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作者: 秋桜 (総ページ数: 23ページ)
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*8*
「――そう…だよ。父さんの店には結構常連客もいてさ。俺が継いで、その人たちをがっかりさせてしまうんじゃないか、今まで父さんが積み上げてきたものを壊してしまうんじゃないかと思って…。そんなことなら、継がないことが一番楽だと思って。だから…」
「逃げちゃダメ!逃げちゃダメだよ!!そんなに心配なら、自分の店を一から立ち上げればいいじゃない。自分の味で勝負すればいいじゃない。……湊谷ならできると思うよ。お父さんの後を継げると思うよ。湊谷の人生は、長いんだから!色々なことを経験してみなよ!」
「……だな。俺、父さんと話してラーメンの作り方を教えてもらう!父さんのラーメンも大事だけど、俺のラーメンでもいいんだよな!…日比奈、将来俺が店を継いだら、1番先に食べてくれよな!」
「―――その約束はできないな」
「何で…」
「――…だって、私はもうここにいないよ。それに、きっとその頃、湊谷には大切な人がいるよ。その人に食べさせてあげなよ」
日比奈は、少し悲しそうな顔で湊谷に言った。
「――俺は!その大切な人を日比…」
「ごめん!私もう帰るね。…じゃあ、また明日!」
「ああ…」
日比奈はそのまま走って行ってしまった。
ここは、島に唯一ある病院だ。たくさんの患者が入院している。今は起床時間で、看護師たちは忙しそうに各部屋に出入りしている。
『306号室』
「おはよう。今日もいい天気よ」
看護師はカーテンを開けながら言った。
「おはようございます。よかった。雨が降らなくて」
「最近外出してるって聞いたわよ。最近楽しそうだし。もしかして、彼氏でもできた?」
「そんなんじゃないですよ。ただ、友達が出来ただけですよ」
「そぉ?でも、男の子でしょう?」
「…はい(笑)」
「いいなぁ。若い子はモテるね(笑)」
「――でも、彼にはまだ言ってないんです。…私がこの島の住民だってことも、病気を持っていることも、病院にいることも」
「―――余命が二ヶ月だってことも」