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THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
作者: 多寡ユウ  (総ページ数: 20ページ)
関連タグ: 異世界、リープ、AI 
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10~

*16*



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(死んだ、な)

真っ暗な世界だ。でも、かろうじて思念はある。でも、自分の視界には何も表示されない。真っ暗な世界が広がる。一筋の光もない。僕はアイさんも、隊長三人も見殺しにした。
だったら、この光もないこの世界にずっといる方がましだった。


もうこの世界で、ずっと過ごしたい。そう思っていた時、いつぞやに聞いたピコン!という音を立てて、僕の視界にポップアップが表示された。

(・・・・・・・・・)

そこには、例のごとく、電子的なポップアップメニューの囲いの中に、一つの質問と、YES or NOの選択肢が表示されていた。

「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」



またこの質問だ。何回やらせるんだ。この質問に答えたところで、何にもならない。状況は変わらない。ジェイソンも最後に言っていた、ジェイソンには勝てない。そういうシステム設定がされている。隊長も殺されていた。アイさんも殺されていた。だったら、ジェイソンに勝てる人間は、レジスタンスにはいないということだ。

ここで、もう一度、戻ってもなににもならない。

意味なんてないんだ。

だから。

僕は静かに死にゆくことをえらぶ。

あんな思いをして、結局結果が同じなら、死ぬ方がマシだ。また、レジスタンスに戻っても、13層のボスには勝てない。だったら、ここでNOを選んで、人生を終えよう。
そうしたら、もう傷つかずに済む。隊長たちも、そして、アイさんの死に顔も、もう見なくて済むんだ。

「NO」のボタンを押して、僕は目を閉じた。

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「君、名前は?」




「え・・・」

気が付くと、僕は森の開けた場所にいた。
そして、目の前には、前の闘いで殺されたアイさんがそこに立っていた。
(アイ・・・・・さん)

僕はアイさんが視界に入ると、目頭が熱くなり、今にも泣きだしてしまいそうになる。
でも、
僕は、NOを選んだはずだ。なのに、なんで、またリセットしているんだ。
困惑と嬉しさのまじりあった非常に複雑な心境になった。そして、ここはどこなんだ。
森の開けた場所で、なぜか僕の周りは燃え盛る炎で囲まれている。
(どこかで。このシーンを僕はみた・・・・はず。・・・・・・・まさか)

これは、アイさんと初めて会った時だ。
なんでだ。NOを選んだんだから、もう一度やり直すなんておかしいはずじゃ・・・・。
いや、待てよ。確か、あのポップアップメニューに書いてあった文字は、
「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」
だったはずだ。ということは、NOを選べば、
(二つ前のセーブ画面に、戻るっていうことか?)

なぜこのタイミングがセーブ画面になっているのかは皆目見当がつかない。それでも、あそこでNOを押しても、アイさんと出会う前の自分にもなれないし、ましてやあのまま死ぬことも不可能ってことか。

(なんだそれ・・・・・・・)

僕がアイさんと一緒にいても、アイさんを殺す運命は変わらない。アイさんの死は、必ず起こる。なぜなら、アイさんは13層攻略をするはずだからだ。しかし、レジスタンスが13層攻略をしても絶対に勝てない。ジェイソンは僕は死ぬ前に言っていた。「僕にはぜーったいに勝てない💛システムでそうなってるんだお💛」って。ということは、いくらレジスタンスが、13層攻略に挑んだところで、この世界の理の上だと、あのエネミーには勝てないんだ。ましてや、隊長や、僕たち隊員が危険な目に合ったら、必ず駆けつけて、アイさんは身代わりになって死ぬ。それは一回目と二回目で実証済みだ。隊長たち三人も、アイさんが死んでからジェイソンにものの一時間たたずに、首だけ残されて殺されてしまった。残りの隊員たちも、あの時全員死んでしまったと考えるのが自然だろう。

だったら、どうやっても、ジェイソンにはかてないじゃないか。
僕は何もできない。アイさんをしに行く運命を前にして、逃げ出した。そして、隊長たちをも見殺しにしてしまったんだ。

「うっうっ」

なんて情けないんだ。僕は。
そんな自分のふがいなさに、涙した。
いっそこのケルベロスの時に死んでいればよかったんだ。
アイさんに助けられるような人間じゃないんだ。僕は。



「君、どうかしたか?」



僕が泣いていると、初対面であるアイさんが声をかけてくれる。
アイさんはこの時僕と初めて会ったはずだから、突然助けた人が泣き出したんだ。驚くのも無理はないだろう。

「いえ、なんでも、ありません」

僕は最後に振り絞って、それだけを言った。もし、アイさんに、レジスタンスに勧誘されても、断ろう。そう心に決めていた。

「そうか、それならいいんだが。それで君、名前は?」

「ユウキです・・・・・・・」

「ユウキ君・・・・か。いい名前だ。君の勇気を買おう。ユウキ君・・・」

多分、ここで、アイさんは僕をレジスタンスに勧誘するはずだ。これが本当に過去ならば、ここでアイさんは僕を勧誘する。
でも、それを僕は断らなければならない。僕がいても足手まといになるだけだ。アイさんにとっても、僕がお荷物になって、守らなければならない人間が増えるのは、つらいことになる。

