完結小説図書館
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第7話「側にいれたら」開始です。
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〈宇月side〉
「桃根ちゃん。頼まれとったやつ調べてみたで」
マンションの十六階、フロアの突き当りの部屋のドアを軽くノックする。
腕に抱えた数冊の分厚い本は、先日図書館で借りた重要な資料だ。
薄い紙を貼り合わせただけなのに、本は不思議や。悪霊退治で鍛えられたこの腕でも上手く持ち上げられない。
「あ、お疲れさまです。すみません~。無理言っちゃって」
「大丈夫やで。ボクも用事あったし。手間が省けて良かったわ」
「そ、そうですか? あ、でも、言ってくれたら荷物持ったのに……」
気持ちは嬉しいけれど、きみは幽霊やからな。
ボクは霊感があるから認識できるけど、一般人にとってはいないのと同じ。
きみが図書館で本を持ってみぃ。「本が空に浮いた!?」って、みんな騒ぐやろ。
「図書館では静かにってよく言うしな。気持ちだけ受け取っておく」
「んーでも、それけっこうお高かったんでしょ?」
「あのな桃根ちゃん。本屋じゃのうて図書館! 値段とかないんよ。あーまあ、貴重品だから色んな書類書かされたけど、お金は払ってへんって」
「……あ、そっか」
現在のパートナーである幽霊の女の子が、部屋の扉から顔だけをのぞかせる。
相変わらず服装は紺色のセーラー服に白のパーカー。
だたし今日はいつもと雰囲気が違う。低い位置でお下げにしていた髪が下がっているからか?
幼さが強調された髪型に慣れとったボクは、肩口で揺れる茶色の髪に不覚にもどぎまぎしてしまった。
「めっ、珍しいな、髪結んでへんのは」
ロボットみたいな変な声が出た。
ベッドに腰かけている桃根ちゃんが含み笑い。
ボクが柄にもなく挙動不審なのを察したのか、値踏みするような目でこちらを見る。
「えっ、もしかして宇月サン。かわいいとか思ってくれてるの!?」
「え、いやその違っ、いや違わんけど……、に、似合うと思うで! 大人っぽくてええね」
「うっそー、ほんとーっ? うわ意外なんですけどーっ!! あはは、なんか照れるー」
口ごもりそうになったボクだったけど、なんとかテンションを持ち直した。
あかんあかん。ボクは夜芽宇月・心を操る霊能力者!
この肩書がある限り絶対に言えない! 友だちが一人もいないこととか、恋愛経験が一度もないこととか!
「ほぉーん。うちのパートナーはツインよりロング派かぁ」
「も、もうその話はやめとこや。腕疲れて来たわ」
「ほぉーん」
ほぉーんて。なんでそんな勝ち誇った感出しとるんや、きみは。
ボクはそのままぎこちない足取りで部屋の中央に足を進める。木の床にドスンと荷物を降ろし、はあと一息。
(あー、重い。なんでこんな重いんや)
図書館で借りた本はたった二冊。『古事記』と『日本書紀』。今じゃ好んで読む人も少ないマイナーな書物だ。
古事記は日本で一番古い歴史の本で、全三巻。
歌謡、神話・伝説など多数のネタを含みながら、天皇さんを中心とする日本の出来事が細かく記されている。
日本書紀は全三十巻。奈良時代に完成した、同じく神話や伝説を漢文で記した史書だ。
流石に合計三十三巻を一気に借りることは難しかった(腕が壊れそうだった)ので、今日は両方の本の第一巻を借りてみたんよね。
司書さんに貸し出しを頼んだとき、不思議そうな顔をされたっけ。
「お好きなんですか?」とも尋ねられた。
ボクは歴史オタクでもなんでもない、ただの一般人。好きな科目は文系だけど、社会は苦手だ。学生時代は、その時間だけ寝とったし。
そんな奴が、なんで急に小難しい本を読もうと思ったのかというと。
「幽霊の身体を乗っ取る神様、ねえ。きみは友人であるユイくんを助けようとして、運悪く命を落としてしまった。がしかし、『大国主命』と名乗る神様に見初められて力を与えられた——」
ボクは桃根ちゃんの頭から爪先を改めて観察する。
霊が他の生物の身体に憑くことは珍しくない。霊能力者の中にも、〈憑依系〉といって、霊をとり憑かせて戦う人もおらはる。
だけど……。幽霊と神様がくっつくなんて事象は滅多にない。
そもそも神様って霊と同じくくりなんか? それすらも曖昧だ。
「にわかには信じられんけど、現にきみがその一例ってわけやしなぁ」