎縮する。そんな彼女の両肩に手を置くと、エアリスは柔らかく諭した。

 「レトヴェール」
 「おまえなんか、いもうとじゃない! どっかいけ!」

 なかば怒鳴るようにそう突き返して、レトヴェールは走り去っていった。ふとエアリスのほうを向き、彼女が顔を曇らせていることに気づいたロクアンズは、慌てて笑みをつくった。しかし取り繕われただけのその笑顔はとても下手くそだった。

 「だ、だいじょうぶですっ。あの、べつに、きょうだいとか……ならなくても」
 「……。あなたはなにも気にしなくていいのよ。私が娘にするって決めたんだもの。ちょっとだけ、時間はかかっちゃうかもしれないけれど……きっと仲良くなれるわ。そう思ってる」
 「……」

 それからの生活は、ロクアンズにとっては苦労の連続だった。エアリスは本当の娘のように可愛がってくれたが、その光景を見たレトヴェールが嫌な眼差しを向けてくるたびに、ロクアンズは胸になにかが閊えるような思いだった
 中でも一番困ったのは、レトヴェールとの会話がまったく成り立たなかったことだ。

 「あの」
 「……」
 「あ、のぅ……」

 ロクアンズからレトヴェールに投げかけた言葉は、十中八九返ってこない。ほとんどを無視されるのだ。本格的に嫌われている、と彼女は自覚しつつも、いつもめげずに話しかけていた。

 「えと……お兄ちゃ」
 「だから、あにじゃねえって。なんかいいえばわかるんだよ」
 「じ、じゃあなんていえばいい? れ……れとびえぇる?」
 「ちげえし、つかなまえもよぶな!」

 ロクアンズに話しかけられるだけでも嫌な顔をするレトヴェールは、名前の発音までまちがえられるとさらに怒りを沸き立たせた。刃物のような目つきを向け、またロクアンズから離れてしまう。ただレトヴェールと仲良くなりたいだけなのに──ロクアンズは、逆に彼の怒りを買うことになってしまい、ひどく落ちこんだ。

 「きらわれてるのかな……」
 「どうしたの?」

 腕に大きな竹籠を抱えたエアリスが、ロクアンズの小さな背中に声を落とした。彼女は取りこんだ洗濯物で溢れている竹籠をひっくり返した。絨毯の上に洗濯物の山ができる。

 「おに……れと、びぇ、び……」
 「ふふ。レトヴェールがどうかした? ……またなにか言われたの?」
 「う、ううん。わるいのあたしだから」
 「なにを言ってるの。あなたはなにもわるくないわ。とってもいい子よ」

 エアリスは洗濯物の山の中から衣類を取り出しては、丁寧にたたんで、積んでいく。

 「あの子はちょっと恥ずかしがり屋さんなだけなの。ロクアンズのこと、ほんとはすごく気になってるんじゃないのかしら」
 「う……うそ」
 「うそじゃないわ」
 「でも……」
 「あの子ね、あんまり村の子どもたちと遊ぼうとしなくって。『おかあさんだけでいい』なんて言っちゃって……。遊ぶのだって、いっつもおうちの中でね」
 「さびしくないの?」
 「……すこしまえにね、お外で遊んできなさいって言ったことがあるんだけれど、そのときあの子なんて言ったと思う?」
 「うーん……わかんない。なんてゆったの?」
 「『ほかのみんなが楽しそうにしてるのが見えて、いやだ』って、そう言ったのよ」

 エアリスは、袖と丈の小さな服を取って広げた。いつも汚れひとつないから洗いやすいのだけど、と眺めながらそう零す。

 「あの子は踏みこみ方がわからないの。あなたはレトヴェールと仲良くなりたいって思って、たくさんあの子に話しかけにいくでしょう? でもあの子にはそれができないみたいで。だからお願い、ロクアンズ」
 「……?」
 「あの子のこと、どうか諦めないであげて。ほんとうはすごく優しくて、家族思いで、とってもいい子だから」

