完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*17*
Episode16 『過去 -Ai&kotonE-』
2007年11月16日(金)18:45/秋笠 藍
「人間って、水だけで何日生きてけると思う?」
それが奴が一番初めに言った言葉だった。
……ここはどこだ?
気が付くと俺は、10畳あるかないか程の真っ白い壁紙の部屋に居た。そこには俺より小さい女の子と、知らない大人が居た。二人共、床に寝そべったり、壁にもたれ掛かっりして眠っているようだった。
とりあえず、場所の確認の為にドアまで歩いた。右足は重く、何かガシャガシャと音がしているけど、気にしない。やっとドアにたどり着きそうな辺りで、急に右足が動かなくなった。言うなれば、何かに引っ張られてるような――
足元を見ると、俺の右足首には鎖が繋がっていた。
なんだよ? これ……。
「やっと気付いたんだね? おはよう、藍ちゃん」
振り返ると、大人の方が起きて、俺に手を振っていた。
「“ちゃん”じゃねぇよ。俺、男だし」
「あははっ、まぁそうだよね、藍ちゃん」
俺の主張はことごとくシカトされ、大人は女の子の頬をペチペチと叩いて無理矢理に女の子を起こしている。「ん……」と寝息に似た声が聞こえた。
鎖に繋がっている子供二人を前にして、それを繋げた張本人であろう大人は自分の事を『東郷』と名乗った。そして、俺たちを誘拐したんだと、言った。
東郷はニヤッと口を歪ませながら、言葉を続けた。
「人間ってさぁ、水があれば一ヶ月くらいは生きられるらしーんだよね。それでさ、ちょっと協力してよ?」
東郷は一切の食事を俺たちには寄越さなかった。口に入るのは水だけ。そんな生活が、約5日続いた。
しかし、それ以外のことはすべて与えてくれた。ゲームも、漫画も、おもちゃだって、欲しいと言えば買ってきてくれた。勉強も、ここにいる間の授業分は東郷が教えてくれた。
だからといって、空腹が紛れるわけではないし、何かをすることによって栄養が消費されていく俺たちは何もしないよりやつれていった。
「なぁ、東郷。お腹空いたんだけど」
「だーめ。そういう実験なんだから」
東郷はこの誘拐を実験だと言っている。曰く、人間の限界の実験だそうだ。
「出て行こうとしたって無駄だよ。その鎖をどうにかしない限りね」
それは初日のうちに分かっていることだ。だから、妥協と惰性で日々を過ごす。
「あいくんあいくん。それととーごーさんも。トランプしよっ」
一緒に誘拐されてきた言音ちゃんは、それでもめげずに元気そうだった。言音ちゃんだってお腹空いてるだろうに。
そうやって、この部屋だけで何とか生きていた。
それでも、限界を超えるかどうかの実験だから、もちろん限界はやってくる。
動くことすらままならない、それくらいに衰弱していた。今日で何日目なのか、思い出すことすら出来ない。
「あいくん……。あたしたちこのまま死んじゃうのかな……? 最近とーごーさんも来ないし」
東郷は俺たちに極端な変化が現れ始めてから、あまり来ることはなくなっていた。まるでもう飽きたとでも言うように。
幸い、水道は通ってるから、水はなんとかなる。だけど、取りにいけるような力さえ、もう残ってはいなかった。
「大丈夫だよ……。多分、ね……」
とは言ったものの、二人とももう布団の上で倒れていることしか出来ない。打つ手なし、だ。
……このまま、死ぬしか……。