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*10*
「アイシス!あなたという人は!闘技場で仕留めた猛牛を食すなど!細菌が入って病気にでもなったらどうするんです!」
「だーいじょうぶだってカイザー!ちゃんと火は通したからよ!」
「そういう問題ではありません!」
場所は闘技場から変わって、ノワール、いや、エジプト全体を治める統治所の王宮。
ざっと見て少なくとも50キロぐらいはあるだろう肉をアイシスは大広間に持ち込みバカ食いしていた。そんな彼女を母親の様にしかるのはアイシスと同じく七神官の1人、カイザーだった。
彼は、現代国王のもと教育係でもあり、最も信頼を寄せられるといっても過言ではない七神官のリーダー的存在だった。
「王よ!あなた様もアイシスに何か一言を…!」
「アギトあっち」
「王よーーーーーーーーーーッ!!」
糠に釘なアイシスに何か言ってもらおうと、玉座に座っているはずの現代国王―アギトを見るが、その姿は見当たらない。アイシスの指さす方向を見ると、王の雰囲気を出す青年アギトはアイシスとともに一心不乱に肉を食べていた。
そんな彼にカイザーは絶望的に叫んだ。
「我が王まで何をしているのです!もしもお体に悪いものだったら…!」
「大丈夫だ。アイシス、火は通してあるのだろう?」
「ああ!観客みんな食ったし!」
カイザーの言葉もむなしく、アイシスとアギトはお互いグッと指を突き出した。そんな2人にもうカイザーは言う言葉もなくため息をつくしかなかった。
そんな3人に近寄ってくる女性がいた。
その女性は、だれもが振り向くような絶世の美女。
「あらあら…。アギト、アイシス。カイザーに迷惑をかけてはいけませんよ」
「御妃様……ッ!」
「よーリリア!」
「今までどこに行っていたんだ?」
絶世の美女、リリアはにっこりとほほ笑むと膝を少し曲げてアギトの近くに立つ。
カイザーは膝をつき、アイシスとアギトは悠々と肉を食べ続けていた。アギトはともかく、アイシスは一応リリアと比べたら下の位。カイザーは彼女に有無を言わせず、無理やり頭を下げさせた。
「いってーーッ!何すんだよカイザー!あ、リリアも食う?」
「食べてはいけません!御妃様!」
「ぐふぉお!」
「ふふ…。たべてみたいけど、私さっきご飯を食べたばかりなのです。またの機会に頂きます」
肉を差し出すアイシスの脇腹をカイザーは槍の用にチョップすると、アイシスは散った。
そんな様子にリリアはクスクスと笑うと温厚な笑みを浮かべて丁重に断った。
断ったリリアにカイザーはほっと安堵のため息をつく。
「じゃあ、リリア。行くか」
「ええ。行きましょう」
「?どこ行くんだ?」
アギトは食事を中断し、立ち上がってリリアに言った。リリアは小さく頷くと踵を返そうとする。
そんな2人が理解できずアイシスは首をかしげる。
空気を読め、と言わんばかりにカイザーは耳打ちをした。
「……今日は王と御妃様は城下の見回りです。これも王族としても仕事ですから」
「ふーん。大変そうだな!」
「じゃあ、行ってきますね。アイシス、くれぐれも周りの人に迷惑をかけずにお願いしますよ」
「ああ。王宮の警護を頼む。アイシス器物破損するなよ」
「しねーよ!バカ!!」
冗談交じりのアギトとリリアの言葉にアイシスは悔しそうに地団駄を踏んだ。
そして、納得するようにカイザーはウンウンと頷いた。