 ロクアンズは、絨毯の上に残ったレトヴェールの衣服をつかむと、ばさばさと広げて、畳みだした。

 「うん。あたし、れとぶぇーると、なかよくなりたい。それで、いっしょにあそんだりしたいっ」

 エアリスは安心したように顔を綻ばせた。そしてロクアンズの頭に手を伸ばすと、若草色の髪を優しく撫でた。その手から伝わってくる温かさがとても心地よくて、ロクアンズは子犬のように嬉々とした。

 「……」

 そんな2人のやりとりを偶然目にしてしまったレトヴェールは、壁に隠れたままじっとしていた。
 
 
 
 * * *
 
 本日は主人公ロクアンズの誕生日のため、特別更新です!
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.58 )
日時: 2019/01/01 14:15
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw
参照: ※内容加筆修正のため再掲

 
 第053次元 はじまりの雪Ⅱ

 快晴に恵まれたある冬の朝。エポールの家から北の方角にいくと、家宅がいくつか立ち並んでいる場所へ出る。そのうちの一軒はこじんまりとした茶屋で、常に小さな旗を構えている。ここは朝早くに門を叩くと焼きたてのパンを売ってくれるのだ。おつかい係に任命されたロクアンズは今日一日で消費する分のパンを詰めこんだ袋を抱え、行きとおなじ道を辿って家に戻ってくる。そして大きな声をあげながら玄関をくぐった。

 「ただいまーっ! かってきたよーおばさんっ!」
 「あら、この元気な声はロクアンズね。おかえりなさい」

 ちょうど洗濯をし終えて小川から戻ってきたらしいエアリスが、裏の庭に竹籠を置いて家にあがる。愛用している前かけで手元を拭いながらロクアンズのもとに歩み寄った。

 「ありがとう、ロクアンズ。あなたが早起きで助かっちゃうわ」
 「えへへ」
 「これで朝食を作るから……あ、ごめんなさい、もう一仕事だけ引き受けてくれる?」
 「もう、ひとしごと?」
 「洗濯物を裏庭に干してほしいの。その間におばさん、おいしい朝ごはんを作って待ってるから」
 「わーい! おいしいあさごはんっ! あたしやる!」
 「ありがとう」

 ロクアンズはバタバタと走って裏庭へ出る。水浸しの衣類が山のように積まれた竹籠を両腕で抱え、よたよたと危なげに歩きだした。案の定、彼女は物干し竿の前にやってくるや否や吹っ切れたように両腕を離した。竹籠の底が、どすんと草木を踏む。
 ぜーはー、とロクアンズは息を吸ったり吐いたりする。心拍が落ち着いてきたところで、彼女は服の袖を捲った。

 「よしっ! もうひとしごとだ!」
 「あさからげんきだな」

 そこへ、寝間着姿のレトヴェールが上着を羽織りながら近づいてきた。ロクアンズは左目をまんまるにして、声のしたほうへ振り返る。

 「れ……。あっねえ、てつだって? そしたらはやく、おいしいあさごはんたべれるよ」
 「やだよ。めんどくさい」
 「……。おばさんいってたよ。れとぶぇーる、おきるのおそいんだって。あたしがパンをもらいにいったんだよ」
 「おまえはとうぜんだろ。いそーろーなんだから」
 「い、いそ、なに?」
 「よそものってことだよ」

 ロクアンズの手に握られた衣服から、ぽたぽたと水が滴り落ちる。ぎゅっと力を入れると、さらに大きな雫が落ちて、水溜まりが跳ねた。

 「……やさしくなんか、ない」
 「あ?」
 「ねえ、なんでいっつも、いじわるいうの? あたしなにも、なんにもしてないっ」
 「してんだろ」
 「なにを!」
 「かあさんのほんとの子どもでもねえくせに」

 レトヴェールの金色の瞳と、ロクアンズの緑色の片瞳が、真正面からぶつかり合った。

 「かあさんをとんなよ!」
 「とったとかとらないとか、おばさんはものじゃないし、とってないもん!」
 「じゃあちかくにいんな!」
 「やだ!」
 「んだと──このっ!」

 レトヴェールはかっとなって、ロクアンズの襟元を乱暴に掴みあげた。すると彼女の軽い身体は簡単に地面に落ちた。強く背中を打ちつけ、「うっ」と小さい呻き声をもらす。同時に洗濯物の入った竹籠も派手にひっくり返った。
 ロクアンズは細い手足をばたつかせて必死に抵抗した。

