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*17*
「?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。というか、この時は、何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「アイさん、どういうことですか」
「ああ。まず一つ目だが、私は君を夢で見たといったが、あれは嘘だ。正しくは、君と同じ釜の飯を食べ、ダンジョンで修業をし、13層のボスであるジェイソンに立ち向かった。レジスタンスの仲間たちとともにな」
「!」
(どういうことだ。アイさんは何を・・・)
「そして、二つ目の私と君が会うのが初めてだということだ。これは真っ赤な嘘だな。私は君に会ってから、三か月は経過している。そうだな?ユウキ君」
「!!・・・なんで、そんな…馬鹿な。そんなことあるわけ・・・」
だって、アイさんは僕の初めてのリセットの時に、僕がリセットをしたことを知らない様子だった。
「ああ、通常の場合なら、そんなことはあるわけがない。だが、私と君という場合だったら、話は別だ。私はな、ユウキ君。このゲームに二人しか存在しない、AIなのだ」
??????????????
言っている意味がさっぱりわからない。
「すまないな。君にどうにも嘘をつきすぎた。だが、しかし、わかってくれ。ほかの隊員たち、つまりNPC達を説得するためには、いろいろ嘘をつかねばならなかったのだ。順番に説明しよう。この世界のことと、そして、私が何をしようとしているかを」
アイさんは、ことの次第を説明してきた。
アイさんにはたくさんの嘘があった。
まず、この世界が作られた世界で、他の世界は別にあるのではないかという話。
「あれは嘘だ。いや、正確には、嘘ではないが、真実ではない。真実は、100%、この世界は仮想ゲーム空間であり、本来の世界が別にある」
「そんな・・・・・・」
「本当だ。この世界は、日本の宇宙開発会社JAXAと、仮想ゲーム空間を取り扱う仮想空間創造所リベラル社で作られた世界、通称:JBだ。仮想ゲームの世界なんだ。ユウキ君。君がこの世界にフルダイブした際に、過去の記憶はすべて一度、クラウドサーバー上に保存され、君は新しい人間として、この世界にやってきた。つまり、記憶を書き換えられて、この世界に存在するわけだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕には母親や、父親がいます!そしたら、ぼくの過去の記憶は残っているじゃないですか!」
「無論、本来の母親と父親ではないよ。先ほど逃げ帰った三人組も、君の本当の友人じゃない。この世界、JBのプログラムによって作られた超高性能なNPCだ」
「そ、そんなことって」
「あるのだ。ユウキ君。そして、君は今まで、二回のコンティニューを行った。そうだね?」
「・・・はい、そうです」
「一回目のコンティニュー。君はリセットと呼んでいるが、このリセットの際に、私は過去の記憶を知らずに、君と初対面であった顔をした。そうだね?」
「間違いないです」
あの時のアイさんは、僕と会うのは初対面という顔だった。僕がリセットしてきたという話を、馬鹿正直に信じてくれたが。
「すまない。あれも嘘だ。私は君がリセットをしたことも知っていたし、私が君を庇って、そのあと、君がジェイソンにやられて死んでしまったことも覚えている。そして、レジスタンスの本拠地で君と、再び落ち合ったことも、全て覚えていたよ。知らないフリをして、他の隊員には言わないでおいてくれ、なんて言ってしまってすまなかった。君が初めて13層からコンティニューして時間をさかのぼった時、私は君を無条件で信じた。そうだな?」
「はい、そうです」
確かにあれはおかしいと思っていたんだ。アイさんは僕が言ったことを意外とすんなりと受け入れてくれたし、なのにだれにも言うなとかいうし。
「あれは、私も13層の記憶を引き継いでいたから、信じたのだ」
「!!!・・・なんで・・、それを今まで黙ってたんですか」
「そうだな。正直な所、言ってもよかったとおもっている。しかし、他の隊員に君のそのリセットの存在を知らせるわけにはいかなかったんだ。なぜなら、君のリセットの力は君しかもっていない力だからだ。もし君の力をNPCが聞いて、それをJBシステムが感知でもしたら、私の計画がご破算だからな」
「・・・・言っている意味が分かりません」
「ああ。コホン。つまりだな。私の他の隊長たち、隊員たち、全員が、NPCなのだ。つまり、現実世界には肉体をもたない。この世界の住人なのだよ」
「!」
「そして、この世界の住人達に、君がリセットの力の存在を気づいたと知られるのはまずかったのだ。NPCは、直でJBと連絡経路を持っている。NPCが、君がリセットの力を持っていると気が付いたと、インプットしたら最後、JBに見つかり、君は強制的に、この世界からは退場となる」
「な、なんで。そもそも、なんで僕にリセットの力があるんですか。もし、僕がリセットできなければ、この問題はないはずじゃ」
「この機能は、私が本来の世界にいた際に、つけてもらったものだ。プレイヤーにはリセットの機能を付けてほしい、そう私から懇願した」
「アイさん・・・・、アイさんは何者なんですか」
「私は先ほども言った通り、AIだ。この世界に二人しかいない、な。そして、私のAIの知見は、すべて元の世界にいるもう一人の私がベースとなってできている。だから、このアバターは私であって私ではない。いわゆる、残留思念ってやつかな。だから、私はこのゲームの中で作られたNPCとも違う。本来の世界の記憶を持つ、人間の記憶を持つAIなのだ」
「・・・・・・話が、すごすぎて。何がなんやら」
