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*18*
アイさんの話はまだ終わらず、ケルベロスの魔炎は徐々に時間とともに、消炎されていった。
「私はずっと正規プレイヤーを探していたんだ。なぜなら、このゲームを唯一クリアできるのは、プレイヤーの属性を持っているものだけだからだ。AIの私や、AIのジェイソンがこのゲームのクリア条件を満たしても、クリアにはならない。だから、私はこの世に一人しかいない正規プレイヤーを探していたんだ」
「それで、正規プレイヤーっていうのは、」
「ああ、それが、コンティニューすることができる君だよ。この世界は、君だけのために作られた大規模仮想空間なわけだ」
そんな、僕の両親も、薬局やのおばちゃんも、すべてぼくのために作られたNPCだった、のか。あのいじめられた日々も、すべて、この世界がシステムで組んだことってことか?
「私は、長らくプレイヤーを探していた。八層から先に、ジェイソンがいた時のために、プレイヤーのコンテニューの力が欲しかったのだ。私はこの仮想空間を探し回った。時には人を救い、時には盗人の中にいないか見て、文字通りくまなく、探した。そして、君を見つけたんだ」
アイさんは僕に笑いかけながら、僕を見て言った。
「NPCは自分よりもレベルが高い相手を前にするとき、逃げるというプログラムになっている。そういう動作が組み込まれているからだ。君の仲間であった、あの三人組が、ケルベロスから逃げたのも、同じ原理だ。
そして、私たちレジスタンスの隊長はジェイソンに攻撃をするが、隊員は大樹のねっこにしか攻撃をせず、ジェイソンには攻撃できないのと同じ原理だな。よって、推奨レベルが90あるジェイソンに向かって攻撃を放つことができるのは、隊長たち三人と、私だけということだ。つまり、レベルがジェイソンと同等かそれ以上のNPCであれば、ジェイソンに攻撃ができる。
つまり、ケルベロスや、ジェイソンに攻撃できるのは、ユウキ君。君のような“プレイヤー”かもしくは私のような“AI”に限るというわけだ」
アイさんは自分のメニューを開けると僕の方に向かって、そのメニューを移動させ、こういった。
「すると、やはり私の見た通り、君のアイコンは、NPCのアイコンではなかった。自分のアイコンを見てみろ、他のNPCは緑なのに対して、君は赤色。これがプレイヤーのサインだ。近くに近づかないと、わからない仕様になっているがな」
君に会えてよかった。と付け足し、アイさんはジェイソン戦に僕が必要だという。
「この世界唯一の君だけがローディング、つまり前回のセーブデータに戻るを選択することができる。その力を、私に託してほしいのだ、頼む」
「あの時僕を助けてくれたのは、慈悲、だったんですか」
「慈悲、か。そんなもので、君を助けたわけじゃないよ、ユウキ君。私は、君の勇気に惹かれたのだ。この子なら、何かやってくれるかもしれないと。ジェイソンを倒す人間の一人になってくれるのではないかと、そう思わせるものが、ユウキ君。君にはあったのだ」
「それは、僕のプレイヤーとしての力が欲しかったからですか・・・」
「それも否定はできない。ただ、これだけは信じてほしい。君の勇気を買ったのは本当だ。これは、プレイヤーだからではない。君がケルベロスに立ち向かう勇気あるものだった。それが私が君と一緒に戦いたかった理由だ」
「・・・・・僕以外にリセットの力を持っている人はいないんですか?」
「いないな」
「僕以外は、プレイヤーがいないからですか・・・」
「そうだ。この世界は君のための世界だからだ」
「・・・なんで僕の力が必要なんですか」
「13層のクリアの手段を知り、君をもとの世界に戻すためだ。その準備はすべて整ってある」
「僕がもし、このゲームをクリアしたら、この世界はどうなるんですか」
「崩壊するだろう。ユウキ君というプレイヤーをなくしたこの世界は、存在意義を失う」
「僕がクリアしたら、アイさんもいなくなるってことですか」
「私は、いなくならないよ。私というAIはいなくなるが、私という人間は居なくならない、AIとしてのアイは居なくなるが、桜田アイとしての私は、元の世界で君を待っている」
「・・・・・・・・・・」
「君には、元の世界を、再建してほしいのだ」
「元の世界の、再建??」
「ああ」
「元の世界はどうなっているんですか?」