 「やーだあ! はなして!」
 「おまえがいなくなったら、はなしてやるよ!」
 「やだっ! はな、はなれるのは、ゃだ……!」
 「んでだよッ!」
 「また……っあたし、ひとり、なの……ぃやだぁ……!」

 そのときだった。突然、ロクアンズの首元の苦しさが和らいだ。ぱっと左目を開くと、レトヴェールが目を丸くして自分を見下ろしていた。
 彼の目には、新緑の瞳に滲んだ涙が映りこんでいた。

 「……」
 「……?」

 ロクアンズが動揺の色を浮かべた、そのとき。

 「なにをしてるのっ、2人とも!」

 大きな声がして、ロクアンズとレトヴェールの2人は我に返った。
 庭に出てきたエアリスは、揺れる草花の上で無造作に散らばっている衣服をすべて拾い上げて、籠の中に戻した。ふたたび山となった竹籠を2人の前に突きだし、彼女は言い放った。

 「2人で洗ってきなさい。いい? 2人でよ。わかったら行きなさい」

 エアリスは険しい顔つきになっていた。いつもは穏やかな眉がきつく吊り上がり、顔も真っ赤だ。これほどあからさまに怒りを露にしているエアリスを見たのは2人とも初めてだった。返す言葉が見つけられず、黙って竹籠を受け取った。
 
 
 小川は家の裏庭からすこし行ったところで流れている。そこまでの道のりは遠くないので、すぐに川のせせらぎが聴こえてきた。
 ロクアンズとレトヴェールはお互いの顔を見ないようにして歩いていた。先に竹籠を抱えていたロクアンズが、ちらりとレトヴェールのほうを向いて言う。

 「ねえ、あなたももって? あたしつかれた」
 「……」
 「ねえってば」
 「おまえのせいでこうなったんだろ。だからおまえが持てよ」
 「……れとぶぇーるがさきにやったのに」 
 「だからなんだよそのよびかた。ちげえし」
 「じゃあなんてゆえばいいの!」
 「しらね」

 レトヴェールはつんとしていて、反省をする気はまるでないようだ。自分ばかり竹籠を運んでいるのがばからしく思えてならない。なにを言っても聞いてくれそうにないレトヴェールの頭に竹籠をぶつけてやりたいが、ロクアンズはそれほど重たい物を持ちあげられない。代わりに小石を蹴飛ばしていた。
 小川に辿り着くと、ロクアンズは汚れた衣類を草花の上にぼとぼとと落とした。それから川べりに座りこむ。
 流れゆく川の水に衣服をさらして、引き上げて、吸いこんだ水をよく絞ってから、カラになった竹籠に戻す。黙々とそんな作業を続けるロクアンズを、レトヴェールは立ったまま見下ろしていた。

 「……」

 あなたもいっしょにやって、だとかそういった文句を言わないのかとレトヴェールは訝しんだ。ロクアンズは彼に目もくれず、言いつけられた仕事にだけ向き合っている。これだけは完遂させないとという執念の色さえ見えた。

 「おい、あれ、ウワサの緑髪じゃねえか!?」

 聞き覚えのない声がして、ロクアンズはその声につられて横を向いた。すると背格好のよく似た3人くらいの子どもたちが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
 
 「ほんとだ! すっげえ! ほんとにいた!」
 「おいやっぱあれだよ、右の目! 閉じてやんの。すっげきっもちわりぃ」
 「──」

 ロクアンズは咄嗟に、自分の右目を手で覆った。直後、その様子を見ていた少年たちがどっと笑った。

 「おい、もっとみせろよ」

 3人のうちで一番大きな身体をしている茶髪の少年が歩み寄ってくる。ロクアンズは後ろに下がろうとした。が、踵が浮くような嫌な感覚がして、身震いした。すぐ真後ろには小川が流れている。
 茶髪の少年はロクアンズの右手首を豪快に掴んだ。