だから、僕は。


「すみません・・、僕はあなたと一緒には・・・「君、どこかで私とあったことはないか?」」


アイさんから、思いもよらぬ発言が飛び出して、僕の独白はさえぎられた。


「えっ、それって。どういう」

「いやな、勘違いかもしれないんだが。君が、この前、私の夢の中に出てきたんだ。同じ釜の飯をたべて、ダンジョンにももぐって、そして、私の宿敵に君が殺されるのを、私が防げた。そんな夢だ。いや、何を言っているのか。分からないだろうがな。いや、気にしないでくれ。ところで・・・、君のほうこそ、何か言おうとしていなかったか?」

「・・・・・!!!!」

(アイさんの記憶の中に、僕が残っている)
そんな、馬鹿な。そんなこと、一回目のリセットの際には起こらなかったはずだ。
なんで。
「なんでアイさん・・・」

「?????、なぜ、君が私の名前を知ってる??まだ名乗ってはいないはずだが」

「っ!いや、これは、あ、なんかどこかで見たことがある顔だなと思って、あなた、一応有名な人らしいですよ」

全力でごまかした。すると、意外とアイさんは騙せたようで、アイさんは「そうなのか?」と少し照れながら応答してくれた。
(一応、信じてくれたみたいだな)

「まあいい。君を私たちのクランに勧誘したいんだ、我らのクラン、レジスタンスへ」

ついに、アイさんが勧誘をしてきた。
でも、これを断る必要があるんだ、僕は。

「いえ、スミマセン。入りません」

「・・・、そうか。残念だな」

「スミマセン」

「理由を、聞いてもいいかな」

「・・・・・・僕は、僕は、本当はアイさんと一緒にこうやって話せるような人間じゃないんです。かっこ悪いし、泣き虫だし、臆病者なんです。それなのに、アイさんは、僕にいろんなことを教えてくれて、何度も助けてくれて。それなのに、僕はアイさんを前にして、逃げ出すような、最低な人間なんです。アイさんよりも弱くて、敵を前にして、仲間を置いて逃げ出すような、そんなダメな人間なんです。僕は、だから、僕は、お力には、なれません」

あなたの力にはなれません。あなたの力になりたいです。あなたには沢山助けてもらった。一緒に過ごしていて、本当に楽しい人たちにも出会わせてもらった。
あんなに楽しい日々は僕の記憶の中では、初めてだった。
だけど、そんなあなたたちを僕は死なせてしまう。
だから、僕はいないほうがいいんです。
あなたは地獄から何度も僕を救い出してくれた。
僕は、生き返ったあなたを、抱きしめることも、できないんです。

「だから、一緒には、いけません」

「・・・・そんなにも、己を卑下するな、ユウキ君」

(っ、でも本当のことなんです。アイさん。アイさんはまだ知らないかもしれないけど、これからアイさんの下で、僕がする行動は、そんな最低なクズのやることなんです)

「私も、愚かで無力な一人の人間でしかない。君と同じ場所に立ち、君と同じ空気を吸い、君と同じ言葉をしゃべる人間なんだ。私も自分を悲観することはあるし、自己嫌悪に陥ることもある。だから君と私は同じなんだ。ユウキ君。多寡がこの2mが、君にはそんなにも遠いのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

(ええ。遠いです。あなたのような、周りを守るために、命を犠牲にできる人の横に立つことは。あなたのような眩しい人の横にいることが、僕にとってどれほどの重圧なのか、あなたにはわからない)

「アイさんは、僕を地獄から救い出してくれた。それだけで、僕には十分なんです」

アイさんたちをこれ以上、危険な目に合わせたくない。僕がいても足手まといになるだけなんです。アイさん。

「そうか・・・・・・・・・残念だ」

「・・・・・・・・・・」

僕たちの間で、沈黙が流れた。
そして、僕はレベル8のまま、これから隅っこで生きていくことを決めたんだ。
僕が失礼します、と言って、アイさんの元を去ろうとすると、

「ユウキ君。私はいくつか、君に隠していたことがあったのだ」

「・・?なんですか」

隠していたこと?って、今あったんだから、隠していたことなんてあるはずない。

「私は今君にあってから、二つの嘘をついた。ひとつは、君を夢でみたということ。もう一つは、」

一拍おいて、アイさんは改めて、帰ろうとしていた僕を見つめていった。

「君に会うのが初めて、と言ったことだ」



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