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*17*
むうです。第2章は4月1日からと言っておいてアレなのですが
プロットを書いていたら、書きたい欲が抑えきれなくなってしまいまして。
少し早いですが連載始めちゃいます! よろしくお願いします。
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第5話「要らない力」
〈宇月side〉
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
天気は曇天。灰色の絵の具をぶちまけたかのような雲に覆われて、お天道様は姿を隠していた。
雨のせいで外出する人は少なく、家の灯だけが夕方の暗闇に映し出される。
しかし現在、閑静とした街の空気に、ボクの地面を蹴る音と荒い息づかいが混じっていた。
「くっそ、たれ……っ!」
「ケケケケ……ケケケケ……」
ボクは背後に迫る敵を睨みつける。蜘蛛のような風体をしている化物だ。黒くて丸い球のような体に、人間の腕が二本生えている。
その腕を使って、地面を這うように動く。
それはまるで有名な害虫・Gのようだ。
「なあ、おい篠木(しのき)! いつまで待たせんのや、とっとと来らんか!」
ブーブーブーブー。
白衣のポケットにしまっていた通信機器に向かって呼びかけるも、応答はない。
今回の作戦内容は、襲って来た悪霊をボクの能力・操心術(マインドコントロール)でひきつけ、仲間が合流する時間を作り、他のハンターによって倒すというもの。
なのにさっきから連絡は来ないし、キモい悪霊は近寄ってくるし、力の使い過ぎで頭がクラクラしてきたし。
「こ、この土壇場でドタキャンとか頭いかれてるんか……? それとも都会の能力者は、地方からやってきた奴なんてどうでもいいのか……!?」
「ケケ、ケケ!」
もしこのまま来なかったら。悪い予感がする。
と、化物がいきなりこちらに突進してきた。大きな腕が眼前に伸びる。魚を捉える網のように、その掌は広く分厚かった。
「っっぶな!……う゛!」
ギリギリのところを飛んで回避したはいいものの、キーンと耳の奥が鳴った。
能力使用の代償で、一回使うごとに体のあちこちが痛みだすんよな。
今日はまだ頭痛だけで済んでいるけど、これ以上使い続ければ……。
「おい篠木! なあ、返事しろ! おい……、お?」
電話の通話画面に、かわいい猫のアイコンが表示された。
蚊の鳴くようなか細い、けれどもしっかりとした女性の声が響く。
『す、すみません夜芽様! こ、こちらも、大変戸惑っておりまして……』
「ケケ……ケケ!」
「……なかなかしぶといな。 ………この! 〈操心術:一式〉解放!!」
「グ………ァァァァ!」
『夜芽様、どうされました?』
「……はぁ、いや、大丈夫……なんでもない」
電話の応対と攻撃の防御とマインドコントロール。マルチタスクを頑張る自分エライ。
あかん、体力だけじゃなく思考まで馬鹿になっとるみたいや。
今は、あのG(いや化物)が戦意を消失するように操ってるけど、アイツ中々しぶとい。
ちょっとでも気を緩めたら終わりだ。
ボクの力はあくまでサポート専門。攻撃手段として用いるのも憚られるような、汚い能力や。
「戸惑ってるってなんや? どうかしたん」
『そ、それが、そちらに向かう道中で多数の悪霊の襲撃にあいまして。対処するのに精いっぱいで、そちらへ向かうのが難しくて……』
ふうん。多数の悪霊の襲撃ねぇ。
この路地の位置は、あのアパートから北西に二百メートルってとこやな。
あらためて、すっごい効果やなあ。
「あー、オッケー。そういうことなら、こっちもなんとかやってみるわ。忙しいとこ悪いな」
『いやいや、そんな。でもなんでこんなに数が多いんでしょう』
痛いところを突かれて、ボクは顔を見られているわけでもないのに視線を彷徨わせた。
「あー、あれとちゃう? 少子高齢化とか」
『そうなんですか? なんにせよ、前はそこまでじゃなかったのに変ですね。じゃ、じゃあ私戦闘に戻りますねっ。ご武運を!』
「了解。ボクもまあ、できるだけやってみます」
ボクは携帯の電源を切って再びポケットにしまうと、深呼吸をして気持ちを静める。
肩の力が抜けるのを実感してから、「ケケケケ」と不気味な音を立てている化物を見上げた。
あんな体質になってしまったあの子に同情したい気持ちもあるけれど、正直、目の前の化物も篠木さんが戦っている霊の集団も、全部コマリちゃんのせいやろな……。
美祢は「俺が守るから」とか「いい霊の力を」とか言ってるけど、ボクとしては、そんなことで治るような簡単な話ではない気がする。
人が逆憑きになる、根本的な原因がきっとどこかにあるはず。
それがどんなもんかは予想がつかないわ。何事もゆっくり取り組まないといけんな。
さて、まずは目の前の敵さんから始末するとしましょか。
「退魔具使うんは慣れんけど、まあいっか」
ボクは白衣の内ポケットから、黒色の護符を取り出す。夜芽家に伝わるこの護符は、念を籠めるだけで自由自在に形を変えるのだ。
「〈操心術:第二式〉黒呪符(くろじゅふ)」