 「手どけろよ」
 「ぃ、やだ!」
 「いいじゃんかよ。みせろよ。みてえんだよ」
 「やだってば!」

 少年がロクアンズの右手首を引っ張ろうとし、彼女はその強い力に負けないようにと抗っていた。
 が、子どもといえど男と女には力の差がある。いまにでも右手首をはがされそうで、ロクアンズの目尻にはまたじわりと涙が浮かんだ。

 「……」

 ただただ、レトヴェールはその光景を見過ごしていた。
 そのままなにもしないかと思われた彼だったが──
 
 「は?」

 その場でしゃがんで、落ちていた小枝を拾うと、ロクアンズの手首に纏わりついていた少年の手の甲に思い切り突き刺した。

 「いッ!」
 「!」

 少年の手が彼女の手首から離れた。彼女はじんじんと痛む手首にもう片方の手を添えながら、ぱっと顔をあげた。
 3人の少年たちはロクアンズではなく、小枝をぽいと抛るレトヴェールに視線を集めた。
 
 
 
 * * *

 2018年はお世話になりました。
 来年も本作をよろしくお願いしますー!(*'▽')

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.59 )
日時: 2019/01/14 17:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第054次元 はじまりの雪Ⅲ

 「んだよおまえ! じゃますんなよ!」
 「そうだぞ!」
 「……」

 レトヴェールは口をきこうとはせず、つんとよそ見なんかをしていた。ようやく少年の手から解放されたロクアンズは彼の後ろでまだすこし痛む手首を擦る。

 「こいつさぁ、たまにみるやつだよな」
 「おれらんことウラヤマシソーにみててさ、きもちわりぃんだよ」
 「みてねえよ」
 「みてんじゃんかよ!」
 「あと、うらやましいとかそういうの、かってにきめんな」
 「んだと!」

 少年たちの興味の矛先が、ロクアンズの右目からレトヴェールへと遷移しつつあった。彼女はとっくに顔から手を離しているのに、その傷のついた右目に少年たちは見向きもしない。

 「……」

 投げられる数々の暴言はすべてレトヴェールに当てられている。いつの間にやら蚊帳の外に立たされていて、その場から見えるものといったら彼の背中だけだ。
 小さく結われた金色の髪が、さらりと揺れて──綺麗だ、なんて。ふとそんなことを考える。

 「かっこつけてんのかよ? おんなのまえだからって」
 「おんなみてぇなかおしてるくせによ」
 「あ?」
 「かあちゃんが『かかわんな』って言ってたぞ」
 「……」
 「えぽーるはのろわれてんだ。かみさまにきらわれてんだってな!」

 強い語尾とともに、レトヴェールは肩を突き飛ばされた。次の瞬間。一、二歩だけ後ずさった彼は、──どぼんっ! と真っ逆さまに川底へ落ちた。水しぶきが高く打ち上がる。

 「っ! れ──」
 「きっもちわり! きんぱつ! このむらからでてけ!」
 「でてけよ!」
 「……ひ、ひどいっ、なにもしてないのに!」
 「うっせえな! おまえもどっかいけ!」

 ロクアンズもまた乱暴に肩を押されて、為す術もなく川底に身を投じた。げらげらという汚い笑い声。水面を割る鈍い音とが、川のせせらぎを打ち壊す。
 レトヴェールとロクアンズは順に水面から顔を出した。げほげほと咳をして、息も絶え絶えに彼が言った。

 「おまえ、もういけ」
 「……」
 「いけよ」

 彼は相も変わらず目線を合わせようとはしなかった。無言でいた。

 (──どうして)

 ロクアンズは不思議でたまらなかった。この少年たちに出会う前、レトヴェールと口喧嘩になって、挙句彼には暴力を振るわれそうになった。彼は言うまでもなく自分のことを嫌っている。疎んでいる。はずなのになぜ、さきほどは助けるような素振りを見せたのだろうか。
 あのまま自分のことを見捨ててどこかへ行ってしまえば、いろいろ言われることも、川に落ちることだってなかった。
 それなのに

 『どうして、こんなにしてくれるんですか?』

 ──ふと、初めてエアリスと会った日のことを思い出した。このとき彼女は自分の質問には答えてくれなかった。
 ただ。
 金色の髪や瞳がそっくりだなんて、そんなことを思うばかりだった。

