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大罪のスペルビア
作者: 三井雄貴  (総ページ数: 50ページ)
関連タグ: 天使 堕天使 魔王 悪魔  魔法 魔術 騎士  ファンタジー 異世界 アクション バトル 異能 キリスト教 失楽園 
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               † 十九の罪 “宿命の対決” (中)


「どうしたァ!? 理性を奪われた戦うだけの存在なんだろ? もっと死ぬ気でかかって来な、そんなんじゃ永遠にここは通れないよ!」
 縦横無尽に飛び回るアモン。地獄に於いても五本の指に入ると名高い莫大な魔力と卓越した体力、幾多の戦場で培った勘と戦術、武器に頼り過ぎない強靭な肉体――戦を知り尽くす彼女であるがゆえに、自身の能力を最大限に活かして粘る。いや、むしろ僅か一柱の悪魔に、天使方が翻弄されていた。圧倒的なアモンの速力に追随できる者がおらず、包囲しようにも、炎術で一気に薙ぎ払われる。
「あの二人の戦いはねえ、だれにも邪魔できないんだよ!」
 直近の天使を蹴り堕とし、反動で飛び退いて背後に数十の魔力弾を展開する地獄侯爵。
「だれにも邪魔は……させねーんだあああッ!」
 迫り来る者から立て続けに撃ち堕としてゆく。
(そう――アイツの、アタシらの邪魔なんてさせない……!)

 闇へと堕とされ、疲弊した堕天使たち。
「……何もかも泡沫の夢と終わってしもうたなあ」
「おいおい、悲しいこと言うなよ。ベルのお嬢もいりゃアタシもパイモンもまだいる。そして何よりルシファーが健在なんだ。これからだろが」
「アモンの云う通りだ。我が同胞達よ。未だ何も終わってはいない。此れが始まりだ。始まりに、してみせようぞ……!」
 歓声が上がった。立ち上がる彼らの面持ちは、敗れたにも関わらず活き活きとしている。
「我等は地位も名誉も凡て失ったが、此処に我等自身がいるではないか。身一つで遣り直せば良い。絶望にも底は有る、然れど希望と云うものは天井を知らぬ。此れより皆で遣り直すとしよう。何処からでも遣り直せる、我等がいる限り遣り直せるのだ」
(そうだ――やり直せばいいんだ。たとえ天(そら)を失おうと、我が主(コイツ)がいる限り、アタシらは何度だって羽ばたける……!)
 不思議だった。あの男に与して叛逆者となり、結果、この惨状を迎える。それでも誰一人として彼を恨む者はいなかった。不滅の求心力。明けの明星(ルシファー)の名を冠した男は、その身は地に堕ちようと、心までは落ちない、いつまでも輝き続ける星であったのだ。
(アタシぁねぇ、決めてんだよ……あの時から。悪魔だから正義の味方ぶりはしねえさ。ただ、アタシは今までもこれからも、アンタについてく――――)

「……そうだ、アタシがルシファーの盟友――他ならぬ地獄侯爵アモンだ……!」
 気が付くと、他に命ある者は誰もいなくなっていた。無数に現出させた棘は折れ、四肢の感覚が鈍っている。肉体(からだ)が無性に休みを欲していた。もう戦う必要はない。あれだけいた戦闘天使を残らず倒しきった。今頃ルシファーもミカエルの元へとたどり着く頃だ。
「おいおい、なんだいこの血の量は? 出血大サービスってレヴェルじゃねーぞ」
 川のように血が流れてゆく。
「あー、コイツはアレだ……死ぬな。まあ意識あるうちに一本吸っとくか」
 敵の血に塗れた両手で、挟み込むようにして煙草を摘んだ。思えばこの刃状と化した腕にも慣れたものだと実感する。これほど生を楽しんだというのに、妙に落ち着いて最期が受け入れられた。いや、むしろ後悔がなかったからかもしれない。
「楽しかったよ、我が主。アンタと出会えて――ホントによかった」
 紫煙を吐き出しながら一人、誰もいない雲上で微笑を浮かべる。
 ふと、視界の端に何か動く影がちらついた。新手が駆けつけたようだ。満身創痍。もはや精も根も尽き果てた。だがしかし、どうせ放っておいても己は死を待つのみ――答えは、自ずと出ていた。
「おいおい、やっと眠れると思ったらまた敵さんかい。いくら戦いが好きだからってこんだけ暴れりゃ疲れるわ」
 呆れ果てたように自嘲する。
「……そんじゃ、最後の奉公といきますか――――」
 煙草を吸い終わると、地獄侯爵は悠然と起き上がった。

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