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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*47*
「ニャハニャハ。どうやら彼らは私の正体に気がついたようですねぇ」
シーさんはニヤニヤ笑いながら幽霊のように接近してきます。
僕はロープに跳ね返り、そこから人間魚雷を打ち出すのですが、
「そんな攻撃がこの私に食らうとでも思っているのですか」
僕の突撃をがっしりと掴み、マットへ砕けよといわんばかりに叩きつけてしまいます。
「僕はお前だけには負けるわけにはいかないんだ!」
すると彼は不敵な笑みを浮かべ、
「そんなこと言われましてもねぇ。
何しろあなたはデビュー以来、一度として勝利、引き分けすらできず、16連敗ですからね。説得力が皆無ですねぇ」
彼は倒れている僕を滅多蹴りにし、立ち上がってきたところをおなかに何度も何度もボディーブローを浴びせます。
僕が勢いに押されコーナーポストへ倒れこむと、リングサイドには不動さんがいました。
「よく聞けヨハネス。悪いことは言わない。棄権しろ」
棄権!?
僕は一瞬彼の言っている言葉の意味が読み込めなかった。
どうして棄権しなきゃならないのでしょうか。
確かに僕は劣勢かもしれないけど、今から逆転だって十分に可能なはず・・・・
「では、お前はあいつの正体がカイザーの弟だと知ってもそう言えるのか」
その刹那、シーさんが思いっきり高笑いをし始めました。一体何があったというのでしょう。
「もうばれてしまいましたか。さすがは不動と言ったところですね」
その瞬間、彼の衣服に亀裂が入ったかと思うと、突然破裂し、僕の前には黒い帽子、黒の中華風の服を来た人物が立っていました。
「私は『ブレッド家』次男トミー=ブレッドです!!」
☆
「驚きましたか?この私の正体に」
トミー=ブレッド。
フランス最強と謳われるレスラーの名門一家、ブレッド家の次男。
華麗な技とそのスピードを生かした戦術が持ち味で、僕たちの師匠のひとり。
ただし、その狂的ともいえる美少年好きが玉にキズ。
会長と同等以上の変態気質であったため、キャラが被ることを恐れた会長は彼をクビに。その後静かに余生を送っているときいていましたが・・・・まさか僕たちの前に敵として現れるだなんて。
「私は固く誓ったのですよ。私をクビにした会長及び、私の性癖を知り、なおかつ血のつながった兄弟でありながら、私をかばってくれなかった兄と弟に復讐してやるとね」
狂気の復讐鬼と化した彼の表情に思わず息を飲む僕たち。
すると、彼は薄笑いを浮かべ、
「それで、あなたは私とこのまま戦い続けますか、それとも棄権しますか?」
このまま棄権するのは容易い。けれどもここまでがんばってきたみんなの努力を水の泡にしていまう。
それだけは、どんなことがあってもしてはならない。
たとえこの勝負,僕の命が危なかったとしても、なんとしてでも勝利して、みんなを決勝のリングへ…
「戦います。僕はみんなのためにあなたを倒します!」
僕は答えると、再び彼に突進しタックルを敢行します。
彼は僕の攻撃に怯み、2、3歩後退します。
ですが、その表情はまだまだ余裕そのものです。
「ニャハニャハ!仕方ありませんね。せっかく殺さずに生かしてあげようという私の温情を断るとは、あなたもよほど死にたがりのようですね」
「馬鹿野郎!棄権しろ、ヨハネス!死んでもいいのか!?」
「ガキ、自分の命を粗末にするな、大事にしろ!お前が死んだらみんなが悲しむ」
彼らは僕を棄権させようと説得します。
ふたりの気持ちは大変嬉しいのです。
ですが、僕はこの試合だけは棄権するわけにはいきません。
不動さんの投げたタオルを投げ返し、再び敵を睨む僕。
「ガキ、どうしてお前そこまで・・・・」
彼は少し驚いたようで少し口を開けて唖然としています。
「僕は今までみんなの役に立ったことがなく、足手まといでした。だから、この試合でみんなの役に立ちたいのです。それに…」
「「それに?」」
「僕は今、最高にワクワクしているんです!
今まで出会ったことのないほどの強敵と生死を賭けたギリギリのファイトをすることに!!」
「……お前らしいな、ヨハネスのガキ。お前がその気なら、俺たちは止めはしない。正々堂々全力で戦え。ただ、死ぬときはみんな一緒だ。お前だけで死なせはしない。
きっと、俺以外のみんなも同じことを言うと思うが…お前が死んだら俺も死んでやる!
この命、お前にかけてやる!友のために命を投げ捨てる。これが友情ってやつだ、ガキ共!」
不動さんの言葉に僕は目頭が熱くなってきました。
どうしてこんなに無条件で僕を信用してくれるのでしょうか?
「フフフフ…友を信用するのは人として当然のこと…それができぬものに友を名乗ることはできぬ」
いつのまにかジャドウさんもリングサイドにいます。
「…俺のことはあとで煮るなり焼くなり勝手にしろ。
だが、今は困る。ヨハネスの命を懸けた試合が始まるのだからな」
みんなは、とても優しい。いっそ、胸が苦しくなるくらいに。
暖かい何かが、心を満たしていきます。
それは、ゆっくりゆれる、さざ波のようでもあり、嵐の時、荒れた海のようでもありました。
「フフフフ…このふたりはそうかも知れんが俺は優しくはないぞ」
自然と、笑みがこぼれます。
みんなの思い、受け取りました!
絶対、絶対…!
僕、トミーさんに勝ちます!!
何かが弾けたのを感じましたが、僕にはそれが何なのかを知ることはできませんでした
「行くぞ、必殺『ツンドラの白い氷河』ーッ!」