 レトヴェールを残して、ゆっくりとロクアンズは立ち上がった。若草色の前髪が家宅のほうを向く。ひとふさ跳ねた前髪から、大きな雫がぽたりと落ちる。
 彼はなにも言わなかった。

 「れとはきもちわるくなんかない」

 水面に浮いたゴミを突き返すように、ロクアンズは豪快に水を薙いだ。

 「ッ!」
 「っうわあ!」
 「つめて!」

 ばしゃあっ! ──と。驚く間もなく、少年たちは冷たい水の破片を被った。3人が呻きながら後ろへ下がると、
 今度は竹籠を川に突っこんで汲んだ水を、ロクアンズが思い切り投げ飛ばしてきた。
 
 「うっわあ!」
 「お、おい! なな、なにすんだよっ!」 
 「レトは、おばさんとおなじで、すごくきれいなかみなんだよ! どこがきもちわるいの! そんなこというあなたたちのほうが、ずっとずーっと! きもちわるいんだからっ!」

 淡い若草の左瞳はよく晴れた日の朝を思わせた。その澄みきった青さの中に浮かぶ月のように、ぼんやりとした憧憬だけがそこにあった。
 たった片方だけの瞳で強く睨み返され、少年たちは息を詰まらせた。

 「な……なんだよ。ほんとにきもちわりぃ、こいつ!」
 「ぎりのきょうだいってんだろ、こいつらみたいなの」
 「ああ。ぜんぜんにてねえし」
 「いっしょうやってろ、ぎりのきょうだい!」

 少年たちは、あかんべーなどをしながら背中を向けて行ってしまった。ロクアンズとレトヴェールは半身ほど川の水に浸っていた。しばしの間、静寂が流れた。
 
 「……」
 「……」
 「……んだよ、れと、って」

 ロクアンズはぎくりとした。やや目を泳がせながら、もっともらしいことを口にする。
 
 「な、ながいから、みじかいほうがなんか、いいでしょっ」
 「うそつけ。いえないんだろ、ヴェールって」
 「……それも、はんぶんくらいある」
 「ぜんぶだろ」
 「はんぶんだもんっ」
 「いいやぜんぶだ」

 また言い返すと永遠に終わらないな、とロクアンズは反論を諦めて、川の中で座りこんでいるレトヴェールの顔の前に手を差し出した。

 「かぜひいちゃったら……おばさん、しんぱいするよ。だからはやくあがろ?」
 「……」
 「レト?」
 「きれいってなんだよ。へんだなおまえ。なぐろうとしたやつにむかって」
 「へんなのはレトでしょ。さっき、たすけてくれた」
 「べつにたすけてねえよ」

 レトヴェールは差し出された手をぷいっと無視して、起き上がろうとした。が、川底のぬめりけに足を滑らせ、そのまま大量の水しぶきをあげて彼はすっ転んだ。
 ぽかーんとしてその一部始終を見ていたロクアンズは、耐え切れず、大声をあげて笑った。

 「ぶっ……ははは! レト、レトおっかしーっ!」
 「笑うな!」

 高らかな笑い声が、澄んだ川面に浮かぶ木の葉をかすかに揺らす。笑われて頭にきたらしいレトヴェールが、川の水を切ってロクアンズに浴びせる。と、彼女は腕をわたわたとさせて、ふたたび川底に沈んだ。彼はざまあみろと言わんばかりにフンと鼻で笑う。
 美しい小川の底では、2匹の小さな魚が寄り添い合っていた。
 
 
 
 レトヴェールとロクアンズの2人に小川での洗濯を言い渡したのには、いくつか理由があってのことだ。一つは言うまでもなく、2人の言い争いが原因でせっかく綺麗に洗った洗濯物が土まみれになってしまったからだ。喧嘩をすると面倒なことになりかねないと身体に教えこませることも目的のうちである。
 そしてもう一つ。2人には共同で作業をしてほしかったのだ。つい最近出会ったばかりで、互いのことをよく知らない状態では、会話やコミュニケーションがなかなか成り立たないのも無理はない。そこでエアリスはなかば強制的ではあるが、2人に共同作業をさせることで仲間意識や友情のようなものがすこしでも芽生えるのではないかと考えたのだった。しかし。

