完結小説図書館
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*73*
視点変更ルーレットをやった結果、コマリ視点になました。
書きやすいし良かったかも(・・?
あと本編修正・終了しました。変更した個所は、第一章です。
今冬なのに、本編ではまだゴールデンウイーク明け。
本編再開です。
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〈コマリside〉
番飛鳥(つがいあすか)ちゃんが転校してきてから早一週間。私は彼女と一緒に行動することが増えた。
席が前後なので授業では頻繁にペアになるし、選択科目は同じだし。その上、なんと委員会や掃除場所まで一緒になっちゃったの。
先生は「たまたまだよ」って笑っていたけれど……。うむむ、これも逆憑きの効果かしら。
でも、最近私の悪運体質はだいぶ落ち着いているんだよね。
というのも一か月前、私は同居している高校生・トキ兄のいとこから、魔除けの腕輪を貰ったんだ。お風呂に入る時以外はつけとけって言われてたので、毎日肌身離さず持ち歩いているんだけど。
この腕輪、本当にすごい。毎日起きていたポルターガイストはぴたりと止み、突然雨が降ることも知らない人に突然声をかけられることも無くなった。よって、比較的安定した生活を送れているんだ。
でも、私は『嫌なことが立て続けに起こる』のが普通だったわけで。未だ、些細な出来事も「これって……」って疑ってしまうんだよね。
さて。話は変わまして。
私は現在学校から歩いてニ十分ほどの距離にある自習OKのファミレスに、飛鳥ちゃん、そして幼なじみである杏里たちと来ている。
今日は土曜日だったんだけど、学校がある日でね。午後は授業がないから、皆で勉強会も兼ねてご飯を食べに行こうってことになったんだ。
ちなみに中学生は家族の同伴がないと買い食いできないため、杏里のお母さんが同行してくれている。ありがとう、おばさん。
「コマちゃん、そこの古文の読み方間違ってるよ?」
対面に座る杏里が、テーブルに広げた私のノートを指さす。
「え? どこどこ?」
「上達部。うえたつべ、じゃなくて上達部(かんだちめ)って読むんだよ。この前の授業でやったじゃん」
もう、と頬を膨らませる杏里に対して、私は真顔。横に置いていた筆箱の中から消しゴムを取り出し、無言で回答を消していく。
なんで部で『め』って読むんだろう。うーん謎だ。
「福野くんも、そこの英作文間違ってる」
と言ったのは、私の右隣でオレンジジュースを飲んでいた飛鳥ちゃん。
腰に巻いた学校指定のセーター、緩めた黒色のネクタイ。半袖Tシャツの下には紺色の薄手のヒートテックを着ている。
「え、どこ?」
「ほらここ。I going to play game this weekend.これ、なんて書こうとしたの?」
「え、『私は今週末ゲームをする予定です』って」
飛鳥ちゃんは真剣な顔。
「be動詞が抜けてるよ。be+going to~で、○○するつもりだ・○○する予定だになる。このままだと『です』部分が抜けていることになっちゃう。Iとgoingに入る単語を考えてみて」
「えーっと。そうだ、am忘れてた」
「正解。よくできました」
流石、元律院附属中。教え方が丁寧で無駄がない。彼女のワークブックや教科書は、テーブルの奥に閉じて重ねてある。
なんとこの子、ファミレスに来てから数十分で今日出された課題を全部解いちゃったの。全教科合わせて、六つくらいはあったのに。
「飛鳥ちゃんすごいね。難しい問題もスラスラ解けてさ。先週やったゴールデンウイーク明けテストも満点だったじゃん」
私はシャーペンの頭で頭を掻きながら、ちょっと不貞腐れて言う。
自分もあれくらい素早く問題を解けたらいいのになあ。一問解くのに三十分かかるようじゃ駄目だよね……。
