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「「「ハッピーバースデー、イヴ!!」」」
今日私は十歳の誕生日を迎えた。
そこで家ではささやかなパーティが開かれていた。
「イヴ、プレゼント!!」
「ありがとうメアリー」
誕生日プレゼントとしてメアリーから髪をしばる赤いリボンをもらった。
「おそろいにしたんだよ!」
メアリーは自分の髪にしばられた赤いリボンを見せた。金髪に赤色がよく似合っていた。
「うん。かわいいと思うよ!」
「えへへ♪ やった!!」
「お父さんからはこれだ」
そう言ってお父さんは分厚い本を取り出した。
「覚えているかい? 一年前に行ったゲルテナの展覧会の事。これはそこに飾ってあった絵の画集だよ。あの展覧会はイヴも気に入っていたようだし、喜んでくれると嬉しいな」
「ありがとうお父さん!!」
「お母さんからはこれ」
差し出されたのは白いレースのハンカチ。
「前の誕生日にあげたやつ、いつ無くしたの? 今度は無くさないようにね」
「うん。ハンカチ無くしちゃってごめんなさい。今度はちゃんと大切にするね!」
皆からプレゼントをもらい、楽しいパーティの時間はあっという間に過ぎていった。
*
「今日は楽しかったなぁ……」
自分の部屋でベッドに横になりながら一人つぶやいた。
「あ、そうだ。お父さんからもらった本……」
まだ寝るのには早かったので、お父さんからもらった画集を見ることにして、分厚い本をベッドに持ってきた。
「……うわぁ。懐かしいなぁ……」
そこには約一年前に見た絵の数々が並んでいた。
『新聞を取る貴婦人』、『心配』、『赤い服の女』――その他にもオブジェの写真もいっぱいあった。
私はとある絵でページをめくる手を止めた。
『忘れられた肖像』
それは一年前のゲルテナの展覧会が行われた美術館から帰る時、なぜか気になっていた絵だった。
「何でだろう……もうちょっとで思い出せそうなんだけど……」
その絵をじっと見ながら必死に思い出す。
紫色の髪。
ボロボロのコート。
優しい笑顔。
レースのハンカチ。
色々な光景が浮かんでは消えていく。
「……? レースの、ハンカチ?」
確か……前の誕生日にもらったハンカチは、展覧会が終わった後に無くしてしまったはずだった。
じゃあ、何で今頭に浮かんだんだろう?
「貸して……あげた?」
その言葉を口にしたとたん、私が誰かにハンカチを差し出している光景が見えた。
ハンカチを渡されている人は、どことなく絵の人と似ていて――。
「……ギャ……リー?」
その言葉が鍵となっていたかのように、一気にあの時の記憶があふれだした。
『アタシ、ギャリーって言うの』
『……もう大丈夫よ』
『絶対にここから出ましょ!!』
『イヴ』
どうして忘れていたんだろう。
どうして忘れることが出来たんだろう。
私の名前を呼んだ優しい声を。
私を励ましてくれた暖かい手のぬくもりを。
いつでもそばに居てくれた、彼の存在を。
「……うっ、ギャ、リー……」
私は画集を泣きながら抱きしめ、絵の中の彼の名を呼んだ。