 「ちょ、ちょっとどうしたのよ2人とも! そんなにびしょぬれになって……いったいなにがあったの?」

 裏庭から帰ってきたロクアンズとレトヴェールの姿を見るなり、エアリスは卒倒しそうになった。
 頭の上からたらいの水でも被ったのかと疑うほど、2人は頭のてっぺんから足の爪先までしっかりと濡れていた。エアリスがしごく心配そうに顔を覗きこんできたので、ロクアンズは先に口を開いた。

 「ね、ねえね、おばさんきいて! あのね、レトがぜんっぜんてつだってくれなかったんだよ。だからあたし、たくさんあらってて、それでとちゅうで川におっこちちゃったの」
 「え?」

 エアリスは目をぱちくりさせた。ロクアンズの言ったことはほとんど嘘だ。が、このまま押し切ればエアリスを騙せると踏んで、ロクアンズは調子をあげた。

 「でねでね、レトったらひどいんだよ。川におちたあたしのことすっごくわらったの!」
 「ええっ? ほんとうレトヴェール?」
 「ちげえよ。かあさん、こいつがいってんのウソだから。おれはこいつをたすけようとおもって手のばしてやったのに、こいつおれのうでつかんで、おれまでかわにおとした」
 「ええっ!」
 「そんなひどいことしないよっ! レトのばか! うそつき!」
 「おまえのほうこそおれを笑っただろ」
 「それは! それはほんとだけど……」
 「おい」

 レトヴェールはロクアンズの頬を両手でつまんで、「このやろう」とぐいぐい頬の肉を引っ張った。「いひゃっ」と悲鳴をあげながらも、彼女も負けじと彼の頬をつまみ返して対抗する。エアリスはそんな2人を交互に見やって、唖然とした。

 「ふ、2人とも……。ケガは、ケガはなかったの?」

 2人ははたと手を離し、じとーっとお互いの顔を見合ってから、同時に告げた。

 「ない」
 「ないよっ」

 泥まみれで、水浸しなのに、清々しい顔をして2人が言うものだから、エアリスもつられて顔を綻ばせた。

 「そう。2人とも、風邪を引いてしまうといけないわ。私がすぐに湯船の準備をしてくるから、そのまえに服を着替えていらっしゃい。いいわね」
 「ん」
 「はーいっ」
 「そうだわ、ねえロクアンズ」
 「なあに?」
 「その……"レト"っていうのは、もしかしてレトヴェールのことかしら?」

 ロクアンズはこくんと大きく頷いた。

 「うんっ。だってレトのなまえながいし、こっちのほうがなんかかわいいかなって」
 「ヴェールっていえないだけだろ」
 「しーっ! なんでゆっちゃうのっ」
 「じじつだろ」
 「じじつでもだーめー!」

 言葉の売り買いが勃発し、ふたたびエアリスの胸に不安の芽が出るかと思われたが、違った。彼らが纏っている雰囲気はこれまでのような冷たく張りつめたものではなかったのだ。
 エアリスは、ぷっと小さく吹きだした。それから、こみ上げてくる笑いを抑えることができなかった。

 「……な、にかあさん」
 「おばさん?」
 「いいえ、なんでもないわ」

 目尻を拭い、エアリスは「それじゃあお風呂の準備してくるわ」とその場をあとにした。残された2人はエアリスに聞こえないように、小さく安堵の息をもらした。

 「ばれなかったあ」
 「ああ」
 「おばさんに、しんぱいしてほしくないもんね」
 「……ん」

 エアリスに心配をしてほしくない。悲しい顔をさせたくない。──2人の意見が一致したのはこれが初めてのことだった。
 ぶるるっ、とロクアンズは寒さで身が震えあがるのを感じた。両腕を擦って暖をとりつつ、自室に戻る。
 そのとき。レトヴェールはなにかに吊られるかのように鼻をひくつかせたかと思うと、頭を豪快に振り下ろした。
 
 「くしゅっ。……うぇ」
 
 ぐずり、と彼は痛いくらいに鼻を啜った。
 
 
 


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