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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*53*
「・・・と自信満々に言っておいたのはいいが、あのチームの打倒策が見つからないと言うのだな」
決勝戦が開かれるのは今から2週間後。
その間、俺たちはアメリカの地で、日々修行を積んでいた。
俺は今、不動さんと持久力を養うためにマラソンをしている。
だが、走り始めてから3時間ぐらいたっている。
それでも息をまったく乱さず、話す余裕もあるこのおっさん・・・・いや、お兄さんはやはり只者ではない。
この人、普段の顔でも目茶苦茶怖い。
彼女とかいたのか・・・・?
こんな疑問を浮かべて彼の横を走っていると、彼はにやりと笑う。
「まあ、そうビクビクするな。俺は今怒ってはいないからな」
その瞳は、獲物を捕らえようとする猛禽類の殺気立った目を彷彿とさせるのだが。
「気にするな、俺は元々こういう顔だ」
この人、絶対彼女いないだろ。
顔が怖すぎて。
しばらくして川原に来た俺たちはそこで休憩をとることにした。
さすがの俺もくたくたに疲れてしまった。
「ところで、ガキ、前に尋ねていたな。俺たちの中で誰が1番強いのか」
そうなのだ。
俺は彼らの圧倒的強さに驚愕するとともに、一体あの中で1番誰が強いのか。それが以前から気になっていたのだ。
「教えてやらんこともない。俺の直弟子だ」
・・・・・は?
「聞こえなかったか。俺の直弟子だと言ったんだ」
不動さんの、弟子?
頭に?が浮かぶ俺にイライラしてきたのか、だんだん顔がますます怖くなってくる不動さん。
師匠がこれだと弟子もきっとキレやすいに違いない。
「あんた、弟子がいたのか?」
「美貌、頭脳、実力、どれも申し分のない最高クラスの弟子だった。会長の1番のお気に入りだったさ。星野やラグが現れる前は」
不動さんがここまで人を褒めることはまずない。
珍しいと思いながらも、俺はそれがどんな弟子なのか興味がわいてきた。
と、そのとき、不意に背後からなにやら柔らかな音色が聞こえてきた。
「こ、この音は・・・・まさか・・・・!?」
ハッとして背後を振り向く不動さん。つられて俺も振り向く。
「こんにちは、師匠。そしてはじめまして井吹くん」
そこにいたのは、ふんわりとしたクリーム色の髪にアホ毛、赤紫色の大きな瞳、線の細い輪郭、雪のように白い肌、赤と白のストライプのスーツを身につけて、コッペパンみたいな靴を履いた超美少年が立っていた。
その美しさはたとえようがない。
あえて例えるならば花の妖精とでも言ったほうがいいか。
悔しいが、その顔立ちは俺が今までに見た美少年、美少女とは一線を画すものであったことは間違いない。
スターレスリングジムには、(会長のショタコン故)美少年が多いが、彼らと比較しても、その美しさ愛らしさは恐らくトップに君臨できるはずだ。
そして・・・・俺の頬が自然と赤くなるのはなぜだ。
「初めまして。ボクはフレンチ=トーストと言います。以後お見知りおきを」
その笑顔はもうこの世のものではない。
コレは神が絶対に手を加えているはずだ。そうとしか思えない。
なぜそういいきれるのか、それは奴の全身からキラキラと光輝くオーラが放たれており、それが俺の顔をまともに照らすからだ。
目を開けると潰れてしまうという表現があるが、これが比喩でもなんでもないことを、俺は生まれて始めて知った。
「ボクが来たのは他でもありません。井吹くんがどれほどの実力を持っているのか、それを確かめにきただけです」
そしてまたニコッと微笑む。
ふんわりとした温かなオーラが俺の全身を包みこむ。
ダメだ・・・たとえ男だったとしても、コイツは男として認識できねぇ・・・・
なんて女々しすぎる男なんだ!
俺はフレンチの美しさに心を奪われ、フラフラと奴に近づいていく。
「ガキ、そいつに近づくな!この一見すると軟弱で女々しいガキは、俺も、カイザーも、ジャドウもそしてあの会長ですら凌駕してしまったのだぞ!!」
冗談いうなよ、不動さん。こんな可愛い子が・・・・
コイツは俺みたいな漢が守ってやらないといけないだろ。
「フレンチの愛らしさの虜になったか・・・・こうなれば・・・・仕方がない。
ここはこの俺がフルパワーで元弟子を仕留める!!」
言うなり、俺を弾き飛ばし、その豪拳をフレンチに振るう不動さん。
だが、その拳は当たらない。
たぶん不動さんがわざと当てていないのだろう。
「バカを言うな。奴の正確無比かつ実に無駄のない避け方を見ろ!」
「まったく・・・・・相変わらず短気ですね。
不動さん、久しぶりにボクのフルートの威力を味わってください」
彼はフルートを口にくわえ、うっとりとする優雅な音楽をかなで始めた。
音楽に文字通り踊らされる不動さん。
だが、気がついてみると、俺も一緒に踊っているのだ。
「う〜ん。退屈な闘いですね。そろそろ終わりにしますか。
スター流究極奥義『ダンス拳法』!」
☆
「嘘・・・・だろ・・・・?」
俺たちはボロ雑巾のように倒れることしかなかった。
どれだけやっても攻撃はかすりもせず、全て受け流され、逆に力を利用されてやり込められる。
柳に風、暖簾に腕押し、ぬかに釘・・・・俺たちの攻撃はことごとくフレンチに利用されまくり、完敗を喫した。
勝てなかった。
不動さんがいて、2対1にも関わらず、惨敗するとは・・・・
こいつの強さ、ちょっと尋常じゃない!
「ボク―これでも、実力の50%も出していなかったのですが、もう少し手加減するべきでした。これはボクからのほんのお詫びです」
彼は懐からジャムの瓶を出し、倒れ伏している俺のズボンのポケットに入れたかと思うと、
「では、ふたり揃ってごきげんよう」
彼はありったけの力を振りしぼり立ち上がってくる俺たちに、アッパーをお見舞いした。
星野と同等の威力を誇るそれは、例えるならば、ア○パン○ンのパンチだ。
俺たちの体は大空へ到達する。
そしてゆっくりと落下しはじめた。
薄れゆく意識の中で奴の笑顔が浮かんでくる。
そのとき、俺は思った・・・・あいつ・・・・まさか、俺たちの対戦相手のひとりなのか・・・・・・・・?