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作者: aya ◆jn0pAfc8mM (総ページ数: 23ページ)
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*11*
店は3階にあった。
そこまで行く最中、見知った顔とすれちがう。
あの媒体の店にいた、佐和子さんだ。
「佐和子さんって、実は能力持ちなのよね」
「あ、そうなの?」
能力は、魔術を持たない限られた人間に宿るもの。
その種類は多岐にわたる。
能力を持っていても、ふとしたきっかけで魔術を使えるようになる人もいて、
僕もその1人だ。
魔術と能力、両方持っている人は少し珍しいらしいけれど、研究材料になるほど
希少な人間ではなく。
「佐和子さんは、魔術は?」
「使えないわ。そのかわり、能力を2個持っている」
1階まで見える吹き抜けを、少し怖がる凛を見ながら、僕は考える。
それは僕より、ずっと平凡な人だ。
魔術の代わりに、能力が2個……それは、半分くらいの能力持ちがそんな感じ。
僕みたいに、複数の能力+魔術は珍しいのだ。
「嘘を見抜く能力と、媒体を作る能力」
「あー。だから媒体売ってるんだ」
そんな事を話していたら、その店に着いた。
「これ可愛いですね!」
森さんは2、3着の水着を手に取る。
それを見た瞬間、信はうわっと声に出して悶絶する。
「それはちと露出度高いんじゃありませんかねえ、森さん」
なぜか敬語になっている信は、鼻血を流していた。
ティッシュを渡して、僕は凛と一緒に巡る事にする。
森さんについて回るより、凛について行く方が変な顔をされなさそうだ。
「ふむ、これなんかどうだ?」
「凛って、さっきから水色とかばっかりとってるよね。なんで?」
「ああ、寒色って涼しいらしいからな。体感だけでも涼まないと、
暑くて参ってしまうよ」
「でも凛、あんまり汗かかないよね……」
「汗かきにくい体質らしいからな」
水着をさっさと買って来ると言う凛と、一度別れる。
その時。
バンっと音がして、一瞬で店内が暗くなる。
窓は閉まっていて、暗闇で周囲は包まれた。
周囲は騒がしくなる。
「ちょっ……停電かよ!」
信の場所を把握すると、とりあえず凛を探しに行く。
暗闇じゃ普通は何も見えないが、あの能力の地図は何も変わらない。
それでも、凛の場所は分からなかった。
携帯に連絡しても繋がらない。
圏外と表示されたその画面を忌々しく睨むと、
僕はざわめきの中で、
「凛、魔術を使って!」
と、少し大きめの声で言う。
それが聞こえたのか、凛が発動したE級の魔術を見つける。
そこまでたどり着くと、その背中をつついた。
「うわっ」
凛が驚くとか、新鮮すぎる。
拡大してその驚きの顔を見ながら、僕は話しかけた。
「僕だよ、亮二だよ。
魔術発信源を特定する能力があるから、大体場所は分かる。
凛だよね? 低級の召還魔術がたくさんある。
多分そいつらが停電させたんだ」
「そうか、ありがとう亮二。で、そいつらはどこにいる? 誰だか分かるか?」
少し意識を集中させる。
召還術は術者を分からなくするしかけなどもあるので、
ちょっとだけ時間をかけて、僕は答えた。
「ちっちゃいのが……6体の悪魔がいる。召還されてて、
発信源は隣の県の、山のどこかから。
これは……洞穴かな? もうちょっと探せば詳細も分かるかも。
そいつら、エスカレーターを全部塞いでる。
あ、非常口とか非常階段にも悪魔がいるよ。
入り口はいない……ブレーカー落としたのは、
人間くらいの大きさの悪魔だ。
凛がE級使ったちょっと後に、魔術封じもかかってる」
「結構分かるものだな。いい能力だ。
それって、過去にさかのぼって詳細を見れたりしないのか?」
僕は少し考えるが、出来ない事はないと頷く。
「うわ、増えた。ってちょっと、こっちに来るっぽいけど」
こっちに来るようにと命令魔術を発見し、僕は言う。
「そうか。……どうする?」
「どうするって……どうにか出来ない事もないけどさ」
「え、ここから逃げられるのか?」
「だって、入り口が塞がれていないんだ。外には出られるよ」
「よし、じゃあ外に出たらすぐ、適当な広い原っぱにでも行くぞ」
攻撃する気ですか。
悪魔が魔術準備をし始めたので、それが動いても追撃して来る
魔術ではないと確認し、僕は凛に言う。
「背負うから」
「分かった、背中はこれか?」
「うん。……よっと」
僕は凛をしっかり背負うと、人と棚を避けながら、
吹き抜けの前に来た。
「ちょっと衝撃があるかもしれないけど、耐えてね」
それしか言えないが。
「え、何をするのだ」
僕はぴょんっと手すりの上に飛び乗ると、
それを蹴る。
「おいちょっと、飛んでるぞってうわあっ」
僕は、吹き抜けを飛び降りていた。
3階、2階、1階。
とんっ。
僕のもう1つの能力。
自分に対しての衝撃を緩和する能力だった。
「大丈夫、凛?」
「またなんか能力か? 追求はしないが、さっさと行こう」
信と森さんには可哀想だが、置いて行かせてもらおう。