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*9*
PROLOGUE
「来たぞ……!」
「待ってたぜ―ーーーーーーーーーーーーーッ!!」
――――ここは、エジプト中心都市、“ノアール”。わあわあと騒がしく、でもどこか楽しそうなここは闘技場である。
闘技場といえば、奴隷が人間、あるいは猛獣と戦う重苦しいイメージがあるのだがこの会場にはそんな雰囲気はみじんとも感じさせなかった。
なぜこうなっているのか。答えは至極簡単だ。
それは、1人の少女が出ているから。
「あたしの出番かぁ!……ん?ありゃあ……」
暗闇の入り口から刀を携えて歩いてくる多少小柄な少女。
そう。彼女こそがこの闘技場の人間すべてを沸かせている少女、アイシスである。
彼女は奴隷ではない。だが、なぜかこの闘技場で日々戦っては勝利を収め続けている。それに加え、彼女は現代国王直属の「七神官」というお札付きの人間でもあった。
そんなアイシスは楽観的な笑みを浮かべると、頭に手をかざし、怪訝な目で目の前の対戦相手を見た。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「うおおッ!今回の対戦相手って一月前に村を騒がせてた最悪の猛牛じゃねえか!?」
「アイシスあんなのと戦えんのかよ!?」
アイシスの何倍のある体を持つ猛牛のすさまじい咆哮に観客たちは思わず身を引く。このまま戦えばアイシスは確実に死ぬ。そう思ったからだ。
だが、当人のアイシスは観客とは真逆にニイ、と口角を上げ青い空を見上げた後、スラッと腰に携えてあった刀を抜いた。
「粋のいい牛だな!……うん、腹も減ったし。……今日の昼食はお前だ!肩ロース!!」
元気よくそういうと、アイシスは猛牛に向かって走り出した。
彼女は生死のことなど考えていない。考えているのは昼食のことのみ。
「えええええええーーーーーーーー!?アンタ飯のこと考えてたのかよッ!?」
観客は目玉が飛び出しそうなくらい驚き、だれもが同じことを思った。
だが、そんな観客の気持ちなど露知らずアイシスは楽々と猛牛に切りかかっていた。
「よおっし!いっちょあがり!」
彼女の声とともにやっと観客が我を取り戻し、闘技場の中心を見たときにはもう猛牛はいつでも食べられるよう切り分けられた肉片と化していた。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!やっぱアイシスすげえ!」
「つーか肉にする必要はあったのか〜!?」
最初は面食らった観客たちだったが、その様子にしばらくすると最初のような耳を貫く大きな歓声へと変わった。
そして、観客全員が立ち上がり、盛大な拍手を彼女へと送る。
盛大な拍手に満足そうにアイシスは笑うと、グッと親指を突き出した。
「じゃあみんなでこの牛の半分食おうぜ―ーーーーーーーッ!残りの半分はあたしが食うから―ーーーーーーーーッ!」
そんな彼女に観客たちは殺気よりもっと大きい声援と拍手を送った。