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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*70*
「イルか。久しぶりだな」
カイザーさんはその女性を見るなり声をかけた。
「カイザー、私はジャドウに呼ばれてお前たちを助けにきた」
何!?あのジャドウに呼ばれてだと!?
「私と彼はライバル同士。同じ軍人の出ということもあり、よく技を競い合っている仲だ。今回は彼直々の頼みということで来たわけだ。
さあ、坊やにはそこをどいてもらおう」
言うなり彼女は俺を突き飛ばし、リングインした。
「井吹、初心者にしてはその頑張なかなかだった。褒めてあげよう」
このお姉さんは話し方がジャドウに少し似ている。
それはいいとして、これは俺にとっては願ってもみない幸運だ。
正直なところ、あのまま勝負を続けていれば負けることは目に見えていた。助けが来て本当に助かる。
彼女は怒雷氷を鋭く睨み、口を開けた。
「私はお前がなんであろうと容赦はしない。軍人の力を舐めるな」
だが、奴は冷静に返す。
「お前如き私の敵ではない。もっとも、井吹宗一郎よりは腕が立ちそうだがな」
「そう言っていられるのも今のうちだ」
二人は不敵に笑い、睨みあう。
こうして俺の代わりにイルさんが闘うことになった。
☆
試合開始のゴングが鳴り響く。
とたんに彼女は飛び出し、力比べを始めた。
しかし驚いたのはその力だ。相手が年寄とはいえ、この俺が手も足も出なかった彼に対し、真っ向から力比べ挑み、今現在、ほぼ互角の勝負を演じているのだから。その実力がどれほどのものなのか想像がつく。
彼女は素早く距離を置き、間合いを取る。
だが、その隙を逃さず、怒雷氷が掌打を打ってくる。
イルさんは空手チョップで応戦。
敵が怯んだところを逃がさず両肩へ飛び乗りエルボースタンプの連続攻撃をお見舞いし膝をつかせると、そこから離れ、エルボースマッシュの連打で一気に後退させる。
けれど、俺にはさっき奴と戦ったからよくわかる。
あのじいさんは相手の実力がどれほどのものか探っているのだろう。
長年の経験、パワー、身長、技、どれをとっても一筋縄でいくような相手ではない。
そしてこのことは彼女もわかっているのか、今は慎重に攻めている。
「フハハハハハ。お前の太刀筋は大体把握できた。今度はこちらからいかせてもらおう」
ここから怒雷氷の反撃が始まった。
彼はまず、シュミット式バックブリーカーで背骨を痛めつけ、続けてワンハンドブリーカー、アルゼンチン=バックブリーカーとブリーカー技を連続してかけた後、ボディスラムで思いっきりマットへ叩き付け、髪を引っ張り起きあがらせると、ロープへ放り投げ、反動で返ってきたところをすかさずキングコングキックで蹴り上げ、続けざまにエアプレーンスピンでリング中央に飛ばし、そこからジャンプ。
ニードロップを十数発浴びせ、顔面を血ダルマにしたかと思ったら、ヨハネスの得意技のひとつであるアイアンクローで彼女のきれいな顔を潰しにかかる。
その威力はヨハネスのかけるアイアンクローの約3倍はありそうだ。
たっぷり痛めつけたかと思ったのに彼はまだまだ痛めつけ足りないらしい。
毒霧をかけ彼女の視界を奪い、それだけでは飽き足らず目つぶしをかけ、さらに視力を奪う。
続けてはずかし固めで屈辱を与える。
この技は初めて見たのだが女性にとっては屈辱以外の何ものでもないはずだ。
何しろかけられた相手は股関節が広がったかたちになるのだから。
もし、彼がこの技を女になったヨハネスにかけていたら、間違いなく彼女は恥ずかしさのあまり、激昂するか号泣していただろう。
だが、目の前のイルさんにそんなそぶりはまったく感じない。なんて強い精神力なんだ。
「フハハハハハ。キミはどうやらMのようだなあ」
すると、試合開始以降一度も口を聞かなかった彼女がしゃべった。
「M?私が?バカたれ。私は自分が窮地に立たされることで逆転したときの喜びが大きくなるからそうしているだけだ。そろそろ、こっちの反撃といくか!」