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Episode18 『過去 -KanahA-』
9月12日(水)12:44/我妻 叶葉
久しぶりに聞いた、あいつの名前。本当に忌まわしい。
でもまさか、あの二人もあいつの被害者だったなんて……。
2010年12月26日(日)10:37/我妻 叶葉
「昨日、仁平侑馬さんが、亡くなりました」
玄関の向こうで、背広を着た大人が何かを言っていた。私はただただ、沈黙をもってそれを迎える。
頭の中が、一気にさめていく感覚に襲われ、何も考えられない。
――死んだ? 侑馬が?
「あなたは、仁平さんと付き合っていたそうですが、少しお話を伺えますか?」
侑馬は、昨日私と別れた後、帰り道で殺されたらしい。路上で倒れていたそうだ。
それを最初に見つけたのは、同じ学校の後輩だった。警察はその第一発見者が、犯人だと踏んでいるらしい。「俺はやってない」の一点張りであるそうだが。
「うそ……、そんな……。侑馬っ、う……、あぁぁああぁあぁあ……」
ソファに寝転がり、涙を流すだけの冬休み。クリスマスの楽しい思い出と、その後の悲しい出来事。受験生だというのに、勉強なんてまったく身に入らなかった。
その後、第一発見者であるところの少年は釈放された。証拠不在な上、DNA鑑定の結果などから、犯人ではないとされたらしい。
でも私は、その人が犯人ではないことを知っていた。だって、私はすでに真犯人と接触していたのだから。
その真犯人というべき奴が、東郷だった。
大晦日の日。あいつは現場にはなかったという侑馬のケータイから私のケータイに電話をかけてきた。
盗られていたということは知っていたけど、一体誰が――
『こんにちは。叶葉ちゃん、でいいか』
「……貴方は? どうして侑馬のケータイを」
『それはねー、俺がその侑馬くんを殺したからだよ』
また、侑馬が死んだと知らされたときのような感覚。呼吸をするのを忘れるくらいに、全神経で聴覚を研ぎ澄ます。
『あぁでも。このことは警察には言わないでよね。そんなことされたら、俺が俺でいられなくなっちゃうし。それなりに名前も気に入ってるしさ』
東郷って名前。と、奴は続けた。
『それに、君も殺しちゃうよ?』
「……なんで、電話してきたんですか?」
『特に意味なんてないよ。ただ、侑馬くんが最後に“叶葉”っていってたから、気になっちゃって』
あはは、と軽く笑いながら、答える東郷をいう男。口調は罪悪感の欠片もない軽薄なものだった。
「じゃあ、どうして、侑馬を殺したんですか?」
『それも特に意味なんてないよ。たまたま見かけて、たまたま俺が殺したいなーって思っちゃって、そしてたまたまナイフを持ってたから、殺しちゃった。って不幸な偶然が起こした悲劇だよ』
――たまたま? たまたまで侑馬は死んだの?
「ふざけないでよッ!」
『まあまあそう怒らないでよ。俺は真実を教えてあげたわけだしね』
怒らないでいられるわけがない。そんな理由で、侑馬は……。
『それじゃあ、俺はこれから初詣に行って寛大な仏様に懺悔してくるよ』
ツー、ツー と一方的に切られたケータイからは、無機質な電子音だけが流れ始めた。
私はケータイから耳を離すと、ベッドに倒れ、また泣いた。
侑馬、絶対に東郷を死刑台に送ってやるからね――