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Ib ―『さよなら』の先に―
作者: 緑茶  (総ページ数: 53ページ)
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*46*

*3

 進んだ先にあったのは、君には厳しすぎる現実だったね。
 おもちゃ箱に落とされて、君の薔薇はメアリーの手に渡ってしまった。
 メアリーは『アタシの薔薇と交換なら、返す』って言った。それに対して君は、『返してもらえなくても良い』って言ったね。
 あの時は、『バカなこと言わない』って叫んじゃったけど、本当は嬉しかった。アタシを守ろうとしてくれて、ありがとう。
 君がアタシを守ろうとしてくれた様に、アタシも君を守りたかったんだよ?
 君にはたくさん助けてもらったから、その恩を返したかったんだ。

 君は優しいから、『気にしなくてもいい』とか言うんだろうけど、それでも借りはきっちり返したかった。

 アタシがメアリーと薔薇を交換した時、君はアタシに謝ったよね。
 あの時も言ったけど、自分がやりたいから交換したんだ。気にしないで。

 ……そうだ。一つ謝らなくちゃいけないわね。
 約束、守れなくてごめんなさいね。
 ハンカチ、ちゃんと返すって言ったのに……。あ、後、マカロン一緒に食べに行くって約束もあったわね。その約束は、守れないわ……。本当にごめん。

 君は無事に外に出られた?
 一緒に外に出たメアリーも元気?

 こっちは、メアリーの抜けた穴を埋めるような形で作品達の仲間になったけど、それなりに元気よ。
 でも、最近、工事か何かを始めたらしくて、絵やその他の作品は全部倉庫っぽい場所に入れられちゃったみたい。外の景色が見れる絵が、真っ黒になっちゃったのは寂しいかな。

 君は幸せですか?
 今を楽しんでいますか?
 止まってしまったアタシより、君の時間は進んでいますか?

 君は、アタシの事を――あの日の事を、今でも覚えてくれていますか?

        *

「ふぅ……」
 アタシは伝えたかった事を、全部詰め込んだ手紙を一気に書いて、ペンを机の上に置いた。
 腕を伸ばしながら天井を見る。そこにはいつもと同じ暗さがあった。

 暇で暇で、やることが無くて、思い付いたから手紙を書いてみたけど……色々思い出しながら書いたせいか、脳裏に君の笑顔が浮かんできた。

 今ではもう、『つらい』とか『外に出たい』とかの感情は無くなってしまった。
 そんなアタシに残っている、たった一つの願いは――。

 一度だけでも君に――。

「……会いたいよ……。イヴ」

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