「まあ無理もないな。私も説明せずに悪かったな。すまない」
「いえ・・・・、でも、もう一人のAIって誰なんですか」
「それは君も知っている通りだよ。私意外にも一人、圧倒的にこのゲームで強いやつがいるはずだ」
「・・・隊長たち・・・ですか?」
「ははは。隊長たちも強いが、あいつらはさっきも言った通り、NPCだ。私の掲げるこの世界からの脱出という大義についてきてくれた、仲間でもある。しかし、AIではない」
「そしたら・・・・・・もしかして、ジェイソン?」
「そうだ。ユウキ君。ジェイソンのフルネームはわかるね」
「ジェイソン・ボーヒーズ、ですよね」
「そうだ。頭文字をとってみろ」
「J?・・・・B?・・・・・・・JB・・・、JBですか。もしかして・・・」
「そうだ。ジェイソン・ボーヒーズ。13層のボスエネミーであるあやつは、エネミーではない。この世界、JBの生みの親にして、私の上司でもある仮想空間専門教授:ジェイソン・ボーヒーズその人のAIなのだ」
「生みの親が、ラスボス、ってことですか?」
「ああ、そうだ」
「でも、あの人がラスボスだったら、13層から下の87層はどうなっているんですか。ラスボスなのに、その下にラスボスがもっといるんですか」
「結論から言おう、あやつで最後だ。つまり、13層から下は、14層しか存在しない。このダンジョンは、私の先輩であるJBが作った世界だ。ユウキ君は、人類創世記というものを知っているか?」
「えっと、神様は七日間でこの世界を創ったとかいうやつですか」
「そうだ。旧約聖書にしるされている、アダム誕生以前の話だな。この99層迷宮は、それがモチーフになっているのではと私は推測している。
一日目に、神は天と地を創造された。
二日目から四日目は、自然環境の整備。
五日目に魚や鳥などの生き物、
そして六日目に人間を作り、七日目は休息をとっている。
しかし、これには続きがあると、JBは昔に言っていた」
「それは?」
「ああ、神様は七日間でその後、この世界を滅ぼしたらしいのだ。
一日目に、人間を焼き殺し。
二日目に、生き物をすべて殺し。
五日目までに自然環境を破壊し、
六日目までに天と地を破壊した。
そして、七日目はその破壊した功績に満足し、休息をとったというものだ」
「で、でも・・・・。それと、99層迷宮には、何の関係が」
「ああ、ユウキ君。
私のこれが私の今までの冒険の記録だ。
一層は、陽だまりの怪物である動くヒマワリ、
二層は、空を司るオオタカ、
三層は、強敵になり植物型のモンスターである大樹モンスター、
四層は、太陽と月を司る人工衛星型モンスター、
五層は、バハムートと呼ばれる魚に羽が生えたモンスターで、
六層は、最初の人類アダム。
七層は、エネミーが存在せず。
八層は、人間破壊兵器ポイズンゾンビ軍団
九層は、汚水王と言われる醜男
十層は、太陽と月を破壊する闇の王
十一層は、森を枯らす火焔魔
十二層は、空と地を支配する精霊王
十三層が、ジェイソン・ボーヒーズ。私のよく知っている先輩と同じ名前をしたエネミーだ。」
アイさんは今までの戦闘の記録を振り返りながら、教えてくれた。
すごい戦闘の数々だ。どれも強そうなエネミーばかり。アイさんの率いるレジスタンスの強さを物語っている。
「だから、私はこう考えている。この99層迷宮は、先輩が好きだった旧約聖書とその続きがモチーフになっているのではないかとな。これに気が付いたのは、七層にたどり着いた麦畑の以降のだったが」
長きにわたる戦いを思い出しているのか、アイさんが物思いに更けていた。
しかし、仕切り直しと言わんばかりに、キリッと僕の方を向いて、説明を続ける。
「この迷宮が、99層と名付けられているのは、プレイヤーに挑戦させないためだろう。
99層迷宮は、正確には99層迷宮じゃないと私は読んでいる。
というよりは、必要がないんだ。99層も。どんな挑戦者も、13層で止まってしまう。なぜなら、ジェイソンは、私たちが勝てる設定のエネミーではないからだ。99レベルを全員揃えて、200人もの大群で挑んだところで、あやつには絶対に勝てん。そういうプログラムなのだ。だから、99層もないのだよ。あの迷宮にはハナからな」
「・・・・・・でも、アイさんが前に。99層全体のマップを見せてくれたじゃないですか、透明化のスキルで。あれはなんだったんですか」
「ああ、透明化のスキルか。あれはもな、はったりだ。すまん。私のスキルは、透明化のスキルではない。
ただただ、オブジェクトを視認して、それを投影するAIとしての権限があるのみだ」
「でも、99層の扉を見せてくれたじゃないですか」
「すまん。AI権限でちょこちょこと改ざんを加えた。だますつもりはなかったんだが、他の隊員NPC達も高性能なコンピュータが内蔵されているから、完全にNPCたちをもだます必要があったんだ。すまない」
「・・・・そうだったんですね」
「確かに、あの力があれば、ジェイソンの位置がわかりそうなものですもんね」
「ああ、わかるよ、あの力があればな」
「えっ、じゃあどうして、ジェイソン戦の時に、あの力を使わなかったんですか」
「ああ理由はな、私がAIとしてこの世界にせんにゅうしていることを、バレてはいけないからだ。ジェイソン、いやJBは未だ、私がアイという名前を使って、この世界にAIとして忍び込んでいることを知らない。もし知られたら、私が妨害しようとしているのが、分かられてしまうからな」
「・・・アイさんは、どんな妨害をしようと企んでいるんですか」
「決まっている。プレイヤーの脱出だ」
「プレイヤー、ですか?」
「ああ、そうだ。この世界には、ただ一人だけ、プレイヤーがいる。現実世界からこの世界にフルダイブしている生身の体を有する人間がただ一人」
「・・・そんな、まさか」
「そうだ。リセット、つまり、コンティニューの力を持っている君だよ」