「急速に進む高齢化問題・食料不足、そして米中露で起こった大規模な大核戦争を読んだ第三次世界大戦により、世界は荒廃し、大気は汚れ切っている。もはや世界には希望がないと、誰しもがそう言っている。そんな絶望的な状況だ。火星移住計画もとん挫し、この仮想空間移住計画で、全人類を100年にわたる眠りにつかせている。」
「なんで、アイさんは、そんな世界に僕を送りたいんですか」
「私と一緒に、この世界を立て直してほしい。仮想空間で100年の時を生きて、あっちでヨボヨボの体で、覚醒しても、何もできやしない。若いからこそ、今の地球にできることがあるんだ。地球のために、力を貸してほしい。ユウキ君。現実世界の地球を立て直すために、君の力が必要なんだ」
「・・・・・・・・・・地球のためとか、僕は知りません。ましてや、その記憶が消されてしまってないんですから、救いたいとも思いません」
「ああ・・・、最もな意見だな」
「でも、僕はまだ、アイさんに返すべきものがあるんじゃないか、と思うんです」
「返すべき、もの?」
「そうです。あなたは、僕にキラキラしたものを見せてくれたんです。レジスタンスの全員が好きです。リュウが好きです。ゴウが好きです。サユリが好きです。そして、アイさん、僕を地獄から助けてくれたあなたが好きです」
僕は何度同じ過ちを繰り返すんだろう。
またやっても負けるかもしれないのに。
「僕はあなたに会って、“人”を好きになることを学んだんです。タクムたちにいじめられて、“人”を好きになれなかった僕に、人を好きになることを教えてくれたんです」
どうせ、ジェイソンには勝てないかもしれないのに。
「だから、そんなあなたが、この世界が楽園じゃないというなら、僕は信じます。大切なことを教えてくれた、あなたを信じます」
どうしてこんなにも、アイさんのために生きたいと思ってしまうのだろう。
「だから、僕はもう一度、闘います。ジェイソンと。そして、現実世界で、あなたに会いに行きます。必ず」
アイさんはにっこりと笑うと、僕めがけて駆け寄り、僕をぎゅっと抱きしめた。
「・・・・・ありがとう。私の口と、耳と、心で、君の存在を覚えている。君がジェイソンを前に殺されてしまって、コンティニューした時、平常心を装っていたが、内心、不安だったのだ。もう、ついてきてくれないんじゃないかと。だから、あんな顔をしてしまった」
そうか、アイさんが、レジスタンスの本拠地にリセットして戻った時に、あんなに思いつめた顔をしていたのは、それが理由で・・・。
「ユウキ君。ありがとう。私についてきてくれて」
アイさんは目にいっぱいの涙を浮かべ、僕をもう一度ぎゅっと抱擁し、ばっと離した。
「おし!こうしちゃおれん!すぐに作戦会議だ!ユウキ君、今日には、現実世界で君と会えるのを、楽しみにしているぞ!」
「・・はい、やってやりましょう、13層攻略!」
3度目の戦いの火ぶたが切って落とされた。
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僕は死ぬ間際に合った出来事をアイさんに話した。
すると、アイさんはなにかに気が付いたように。
「13層の攻略は、ジェイソンを倒すことではなく、その扉で下に降りることではないか?」
という結論を導き出した。
そうして、月日は流れ、一か月が過ぎ、僕は前回と同じように、ローグ隊としてレベル50までリュウさんに特訓を受けた。
他の隊員も、全員、敵エネミーのせん滅よりも、いち早く14層への扉を探せるようにするため、素早さのステータスをあげた。
決戦の日に挑んだ。
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「作戦通り、10個の小隊に分けて、扉を探す!」
そうして、僕とアイさんは同じ隊で、森の中の扉を探していた。この森は、とてつもなく広いフィールドのため、100人全員で探すのは一苦労だ。そのため、10人の小隊で分けて探すことで、扉を見つけやすくした。すると、
僕とアイさんのポップアップメニューに一本のメッセージが入った。
「to: all それらしき、扉確認。位置情報を送ります」
よし、ビンゴ。作戦は的中だ。
あとはここから、そこに移動して、その扉をくぐるだけだ。
ここからの距離は、
「ざっと、2キロ!アイさん!」
「ああ、向かうぞ!」
攻略はついに大詰めを迎えようとしていた。
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