「そんなことないよ。僕の場合は友達が居なくて、ずっと勉強してただけだから」と飛鳥ちゃんは笑い、顔の前で両手を振った。
「人付き合いが苦手でさ。小1から小6まで、友達が出来なかったんだよね。その寂しさを埋めるために勉強してたの。中学入って話す人は出来たけど、あんまり気を許してなかったな」
そういえば転校した日、学校に馴染めなくて公立中学に移ったって言ってたっけ。勉強が好きだから点数が取れているのかなと思っていたけど違ったんだね。
「そうなんだ。ごめんね、なんか」
「いいや。大丈夫だよ。今はちゃんと話せる友達がいるしね」
飛鳥ちゃんの笑顔には、暗い影が落ちていた。
——小1から小6まで、友達が出来なかったんだよね。
私も、同じような経験をしたことがある。
逆憑きの対処法も分からず、頼れる人間もいなかったあの時期、自分の世界は黒一色に染まっていた。
仲良くなった友達は、ほとんど引っ越した。運動会や遠足、体育祭、卒業式は全部雨だった。娘のせいで家の修理代は馬鹿ならない。自分が存在しているだけで、周りの人間が不幸になる。
いっそ、死のうかな。と考えた日もあった。
だけど今年の春、お父さんがアパートを紹介してくれて。トキ兄と出会って。私の生活は変わった。
『お願いします! 私の逆憑きを直してください! いい妖怪見つけてくださいお願いしますううううう!』
トキ兄と初めて会った日、私は部屋の扉を開けた彼の足にしがみついて、泣きながら頼み込んだ。
『っ!? 何だお前!? はなれっ、はなっ』
『迷惑をかけるのは重々承知をしているのですが、わが家を倒壊させるわけにもいかないんですうううううううううう! この後このアパートも半壊させるかもしれませんけど……』
『なにそれ怖ッ。ちょ、半壊させる奴と一緒は流石に無理なんだが』
『う。うぅ……』
『うわ。泣くな! 分かった、分かったから。とりあえず話聞くから!』
想えば、トキ兄には色々と我慢させてしまっているよね。幸い台風が直撃することはなかったけど、ポルターガイストが起こるだけでも十分怖かっただろう。
「私も沢山の人に迷惑かけてるから、その気持ちは分かる」
「そっか。月森さんも色々苦労してるもんね」
飛鳥ちゃんはトレーに並べられたフライドポテトを頬張る。
………って、あれ? 今の発言、なんかおかしくなかった?
『月森さんも色々苦労しているもんね』。色々苦労しているんだね、じゃない。『苦労しているもんね』だ。
飛鳥ちゃんはこんな風に、まるで私の過去を知っているかのような口ぶりで話すことが度々ある。
転校初日にも、『嫌なことが起こらないといいね』と言っていた。図書当番で一緒になった日は、私に妖怪大辞典をお勧めしてきた。
これは、偶然? それとも彼女は、私のことを知ってる?
もしかして過去に会ったことがあるのかな。珍しい苗字と名前。一度会ったら忘れることはなさそうだけど……。
「ねえ、飛鳥ちゃん。私と飛鳥ちゃんって、昔会ったことあったっけ?」
「なんで?」と飛鳥ちゃん。
「だって。いかにも私のことを知ってそうな言い方だったじゃん。ちょっと不思議だなって思ってさ」
幼稚園が同じだったとか? いや、一個下の学年にも知り合いはいたけど、番なんて苗字の子はいなかった。
転校した友達ではないよね。そもそも歳が違うし。
スーパーやデパートで見かけたとか? けど、それだけで私が苦労していることが分かるものなのだろうか。もしそうならエスパーとしか……。
恐る恐る右隣を見る。
飛鳥ちゃんは、「ふふっ」と妖艶に笑い、テーブルに頬杖をついた。綺麗に磨き上げられた爪に照明の光が当たる。
「どっちだと思う? ていうか、どっちなら月森さんは安心するの?」
『うん』でも『いいえ』でもない返答に、私はただただ目を白黒させるしかなかったのでした。
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※次回に続く。