完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*24*
由比の本名は由比若菜(ゆいわかな)です。実は名前ではなく苗字なんですよ。
紛らわしいので一応説明しておくと、
こいとに憑いている神様が「大国主命」、由比に憑いている神様が「猿田彦命」です。
このあとも神様はいっぱい出てくるので、推し神様を見つけよう(推し神!みたいに言うな)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈美祢side〉
「あー、どれがいいか分かんねえ」
俺は、デパートの文房具屋の前で首をひねった。
同居人である月森コマリと暮らして早一カ月。
新生活にも慣れつつあり(&宇月の腕輪の効果でトラブルも少なくなりつつあり)、ようやくフリーな時間が取れるようになってきた。
最近は近くをふらふら散歩したり、オンラインゲームでゾンビを撃ちまくったり、あとは趣味でファッションを研究したりと、あいている時間を自分の為に使うことが多い。
だがある日俺は、ふと気づいたのだ。もうすぐコマリの誕生日だと。
五月八日。ちょうどゴールデンウイーク明けの絶妙な日にちだ。
その二日後・五月十日は、恋愛の神様・こいとの誕生日。
迷惑をかけられてばかりだけど、あいつらが来なきゃ今頃俺は引きこもり一歩手前。
何らかの形で感謝の気持ちを伝えたい。
そう思い、俺は今市内のデパートで、コマリ(&こいと)へのプレゼントを選んでいるのだ。
「そもそもあいつ、何が好きなんだろ」
文房具屋のケースにしまわれた、桃色のシャーペンを手に取る。
こういうの、こいとは好きそうだけど……コマリはどうなんだろう。
文房具も無地のシンプルなものばかりだよな。こだわりとかないんだろうか。
「シャーペン、消しゴム、ノート。女子なら集めそうなもんだけどな」
ハートや星がプリントされた方眼ノートや香り付きの消しゴムの棚にも行ってみたけど、コマリがそれらを使う未来が想像できない。
「似合うとは、思うんだけどなあ」
淡い色合いの可愛らしい小物や洋服。どうせなら何か買ってやりたいけど……。
ああダメだ。人にプレゼントを買ったことなんてないから、何が正解か全然分かんねえ!
俺の中の少ない知識が活用するのは、ファッションくらいか? うーん。考えてみよう。
仮に洋服を買うとすれば、どんなコーデがいいのだろう。ガーリー系? 原宿系? 清楚系?
アイツ、めんどくさがってパーカーとかズボンばかり着るからな。しかもダサいし。
「俺がよく着る、こういうちょっと洒落たパーカーなら喜んでくれるかな」
前にコマリに『プロゲーマーみたい』と誉められたこのパーカーは、黒を基調とし、差し色として蛍光ピンクが使われている。
でもあいつ、こういう派手な色苦手そうだし……ああ、決まらん!
(そもそも、俺なんでこんな必死になってんだ? 同棲してるとは言え赤の他人だぞ)
妹でもない、幼馴染でも親戚でもない関係。親の知り合いの娘。
彼女の体質の件がなければ、多分絡むことはなかっただろう女子。
めんどくさがりでガサツで、不真面目で、やけにハイテンションでドジで。
実を言うと俺は女子が苦手だ。小学校・中学校・高校と、ろくに挨拶もしてこなかった。
でもコマリには、いつだって自然体で話せたんだよな。なぜだ。
「あー、もういい、仕方ない。気は乗らねえがアイツに聞くか……」
俺は肩にかけたショルダーバッグの中からスマホを取り出すと、電話帳のアプリを開く。
一番最後に記載されていた〈夜芽宇月〉の文字をタップし、携帯を耳に当てる。
宇月は大学生だ。年上だし、ムカつくが顔もいいし、女子とも付き合いがありそうだから。
十回のコールで、ようやく電話がつながった。
『もしもし夜芽ですが……』
「なに、お前寝てたの?」
彼にしては珍しく歯切れの悪い口調だ。任務終わりだろうか。
『いや、ちょっと調べ物しとって。今図書館に居るんやわ』
「へぇ。本読む姿が想像つかねえ。ウェブアプリとかで済ませるタイプかと」
『なあ、君らの中でボクはどんな位置づけなん』
「俺にとっては生意気ないとこだよ」
宇月は「はー……」とため息をついた。「確かにウェブ派やけどさ」
『それで、用件は? 美祢からかけるなんて滅多にないやん』
「あー、えっと、その……」
『なんや、話したいことがあって電話したんやろ。言わんなら切るけど』
「いや、その」
コマリの誕生日にプレゼントを贈りたいんだけど、何買えばいいか迷ってて。
文章に変換すれば、なんてことない一文だ。
だが、言葉となれば別。おまけに電話の相手はあの宇月なのだ。べらべら喋って、ネタにされたらたまったもんじゃない。
で、でも、相談したい気持ちは本物で……。
あー、もう、仕方ない! 恥ずかしいけれど、真面目に伝えよう。
「あの、その、コマリの誕生日プレゼントを買いに来てて……」
『ほお。なら切るわ』
「え、ちょ、ちょっと!」
話の途中だというのに、会話を中断した宇月に俺は焦る。
こいつ、人の話を聞くってことができないのか!?
『どーせ、どれがいいか迷ってて、ボクに決めてほしいとかやろ。知らん知らん、自分で決めぇや。そーゆーのは他人が口出したらあかんねん。分かる? ま、そういうことで。またな。せいぜい頑張りー』
「ちょ、宇月てめっ」
あっと思った時には、もう通話ボタンはオフに切り替わっていた。