完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~

*24*

 由比の本名は由比若菜(ゆいわかな)です。実は名前ではなく苗字なんですよ。
 紛らわしいので一応説明しておくと、
 こいとに憑いている神様が「大国主命」、由比に憑いている神様が「猿田彦命」です。
 このあとも神様はいっぱい出てくるので、推し神様を見つけよう(推し神!みたいに言うな)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈美祢side〉

「あー、どれがいいか分かんねえ」
 俺は、デパートの文房具屋の前で首をひねった。

 同居人である月森コマリと暮らして早一カ月。
 新生活にも慣れつつあり(&宇月の腕輪の効果でトラブルも少なくなりつつあり)、ようやくフリーな時間が取れるようになってきた。

 最近は近くをふらふら散歩したり、オンラインゲームでゾンビを撃ちまくったり、あとは趣味でファッションを研究したりと、あいている時間を自分の為に使うことが多い。

 だがある日俺は、ふと気づいたのだ。もうすぐコマリの誕生日だと。
 五月八日。ちょうどゴールデンウイーク明けの絶妙な日にちだ。
 その二日後・五月十日は、恋愛の神様・こいとの誕生日。

 迷惑をかけられてばかりだけど、あいつらが来なきゃ今頃俺は引きこもり一歩手前。
 何らかの形で感謝の気持ちを伝えたい。
 そう思い、俺は今市内のデパートで、コマリ(&こいと)へのプレゼントを選んでいるのだ。

「そもそもあいつ、何が好きなんだろ」

 文房具屋のケースにしまわれた、桃色のシャーペンを手に取る。
 こういうの、こいとは好きそうだけど……コマリはどうなんだろう。
 文房具も無地のシンプルなものばかりだよな。こだわりとかないんだろうか。

「シャーペン、消しゴム、ノート。女子なら集めそうなもんだけどな」
 ハートや星がプリントされた方眼ノートや香り付きの消しゴムの棚にも行ってみたけど、コマリがそれらを使う未来が想像できない。

「似合うとは、思うんだけどなあ」
 淡い色合いの可愛らしい小物や洋服。どうせなら何か買ってやりたいけど……。
 ああダメだ。人にプレゼントを買ったことなんてないから、何が正解か全然分かんねえ!

 俺の中の少ない知識が活用するのは、ファッションくらいか? うーん。考えてみよう。
 仮に洋服を買うとすれば、どんなコーデがいいのだろう。ガーリー系? 原宿系? 清楚系?
 アイツ、めんどくさがってパーカーとかズボンばかり着るからな。しかもダサいし。

「俺がよく着る、こういうちょっと洒落たパーカーなら喜んでくれるかな」

 前にコマリに『プロゲーマーみたい』と誉められたこのパーカーは、黒を基調とし、差し色として蛍光ピンクが使われている。
 でもあいつ、こういう派手な色苦手そうだし……ああ、決まらん!

(そもそも、俺なんでこんな必死になってんだ? 同棲してるとは言え赤の他人だぞ)

 妹でもない、幼馴染でも親戚でもない関係。親の知り合いの娘。
 彼女の体質の件がなければ、多分絡むことはなかっただろう女子。
 めんどくさがりでガサツで、不真面目で、やけにハイテンションでドジで。

 実を言うと俺は女子が苦手だ。小学校・中学校・高校と、ろくに挨拶もしてこなかった。
 でもコマリには、いつだって自然体で話せたんだよな。なぜだ。

「あー、もういい、仕方ない。気は乗らねえがアイツに聞くか……」
 俺は肩にかけたショルダーバッグの中からスマホを取り出すと、電話帳のアプリを開く。
 一番最後に記載されていた〈夜芽宇月〉の文字をタップし、携帯を耳に当てる。
 宇月は大学生だ。年上だし、ムカつくが顔もいいし、女子とも付き合いがありそうだから。


 十回のコールで、ようやく電話がつながった。
『もしもし夜芽ですが……』
「なに、お前寝てたの?」
 彼にしては珍しく歯切れの悪い口調だ。任務終わりだろうか。

『いや、ちょっと調べ物しとって。今図書館に居るんやわ』
「へぇ。本読む姿が想像つかねえ。ウェブアプリとかで済ませるタイプかと」
『なあ、君らの中でボクはどんな位置づけなん』
「俺にとっては生意気ないとこだよ」

 宇月は「はー……」とため息をついた。「確かにウェブ派やけどさ」

『それで、用件は? 美祢からかけるなんて滅多にないやん』
「あー、えっと、その……」
『なんや、話したいことがあって電話したんやろ。言わんなら切るけど』
「いや、その」

 コマリの誕生日にプレゼントを贈りたいんだけど、何買えばいいか迷ってて。
 文章に変換すれば、なんてことない一文だ。
 だが、言葉となれば別。おまけに電話の相手はあの宇月なのだ。べらべら喋って、ネタにされたらたまったもんじゃない。

 で、でも、相談したい気持ちは本物で……。
 あー、もう、仕方ない! 恥ずかしいけれど、真面目に伝えよう。


「あの、その、コマリの誕生日プレゼントを買いに来てて……」
『ほお。なら切るわ』
「え、ちょ、ちょっと!」

 話の途中だというのに、会話を中断した宇月に俺は焦る。
 こいつ、人の話を聞くってことができないのか!?

『どーせ、どれがいいか迷ってて、ボクに決めてほしいとかやろ。知らん知らん、自分で決めぇや。そーゆーのは他人が口出したらあかんねん。分かる? ま、そういうことで。またな。せいぜい頑張りー』
「ちょ、宇月てめっ」

 あっと思った時には、もう通話ボタンはオフに切り替わっていた。


 


23 < 24 > 25