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翌日、私はいつもより早く起きて外に出かける準備をした。
本当はすべてを思い出した昨日の夜のうちに行きたかったのだか、さすがに時間も遅かったので今日にしたのだ。
――そう、今日、私はあの美術館へ行くのだ。
ゲルテナの展覧会はもう終わってしまっているかも知れないが、それでも行く価値はあると思った。
準備を終え、そろそろ出ようとすると、
「イヴ? どこかに出かけるの?」
と、メアリーから声をかけられた。
「メアリー……」
私はメアリーを直視することが出来なかった。そんな私の反応から察したのか、メアリーは目を細めていつもより少し低い声で私に聞いた。
「もしかして……思い出したの? あの美術館のこと」
「…………うん」
私はうつむきならがら答えた。
「ギャリーの事やメアリーがギャリーにした事、あの時のこと全部」
「……思い出してほしくなかった」
メアリーは悲しそうな顔をして言った。
「イヴはギャリーにあんな事した私のことキライになるだろうから……」
私はメアリーの暖かい手を握りしめながら、首を横にふった。
「メアリーと一緒に暮らしたこの一年、凄く楽しかった。あの事を思い出してもそれは変わらないよ。だから私はメアリーの事をキライになんかならない」
「……イヴ、ありがとう」
そこでようやくメアリーは私に笑顔を見せてくれた。
「私、これからあの美術館に行ってくる。お留守番よろしくね」
「分かった。気をつけてね」
メアリーに留守番を頼んで私は外に飛び出した。
一年前に歩いた道順を思い出しながら走る。私のことを命懸けで守ってくれた彼のために。どうしたら助ける事が出来るのか分からないけれど――それでもただひたすらに走り続けた。
空は、あの日と同じ灰色だった。
*
「…………ウソ、でしょ……?」
美術館にたどり着いた私は、門の前で立ち尽くしていた。
その門には鈍く光る鍵と、黒の門に似合わない白い紙が貼ってあった。
紙にはこんな事が書いてあった。
『現在この美術館は、建物の改装及び修理のために閉館しております。皆様には多大なるご迷惑をおかけしますが、何卒、ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。 館長』
その下には、工事の日程と工事修了予定の日付が書かれてあった。それは今から四年後のものだった。
知らず知らずのうちに涙があふれてくる。一度出てしまうともう抑えが効かなくなり、私は門の柵を握りしめながら泣いた。
私はこの両手からこぼれそうなほどの思い出をもらった。楽しいものばかりではなかったけれど、とても大切なものだ。
なのに、何も恩返しが出来ていない。最後の最期まで迷惑ばかりかけてしまった。
あなたは優しいから、きっと気にするなって言うだろうけど……。
ねぇ、神様。もし居るなら、私の願いを叶えて下さい。
たった一度で良い。
他には何も望まない。
だからもう一度だけ……。
「……会いたいよ…………ギャリー……」