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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*49*
やった。僕はついにトミーさんに勝ったんだ!
必殺技が彼に被弾した瞬間、僕は勝利を確信した。
けれど、それは僕の思い違いだったことがわかる。
なぜなら彼は例の笑い声をあげてすぐに立ち上がってきたからだ。
「ニャハニャハ。私の兄の必殺技を最後に使うとは愚かですね。
カイザーの必殺技がこの私に通用すると思っていたのですか」
言われてみればその通り。なぜ気がつかなかったんだ・・・・
「慢心ですね。これがあなたの弱さの原因なのです」
彼の言葉に僕はまるで心臓をえぐられるような強いショックを受けた。
「あなたは何も変わっていませんね。Drモンブランに捨てられてからというものあなたはなにひとつ変わってはいません。あなたは万年未熟者、半人前にすぎないのです」
その言葉に、忘れようとしていた僕の過去が無理やり引きずり出される。
3年前のあの日、僕は博士と一緒にドイツで久々の故郷の空気を懐かしんでいた(もっとも故郷なのは僕にとってだけの話だけど)。
ドイツへついて一週間ほどたったあの日、博士は突然僕の前から姿を消した。
こんな手紙を残して。
『ヨハネスへ
キミと私の旅はこの地で終わりだ。私はまた新しい弟子を探す旅に出る。キミと過ごした日々は本当に幸せで楽しかった。キミと会えたことを私は忘れない。いつかまた会おう』
僕はこの手紙の言葉を信じ待ち続けた。
けれど、会える日は来なかった。
「……博士はどうして僕に会いに来てくれないの?
博士は僕のことが嫌いなの?」
過去を少し思い出すだけで涙が溢れ出る。
大好きな博士に捨てられた。
世界中で一番尊敬していた人に捨てられた。
孤児だった僕を引き取って育ててくれた、
まるで僕にとっては本当のお父さんのようなかけがえのない存在だったのに!
「どうして、どうして僕に会いに来てくれないの、大好きな博士!」
ぼくは今までこらえていた寂しさが限界に達し、胸の内を叫ぶ。
もう、涙で視界がほとんど見えない。
呼吸が苦しくなるのがわかる。
胸が苦しい。
きっと泣きすぎて、過呼吸になっているんだ。
みんなに泣いている姿を見られたくない。はずかしいよ……
だけど、涙は止まらない。
もう、戦う気力さえおきない……
☆
「フハハハハハ!」
「ハハハハハハ!」
事の起こりは急だった。
突然、リングサイドで試合を観戦していた不動さんとジャドウさんが笑い始めたのだ。
「不動よ、聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた。今世紀史上、最高に笑える冗談だ!傑作だよ、ヨハネスのガキ!」
ふたりは涙を浮かべ、お互いを叩き合いながらおなかを抑えて大笑いしている。
そんなに、僕の過去がおかしいのだろうか。
僕は思わずムッとしてふたりを睨む。
だが、ふたりはバカ笑いをやめようとしない。
「どうしたんだ、ふたりとも?気でもおかしくなったのか?」
井吹くんが困惑して尋ねる。
「ハハハハハハ!ガキ、お前まで気が付いていなかったのか!まったく、これだからガキ共は困るぜ、ハハハハハハ!」
「ヨハネスよ、冷静に考えてみろ。お前の尊敬する博士がお前を簡単に捨てると思うか?」
その問いに僕は首を振る。
けれど、信用していないのも事実だ。
だって彼は僕の前から姿を消したのだから。
「それが冗談なんだよ、ヨハネスのガキ!」
「彼はお前から姿を消したことなど一度もなかったぞ」
ふたりはまだにやにや笑っている。
「嘘だ!」
僕は生意気にも反論する。
「いいや。確かに直接そのままの姿で現れこそしなかったがな、彼は常にお前の一番近くにいたと思うぞ?」
ジャドウさんはそうは言うが僕はまだ思い当たるふしがない。
「まだわからないようだな。不動よ、ヨハネスに正解を教えてやるか」
「ああそうだな、ジャドウ」
するとふたりは、声をそろえて驚愕の答えを口にした。
「「俺たちの会長、スター=アーナツメルツこそ、モンブラン博士の仮の姿なのだ!」」