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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
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*41*

† 十九の罪 “宿命の対決” (前)


「イヴさん、大丈――ぶッ!?」
 駆け込んで来るや否や、半ば露わになった胸元を目の当たりにして戸惑う少年。
「ま、まあ大丈夫というか……うん…………」
 はだけた肩を窄めてイヴも俯く。
「よくここがわかりましたー」
 ミカエルが拍手と共に向き直った。
「神眼。世界の理を視る者が宿す――貴様らには無い我が身のみが与えられし権能」
「実の弟にひどい言いようですねー。訴訟も辞さないですよ」
 新旧大天使長の視線が交錯する。
「まったく……あなたにはいつも驚かされます。こんな娘一人のために人の家をいきなり壊しちゃう行動力、まさに傍若無人な魔王」
「此の身は誰の味方にも非ず。俺が如何なる者に与しようと勝手であろう。人間に掛ける情等は無いし、此の者と契約を結んでいる訳でもない。ただ――此の者が騎士たるに相応しい強者と云うことは保障する」
「あのルシファーが人間に興味を持つとはたまげたなあ。この子の虜にでもされちゃいましたか、いい身体してますもんねー」
「……其の戯言、二度と云えぬ身にしてやろうか」
 両雄を隔てる空気が緊張った。
「今解除するからね」
 目の遣り場に悩みつつも、拘束の解除に努めるデアフリンガー。
「ありがとう。ここまで来るの大変だったでしょ」
「僕も強くなったし平気だよ。イヴさんのお陰だね」
「頼もしいわ。デアフリンガーはやればできる子だもんね」
 挙動不審ながら懸命に取り組む少年を、イヴは苦笑して見守る。
「感動的な再会のところ悪いけど、人間ごときじゃ外せないんですよねー、それ。あと邪魔なんで消えてもらえますか」
 ミカエルが呼びかけた直後、小柄な体躯に似使わない大鎌を携えたフード姿の人物がどこからとも無く現れた。
「ではお兄様、後ほど。邪魔者がいなくなったらお越しください」
 白い羽と共にそう残すと、消え去るように行方を眩ませるミカエル。

 なれど刺客はデアフリンガーたちには目もくれず、僅かに覗く目元は明らかにルシファーを見据えている。
「……魔王、ルシファー――――」
 正視したまま小声で一言。
「貴様、黄泉還ったか。然れば此度は永遠(とわ)の眠りを呉れて遣ろう」
 突き出した右手に紫炎が灯り、魔王剣カルタグラを形作る。
「……カルタグラ――ご主人様が本気だ……!」
 ベルゼブブが呟くと時を同じくして、迅雷の如き疾さでアリオトが疾駆した。いつの間に擦れ違ったのか、互いに背を向けて立っている。ルシファーの頬を一筋の鮮血が伝った。
「ルシファーよりも速い……!?」
 一同に衝撃が奔る。小さな刺客は壁、天井を嘗めるようにして駆け巡ると、ルシファーの頭上より鎌を振り下ろした。カルタグラで受け止めたかに見えたが、刹那の合間に視認しきれない連撃を浴びせられたのか、外套の数箇所が斬り裂かれている。
「なんだあれは……本当に人間の動きなのか……?」
 ベルゼブブでさえ見切ることの敵わない、人知を超えた高速移動。屋内とはいえ、捕捉する術が無い。
「……其の妙技、見ようとして見える疾さに非ず。然れば我が眼を以て視抜く」
 壁際まで飛び退き、構え直す魔王。
「――幻影の処刑人」
 アリオトが唱えると、十数体の分身が顕現し、一挙に斬りかかった。
「……ッ!」
 ルシファーが一撃にすべてを賭けるのであれば、攻撃力で劣る彼女は手数で畳み掛けて仕留める。彼女の判断は正しかった。
 相手の攻撃――それが、ただの刀剣によるものであったのならば――――
「くっ……!」
 噴き出した血潮に赤々と染められる魔王の黒衣。
「……最後に、お前の名を教えよ」
 床に赤黒く陰を落としながら、ルシファーが尋ねる。
「……アリオト」
 舞い落ちる両断されたフード。存在を概念ごと打ち消され、肢体が薄れてゆきつつも“虚無”としか言いようの無い表情を保っているアリオト。
「ご主人様ァアアアッ!」
「控えよ。強者の最期だ」
 勝負が決してなお相手より目を離すこと無く、駆け寄ろうとしたベルゼブブを手で制する。
「……アリオト。今し方の斬撃、見事であった」
 透けてゆく強敵を見定め、徐に告げるルシファー。
「気やすく呼ばないで。悪魔――――」
 そう無表情のまま返すと、現世に実体を留められなくなったアリオトは儚くも潔く、溶けるように消えていった。

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