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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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10~ 20~ 30~ 40~

*14*


・ デジャヴな声に ・

《フレドリカ》

「え――ツバサ……?」
 変だ。変だった。
 いきなりあの景色から――グラズヘイムで私がカプセルに向かおうとしている景色から――急にツバサが微笑んでいる景色へと移ったのだから。
「どうして……?」
「フレドリカ、よく眠ってたぜ? 気づいてないのかよ?」
 アーサーの一言により、私が眠っていたことを――それに、あの景色のことが夢だったということも――発覚できた。
 「ラクーナと違って、イビキかかないのがよかったな〜♪」といっている金髪の少年を見て、なんとなく微笑ましくなる。
 ――でも、‘あれ’は本当に……夢?
 とても‘夢’とはいいきれなかった。グラズヘイムでのこともある。私は誰かとあの遺跡で話していた。ある、大事な約束を守る為に――。
「――!?」
 ズキンッ――!
 ――痛い!
 急に頭痛が襲ってきて、思わず私は倒れ込む。その様子を見て、ツバサが驚いた。「大丈夫か!?」という彼の声を聞くと、なんだかほっとした。
〈リッキィ〉
「え――?」
 リッキィ――それって、私のこと? 心の中で自問した。答えは出てこない――その理由は分かる。‘分からない’のだから。
〈リッキィ〉
 無機質そうな声。だけど温かそうな声――そんな声が、私の頭の中で響く。ジィン、ジィン……と、まるで熱い鉄をハンマーで打つときの音のような、もしくは、広がっていく波紋のように響いていく。
〈リッキィ――待ってますよ〉
 待ってる――? 分からない! 貴方は誰なの、無機質な声を上げる貴方は――。
「……まい、く」
「えっ?」
 不意に発した私の声に、ツバサが不思議そうにいった。〈早く来てください〉と、その間にも無機質な声は響き渡る。
 けれど、なんとなく、温かい。
 安心感が芽生える。家族のような――家族なんて分からないけれど、でも、そんな感じの感情が芽生えた。
 ……マイク。
 貴方……なのかな? 夢の中の無機質な声。でも、温かい声――。
「貴方なの?」
 木の天井の虚空に問いかける。でも、やはり答えは返ってこない。
 あきられきれなくて、私は立ち上がる。布団が少し無様な姿になったが無視し、見えない鳥をつかむようにトタトタと歩き始める。
 来て。
 来て。
 来て、答えて――。
「マイク!」
 ――やはり、答えは来ない。
 答えをくれないデジャヴな声の主に向かって、私は幾度なく声を上げる。仲間たちが不思議そうに――とあるアルケミストは「変な奴だな……」というように――見つめる中、私は、何度も。
 ――ふと気づいた。今、何時? 声の主は……外や、ここにいるの?
「……嘘――」
 時計を見ると、なんと昼の十二時――を通り越して、なんと一時! 私は仰天して、そして、仲間たちの視線に気づいた。
「……あはは……」
そして、ツバサが苦笑している様子を見る。
「あ……」
 ボッ! 
 林檎の様に顔が真っ赤に染まったような気がした。
「あ〜っ!! み、みみ、みんなっ!」
 み、見ないで!! 今のこと忘れてっ!! そういっても、仲間たちは軽く受け流すだけで答えてはくれなかった。
 デジャヴな声と仲間たちの返答が似てると思い、なんとなくむかつきながらも私は執政院へと向かった。
 ――まだ執政院には、グラズヘイムのことを説明してなかったのだ。

・ 調査完了、任務続行。 ・

「ツバサよ、グラズヘイムの調査、ご苦労だった」
 ……いきなり、偉そうな人が対面してくれた。笑って「やっほー」と挨拶しているツバサに聞くと、彼は執政院の対面の役割をしている人らしいと答えてくれた――私はそれを聞き、ショッピングセンターの窓口の人みたいなものなのだろうと思った。
 ――ショッピングセンター? また不可解な単語が出てきた……。
「まずは、報告の報酬を渡しておこう。四百エンだが、いいかな?」
 ……お金……だ。ツバサはそれを気軽に受け取る。「ありがと、オレルス♪」となぜか楽しそうに笑っている。嬉しいなら分かるけど。
「しかし……報告を聞く限り、まだなにかが判明した訳ではないようだな。……きみには引き続き、調査を進めてもらってもいいだろうか?」
 「ああ!」とツバサが答えた。後ろを見ると、ミズガルズ三人組――サイモン、ラクーナ、アーサーが静かにうなずいている。そうだよね、調査、したいよね……私も静かにうなずいておく。
「うむ。そして、調査を進める為に、グラズヘイムで出会った少女を同行させることに異論はない。そして、もう一点の報告だが……」
 彼は――オレルスは、ミズガルズ三人組を見やり、少し驚くようにいった。
「あのミズガルズ図書館の調査隊が、遺跡に侵入していたとは驚きだ」
 アーサーが、「侵入って……そりゃねえぜ〜」と愚痴を漏らした。その気持ちは少し分かる、と心の中で同意した。
「驚かせて失礼しました、執政院の方よ」
「ええ!?」
 私は驚きの声を上げる。私の目線は挨拶をしたサイモンに移っていた。驚く様子を見て、ラクーナが「どうしたの?」と、ささやくようにして問いかける。私はいまだに驚きながらも、ラクーナにささやくようにして返答した。
「だって、あのサイモンが」
「まあ、分かるっちゃ分かるわね……あのサイモンがねぇ」
 ひやりとした誰かの――多分サイモンのものだろうが――視線を感じても、ラクーナは続けていく。その様子が、私にはどこか楽しんでいるように感じられた。
「あの、冷酷ロボット化する優等メディックがねぇ」
 ブツッ
「……あらあら」 「……! きゃあ!」
「…………ロボット、ダト?」
 アーサーが「ひぃっ」と声を上げる。それは正しく‘あのとき’と同じトーンだった。
「オマエラ――」
 サイモンが怒ろうとしたそのとき。
「ごめんなさいすみませんもう本当にしませんから許してください」
「…………アーサー?」
 ある意味の不意をつかれきょとんとするサイモンに、年若いアルケミストは冷や汗をかいて謝ることを止めない。
 ……オレルスが、「きみたちは本当に、晴れなのか雨なのか分からないな……」と苦笑していた。

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