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*10*
「イザナミとイザナギは知っていますか?」
「………いや。」
「日本国創造の神とされるつがいの夫婦神です。彼らは海や空を造り、国土を形成しました。……ちょうど粘土遊びのようにね。それから、万物の神々を産みます。イザナミの方は最後に火の神を産んだ際に火傷を負って、死んでしまいますけどね。」
「神も死ぬことがあるのか?」 神が死ぬだなんて少し、信じられなかった。
「普通は死にません。うーん、言い方が悪かったかな。正確に言うと彼らには“死”と言う観念はありません。消える、って言った方が語弊が無いかも。
……まぁ、それでイザナミの子供たちの中で特に凶暴だった“スサノオ”っていう奴が居ます。こいつが問題児でね、色々と天界で事件を起こした末に、天界の高天原(タカマノハラ)から下界へと追放されてしまいます。追放された先は出雲の国(イズモノクニ)と言ってね、本当にここから西北西の方向にあるところですが。
で、話を随分はしょりますが、そこで奇稲田姫(クシナダヒメ)っていう可愛い女の子が困っているところをたまたまスサノオが通りかかります。何でも、その子は今夜ヤマタノオロチっていう、頭と尾が八つある大蛇の怪物に喰われてしまうらしいのね。
あんまりにも可哀想に思ったスサノオはヤマタノオロチ退治を打って出ます。まぁ、スサノオは神様なんだから、当然ヤマタノオロチは退治されてしまいますが。
すると、あら不思議。退治したヤマタノオロチの尾の先から聖剣、草薙剣(クサナギノツルギ)が出てきます。そして、奇稲田姫はスサノオに一目ぼれして、二人は夫婦になりましたとさ……ってところかな?」
話し終えて、由雅は深呼吸をした。どうやら神話の余韻に浸っているらしい。
「なんとも突拍子の無い話だな。」それを楽しそうに話すこいつも突拍子もないが。
「でも、でもね!本当に日本書紀に書いてあるんですよ。私が読んだのは写本ですけどね。古事記っていうのにも書いてあるらしいけど、まだそっちは私読んでないんだよな〜。あー読みたい!!」
由雅は熱に浮かれたように話し続けた。「それで、その刺青はヤマタノオロチにしか思えないんですよ。そうなると、あの赤面の鬼はヤマタノオロチに何か関係があるはずですよね。」
「ああ、そうかもな………」つくづく、よく喋る娘だ。
スサノオ……ヤマタノオロチ…… もし、この入れ墨がそんな得体の知れないモノ達が関係している呪いなら、自分はもう長くないのかもしれない。
別に、死ぬのが怖いわけではない。嫌なわけではない。
このまま、何もできずにこの世から消え去ることが惜しいのだ。
「なぁ、由雅。」
俺に呼ばれて、由雅は何か話している途中だったが、こちらに振り向いてきた。
「じゃあ……じゃあ、もし、この入れ墨の呪いがそのようなものだったとして……俺はあとどのくらい生きられる?」