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吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 119ページ)
関連タグ: ファンタジー 吸血鬼 オリジナル 恋愛 
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*87*

「ねえ、俺のこと好き?」
 突然、ナイトが耳元でささやいてきた。それだけでルリィは飛び跳ねそうになる。実際に心臓はすばやく跳ねていた。
「好き? それとも嫌いか……?」
 子供っぽい口調と大人びた口調が責めるようだが甘えるように訪ねてくる。間近に迫った黒曜石の瞳に自分が映っているのを見てますます返答に困った。
「き、嫌いじゃないけれど…………」
「じゃあ好きってこと?」
「それは……そうなの?」
 逆にこちらが聞きたかった。この気持ちはいったい何なのか、ずっと悩み続けている問いだ。
「ふーん、はぐらかすのか」
 少し唇をとがらせてナイトはルリィを見つめた。そんなつもりはなかったがナイトからはそう思えてしまったらしい。唇をとがらす姿がいつものナイトは違って可愛らしく見え、胸がきゅんとした。
(えっ、待って待って! きゅん……? なに、きゅんって…………!?)
 自問自答を繰り広げる。ナイトはまるで面白いことを思いついたかのように不敵に笑った。
「確かめてみるか。好きか、嫌いか」
「え?」
 今度こそのしかかるように腕が回され、ためらいなく抱きしめられた。いつもと違ってワイシャツ一枚のナイトからは腕の長さやたくましさが直に伝わってくる。
「ドキドキする?」
 頭の中が爆発しそうなルリィにとどめを刺すよう、ナイトが色気がただよう口調でいたずらに聞いてきた。そのいつになく可愛らしい口調からの甘く色気ある声のギャップに、一気に体中が熱くなり恐慌状態に陥ったルリィは渾身の力を込めて両腕を突き出した。
「ちょっ……ドキドキするっていうか爆発しそうなんだけどおおおお―――――――――!!」


 数分後、台所の椅子に腰を掛け、ルリィは一人で反省会を開いていた。
(やってしまったわ……病人を投げ飛ばしちゃった……)
 さらに言うなら勢い余って寝台から落としたあげく、床に転がしてしまった。あまりの申し訳なさと先ほどのナイトを思い出し、部屋から逃げるように出てきてしまった。病人を転がしといたまま。
(絶対にあとで殺される……ッ)
 もともとは全て自分が悪いのだ。怪しげな薬をナイトに進め、ぶっかけた。これでは、あの薬をくれたキューマネット夫人だけに非があるとは言えない。
「はあああ…………」
 深い深いため息をつき、ナイトの熱が引いて、あの時のことを聞かれた時の言い訳を必死に考えた。


 次の日の朝、ナイトは冷たい床で目を覚ました。
「ん? なんでこんなところで寝てるんだ」
 床で寝てしまったためか節々が痛い。しかし、熱はもうすっかり引いていた。
「うーん」
 伸びをするように、なまった体を動かそうとしたとき、頭に小さな痛みを覚えた。頭に手を当ててみると小さなこぶができている。ベットから落ちたときにぶつけたのかとさすっていると、ゆっくり、どこか緊張感をおびたように扉が開いた。
「お、おはよう、ナイト」
 ルリィが扉の隙間からびくびくしながら少しだけ顔を出す。
「どうしたんだ?」
 普通じゃない緊張とひきつった笑顔にナイトはいぶかしげに訪ねた。まだ少しだけ頭のこぶがうずいた。
「え、どうしたって……あのね! 昨日は、その、ごめんね。わざとじゃなかったのよ!? 早く治ってほしい一心で薬を進めたわけだし、突き飛ばすなんてつもりは……」
「――なんのことだ?」
 ナイトは首をかしげて必死になにかを言おうとするルリィの言葉を遮った。ルリィは眼をぱちくりと瞬かせている。
「すまないが昨日のことは熱のせいであまり覚えていないんだ」
 どうにも昨日のことを思い出そうとするともやが、かかったように上手く思い出せなかった。何かあったのか聞こうとするとルリィは全力で「なんでもない」と言い張り、ぺたんとその場に座り込んだ。
(なんでもなく……はないだろう)
 目の前の自分が仕える主は嘘が下手だと思う。どこまでも正直ですぐに態度や顔に出てしまうのだ。だけど、そこがまた主の魅力でもあるのだ。
(聞かれたくなさそうだし……まあ、いいか)
 深く聞きこむのではなく、座り込んで「これで良かったような……良くないような」とつぶやく主を少しだけからかうだけにすることを決めた。おもしろそうにナイトはルリィを見つめる。
(そういえば……いいや、きっと気のせいだな)
 ふと、先ほど起きたばかりの時、シーツからルリィの匂いが微かにしたことを思い出した。しかしルリィ本人が寝なければ匂いなどつかない。
 まさかの考えにナイトはかぶりを振って、ルリィをからかい始めた。

【病人にはお気をつけて 終わり】

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