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*13*
「おー、苓見、遅かったな。」
さんざん遠回りをして小屋に着くと、同居人の矢々丸が鶏の首を絞めていた。どうやら今日の夕飯は鶏肉らしい。
「どうだった? 鬼には会えたか?」鶏の白い羽にくしゃみをしながら、矢々丸が聞いた。
「会えたけどな、妙なお土産もらった。」言いながら、右肩の蛇を見せると、矢々丸は眉間に皺を寄せた。
「無理はするなって、何回も言っただろ!どうすんだよ、こんな意味分かんないの入れられて!お前まで、本当に、本当に死んじまうぞ!!」
「落ち着けよ。俺は大丈夫だから。……それより、リトはどうなった。」
すると矢々丸は大きなため息をついた。「今は落ち着いてる。奥で寝てるから気になるんだったら、起こさない程度に見にいってやれ。」
小屋の奥、昔は蔵として使っていた所がリトの寝床となっていた。
リトは一週間前から病を患っていた。
まだ8歳にもならないこの少女は、多分あと数週間として、もたないだろう。私奴婢の身に薬や看病が与えられることは無い。まだ、捨てられずに家に置いてもらえているだけいい方だろう。
「いい、起こしたらまた咳が止まらなくなるからな……」
「元気なのはもう俺ら二人だけだ。主様もあのままではもう二度と動けまい。」
「………そうだな。」ポツリ、と頬に雨粒が当たった。「お前、どうする?勝つ見込みもない。」
「ここを捨てて、違うところで働くってのか?」矢々丸が声を落とした。
「私奴婢だって、言わなきゃ下人としていくらでも雇ってもらえると思うんだけど。」
「そう簡単にはいかねーよ」鶏の羽を片付けながら矢々丸が続けた。「態度とか仕草で何となく分かっちゃうらしいよ。しかもお前は知らないだろうけど、他じゃ奴婢を人間として扱ってないんだ。虫ケラ以下さ。ここの家以上に俺ら私奴婢にとって居心地のいい場所は無いよ。断言できる。」
「そんなに、ひどいのか?」
「公奴婢だとちょっとはマシらしいけど。お前は本当に運がいいよ。無駄にこれ以上を望むな。高望みは命を落とすぞ。」
矢々丸はそう言い放つと、馬小屋の方に姿を消した。