完結小説図書館
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『好き……嫌い……好き……嫌い……』
ギャリーと別れた先にあった道へ進むと、少しづつ声が聞こえてきた。
この声は間違いなく――、
「メアリー!!」
階段を上りきり少し広い場所に出た私は、そこに居た金髪の少女の名を呼んだ。
「これでやっと……。フフフ……ハ、アハハハハハ!!」
メアリーは私の事なんてどうでもいいのか、またどこかへ行ってしまった。
メアリーが立っていた場所には、青い薔薇の花弁と花弁がなくなってしまった薔薇の茎だけがポツンと落ちていた。
メアリーが出ていった方の道へ行くと、見たことあるような場所へ出た。
そこは、この悲劇が始まった場所――私がお父さんとお母さんと一緒に来た普通の美術館とそっくりだった。作品の配置までも一緒だった。
私は一階をぐるりと歩き、二階も調べた。
すると二階の一番大きな部屋に、とても大きな絵があった。
絵があるのは普通の美術館と一緒なのだが、どこか違う雰囲気がする。
「これって……?」
そう、『違う雰囲気がする』のは当たり前だ。
何故なら、絵の内容が違っているのだから。普通の美術館で見たのは黒っぽい絵だったが、今は白っぽい絵になっている。その絵の下には張り紙があった。
『 絵空事の世界 』
『飛び込んだらもう戻れない ここでの時間はすべて失う それでもあなたは飛び込むの?』
それを読み終わった瞬間、パッと目の前が光り、絵の額縁が消えた。
恐る恐る絵に触れると、手が絵の中に入った。
「……もしかして……帰れる、の?」
ずっと願ってきた、ここから出る事が、今まさに叶おうとしている。でも――。
「……ギャリー……」
私は一度振り返り、今まで来た道を眺めた。ギャリーはまだ来ていなかった。
「…………」
……ギャリーはきっと来てくれる。ちゃんと約束したから。だから私は――ギャリーを信じる。
私は絵から少し離れ、助走を付けて、
「えいっ!!」
思い切り絵に飛び込んだ。
*
「これで――願いが叶う。外に出られる」
数秒前に赤の少女が飛び込んだ絵を見つめる者が居た。
それは絵に向かって歩き、ゆっくりと中に入った。
誰も居なくなり静かになった場所には、本物よりも輝いている、一輪の黄色い薔薇だけが残されていた。