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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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 お久しぶりです。失踪しかけました、むうです。
 相変わらず多忙ですがこっちも頑張ります。
 第3章開始! 更新は遅いですがよろしくお願いします。

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 〈XXside〉

  雨が降っていた。
  梅雨前線と台風が重なってしまったと、今朝ニュースでアナウンサーさんが言ってたっけ。
  僕の住んでいる関東地方は特に影響はないけど、東北の県では次々に停電が起きているらしい。
  お母さんから渡されている連絡用の携帯を開く。飼い猫のアイコンから一通の連絡が来ていた。
  
  僕はメッセージアプリの個別チャットボタンに手を伸ばし……、文面を確認する。
  じっくり読んだりはしない。めんどくさいから。
 

 『早く帰って来なさい。塾に遅れるわよ。
  今日は数学の集中講座があるって、遠藤先生から聞いたわ。
  あなた、ちゃんと勉強はやってるんでしょうね?
  せっかく中学受験をさせたのに不合格。なんでいつもそうなの?
  とにかく、来週は中学最初の中間テストだから、しっかり勉強してね。頼むわよ』

  ……うざい。
  ……うるさい。
  ……黙れ。

  汚い言葉が脳裏に浮かんできて、僕はあわてて首を振った。
  乱暴なセリフを口に出してはいけない。人を傷つけてはいけない。
  だって、相手はお母さんで、僕は子どもだ。口答えしていい年齢は五歳までだ。

  僕はスマホのフリック入力で、返信欄に文字を書き込んでいく。
 『わかった。すぐ帰るね(グッジョブの絵文字)』
  そして、送信。

  お母さんの会話はこれで終わりだ。
  これ以上もこれ以下もない。
  
  反論するとキレられるんだ。「私の何が悪いの?」って、一時間ぶっ通しで質問される。
  そんなことを息子の僕に聞かれても困る。もちろん親に対しての不満はゼロではない。ただ、素 
 直に告げるとまた泣かれる。
  
  だから僕はニッコリ笑って答えるんだ。
 『何も悪くないよ。全部僕が悪いんだ』ってね。

  事実だし。
  
  五行にもわたって打たれた長ったらしい文字。
  長文メッセージを受け取ったのは、今日が初めてじゃない。昨日もそうだった。一昨日も送られ 
 てきた。その前も、その前も、ずっとこんな調子だった。
 
  僕のお母さんは、とても身勝手な人でね。
  勉強だけではなく、挨拶の仕方とか、箸の持ち方とか、友達との接し方とか。好きなマンガも好
 きなアニメも、自分が納得できるものでないと許さない。

 『その漫画、つまんないわよ。お母さんが買ってきた奴を読みなさい。この作者の人、とってもいい人なのよ。○○大学の○○学部出身でね、だから若菜も……』

  ……………僕の好きだった漫画は段ボール箱の中に入れられて、燃やされたんだ。

  誰も自分を助けようとはしてくれない。兄妹もいないし親戚もいない。
  おばあちゃんは先月空に昇っていった。
  お父さんはトラックの運転手で、ほとんど家にいない。連絡先は知っているけど、相談したら絶対心配される。なので、打ち明けられない。

  学校に行きたくないんです、という子がチラホラいる。家が落ち着くんです、ってね。
  ………いいなあって思ったんだ。家が落ち着く。僕も言ってみたいよ、その言葉。
  まあ、お母さんから逃げるために学校に行っている自分には、どうせ似合わないだろうけど。
 

  ■□■

  遠くの方から、一人の女の子がかけてくる。
  淡い桃色の傘をさして、リュックについたアクリルキーホルダーをカシャカシャいわせて。
  水たまりの水を蹴飛ばしながら、全速力でこっちに向かってダッシュ。

 「由比ー! 一緒に帰ろ~! 今日、部活雨でなくなっちゃって。体力づくりできなくてさ!」

  ふふ、相変わらずでっかい声。
  走らなくても、僕はちゃんと待ってるのに。
  せっかちで真っすぐなところ、出会った時から変わってないね。

  気を取り直して、僕は彼女に手を振る。
  できるだけ大きく。できるだけ大げさに。自然に見えるように。
  笑え、笑え笑え笑え笑え。嫌なことは考えるな。今のこの時間が、自分にとっての天国だ。

  だから笑え。どんなに苦しくても。どんなに寂しくても、笑えるならまだ大丈夫だ。
  たとえそれが作り笑いだとしても。表情を作れる時間があるのは、きっと良いことだと思う。

  …………助けてほしいと打ち明けるには、まだ早いよね。


 「いとちゃ――――ん! 部活お疲れ様――――――――――っ!」

 
 

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