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Ib ―『さよなら』の先に―
作者: 緑茶  (総ページ数: 53ページ)
関連タグ: 二次小説 Ib 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~

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*22

 目を開けると、そこには大きな黒っぽい絵があった。
「えっと……」
 私は何をしていたのだろう?

 お母さん達と一緒に、ゲルテナって人の展覧会に来て、

 受付している間に一人で見るって言って、

 一人で展覧会を見て、それから――、

 ……それから何をしたんだっけ?


 何か大切な事を忘れている気がする。でも思い出せない。もう一息の所まで来ているのに……。

 ……まぁ、思い出せない事をずっと考えていても仕方ない。
 きっともう受付も終わっているだろうし、そろそろ戻らないと心配されるだろう。
 私は二階を一回りして、お母さん達がいない事を確認し、一階に下りることにした。が、階段の近くにあった絵に私は目を奪われて足を止めた。

 そこには、紫色の髪にボロボロのコートを着て壁にもたれ掛かっている男の人が描かれていた。

 題名は『忘れられた肖像』

 ――なぜだろう。なぜ、こんなにも心が引かれるのだろう。
 今まで見た作品には何も感じなかったのに……なぜこの作品だけ……。
 もう少しよく見ようと絵に近づいた瞬間、
「あ! イヴいた! もう、探したんだからね!」
 名前を呼ばれ、腕を引かれた。そこにはお母さんが立っていた。
「さっ、行きましょ! 二人とも一階で待ってるわ」
「う、うん」
 あの絵をじっくり見たかったなぁ……
 そう思いながら階段を下りた。すると、
「おっそーい!! もうお腹空いちゃったよ!!」
「まぁまぁ、メアリー落ち着きなさい。ここを出たらカフェにでも行こうね」
 一歳年下の妹メアリーと、お父さんが待っていた。
「良いわね、カフェ。イヴもお昼はそこで良い?」
「うん」
「私、オムライスが良い!!」
「ハハ、メアリーはオムライスが好きだね」
「だって美味しいもん!!」
 お昼ご飯をカフェで食べる事を決めた私達は美術館を出た。

「…………」
「? イヴ、どうしたの?」
 歩きながら考え込む私にメアリーが声をかけてきた。
「うん……私、何か大切な事を忘れている気がするの……」
「良いんじゃない? 思い出せないなら、無理に思いだそうとしなくても。それより、帰ったら何して遊ぶ? ……何がいいかなぁ」
 美術館が退屈だったのか、メアリーはもう家で遊ぶ事を考えているようだった。
 おもむろにメアリーは私の手を握り、満面の笑みで言った。
「これからも……ずっと一緒にいようね! イヴ!!」
「うん!!」
  私はメアリーの手を握り返しながら、同じく笑顔で言った。

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