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私は小さな部屋がいくつも並ぶ道をひたすらに、ただ、ひたすらに走っていた。理由は簡単。
「ギャァァァァアアア!!」
何者かに追われているからである。それから逃げる為に、走ってはドアを開け、走ってはドアを開け……を繰り返していたのだが、いつまでも追って来る。
(何で来るの!? もう疲れたし、そろそろ諦めてよ……!)
そう思いながら次のドアを開けようとするがドアノブが回らない。
(えっ! 嘘! 何で開かないの!?)
今までこんな事は無かった。ここまでのドアは簡単に開いたのに……!
ドアノブを必死に回していると背後から、
――ドンッ……! ドンッ……!
と、何者かがドアを叩く音が聞こえた。
(このままだと私……!)
「お願い! 開いて!」
叫んだ刹那、カチッと鍵が開く音が耳に届く。
「開いた!」
(よかった! これで……!)
逃げたい一心でドアを開ける。そこに見えたのは、
「嘘……。何で……」
頭の無い石像や額縁から上半身が出た女の絵。
反射的に戻ろうとするが、ドアを開ければ、そこには私を追って来たヤツがいる。もう逃げ場は無い。
そう悟った瞬間、頭の無い石像に殴られて――
「…………っ!!」
目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。どうやら私は寝ていたらしく、ギャリーのコートが毛布の様に掛けられていた。
(何だったの? さっきのは夢?)
そんな事を考えていると、
「あ、イヴ、起きたの?」
少し遠くにいたギャリーがこちらによって来た。
「ギャリー……ここは?」
ギャリーのコートをどかしながら聞いた。
「イヴが倒れた場所の近くにあった部屋よ。倒れたの、覚えて無い?」
「……よく覚えて無い」
目の前が真っ暗になったのは覚えているが、そこから先は記憶が無い。
「……イヴ、顔色悪そうだけど大丈夫?」
少し俯いて考えていると、ギャリーが心配そうに顔を覗きこんできた。
「うん、ちょっと怖い夢見たけど平気だよ」
「そう。まぁ、あんな事があったんだから無理も無いわね。起こせばよかったんだろうけど、ごめんなさい、気が付かなくて……」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」
そう言うとギャリーは、フッと笑った。
「どういたしまして! ……イヴ、そのコートのポケットの中、探ってみて?」
言われるままポケットを探ると、出てきたのはレモンキャンディー。
「それ、あげるわ。食べても良いわよ。ここは安全そうだから、もう少し休んでから行きましょ」
ギャリーはそう言い残して、本棚らしき所へ行って本を読み始めた。
(ギャリー……本当に優しいな。助けてもらってばっかりだし、何か恩返しができないかな?)
考えた私は取り敢えずギャリーと話すことにした。
「ギャリー、コートありがとう。……ギャリーって、好きな物、何?」
ギャリーにコートを差し出しながら言った。
「どういたしまして! 好きな物? そうね……甘い物とか好きよ♪」
「私も好き! マカロンとか……あっ!」
そこまで話を聞いた私は、ふと、ある提案を思いついた。
(こんな事で恩返しになるか分からないけど……)
「どうしたの? 急に大声出して……」
「あのねギャリー、ここから出たら一緒にマカロン食べに行こう!」
「それ、良いわね! アタシ、マカロンが美味しい喫茶店知ってるの。そこに行きましょ。約束だからね!」
そう言ってギャリーは小指を差し出してきた。
「うん! 約束!」
私も小指を出して、ギャリーと指切りをした。
休んだ私達は、また出発することにした。
あんな事があってまだ怖かったが、
「さ、また怖い事があるかも知れないけど、もう少しできっと出られるわ! 頑張りましょ!」
「うん!」
ギャリーがいるから――ギャリーと一緒だから、私は前に進める。
また手を繋いで、次の部屋へと踏み出した。