完結小説図書館
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*23*
有言実行をしない作者でスミマセン。
書きたい欲がまた抑えきれませんでした。
もうこれからは告知しないようにしよう……。
あ、今日は二話投稿です。よろしくお願いします(これは本当です)
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〈XXside〉
不審者の定義を聞かれたら、『危ない人』と答えるのが一般的だよね。
学校とかで先生に習うような、黒い服に黒いズボン・黒帽子の男性をイメージする人も多いだろう。あるいはストーカーとか、痴漢とか。どっちにしろ「変なことをしているヤバい奴」というのは共通だ。
じゃあいまこうして電柱の上に立っている僕も、変質者扱いされるんだろうか。
「ちょっと待って猿ちゃん。こっから僕どうすればいいわけ」
なんでそんなとこに登ってんだ! とか、いやお前まずお前頭大丈夫か? とか、色々あるだろうけどひとまずは心の中にしまっておいてほしい。
状況を整理する時間を、少しだけちょうだい。
場所は市街地のどっかの柱。
何とも曖昧な表現で申し訳ない。方向オンチすぎて、自分がいる方角が分かんないんだ。
ああいや、実際は方角どころか自分の状況すら把握できていないんだけどね。
電柱の上に立っている、というのは語弊がある。
ごめんなさい訂正します。僕は電線の上に立っています。
いや、人間がやることじゃねえだろと怒鳴りそうになった画面の前のきみ。その通り。
これは人間が出来る行動ではない。電気屋さんでも、電線の上を歩こうとはしないだろうし。
「猿ちゃん! ああもう、こっから降りるのめちゃくちゃ怖いよぉ! 登って満足するのやめてよぉ……。言ったでしょ、僕高いとこ無理なんだよぉっ」
両足がガタガタと震える。
それでもなおバランスを崩さないこの身体は、やっぱり人離れしてると言えるんだろうなあ。
さっきからまだるっこい受け答えでごめんね。
ハキハキ話せたらいいんだけど、どうも僕は他人より動作が遅いみたい。ひとつの出来事を処理するのに、三分は使っちゃうんだ。
ええっと。どこまで進んだっけ。
ああ、そうそう。〈つまるところお前ってなにもんなの問題〉の話だね! コホン。
うーんと、何と説明したらいいんだろう。複雑な事情がたくさんあって、どこから語ればいいか。
と、ボフッッと音がして、僕の胸の辺りから白い煙が噴き出た。
「わっ、ちょ」
もくもくと立ち昇る煙の中に、うっすらと人影が見える。
中から現れたのは、背の低い和装の男の子だった。
白い羽織に黒の袴。浅葱色の長い髪は、後ろでひとつまとめにして白いリボンで縛ってある。
口からのぞかせた八重歯と、いたずらっ子のような目を持っていた。
男の子は、オドオドビクビクしている僕に向かって、犬のように吠えた。
「おい由比(ゆい)! テメエいつまでボーッとしてんだよ! さっさと降りろ! 通報されるぞ!」
「さ、猿ちゃんが僕の身体コントロールするから悪いんでしょ? 景色いいとこ連れてってやるって言うからオッケーしたのに、こんなの聞いてないよっ」
流石にカチンと来て言い返すが、彼―猿ちゃんは「はぁぁ?」と肩眉をひそめる。
あ、この子の名前は猿田彦(さるたひこ)。
のんびりペースの僕を奮い立たせてくれるパートナーだ。
ちなみに、なんとこの子、道案内の神様……らしい。
口調や立ち振る舞いのせいで、いつもその設定を忘れそうになる。
それを猿ちゃんに言って、
『設定って言うな。あと俺は猿田彦命(さるたひこのみこと)だ。省略すんなボケ』
と返されるのが日常茶飯事だ。
「ちゃんと許可を求めただろうが俺様は! 大体なあ、テメエ幽霊なんだから高いも何もねえだろ? ヒュンと降りれば済む話をダラダラ引きずるな戯(たわけ)が」
「? たわけってなに? たわしのこと?」
「阿呆(あほう)!!」
そ、そんなに怒らなくたっていいじゃん。知らない言葉だったんだもん。
至近距離で叫ばれて、心臓がキュッとなる。
「はぁぁぁぁぁ。折角協力してやってんのに、モタモタしやがってよ。ったく。なんで俺様が、こんな人間なんかと。子守なんてしたことねえっつの」
猿ちゃんは荒ぶる気持ちを落ち着けようと、頭をポリポリかく。
折角綺麗に整えた髪が、一瞬でボサボサになった。
こういう、ちょっと乱暴なところがまさに男の子って感じがして、僕は好きだ。
「ふふふ。猿ちゃんが優しい神様で良かったよ、僕」
「ああん? 神に優しいも何もあるかよ」
「あるよ。僕を助けてくれた。チャンスを与えてくれたじゃん」
自分で終わらせたはずの命を、もう一度刻む機会をくれた。
こんなふうに言い合える勇気を持たせてくれた。
大事な人に会いたいという陳腐な願いを笑わず、なんと実現するために力までくれた。
これを優しいと言わずして、何と呼ぼう。
「勘違いするな。俺様の目的は別にある。テメエを助けたのも、その目的を達成するための任務(タスク)にすぎねぇ。思い上がるなよ弱味曽」
「なんで急にお味噌汁の話? 猿ちゃん和食派なの?」
怒るのにも体力を使うから、それでお腹が減ったのかな。
いいよねえ、お味噌汁。
幽霊になってからご飯は全く食べてないけど、もし食べれるならお豆腐いっぱいのやつが食べたいなあ。
「~~~っっっ! 先ずは常識を知れぇぇぇぇぇ、この白痴(はくち)!」
「ちょ、ちょっと、入るときは言ってって、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
猿ちゃんの身体が再び気体となり、僕の胸に入り込む。
あ、やばい。意識が………遠のく………。
一度も染めたことのない髪が、猿ちゃんの髪色である青色に変わった。
高所に対しての恐怖心は薄れ、代わりに高揚感が高まっていく。全身に力がみなぎっていく。
僕――いや、俺様は電線から一気に飛び降りると、空中でくるりと一回転。
そのまま地面にスタッと足をついて着陸した。
「――さあて。頼まれてた人探しとやらを始めるとするか。今日中に見つかるといいけどよ」